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冷えたワイン

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第六章

「だから夜にふんだんに飲むわよ」
「結局飲むんだな」
「そう、飲むから」
「その為にファミレスに行くのかよ」
「わかったらいいわね。私は今から」
 何処からか出してきたサングラスに長袖の上着、それにマスク。
 そういったもので完全武装してからだ。あらためて博之に言うのだった。
「散歩に行って来るわ」
「その格好で?」
「だから夏の日差しは悪魔なのよ」
 だからだというのだ。その完全武装だというのだ。
「それを避ける為にはこれだけしないと」
「シミとかになるんだ」
「ソバカスにもね。だからよ」
「何か凄いな」
「じゃあここはこのままにしてクーラーボックスはホテルに戻して」
 それからだというのだ。
「ちょっと湘南を散歩してくるわね」
「不審者に思われないように注意してな」
「大丈夫よ。こんな美人が不審者の筈ないでしょ」
「いや、顔見えないから」
 こう言ってだ。そのうえでだった。麻里奈はその場を去ってだ。
 そのうえでこの日は夕方まで散歩だった。完全武装の彼女はこの日も誰からも声をかけられなかった。それどころか子供や犬からどん引きされる始末だった。
 そして夕方だ。パラソルのところに戻るとだ。
 博之がだ。脂の抜け切った満面の笑みでだ。麻里奈に行って来た。
「いや、今日は二人でさ」
「その女子高生の人と?」
「何ていうかね」
 そのだ。どうかというのだ。
「いいよね。女の人って」
「あんたまさか」
「いや、俺は何も言わなかったんだよ」
 それはしていないとだ。言う博之だった。
「それでもあの人から誘って。それで岩陰で。俺が上だったけれどさ」
「上って。もうそれでわかったから」
「えっ、わかったんだ」
「ちゃんとしたんでしょうね」
「ゴム?」
 かなりあからさまにだ。自分から言ってしまった博之だった。
「それは付けてもらってね。ありったけ使ったよ」
「だからそんな顔なのね」
「まさかこんな最高な旅行になるなんて思わなかったよ」
「あんたにとってはね」
「それでだけれどさ」
 上機嫌なまま言ってくる博之だった。
「夜。ホテルの夕食食べてから」
「そのファミレスね」
「行くよね」
「美味しいワインがあるならね」
 それならだった。麻里奈もだ。
 行く、何しろニースに行きたかったのはワインも飲みたかったからだ。それでだった。
 その店に行くことにした。それでだ。
 ホテルでの夕食、それに風呂を済ませてだ。そのうえでだ。
 博之に案内されてその店に向かった。店は海辺にあった。
 洒落たライトイエローの外装にガラス張りで中は四人用のファミレス独特の壁についているスポンジがカラーのビニールに覆われた席が見える。その席はどれも二人用で中央にデーブルがある。
 その席には多くの家族が座っていて明るい顔でいる。その店を見てだ。
 麻里奈はこうだ。博之に言ったのだった。
「ここよね」
「そう、ここだよ」
「本当にファミレスね」
「けれどあれだよ」
「ワインちゃんと出るのね」
「あの人から聞いたから間違いないから」
 彼はこう麻里奈に言ってくる。
「ちゃんと確めたからさ」
「そうなの。じゃあ今からね」
「店入ってそれで」
「博之君は何飲むのよ」
「じゃあ俺もワインを」
「馬鹿言いなさい、まだ未成年じゃない」
 麻里奈はむっとしてだ。博之に言った。
「それでお酒なんて駄目に決まってるじゃない」
「家じゃいつも梅酒飲んでてもなんだ」
「あのね、お家じゃともかくとして」
「お店じゃ駄目なんだ」
「それは二十歳まで駄目よ」
 本当にだ。それまではだというのだ。 
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