| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない~とある兄と弟の日常~

作者:雪月花
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

プロローグ~少し未来のお話~

 夜、懐かしい夢を見た。俺が大学一年生の時のものだ。俺の人生のなかで平凡とは一番遠かった時。いろんな人と出会った、もちろん今の嫁と出会ったのもこの時期だ。あの時は、まさかこうなるとは思っても見なかったよなぁ……いや、ホントマジで。

 まあ、実際今のこの夢の中の俺が現実か見ている俺が現実なのかは解らないけどな…気にせずに話しを進めようか、そんな夢を見た次の日の朝も変わらず会社に出掛ける。


「ただいま~」


 会社から帰宅するとリビングで妹の桐乃が娘達と遊んでいた。


「…ただいま」


 一応もう一回言ってみるが返事を返さないどころかこっちを見もせず豪華な私服をきた桐乃はソファに腰掛けながら俺の娘(6歳)を隣に座らせ、弟、京介の娘(3歳)を膝の上にのせて携帯ゲームをしていた。俺の娘も色違いのをもって指を動かしているのでおそらく対戦ものでもやっているのであろう、あとで、乱入でもするか。


 そんな、微笑ましい光景を見てから部屋に向かいスーツから部屋着に着替える。この家も家族が増えたため少し増築され昔の俺の部屋は現在俺と嫁の夫婦の営みの場所(寝室)となっている。あ、京介の方も同じようになっているぞ。


「お。京介お帰り」

「ああ、ただいま、兄貴」


 着替え終えて携帯ゲーム片手に一階に降りるとちょうど京介が帰ってきた。そして、リビングに入って娘の横に座って電源を入れて通信画面を開くと桐乃と繋がった瞬間目が合う。その目は「私に勝てると思ってるの?」と言いたげな目だったので俺も負けじと「その言葉そっくりそのまま返すぜ!」という視線を送った。かくして俺と桐乃の激闘が火ぶたを切った。そんな、俺達を京介や嫁達は「相変わらずだな」と苦笑しながら見ていた。



「よしゃ勝ったー!!」

「あたしが…負けるなんて…」


 数分後、激闘を制した俺は両腕を掲げ見事なガッツポーズをする。俺に負けて、肩を落として落ち込んでいる桐乃を京介の娘が慰めていた。その時の桐乃の顔のそれはいいこといいこと…その時ふと思ったことがありぐるりと辺りを見渡すと一人……もとい、親父の姿が見えない。


「お袋、親父は?」

「お父さんなら、あんたが帰って来る少し前に出掛けたわよ」

「出掛けたって……何処に?」

「おもちゃ屋さん。さっき、お姫さま(孫)達にお人形をおねだりされて、「すぐに買ってくる!!」って飛び出していっちゃたのよ」


「……やれやれだな」


 そう、親父は今現在孫達にデレデレなのだ。あの、厳格な親父の姿は今や見る影もない。


「あんまり甘やかさないでくれないかな……度を超すと教育に悪いし」

「確かにな」


 お袋の横にいた京介がそう言うのに俺は腕を組みながら頷く。俺の嫁も後ろで「あははは…」と苦笑していた。まあ、家の子が生まれたときよりはだいぶ落ち着いてはきたけどな。そう思いながら娘達の方を見ると桐乃が「今度ママが料理作ってあげようか?」と言ってるが娘たちから「不味いからヤ!」と言われていた。ホント、子どもって容赦無いよな。

 ちなみに、桐乃は何故か娘達に自分の事を『ママ』と呼ばせようとしている。危険に思った俺と京介は桐乃に対しては絶対に『おばちゃん』と言うように娘達に教え込ませた。


「はい、あなた。これ運んでください」

「ああ、了解」


 嫁から渡された肉じゃがの入った大皿を渡されテーブルに運ぶ。他にも刺身や鯛のお頭―――ん?お頭?疑問に思い運ばれている料理を見るととても豪華だった。
今日って何かあったけ?


「なあ、今日って何かお祝いでもするのか?」


 近くにいた嫁に小声で尋ねる。


「もお、忘れたんですか?今日は―――ですよ」

「ああ、そう言えばそうだったな」


 ようやく思い出したよ。そう言われれば朝に言ってたな。
とまあ、そんな間にも用意が全て完了。あとは、親父の帰りを待つばかり。


「お腹すいたぁ~」

「たぁ~」

「もう少し待っててねおじいちゃんが帰ってきたらすぐだから」

「ジジ遅い~」

「い~」


 京介の嫁が二人をなだめる。親父、早く帰ってこないと孫達からの好感度が0になるぞ。


「ただいま!!買ってきたぞ!人形!買ってきたぞ!!」


 リビングの扉を勢いよく開け『孫大好きおじいちゃん』が帰ってきた。するとお袋が「それじゃあ、ご飯にしましょうか」と言い全員が席に着く。


「その前に―――ごちそうの理由を聞いてもいいか?」


 京介がそう言いながら自分の嫁の顔を見る。すると―――


「出世、おめでとう」


 ふんわりと、微笑みながら言う。

「―――なんだ、知ってたのか」

「ええ、部長さんから聞きましたよ。来週から、課長なんでしょ?」

「まあ、一応な」


 京介は照れ隠しのように笑いながら自分の嫁の頭を撫でる。昨晩の夢のせいかあの時の思い出が鮮明に脳裏を過ぎった。


 そう、これが今の俺にとっての現実(リアル)だ。大学時代に嫁と出会い、就職活動に翻弄し何とか就職でき、そしてしばらくして告白し子どもも授かった。

 『俺』が歩んできた道程(さいげつ)がそこにはある。


 昨夜(ゆうべ)見た今は遠いあの頃の俺。『彼』が歩んでいく人生は、はたして同じものだろうか……いや、おそらくは違ってくるだろう。

 暖かい団欒のなか俺はふとそう思うのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧