| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS ーインフィニット・ストラトスー 〜英雄束ねし者〜

作者:龍牙
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

27話『闇の蠢動』

「ふう」

 アリーナ内で人型ターゲットドローン『モック』を撃墜するとHi-νガンダム・ヴレイブを纏った四季は軽く息を吐く。
 実態の無いデータで構成されたターゲットドローンであるモックは撃墜すれば消えるだけなのでアリーナには残骸も残らず、回収の手間も省ける。また、データであるから様々な武装も再現可能だ。

 一夏、シャルロットペアとの試合から続いた連戦でのルーンレックスとの戦闘で傷付いたヴレイブも既にダメージは完全に修復されている。
 ……幸か不幸かルーンレックスの攻撃で使えなくなった大半のパーツを交換した結果、こうして予定よりも早く修復が終わったわけである。
 寧ろ、以前よりも完成度が高まったパーツによって僅かながら以前よりもヴレイブの性能は向上していたりもする。その辺にはヴレイブの兄弟機であるインフラックスの開発過程で蓄積されたデータも活かされている。

『良し、今日はもう終わって良いぞ』

「もう、ですか?」

 通信から聞えてくるコマンドの言葉に怪訝な表情を浮べる。怪我が治ったばかりとは言え、まだ修理の完了したヴレイブの慣らし程度、明らかに訓練時間が少ないのだが……。

『ああ、そろそろ臨海学校の時期だろ?』

「臨海……? はっ!?」

 そう、もう直ぐIS学園の次なる行事の臨海学校がある。……まあ、此処までクラス代表戦では無人機のシャッフルガンダムと獣騎士ベルガ・ダラスの襲撃、トーナメントではラウラのVTシステムの暴走とシステムを乗っ取って復活した聖機兵ルーンレックスの出現と、行事毎に厄介事が舞い込む以上、此処は『三度目の正直』では無く『二度ある事は三度有る』を心がけておいた方がいい。
 だが、そんな事よりも四季には気がかりな事がある……

「暫く詩乃に会えないぃ!!!」

 四季にとっては当面は臨海学校で起こるかもしれないトラブルよりもそっちの方が重要だったりする。ただでさえ、秋八やら千冬やら、箒やらを相手にストレスを貯めているのに、臨海学校と言う長時間に渡ってともなると。

「……本気でサボりたい」

『無理を言うな』

 四季の呟きにコマンドが呆れた様子で言葉を返す。流石に特例貰っている彼の立場上学園の行事をサボるのは難しい。本気で何れ迎える事になる修学旅行は何らかの方法でサボろうと考えている。

 それは良いとして、IS学園の臨海学校が普通の学校のそれと違う部分は、そう言う行事に於いても常にISの訓練に関係していると言う点だ。
 今回の臨海学校は主に学園外での機体の運用時のデータ収集の為の行事と言っていいだろう。学園内では安全性のために閉鎖されたアリーナと言う狭い空間のみでの運用に限定されてしまっている。だが、安全性を考えると学園内ではアリーナ以外では特別な自体以外使用できない。……襲撃者のシャッフルガンダムを四季が撃退した時の様に、だ。今回の臨海学校は開かれた空間でのIS運用の為の訓練と言う意味合いがある。

 だが、同時に何らかのテロを考えている組織からしてみれば、こう言った学園の外に出る行事は、警備が学園と生徒の両方の意味で手薄になる好機にもなる。
 ……生徒と言う意味では重要人物は世界でも三例しか存在しない男性操縦者の四季、一夏、秋八の三人に束の妹である箒、限定的な集団からの狙い(旧デュノア社の社長夫婦)ではシャルロット、更に専用機持ちの代表候補生セシリア、鈴、ラウラも狙われる危険のある重要人物に含まれる。
 その混乱に乗じてまた敵が動かないと限らないので、今回の行事で三度事件が起こると読んでいるコマンドとしては、四季には臨海学校の方の守りに突いて貰いたいと言う所だろう。流石に遊撃部隊のキャプテン達にも今回は臨海学校の際の事件に対応出来る様にして貰っているが。

 ……一応、世界最強の千冬が引率についているが、それはそれ。コマンド達は他の勢力に対する牽制程度にはなると考えているが。ぶっちゃけ、千冬も武者頑駄無やら、騎士ガンダムやら、コマンドガンダムなら十分すぎるほど戦ったら勝てる相手だ。
 そんなガンダム達の宿敵が今更千冬一人を脅威などと思うわけも無い。寧ろ、好都合とばかりに襲ってきても不思議ではない。

『まあ、こっちとしても普段とは違う環境での起動データって奴は欲しいんだ、『triプロジェクト』の為にも少しは我慢してくれ』

「……はい」

 流石にそれを出されると四季としても反論できなくなる。DEMの中で進められている計画『triプロジェクト』。ヴレイブとゼロ炎もその計画の最初の一歩にして象徴となる機体であり、闇の化身達との決着の為、宇宙開発の夢の為にも必要な計画でもある。
 奪われたインフラックスと現在開発中の機体の四機を含めて八機が有り、DEMに有るのはその内の七機(量産機である量産型νとνガンダム・ヴレイブ+はこの計画からギリギリ離れている)しかない。
 インフラックスが奪われもう一機であるターンエーガンダム・シンが封印中の為に、稼働中のヴレイブとゼロ炎のデータは貴重なのだ。

『それに、ゼロ炎の追加装備のテストもあるんだ』

「新しい頭部ユニットと、人造クロンデジゾイド製って言う……新型ブレードの、か」

 今のままでも完成しているゼロ炎だが、徹底的な攻撃力の追及と言う機体の設計コンセプトの為、試合では使用を禁止されている。追加装備のブレードは戦闘力の向上だけでなく、その過剰すぎる攻撃力を試合にも使用できるレベルに制御も出来るそうだ。

『そうなるな。……タダでさえ、寂しがらせてるんだから、とっとと行ってこい』

 こうして臨海学校まで訓練は基礎で済まされることになった。

(ああ、詩乃と同じ学校だったら仲良く臨海学校を楽しんでいたのに)

 そんな事を考えている辺りが彼らしい。まあ、DEMの方もゼロ炎の追加パーツの開発も終わり、量産型νも規定の数が揃った。今度の臨海学校の後から日本政府、IS学園との契約の先行販売が完了する。

「これで、次に起こる襲撃が楽に終ればいいんだけどな……」

『臨海学校が無事で終る事を祈った方が良いだろう』

「……『二度有る事は三度有る』じゃなくて『三度目の正直』か」

 コマンドの言葉には『無理だろうが』と言う意思が篭っているのがよく分かる。既に二回も学園のイベントの際に事件が起こっているのだ……確率的に考え、今度の臨海学校が何事も無く無事に終ると考える方が無理が有るだろう。








 何時もの様にバイクにヘルメットを預け、再び無人で疾走して帰っていくバイクには近隣住民もスッカリなれたものである。

「さて、と」

 今日は本社の方からシャルロットへの伝言、正式にDEMフランス支社の企業代表となった彼女に渡される専用機……が完成するまでの間使用してもらう機体である『νガンダム・ヴレイブ+』の受領の為に、今週の休みにDEM本社の施設(四季達の住居が有る所とは別)に行く事を伝える様に頼まれている。
 元々四季専用の第三世代機として開発された初代ヴレイブの改修型だけあり、十二分のスペックを発揮してくれる機体でもある。インフラックス開発のノウハウからヴレイブ+が四季専用機から汎用タイプへの改修が終るのが丁度その時期に当たる。
 計画の外側に有る機体だけに、データが収集されても惜しくは無い機体でもある。

 専用機の受領の為に、四季達の住む施設でも問題は無いのだが、それでもまだシャルロットにガンダム達の事を知らせるべきではないと判断したためだ。
 元々四季の自宅がある施設はガンダム達の存在を隠す意味合いも有る為に迂闊に他者を入れる事が出来ないが、その反面関係者に限定すれば酷くオープンでもある。……地下に物凄いものも眠っているし。
 ……なお、本社ビルの地下には各支社のガンダム達の母艦が寄港できる大規模な地下のドックもある。こうして秘密裏に合流や会合を行なっているわけである。…………控えめに言っても世界と戦争して勝てるレベルである。

 そんな事を考えながら教室に入ると、数人の生徒が一冊の雑誌を眺めながら雑談に興じていた。

 …………さて、代表候補生は世間的にはアイドル扱いされる事もある。軍人であるラウラや極秘裏にデュノア社のテストパイロットにされていたシャルロットは兎も角として、セシリアや鈴は本国ではモデルとして雑誌に載っている。

「どう思う、これ?」

「やっぱり、カッコいいわよね~」

 一つの極端な言い方をしてしまえば国家代表や代表候補生は一種の偶像(アイドル)、IS学園の生徒はアイドル候補生と言うべきだろうか?

 さて、そんな彼女達であるが外出にも許可が要る学園である以上、購買には通常の学園以上に様々な商品が置いてある。…………彼女達が見ている雑誌もその一つだ。
 音楽関連の雑誌だがどうやらインディーズのバンドの特集らしい……。

「ヤマトのバンドか」

 ふと視界に入ったのは友人の写真がデカデカと載っている記事。それを見て軽く呟くと席に着く。……臨海学校のことで頭が一杯だったために忘れていたが、今度のライブのチケットをヤマトから貰った事をそれで思い出してしまった。

(どうするかな?)

 詩乃とのデートにと言って渡されたチケットだが、何故か二枚以上もある。詩乃だけでなく和人達の分も渡されたのかと思ったが、そちらは既に貰っているらしいので違う様子だった。

 どうするかと考えながら、四季は教室に入ってきた一夏達に視線を向ける。

「あっ、四季、おはよう」

「おう、四季、おはよう」

「ああ、一兄、シャル、おはよう」

 教室に入ってきたのは一夏とシャルロットの二人。その2人と挨拶を交わすと、

「それと、シャル。今週の休みにDEMの本社に来てくれ。一時的に使ってもらう専用機の準備がその頃に出来るそうだ」

「随分早いんだな?」

「まあ、飽く迄一時的なものだからね、データ取りと新開発の前段階みたいな物と思ってもらえれば良い」

 一夏の言葉にそう返す。一夏自体、専用機の受領が試合当日となったのに、シャルロットの場合は週末なのだから、その速さにちょっと驚いていたりする。

 DEMの専用機持ち……企業代表及びテストパイロットは個人用に製作された専用機が渡されるとは、既に大々的に発表している事だ。当然ながら、DEMのISコアの保有数が許す限りと言う注釈は付くが。
 まあ、それはそれ……四季が束と仲が良い為に結構な数の未登録のコアも送られていたりする。当然ながら、それに対する対価として色々とガンダム達から提供された技術も渡しているが。……最近はフランス支社に置いてある“とある機兵”がお気に入りらしい。整備の必要性が薄い『機甲神』については本気で残念がっていたが。

 まあ、今回の場合は元々あった機体を四季の専用機から汎用型に調整しなおすだけなので、それほど手間が掛からずに用意する事は可能となった訳だ。元々第三世代機なのでその性能は申し分ないだろう。

「っと、そうだ一兄、これ」

「チケット?」

 主に自分と詩乃の分以外のヤマトから貰ったチケットの残りを一夏へと渡す。

「友達から貰ったライブのチケットだ。余ってるから誰か誘って行ってきたらどうだ」

 ……一瞬、鈴かシャルロットにでも渡すべきかとも思ったが、まあそれはそれ……。

「あれ? 友達って……」

「ヤマトだ。そのライブ、アイツも出るから、その伝手で貰ったんだけどな……」

 秋八も千冬も来ないだろうと言う予想からの判断で一夏に渡したのは間違っていないとも思う。秋八は男のライブには興味ないだろうし、千冬も千冬でライブ会場に居る姿など想像できない。

「ああ、アイツか」

 以前、自宅の掃除で学園の外に出た一夏が、掃除の後に友人の所に遊びに行こうとした時に男子会を開いていた四季達四人に遭遇、一緒に遊ぶ事になった。
 ……いつもは詩乃と一緒に休日を過ごす四季だが、恋人達は恋人達で女同士一緒に遊んでいたので、暇になった太一、ヤマト、和人の三人と一緒に男四人で集まって居た訳だ。……まだそう言う相手の居ない約一名(太一)は除いて。

「……まあ、本社の方にはIS学園の学生証を見せれば入れるように話を通しているし、念の為に護衛も付ける」

 態々彼女の護衛のために護衛の為にイギリス支社にいる『鉄器武者 真星勢多』を呼んだのだから。……まあ、詩乃さんには影ながら護衛しているメンバーがかなりの人数が着いている。
 ……特に彼女の通う学校ともなればIS学園に潜入していないガンダム忍軍による周辺の警護と、科学では突破不可能な魔法関係のガンダム達による魔法的な防御、コマンドガンダム達の意見による対侵入者用のシステムの数々と……下手な城塞よりも堅牢な守りになっている。
 なお、四季達が居る施設には精鋭メンバーが同居している上に、同レベルの守り……何人四季を狙った者達が返り討ちにあったか定かでは無い。……寧ろ、ガンダム達に返り討ちにされて捕まった方が一番楽な末路だろう。本社も似たようなレベルだ。

「うん、何から何までありがとう」

「気にしなくてもいい。それより……」

 シャルの言葉にそう返しつつ、一夏へと視線を向ける。

「休み時間にでも鈴姉と一緒に三人で行く事を提案して了承させた方が良いと思う」

 そう言って最後に『絶対、他の生徒に上げそうだ』と付け加えておく。今も興味ないといって秋八に渡そうとしているが、当の秋八も興味が無い様子だ。
 シャルロットと鈴、どちらかが一夏と一緒に行くと言う以前に、当の一夏に好意を気付かせるというのが最優先事項だろう。

「うん、そうだよね!」

 四季の言葉に印其処納得した様子のシャルロット。一夏に恋する鈴とシャルロットの2人にとって先ずは自分達の気持ちに気付いて貰うと言うのは、正に命題だろう。一人気合を入れるシャルロット。昼休みには彼女から連絡を受けた鈴も参加しての奮闘が繰り広げられたそうな。

(……それにしても、黒いオメガモンのお蔭でデュノア社の社長に協力したフランスの政府の役人の情報が手に入らなかったのは痛いな……)

 一応、シャルロットの身柄をDEMで確保するために義父がフランス政府に交渉して、フランス向けの新型の量産機の開発を引き受けたのだが、それはシャルロットの専用機の開発後との事なので、暫くは先の話だろう。






















(本当に面白くないな)

 一人、秋八は表情を歪めていた。鈴こそ一夏を奮起させるための材料に譲ったものの、箒も、シャルロットも、セシリアも、ラウラも自分の物になるはずだった。
 なのに、何時の間にかデュノア社は倒産……精々IS学園の特例しか思いつかないであろう一夏により優れた解決策を提示してシャルロットを自分の物にするはずが、本社を破壊されたことがトドメとなったデュノア社は完全に倒産し、当のシャルロットはDEMフランス支社の所属となり、何時の間にか一夏の方に取られてしまった。

(……四季、あいつがまた何かしたのか……)

 四季に対する負の感情とDEMの名からそう思っていたが、あながち間違いでもない。最も、デュノア社の本社を破壊したのは四季の関係者では無く、正体不明のオメガモンズワルトの仕業なのだが。その後の政府との取引でデュノア社側の被害者としてシャルロットの身柄をDEMに取り込む事に成功した。
 四季としては穏便に忍び込んだシャドウフレアチームとそのサポートの二名による調査で不正の証拠を掴む心算だったのだが、情報を掴む前にデュノア社を粉々に吹っ飛ばされた事で失敗してしまった。

(……まあいいさ、次の臨海学校じゃ銀の福音が暴走する事件が起こるはずだ。……そこで一夏の白式が二次移行するなら、ぼくは役立たずじゃなくて、本当に手に入れる筈の専用機が手に入るはずだ)

 秋八が思い描くのはHi-νガンダムよりも強い力を持つであろう機体達。

(それに、箒にも政府から専用機が支給されるって言う話しだからな、束さんからの第四世代機じゃないのは気になるけど、それでも新型の専用機って言うのは悪くない……。上手く行けば、今度こそ……邪魔なアイツを始末してやる)

 ヤマトの知り合いだとクラスメイトに知られて、以前四人で撮った写真を見せている四季を見ながら秋八は静かに笑みを浮かべる。
 ……だが、これまでの二度の経験で学んでいない所が彼足る由縁な気がする。世の中そんなに上手くは行かない、と。……………序でにもっと厄介な物が裏には存在しているのだが、それも知らない様子だった。








 ……アメリカ某施設。

 巨大な鎌を持った影……闇の化身の一人、魔刃頑駄無が其処に居る人間をすべて気絶させた上で悠々と歩いていた。本来ならば、魔刃の力なら皆殺しにする事も可能なはずだがその手段を取っていなかった。
 此処で余計な被害が出てしまうと彼等の今回の作戦にも支障が出てしまうからだ。故に配下を使って手間を掛けてまで態々基地の構成員を気絶に留めているのだ。
 赤、青、白、黒と四体の己の色違いの己の分身と言うべき直属の配下だけでなく、相応な数の部下も連れてきている。…………なお、その中に一人だけ居る人間の男は魔刃達が支配化に於いている組織の構成員である。

「これか?」

 銀色のISを一瞥しながら魔刃は何処からか一本の黒い巻物を取り出し、それをISの頭部に差し込むと黒い巻物はゆっくりと溶け込んでいった。

「ふむ」

 完全に溶け込んだ後、何かを確かめるように其処に触れると満足したようにそう呟く。目的は果たした。

「良し、撤収するぞ」

『ハッ!』

「さて、こいつは始末しておくとするか」

 魔刃の言葉に揃って声を返す部下達の声を聞きながら魔刃は破壊されたISを纏った女を一瞥する。……魔刃達の襲撃に気付いて彼らを迎え撃たんと、果敢にもただ一人立ち向かったこの基地のIS乗り……………………などではなく、銀色のISの奪取を目的にこの基地に侵入したとある組織の構成員だった。
 ISを纏って魔刃達に応戦したものの一瞬で魔刃によって半殺しにされた。魔刃にしても此処でこの女が見つかり予定が狂うのは拙いと考えているため、さっさと始末しようとするが、

「お待ちください」

 唯一散在している人間の男が魔刃へと待ったをかける。周囲から向けられる殺気から一瞬言葉に詰るが、

「どうした、つづけろ」

 等の魔刃は言葉に続きを促す。そもそも、此処にこの男が来たのも本来の予定はなく、部下達はいい顔をして居なかった。

「わ、私の研究のモルモットとしていただけないでしょうか? 恐らく、『某国機業(ファントム・タスク)』の構成員でしょうから、此処で始末してしまうよりも……」

 下手な意見を言えば即座に首を撥ねられる事を理解しながら必死に言葉を続けていくが、

「……良いだろう。お前達の好きにしろ」

「っ! は、はい!」

 魔刃からの許可が出た事で魔刃の配下達は刃を下ろし、その事に男は安堵する。魔刃頑駄無には始末する意思が無く、部下達も遊び半分で武器を向けたとは知らず、哀れみさえ感じさせている。
 それなりに使い勝手のいい道具に対する死と言う鞭を与えた後、生と言う飴を与える。それでいながら、裏切る素振りを見せた時は即座に始末する準備も怠っていない。使える内は使い潰すまで使うが、重用する気は無く何時殺したところで損も無い。魔刃を含む三人の闇の化身は、その男『須郷 伸之』にはその程度の価値しか見ていない。

 彼らに目を付けられたのが運の着きかは知らないが、少なくともこれから先、まともな死に方は出来ない事だけは約束されていたりする。

「さて、魔星の方は上手くやったようだな……」

 仲間……魔星大将軍からの連絡を受け、無事『紅揚羽』が臨海学校時に篠ノ之箒の手に渡るようになった事を確信した。彼からは念の為にギリギリの範囲では有るが、三羅将による護衛も行なうとの事だ。

「小僧、貴様は次はどう戦う?」

 此処には居ない相手……四季へと向けて魔刃は笑みを浮べながら呟くのだった。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧