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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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第2章:異分子の排除
  第41話「束襲来」

 
前書き
そろそろ一夏に立場をわからせる時が近づいてきました。
...絶望に叩き落すのは福音戦後になりそうですけど。
 

 






       =out side=





「ふわぁ~あ。...ん?」

 朝方、目覚ましついでに桜と秋十が散歩していると、渡り廊下でふと箒を見かける。

「あれ?箒?」

「秋十か....。」

 秋十が声を掛けると、箒は元気がなさそうに目の前にあるものを見つめる。

「これって....。」

「なにやってんだ?あいつ。」

 そこには、“引っ張ってください”と書かれた看板と、地面に刺さるメカメカしいうさ耳があった。

「...どうするんだ?」

「うーむ...。」

 放置するべきか、素直に引っこ抜くべきか悩む箒。

「...ほれ。」

「ちょ、桜さん!?」

 だが、そんなのをお構いなしに桜はうさ耳を引っこ抜いた。

「上から来るぞ、気を付けろ!」

「えっ?」

 続けて放たれた桜の言葉に、秋十と箒は上を見る。

「なんか....。」

「降ってきてません!?あれ!」

 上空から、オレンジ色の何かが降ってくるのが見える。

「あ、皆さん、どうしたんですの?」

「セシリア!?あ、やべ、離れ...!」

 さらに、間が悪い事にそこへセシリアが通りかかり...。

「そーれっ!」

     ガキィイイン!!

 ...落下地点に立ち、どこからともなくバットを取り出した桜に落下物は打たれた。

「えええええええっ!?」

「...よしっ!」

「いやいやいや、“よし”じゃないでしょう!?」

 打たれた落下物...巨大なニンジンの形をしたものは、打たれた影響で少し離れた場所に落下した。

「....さすがにやりすぎな気が...。」

「いや、あいつなら生きてるだろ。俺がいるのわかってるし。」

 桜の行動に驚く秋十と箒だが、当の桜は平然としていた。

「な、なんですの....?」

「ニンジンが降ってきて桜さんが打ち返した。」

「訳がわかりませんわ...。」

 通りがかっただけのセシリアは、いきなり起きた事に夢でも見ているのかと錯覚してしまいそうな気分だった。

「さて、どうなるか...。」

「嫌な予感しかしませんけど。」

 桜の言葉にそう返す秋十。
 すると、そこへ誰かが走ってくる音が聞こえ...。

「さーくーん!!」

「うおあっ!?」

「桜さん!?」

 桜を呼ぶ声と共に、桜を掻っ攫うように突撃してきた。犯人は当然束だ。
 途轍もない勢いで放たれたドロップキックは、桜の防御も貫いたようだ。

「何してくれてんのさ!?おかげでたんこぶが~!」

「むしろそれで済んだのですの!?」

 涙目になりながらそう訴える束の言葉に、セシリアは思わず突っ込んだ。

「束さんだからね!あれぐらいなら余裕余裕!」

「よし、なら...。」

「さー君のは別だからね!?」

 再び振りかぶる桜に、束は慌ててバットを弾き飛ばす。

「ところで箒ちゃんは?」

「....あれ?」

 束が周りを見渡しながらそういい、秋十はそこでようやく箒がいない事に気づく。

「あー、お前が出てきた辺りに逃げて行ったぞ。」

「えー、せっかくお姉ちゃんが来たのにー。」

 桜はいついなくなったのか気づいており、束は逃げられた事に拗ねていた。

「ま、いいや。この“箒ちゃん探知機”で探してくるねー。」

「(それ探知機だったんだ...。)」

 先程桜が引き抜いたうさ耳を持ち、束は箒を探しに行こうする。

「あ、さー君にあっ君。それと...せっちゃん、()()()でね!」

 最後にそう言い残して、束は去っていった。

「せ、せっちゃん...?」

「束の奴、大抵年上の人以外はああいう呼び方なんだ。あまり気にしなくていいぞ。」

「そ、そうなんですの...。」

 呼ばれた事のない呼称に、セシリアは少し戸惑った。

「それにしても、なぜ束さんがここに...。」

「...今日が箒ちゃんの誕生日だからじゃないか?」

「あー....。」

 それにしてもタイミングが微妙なため、秋十はどこか納得がいかなかった。

「(...おそらくは、“原作”を踏襲するために態と..だな。)」

 桜たちは敢えて“原作”に沿い、その上でイレギュラーを起こしている。
 今回の事もその一環で、全て一夏を困惑させるためだけに行っている。

「...とりあえず、行こうか...。」

「...そうですわね...。」

 束の登場で、精神的に疲れた秋十とセシリアはその場を去る。
 桜も特にやる事はないのでそれについて行こうとした。

「.......。」

 ふと、桜は振り返り、だがすぐに踵を返した。
 振り返った時に見たのは、やってきた道の突き当りの角。
 そこには....。

「.....っ!」

 怒りに醜く顔を歪めた、一夏の姿があった。
 当然、桜はそれを知っていて振り返っていた。

「また....!」

 “原作”と同じイベントは起きる。だけど、それが上手く行かない。
 そんな、理不尽な理由で、一夏は歯ぎしりしていた。

「くそが...!」

 全て桜や秋十のせいだと決めつけ、一夏もその場から去った。



「...見ていて滑稽だね。」

 すると、なぜか束が戻り、去っていった一夏に対してそういう。

「さて、と。片づけておかないとね。」

 放置されていたニンジン型のロケット(仮)を束は片づける。
 ...と言っても、倉庫代わりに使っている拡張領域に仕舞うだけだが。

「ホント、馬鹿だねー。自分のやらかしたツケが、すぐそこまで近づいているのに。」

 そう言って暗く笑い、束はその場を後にした。







「....よし、専用機持ちは全員集まったな。」

 それからしばらくして、他の生徒とは別に、専用機持ちである者達は千冬に召集された。

「あの、桜さんは?」

「知らん。」

 なぜか桜がいない状態に、千冬はそういい捨てる。

「どうせ奴の事だ。ひょっこり現れるだろう。」

 いてもいなくてもどうでもいいとばかりに、千冬はそういった。

「...あれ?箒さんは専用機を持ってないのでは...?」

「ああ、その事なんだがな...。」

 ユーリがなぜ箒がいるのか聞くと、箒と千冬は顔を顰めて言い淀む。
 すると....。

「やーっほー!!」

「...あー...。」

 聞こえてきた声に、秋十は箒がいる理由を察した。

「ちーちゃーん!!」

「.......。」

 ちょっとした崖の上から滑り降りるように来た束は、大きく飛び上がり、千冬に飛び掛かる。

「...ふんっ!!」

「ぐほぉっ!?」

 それに対し、千冬は頭を掴んで地面に叩きつけた。
 今いる場所は岩場なのでその威力はお察しのものだろう。

「ええっ!?」

「ちょっ、痛い痛い!潰れるぅ!?」

 そのあまりにも惨い対応に全員が驚く。...その中でも、一夏は“原作”と対応が違うという部分で驚いていたが。
 だが、それを無視して千冬はさらに頭を掴む力を強める。

「.....二度も引っかかると思ったか?馬鹿が。」

「「ぎゃぅっ!?」」

 呆れたように千冬は言って、掴んでいる束を箒の背後に投げる。
 すると、何かに当たり、悲鳴が二つ聞こえた。

「ね、姉さん!?」

「ど、どーして場所がわかったの!?」

「勘だ。」

 もう一人束が現れ、ぶつかった痛みに悶える。
 ちなみに、姿を消していたのは束が作ったステルス装置である。

「...と、いう事は...。」

「桜さん...なにやってるんですか...。」

 マドカと秋十が、先にやってきた方の束に目を向ける。
 ...そう、ただ単に桜が変装しただけだったのだ。

「あの、それよりも織斑先生....。」

「...なんだか怒ってるような...。」

 セシリアと鈴が、千冬の雰囲気がいつもと違うと感じる。

「...桜さんから聞いた話なんだけど、小さい頃に変装で騙されたみたいでな...。その事が嫌な思い出として残ってるんだろう...。」

「....それは怒る。」

 誰しも嫌な事を繰り返したら怒るだろう。と、簪は納得するように呟いた。

「さて、体面的には遅刻と教師に対する無礼な行動。...個人的にはまたもややってくれたな...!」

「げっ、俺に矛先が!?」

「自業自得です...。」

 千冬のその言葉に、桜は慌てて逃げる体勢に入る。

「逃がさん。」

「うおぉっ!?手刀で来た!?」

「さー君頑張れー。」

「おいこら束!見世物みたいにすんな!」

 逃がさないように手刀を振るう千冬と、それを避ける桜。
 そして、束はそれを見て楽しんでいた。

「お前も後で同じ刑だ。」

「え。」

 尤も、束も桜と同じ目に遭うようだった。



   ―――閑話休題...



「痛ぇ...。」

「痛い...。」

 大きなたんこぶを作った状態で、桜と束は涙目でそういう。
 ちなみに桜は既に制服に着替えていた。

「はぁ...束、自己紹介しろ。」

「えー?もう皆わかってると思うよ?」

「それでもだ。」

 千冬の言葉に、束は渋々皆の前に立つ。

「私が天災の束さんだよー。...終わ...ってちーちゃん!?危ない!?」

「真面目にやれ。」

「はいはーい...。」

 適当に終わらせようとした束に千冬は手刀を振りかざし、束を真面目にさせる。

「鳳鈴音、セシリア・オルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪は初めまして。私が巷で有名になってるISの生みの親、篠ノ之束だよ。呼び捨て以外なら、好きに呼んでね。」

「っ....!?」

 軽く微笑み、束は真面目に自己紹介した。その事に、一夏が驚愕する。
 それは当然だ。“原作”ではありえないような態度なのだから。
 ちなみに、今朝でのセシリアとの邂逅はカウントしていないらしい。

「.....驚いたな。お前が真面目に自己紹介できるとは...。」

「ひどーい!束さんだって真面目な時は真面目だよ!」

「...その普段の態度を改めてから抗議しろ。」

 普段の振舞いからできるとは想像できなかったと千冬は言外に語る。

「....機械の...兎耳...?どうして...。」

「お、よく気づいたねー。これには、実は海より深ーい訳が...。」

 簪がふと束の兎耳を気にする。
 すると、束が意気揚々に語り始めようとする。

「趣味だ。」

「趣味だな。こいつ、動物では兎が好きみたいだからな。」

「ちょっ、さー君もちーちゃんもぶった切らないで!?せっかく語ろうとしたのに~!」

 ...が、それを桜と千冬があっさりと答える。
 海どころか、水溜まり程の深さしかなかったようだ。

「...はぁ、とにかく、用件を済ませろ。」

「はーい...。...ふぅ、さぁ、大空をご覧あれ!」

 気を取り直して、束が空を見るように言う。
 すると、大空から水色の八面体が降ってくる。

「ちなみにこれ、変形してビームも撃てるよー。元ネタには遠く及ばないけど。」

「それなんて〇ヴァンゲリ〇ン...。」

「後にしろ。」

 冗談めかして言う束だが、千冬に咎められて先に進ませられる。

「えー...。まぁ、いいや。じゃあ、注目!これが箒ちゃん専用機こと、“紅椿”!お姉ちゃんからの誕生日プレゼントだよー!」

「...ISを誕プレに選ぶのって束くらいだよな。」

 八面体が開き、中から赤を基調としたISが現れる。

「なんと、このISは現行ISを大きく上回る束さんお手製だよ!」

「....あの、姉さん...。」

 意気揚々と紹介する束に、箒が恐る恐る声を挟む。

「何かな箒ちゃん?」

「...私にそんな高性能なISは扱えません。」

 “自分はまだまだ未熟”。洗脳が解けてからそう思うようになった箒は、いきなり高性能すぎるISを貰っても扱いきれないと言う。

「大丈夫!そんな事もあろうかと、リミッターがついてるよ!今は...そうだね、第二世代の専用機並になってるかな!少なくとも、このISは箒ちゃんのために作ったんだから、性能も箒ちゃんに合わせてくれるよ!」

「そうですか...。」

 それなら少しは安心できると、箒は引き下がる。

「ちなみに、紅椿の全力は第三世代なんて目じゃないよ~。なんと!紅椿は私の集大成を詰め込んだ、ISの完成形なのだ~!」

「....完成...形....?」

 “第〇世代”とは言わずに完成形と言ってのける束に、何人かは首を傾げる。
 桜や秋十は、どういうものか分かったため、少し苦笑いしていた。

「そのとーり!第三世代?甘い甘い!ISは進化し続ける!その機体の力を引き出せる“担い手”と共にね!それがISの完成形だよ!」

「...それは、つまり...。」

「そう、文字通り紅椿は箒ちゃんに合わせてあるのだ~!はい拍手!」

 全員が茫然とする中、束だけが上機嫌になる。

「...やりすぎだ、束。」

「え~?操縦者と共に成長する専用機ってロマン溢れない?」

「そういう問題ではないだろう。」

 一人だけ特別すぎるISを貰っては、色々と問題になる。
 元より篠ノ之家は束がISを公開した事により、保護の名目でバラバラになったのだから。
 それを、千冬は指摘する。

「うーん。でも、ISを本来の目的として使わない奴らの意見なんてどうでもいいなぁー。せっかくの“翼”なんだから、大空に羽ばたけるようにしたいじゃん?」

「っ...それはそうだが...。」

「大丈夫大丈夫。束さんお手製って銘打っておけば、世間には第四世代辺りでも納得するよ。」

 それでも十分である。
 当の箒は“やっぱり貰うのは危険だろうか”と真剣に悩む程だった。

「...はぁ、仕方ない。篠ノ之、そういう事だ。納得してやれ。」

「は、はい....。」

 千冬は説得を諦め、箒は既に疲れていた。

「それじゃあ箒ちゃん。今からフッティングとパーソナライズを始めよっか!」

「.......。」

 束の言葉に、無言で紅椿に乗り込む箒。
 やはり姉が直々に作った専用機だからか、触れるのに少し緊張しているようだ。

「さー君手伝ってー。40秒で終わらせるよ。」

「俺もか。まぁ、いいけどさ。」

「は!?えっ!?」

 束はセッティングなどを行うための端末をもう一つ取り出し、それを桜に投げ渡す。
 さも当然のように桜も了承して、二人掛かりでデータ入力を済ませていく。
 あっさりと束レベルのスピードで始める桜に、一夏が今更ながら驚く。

「は、早っ!?」

「箒ちゃんのデータはある程度先行入力してあるからね~。最新のデータに更新するだけなら...。」

「一分もかからない...ってな。」

 桜がそう言い終わると同時に、データ入力が終了する。

「じゃあ、箒ちゃん。試運転としてちょっと飛んでみて。」

「...わかりました。」

 静かに、しかし相当なスピードで空へと飛びあがる紅椿。

「速い...。あれで第二世代相当...?」

「紅椿は速く動けるようにしてあるからねー。搦め手が苦手な箒ちゃんには、シンプルな強さがちょうどいいんだよ。」

 試運転のデータを収集しながら、鈴の呟きに答える束。
 それからしばらく試運転し、箒がISから降りる。

「うん。これなら少し慣らしていけばそう長くない内にリミッターが一つ解除されるかな。」

 収集したデータを見ながら、束は満足そうに頷いた。

「んー、ちょっと時間もあるし...。そうだ!皆のも少し見てあげよう!」

「え、皆の...って、篠ノ之博士が自ら!?」

「そうだよー?それ以外になにがあるってのさー。」

 ISを創った張本人に機体を見てもらえる。
 それがどれほど凄い事なのか、当の束が一番理解していなかった。
 ...正しくは、理解した上で“どうでもいい”と断じただけだが。

「じゃあまずはせっちゃんのだねー。」

「せ、せっちゃん...やっぱりその呼び方ですのね...。」

 苦笑いしながら、セシリアはブルー・ティアーズを展開して見せる。

「ふむふむ...おお、やっぱりさー君に教えられただけあって“水”ができているね。」

「“水”...それって、桜さんが言っていた...。」

「人の気質や、ISの特徴を表す属性の事だよ。...と言っても、当て嵌めただけなんだけどね。」

 “火”、“水”、“風”、“土”。それが基本となる四属性となっている。
 他にも“聖”と“闇”があるが、ISや気質で見るのは極稀だろう。

「せっちゃんのは名前の通り“水”に適したIS。使いこなせば汎用性の高い便利な属性なんだけど、その分扱いが難しいんだ。それは理解してるね?」

「は、はい。未だにちゃんと扱えないです...。」

「でも、影響自体はあるみたいだね。一朝一夕で完璧に習得は難しいから、これからも精進しなよ。そうすれば、君のブルー・ティアーズは確かな“翼”になる。」

「あ、ありがとうございます!」

 性格が読めず、どんな事を言われるか身構えていたセシリア。
 だが、言われたのは“もっと頑張れ”という激励の言葉なため、セシリアは感極まりながらも礼を言う。

「...うん。少し機能向上ができたから、時間が空いた時にでも慣らすように。」

「は、はい!」

「じゃあ次~。」

 セシリアが終わり、次へと移る。

「ふんふん。鈴ちゃんの甲龍は...“土”と“火”に適正があるね。」

「“火”と“土”はそれぞれ苛烈な攻撃と、鋼の如き怪力と防御力に向いてる属性だ。甲龍の武器にはちょうどいいんじゃないか?」

 龍砲はともかく、双天牙月による近接戦には相当有効な属性である。

「どちらもわかりやすい効果だから使いやすいよ。真髄に至るには時間がかかるけど、使えるようになったら今よりも強くなるのは確実だからさー君やあっ君に教えてもらいなよ。」

「は、はい!ありがとうございます!」

 緊張しながらも礼を言う鈴。

「次はらーちゃんだねー。...うんうん、“ドイツの冷氷”と言われるだけあって、“水”に適正があるね。他も少しだけ適性がある感じ?万能だね~。」

「...あの、なぜそんなに近く?」

 ラウラのISを見る際、何故か束はラウラに近い場所に身を置く。

「あははごめんごめん。くーちゃんに似てるからつい...。」

「“くーちゃん”?」

「クロエ・クロニクル。...まぁ、束の助手だ。」

 知らない名前(愛称)を聞き返すラウラに、桜が軽く説明する。

「“水”は冷静に物事を判断する気質でもあるからね。軍人だからその分野は鍛えられてるね。それにあっ君のライバルでもあるし...これは期待しちゃおうかな?とりあえず、属性の扱い方の基礎を教えてもらえば、後は自力で習得できるほど地盤は整っているよ。」

 中々に高評価だったため、ラウラは平静を装いながらも少し笑みを抑えられなかった。

「じゃあ最後はかんちゃん。...と言ってもゆーちゃんに色々教えてもらってたみたいだね~。気質も“水”だし、応用してまた違った扱い方も編み出してる。....というか“水”に適正ある子多いね。専用機持ち。」

「一番扱いづらい上に教える方も具体的には教えられないのにな。」

 セシリア、ラウラ、簪の3人が見事に被っており、束と桜は苦笑い気味に呟く。

「属性...そういえば、秋十達はどうなの?」

「俺たちか?そうだな...。」

 ふと鈴が気になって秋十達に聞く。

「箒ちゃんは“風”と“水”だよ~。紅椿は速いし、剣道をやってるから“水”にも通じるんだよ。ちなみに束さんは四属性全部だよ!さっすが私!」

「俺と千冬も全部だな。“聖”と“闇”はさすがにないが。あれは特殊すぎる。」

 イメージに当て嵌めただけなのだが、それでも“聖”と“闇”に値する気質は特殊らしい。

「“聖”とか“闇”を持ってる人っていないの?」

「気質で持っている人を見た事はないな。ただ、ISの属性でなら一人いるぞ。」

「えっ?」

 その事を知っている人物の視線が、一人に集中する。

「ゆ、ユーリが...?」

「ユーリちゃんの“エグザミア”の属性は“火”、“風”、“土”...そして“闇”だ。ちなみに“闇”以外は武器によって適正が偏るから、厳密には三属性の内一つって所だな。」

「“闇”って一概には言うけど、別に悪い意味じゃないからねー?」

 ちなみに、ルシフェリオンが“火”、バルフィニカスが“風”、エルシニアクロイツが“土”となっている。

「私は“水”と“風”と“土”だね。“水”は後から習得したけど。」

「属性は先天性と後天性があるからな。紅椿の“水”も後天性だ。箒ちゃん自身の気質が影響しているからな。」

 打鉄の派生である簪のISも実は後天性で“水”になっていると、桜は付け加える。

「シャルは今の所“風”だけだな。」

「...あれ?肝心の秋十は?」

 未だに秋十だけは名前が挙がっていない事に気づく鈴。

「あー...あっ君はね~...。」

「...俺、全属性に適性はないんだよ。先天性どころか、後天性すらもな。」

「「「え、ええっ!?」」」

 秋十の言葉に、知らなかった鈴たちは驚きの声を上げる。
 今まで見てきた戦いだけでも、相当強かったのだ。
 それなのに適性がないのは驚愕の事実だった。

「おっと、勘違いする前に言っておくが、適性がない=使えない訳じゃないぞ?」

「あっ君てば、努力だけで四属性全て使ってるんだよねー。...ホント、凄いよ。」

 属性を扱う上手さで言えば断然マドカや他の人の方が優れている。
 だが、練度で言えば秋十の右に出る者はいないのだ。

「...今日はやけに人と話すな。束。」

「...あの、ちーちゃん?それだと普段束さんは人と話していないコミュ障みたいに...。」

「事実だろ。」

「さー君!?」

 否定したい所を桜に肯定されて束はショックを受ける。
 その光景を見て、ますます一夏は困惑と怒りを募らせる。

「(全部...!全部こいつのせいか...!くそが!“原作”をとことん変えやがって!)」

 根も葉もないただの誤解である。
 しかし、自分こそが正しいと思っている一夏は、さらに勘違いを加速させる。

「(...まぁ、いい。とりあえず、俺も束さんに見てもらうか。)」

 未だに束と親しい仲だと思い込んでいる一夏は、自分のISも見てもらおうとする。
 ちなみに、白式のコア人格である白は今は白式に戻っている。

「...束さん、俺のも見て――」

「....白式は未だに“火”だけかぁ...。しかもその“火”も零落白夜の恩恵だし。燃費も悪いしこの子に悪いなぁ。」

 しかし、一夏の声を束は無視して勝手に白式を見る。

「あ、あの、束さん...?」

「........。」

「っ....!?」

 無視する束に再び呼びかけようとして、一夏は怯む。
 ...一夏に対する束の目が、あまりにも冷たかったからだ。

「え、えっと俺...束さんに何か悪い事しました...?」

「....さぁ、どうだろうねー。束さんは何をやったかなんていちいち気にしないし。」

 白式を見終わったのか、束は桜のいる方へ戻る。
 その際、一夏とすれ違う時に束は一言呟いた。

「...自分がやった事、お咎めなしとでも思ってるの?」

「っ、ぁ....!?」

 その言葉を聞いた一夏は顔を真っ青にする。
 そんな表情が見れて嬉しいのか、束はクスクス笑っていた。

「何言ったんだ?」

「んー?秘密だよっ!」

 さっきまでの雰囲気はなんだったのかと言わんばかりに、桜と笑顔で会話する束。

「(...容赦ないな、束さん。桜さんも地味に嗤ってたし...。いや、だからと言って許す程、俺はお人好しではないけどさ。)」

 明らかに敵視している二人を、秋十は黙って見つめていた。

「...さて、束。用件が済んだのなら早く帰ってもらおう。ここは一応IS学園が貸切っている。関係者ではないお前がいつまでもいていい場所ではない。」

「えー?そんな事言わないでよちーちゃん。」

「ダメだ。」

 食い下がろうとする束に対し、千冬はばっさり切り捨てる。

「もー、ちーちゃんのケチ!別にいいもん!どうせ、多分私の力が必要になるだろうし。」

「...待て、それは一体どういう...。」

 束の言葉に訝しんだ千冬は、どういう事か問いただそうとする。

「お、織斑先生!大変です!!」

 ...そこに、山田先生が慌てて駆け付けた。









 
 

 
後書き
気質や属性関連の話の最中、一夏は完全に置いてけぼり喰らっています。 
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