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短いせいだった

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第四章

「短いから言われるって。それでちょっと散髪に行くの止めたら」
「髪の毛が伸びた」
「そうなんだな」
「そうしたらこうなんだ」
 その黒々とした頭を指差して言う。
「それだけでな」
「結構髪の量多くないか?」
「地肌見えてないわよ」
「伸ばしたらふさふさだな」
「硬くて太い髪の質ね」
 俗にハゲないという髪質である。
「ハゲどころかか」
「真っ黒じゃない」
「いや、これはな」
「意外だな」
「額も狭いし」
「凄いじゃない」
「うん、自分でもまさかって思ったよ」
 大助自身もというのだ。
「ハゲだって思ってたからね」
「それが違ったんだな」
「伸ばしてみてわかったのね」
「ハゲじゃない」
「むしろふさふさだったのね」
「自分でも嬉しいよ、柔道は続けるから伸ばさないけれど」
 だがそれでもというのだ。
「ハゲじゃないってことがわかってよかったよ」
「それは何よりだな」
「本当によかったわね」
「短くし過ぎても駄目なんだね」
 ハゲに見られるとだ、大助は言った。
「かえって」
「柔道には楽でもな」
「ハゲには見られるのね」
「それを考えたらな」
「確かによくないわね」
「そのことがわかったよ」 
 心からと言うのだった。
「本当にね」
「それじゃあな」
「これからはその長さにするのね」
「うん」
 実際にとだ、大助も答えた。
「もうハゲに思われたくないから」
「だからな」
「もう髪の毛は伸ばすのね」
「それだけに」
「そうするよ、けれどこうしたちょっとした工夫でハゲに思わなくなるとか」
 大助は今度はしみじみとして言った。
「世の中不思議だね」
「ずっと気付かなかったな、俺達も」
「伸ばしたらわかるのね」
「実は髪の毛があるって」
「ハゲじゃないって」
「うん、自分でもわからなかったよ」
 他ならぬ大助自身もというのだ。
「けれどこれでわかったよ」
「実はハゲじゃなかった」
「そのことがね」
 同僚達も言う、以後彼がハゲと言われることがなかった。むしろその黒々とした頭髪に羨む者がいる程だった。


短いせいだった   完


                              2016・7・19 
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