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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第161話

最初は苦しそうな顔をしていた制理だが、保健室に向かっている間に穏やかな表情を浮かべていた。
廊下を走って、さらには女の子を抱きかかえているとなると周りの目が集めていた。
そんな視線を全く気にすることなく保健室に着く。
器用に足で扉を開けて、中に入る。
麻生がやってきたのを見て保険医は視線を向ける。
腕に抱き抱えている制理の姿を見て、少しだけ眉をひそめながら言う。

「その子をベットへ。」

ベットに寝かせて容体を診ようとしたのだろう。
しかし、麻生は制理をベットに寝かせながら言う。

「いや、そんなに大層な事じゃない。
 睡眠不足と貧血で倒れただけだ。」

「どうしてそれが分かるの?」

疑うような視線を向ける。
保険医としては生徒の判断を信用する訳にはいかない。
安易に信用してその症状が全く別で、しかももっと深刻な容体だったら手遅れの可能性があるからだ。
彼女はイヤーピースを耳につけて、チェストピースを制理の服の中に入れて心音などを確かめる。
それから日頃の健康状態や今朝の健康状態を聞く。
それらを聞いて彼女は少しだけ考えて言う。

「確かに睡眠不足と貧血ね。」

「だから言っただろう。」

「保険医の立場的に君の言葉だけを聞いて信用するわけにはいかないのよ。」

「確かにな。」

麻生もその事を分かっているのか特に気分を害する事はなかった。
念には念をと麻生の能力で診察したので万に一つもないわけだが、そこまで説明する必要もなかった。
保険医は机に戻り、何やら書類に書き込みを始める。
麻生はそのまま制理の傍に椅子を置いて静かに見守る。

「その子は君の恋人?」

「はっ?」

思わずポツリと声が出てしまった。
いきなり保険医が麻生にそう聞いたのだ。
彼女に視線を向けると、依然と書類に何かを書き込んでいる。
仕事をしているが暇なのだろう。
そんな矛盾を解消する為に麻生に話しかけた。
話題は麻生と制理の関係らしい。

「全く違います。」

麻生にとって制理は命の恩人で守りたい人でもある。
その人は守りたい人ですかという質問になら即答するが、恋人ですかと言われれば違う。

「恋人って恋愛関係にある者同士の事を言いますが俺と彼女は違いますよ。」

「ふふふ。」

返事を聞いた保険医から少しだけ笑い声が聞こえた。
その声を聞いて何故笑っているのか疑問に思う。

「どうしてそこで笑うんですか?」

「ごめんなさい。
 そんなに固く考えているとは思ってなくて。」

書いている書類に区切りがついたのか、身体を麻生の方に向けて言う。

「質問を変えると君はその子の事が好き?」

一体何が聞きたいのかさっぱりな分からない。
それを聞いた所でこの保険医に何の得があるのだろうか?

「というより、先生は俺と彼女が初対面だって可能性は考えなかったんですか?」

「その口ぶりからしてそうでないのでしょう?
 だから、こうして聞いているのよ。」

この保険医は少々頭が良いようだ。
彼女は別段損得など考えずに、ただ暇つぶしと興味本意名だけで聞いているだけだ。
聞えないように小さくため息を吐きながら答える。

「いいえ、好きではないですよ。」

そもそも麻生に好きという感情が分からないのだ。
真理を知って一度は人に絶望して星にも絶望した彼には分からない。
だから、きっぱりと恥ずかしげもなく答える。
麻生の表情を見てそれが本当である事を知った彼女はふ~ん、と言って席を立つ。
気がつけば昼休みが終わりを迎えつつあった。

「そろそろ昼休み終わりだけど、彼女は起きる気配ないわね。
 そのまま寝かしてあげるから君は教室に戻りなさい。」

教師らしい発言を聞いて少し驚きつつも、立ち上がって保健室を出るかと思った時だった。
制理から離れようとした時、麻生の手を誰かが掴んだ。
状況からして一人しかいない。
麻生は自分の手を掴んでいる制理に視線を向ける。
穏やかな寝息をしているので寝ているのは間違いないだろう。
実際に握っている手も力はほとんどなく簡単に振り払う事ができる。
そんな状況を見て彼女はあらあら、と面白い物を見るような表情を浮かべる。

「どうやら君にその気がなくても、彼女は君にお熱みたいよ。
 寝ていても傍にいて欲しいなんて、愛されているわね。」

麻生の事をからかいながら部屋を出ようとする。

「君の担任の先生は?」

「?・・・・小萌先生ですけど。」

聞いている意味が分からないので若干首を傾げながら答えた。

「じゃあ、小萌先生には言っておくから彼女の傍にいてあげなさい。」

そう言って保健室を出て行く。
少し呆然としていたが、椅子に座って制理を見守る。
昼休みの終わりの告げる鐘が鳴り響くが、麻生は気にすることなく制理を見守った。






「う、ん・・・」

ゆっくりと制理は眼を開ける。
一瞬、知らない天井が見えてどこだ、と考える。
周りを見るとそこには麻生が椅子に座ってこちらを見ていた。

「恭介・・・」

そうしてようやく自分は目眩を起こして倒れたのだと思いだした。
とするとベットに寝かされている此処も保健室である事が分かった。
ふと、自分の手に違和感を感じた。
誰かの手を掴んでいるようなそんな感触。
視線を手に向けると、麻生の手を握っている自分の手が見えた。

「えっ?・・・えええええ!?」

驚きながら手を離す。
何故、麻生の手を握っていたのかさっぱり分からない。
若干混乱する制理に麻生は言う。

「勘違いされても困るんだが、お前から俺の手を握ったんだからな。」

おそらく麻生は制理の混乱を鎮めようと思って言った。
しかし、その言葉はさらに制理の混乱を煽るものだった。

「なっ!?・・えっ!?、嘘・・・私、無意識に恭介の手を・・・・」

少しずつ冷静になってきたが、冷静になればなるほど自分の行為が恥ずかしく思えた。
顔を真っ赤にするが見られないように俯く。

「それで体調はどうだ?
 昼頃から顔色が凄く悪かったぞお前。」

麻生に言われて自分の体調を気にする。
今朝の様な全身を覆う気怠さはマシになっていた。
睡眠不足も解消されている。
二日ぶりの熟睡を堪能したらしい。
足元が少しだけふらつくが、歩く分には問題なさそうだった。

「多分、大丈夫だと」

その時だった。
ぐぅ~、とお腹が鳴ったのは。
鳴らしたのは麻生ではなく制理だ。
彼女はここ二日、真面な食事をとっていない。
空腹などを気にしている余裕は倒れるまでなかったのだが、体調が治ってきた事でお腹が自己主張したようだ。
トマトのように耳まで顔を赤くする制理。
お腹の音を聞いた麻生はちょっとだけ笑みを浮かべる

「その調子だと問題なさそうだな。」

麻生はそう言って席を立つ。
ちなみに保険医は此処にはいない。
職員会議があるらしく、制理が目を覚まして容体が悪くなければ勝手に帰っていいと言い残している。
足元にある病院から持って帰ってきた荷物と制理の荷物を持つ。

「これお前の荷物。」

「何でここに?」

「クラスの奴が放課後に持ってきてくれたんだよ。」

「明日にでもお礼を言わないと。
 えっ?・・・放課後!?」

と、麻生の言葉に反応したのか制理は保健室の時計を確認する。
時刻は午後五時を回っていた。

「あちゃ~、クラスの子にノート見せて貰わないと。」

「倒れて即勉強の事を心配するお前は学性の鑑だな。」

少し呆れながらも荷物を持って保健室を出て行こうとする。

「それじゃあな。
 帰り、気をつけて帰れよ。」

「あっ・・・」

麻生が帰ろうとする時に制理は咄嗟に声を出してしまった。
それを聞いて麻生は足を止める。

「どうした?」

何か言おうとしているのが分かったのか、制理に尋ねる。
対する制理は言うべきかどうか迷っている。
言おうとしているのはあの夢だ。
こうして熟睡できて空腹を感じる事ができたのも麻生が居てくれたからだろう。
理由は分からないが麻生が傍にいると安心する。
これは麻生の事が好きだからなのか、はっきりと分からないが安心するのは間違いなかった。
出来る事なら傍にいて欲しい。
しかし、それは無理な話だ。
麻生には麻生の生活がある。
自分の都合で麻生の生活を縛る事など制理にはできない。

「な、何でもないわよ。」

結局言えずに制理はそう言った。
おそらくだが、今日の夜もあの夢を見る筈だ。
今日は耐えれても明日明後日は耐えられる保証は全くない。
あの夢を思い出すだけで身体が震えてくる。
制理の震えを見た麻生は今朝のカエル顔の医者の言葉を思い出した。

『彼女達は君を頼りにしているからだよ。
 君が傍にいるだけで安心する。
 これ以上にないメンタルケアだと思うがね。』

麻生は少しだけため息を吐いて制理の元に戻る。

「制理。」

戻ってきた麻生は制理の名前を呼んだ。
制理は麻生の顔を見る。
そして、麻生はこう言った。

「一緒に暮らそう。」 
 

 
後書き
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