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魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~

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第二十五話 挑戦状

 この世界にはいくつもの次元にいくつもの世界がある。

 それを多次元宇宙と呼ぶ。

 地球のように魔法がフィクションの世界もあれば、俺や逢沢姉妹の生まれた世界のように魔法が当たり前のように存在する世界だって存在する。

 それらの世界は、互いの文明を守るために、互いの文明には干渉しないようにしなければならない。

 この理由は以前、俺の愛機こと天黒羽が説明してくれただろう。

 他文明の干渉は世界のバランスを崩してしまうからだ。

 だが、そうと分かっていても“やってしまう”存在が必ずいる。

 それは興味本位? 好奇心? 暇つぶし? なんとなく?

 大きな理由の人もいれば、大した理由も持たずに行なうような人だっているだろう。

 そんな人がでないためには、様々な世界が理解しなければならない。
 
 そして危険因子がでないように監視する組織が必要だ。

 ――――時空管理局は、様々な次元世界で発生する事件の解決や問題解決のために生まれた組織である。

 創設した最初の頃は多次元の監視が主な仕事だったが、様々な次元世界で罪を起こすような『次元犯罪者』の出現や、ロストロギアの存在とその影響の認知、そして管理局の重要性が大きくなるにつれて管理局の行なう仕事の幅は広くなった。

 未発見の次元世界がないかの探査。

 他世界から他世界への移動ルートの確保と安全性の確認。
 
 次元犯罪者の逮捕や、ロストロギアなどによる災害の対応など。

 これら全ては一般人だけでは対応しきれず、『魔導師』だからこそ対応できる案件ばかりだったがゆえに、そのほとんどが魔導師で構成された時空管理局はいつの間にか世界の平和のバランスを取る重要な役割まで担うようになっていた――――らしい。

 時空管理局の歴史を紐解くと大体そんな感じ。

 まぁ警察とか自衛隊とか救助隊とかなんだとかを一纏めにしたような組織だって言うのが俺の理解。

 そんな管理局には、民間の魔導師による協力者と共に事件の捜査や解決を行なうことができるルールがある。

 もちろんそれには資格が必要で、その資格も筆記や実技のテストを行って合格を取らなければならない。

 民間協力者に与えられる資格を得た魔導師は、管理局に『嘱託魔導師』と言う立場で登録される。

 俺、小伊坂 黒鐘も嘱託魔導師と言う立場で管理局で働いている。

 主には一般の機関では解決不可能な事件、事故、災害の解決に関わり、それらがないときは、正式に管理局で働くための試験勉強をしていた。

 ただ働き詰めだったし、学校に通ってなかったことを世間の人が納得するはずもなく、問題発覚が起こる前に長期休暇を与えると同時に学校へ通う権利をもらった。

 俺が働いていたことは、実は色々と問題のあることだったのを後になって気づいた。

「――――っつぅ訳で坊主にゃ仕事も任務も与えない時間を与えて、問題がなくなるまで大人しくしてもらおうって思ってたわけだが……」

「……えへ」

「気持ち悪ぃしボケてる場合じゃねぇっ!」

「ごうっ!?」

 俺の頭部にケイジさんの鉄槌が下り、頭の先から足の先まで衝撃と痛みが走っていく。

 先ほどの戦闘の傷もあって俺はその場で膝をついた。

「ったく、休暇中は魔法の行使の制限及び魔法を使用しなければ解決不可能な問題解決への不干渉を、休暇が入る前に説明しただろうが!」

「はい……」

「それでも不安だったから魔法文化のない管理外世界を選んだってのに」

「すみません」

「すみませんで済むんなら管理局はいらねぇんだよ!」

「はい……」

 ケイジさんの怒声が細い廊下に響き渡り、すれ違う職員達の視線がこちらに集中する。

 現在、俺とケイジさんは時空管理局・巡航L級8番艦/次元空間航行艦船『アースラ』にいる。

 俺がずっとお世話になってた職場でもあり、俺の養親が艦長をしている場所でもある。

 そしてそんな俺の養親のもとに今、高町や逢沢姉妹、そして今回の事件の原因の一人でもあるユーノが向かっており、恐らく今後の処分について話をしているのだろう。

 俺が介入できなかったのは、俺は管理局の人間だけど彼女たちが民間人だからだ。

 彼女たちの意思を聞くためには、立場のある俺は邪魔なのだろう。

 まぁケイジさんの説教を食らうよりは全然マシだろうけどさ。

「……いつからだ?」

「あっちに来てから48時間以内」

「はぁ……」

「ため息つかないでくださいよ」

「これがため息つかずにいられるかよ。 何のために俺らが地球を選んだと思ってんだ」

「それは十分に理解してますよ」

「じゃなんでこんなことになるんだお前さんは?」

「俺が聞きたい」

「……はぁ」

 二度目のため息。

 ケイジさんは壁に背をあずけ、胸ポケットからタバコとライターを取り出し、タバコの先っちょに火をつけた。

「喫煙室でやってくださいよ」

「廊下だって空調強めだろうが。 最近の世の中はスモーカーに厳しすぎるんだよ」

「そう思ってるなら尚の事ここでやるのは、スモーカーの立場を悪くするんじゃ」

「坊主も同じ立場になりゃ分かるさ」

「いや、そんな人体に害悪でしかないものに興味ないので」

「コイツ……マジでぶん殴るぞ?」

「タバコ程度で暴力振らないでくださいよ」

「俺のストレス発散法だぞ? これがなきゃストレスで早死しちまう」

「その前にタバコが原因で早死するんじゃ?」

「うっせっ!!」

 ケイジさんの拳が俺の頭上に再び落下。

「ぐあっ……ぱ、パワハラで訴えますよ!?」

「なら坊主は俺に対するモラハラで訴えてやる。 言っとくけどな、俺のほうが階級は上だぜ? 立場ある人間にゃ色んな連中のツテがあるんだぜ? ありとあらゆるツテを使って絶対に勝訴してやるから金の用意は早めにな?」

「大人気のなさが過去最大級なんですけど」


閑話休題。


「……んで、お前さんは今後どうすんだ?」

 再び廊下を歩き出し、俺はケイジさんの後ろについていく形になる。

「ジュエルシードは管理局に任せます。 だけど、ジュエルシードを狙う魔導師に関しては俺が」

「ダメだ」

 俺の言葉を遮るように否定の言葉が放たれた。

 そしてそれは、ケイジさんが俺の想いを理解していることの証明でもある。

「さっきも言ったが、お前さんは長期休暇中だ。 そして長期休暇の間は事件への介入を禁止されてる。 今回のことも、後で艦長さんから処分がくるはずだ。 どのみち参加なんてできない」

 知ってる。

 そんなのは最初から知ってる。

 知ってたから管理局には伝えなかったんだ。

 管理局に任せて問題のない事件だと思う。

 それこそ、ケイジさんが介入すればすぐに終わってしまうようなちっぽけな事件かもしれない。

 ……だけど、ここにきて今更引くことはできない。

「それでもやります」

「ダメだ」

「ジュエルシードなんてどうでもいい。 けど、それを狙う魔導師だけは譲れません」

「譲る譲らないの問題じゃない。 これは管理局の決定事項だ。 坊主如きの意思一つでどうこうなるような問題じゃないんだよ」

「知りませんよ、そんなこと」

「あぁ?」

 歩きながら、ケイジさんの声が低くドスの効いたものに変わる。

 それと同時に俺に向かって強烈な殺気を向けてきた。

「ガキが我侭言ってるんじゃねぇよ。 坊主がその魔導師に何の思い入れがあるのか知ったこっちゃないし興味もない。 そもそも、敵さん相手に同情と私情が混ざってる時点で0点だ。 そんなんで俺を納得させようってんなら無駄と知れ」

「別にそれだけで納得させるつもりはありません」

「ほぅ?」

 俺はケイジさんの殺気を、殺気で返した。

 それは相手が喧嘩を売るような睨みつけに対し、同じように睨みつけるようなもの。

 喧嘩上等、宣戦布告の合図だ。

「納得させる手段の一つになるのなら、俺はアナタを倒す」

 その言葉に対し、ケイジさんは足を止めてこちらを向く。

「ガキが一丁前にカッコつけてんじゃねぇよ。 坊主が俺に勝とうなんざ一億年早い」

 否定はしない。

 ケイジさんは強い。

 イル・スフォルトゥーナよりも……俺よりも。

 だけどそれ故にこの人の発言力の強さは絶大だ。

 恐らくジュエルシードに関する案件も、殆どはケイジさん任せになってるはずだ。

 なら、ケイジさんを納得さえさせればいい。

 そのためなら――――、

「――――そう思って侮ったから、アナタは最愛の人を亡くしたんですよ?」

「――――テメェ、どうやら死にたいらしいなぁ?」

 俺は相手の一番深い傷だって抉りだしてやる。
 
 

 
後書き
短めですが、今回はこれで終わりにしておきます。

最近、一話に使用する文字数が多いと思ったので3000を超えたあたりで一旦オチをつけてみようかなって考えにしてみます。

もちろん、物語の進行上、長くなったり短くなったりの幅ができてしまいますのでそこはご了承いただければ幸いです。 
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