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永遠の数字十五

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第一章

                 永遠の数字十五
 根室千佳は三学期になっても上機嫌だった、それで学校に行く時に兄の寿にも笑顔でこんなことを言った。
「キャンプ楽しみよね」
「ああ、今年の阪神の若手がどれだけ伸びるかだな」
「そこカープに訂正してね」
 兄にあっさりと言い返した。
「カープの若手がよ」
「ああ、まあカープも頑張れよ」
 兄の返事は素っ気なかった。
「最下位にならずに巨人にはな」
「やれやれね、どうせ今年は阪神優勝って言うのね」
「当たり前だろ、西宮神宮で新春お祈りしてきたからな」
 寿は毎年こうしている、今年は阪神優勝だとだ。
「絶対に優勝するさ」
「それ言ったら私は厳島でお祈りしてきたわよ」
 千佳は毎年こちらでそうしている、母方の祖母の家に行ったうえでだ。
「カープ連覇ってね」
「だからそれは無理なんだよ」
「阪神優勝っていうのよね」
「そうだ、見ろ」
 ここでだ、寿は。
 着ていた詰襟の制服の上着、ズボンまで脱いでだ。制服の下に着ていた上着とトランクスを見せた。トランクスは彼の大好きな虎柄で上着は。
 阪神のかつての漆黒のユニフォーム、それもだ。 
 背番号は十だ、そのユニフォームを見せて言うのだった。
「特別に作ってもらったんだよ」
「トランクスはわかるけれどそのユニフォームは」
「わかるな」
「大昔の阪神のユニフォームよね」
「そうだ、そしてこの番号はだ」
「藤村さんよね」 
 千佳もこの背番号のことは知っていた。
「初代ミスタータイガース」
「そうだ、前は三学期のはじまりにこのユニフォームを着て登校してその年日本シリーズに行ったんだ」
 阪神がというのだ。
「だから今年もだ」
「そうしてなのね」
「ああ、着ていくからな」
「そうするのね」
「この験担ぎは効くぞ」
 寿は妹に背中を見せたまま言った、そのユニフォームを。
「広島は二位だ、精々な」
「あら、その年確か阪神二位だったじゃない」
 そしてクライマックスで巨人を成敗して日本シリーズに出たのだ。
「優勝しないとね」
「わかっていないな、今シーズンは優勝だ」
「この前以上にっていうのね」
「そうだ、トランクスは新品だしな」
 そちらになったからだというのだ。
「その縁起もあってな」
「阪神優勝ね」
「そして日本一だ」
「言うわね、けれどカープは強いわよ」
 セリーグの覇者としてだ、千佳は兄に笑みを浮かべて言うのだった。
「私だって験担ぎしてるし」
「それは何だよ」
「見せないけれどブラとショーツは赤よ、しかも新品よ」 
 つまり下着がというのだ。
「去年これで三学期のはじめ登校してカープ優勝したのよ」
「そう言う御前はいつもその色だろ」
 下着とだ、兄はすぐに妹に突っ込みを入れた。
「下着は」
「そう言うお兄ちゃんもトランクスは虎柄ばかりじゃない」
「僕のは新品だぞ」
「それを言うと私もよ」
「藤村さんの霊力甘く見るのよ」
「それを言ったら私がいつ被ってる帽子には三と八が書いてあるわよ」
 登下校の時も被っている。
「十五もね」
「十五?黒田さんか」
「そうよ、永久欠番になったでしょ」
「それは凄いがこっちも十一と二十三があるからな」
 村山実と吉田義男だ、尚カープの三と八はそれぞれ衣笠祥雄と山本浩二だ。
「負けないぞ、今年は」
「その言葉受けて立つわ」
「あんた達早く学校に行きなさい」
 言い合う二人に母が言ってきた。 
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