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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×プレリュード編・その1

 
前書き
ここからはハーメルンで連載中の作品『艦隊これくしょん~放縦者たちのカルメン~』とのコラボ編です。内容についてザックリ説明しますと、艦これに近未来的な兵器とサスペンスの要素をミックスしたような作品です。攻殻とか好きな人ならドップリハマれると思います。此方で読んで興味を持たれましたら是非。 

 

 爺さんからの紹介の提督が、またやって来るらしい。この前の提督は事前の情報が無かったモンで、大したもてなしが出来なかった。そんなのは俺のポリシーに反する。だからこそ今度は事前の下調べを入念にする事にした。

「名前は帆波峻(ほなみ しゅん)、階級は大佐か。所属は……横須賀か。所在地が館山…いいトコ住んでんなぁ」

 今の横須賀鎮守府の状況は、提督と艦娘が飽和状態に達していると噂に聞いた。横須賀周辺に鎮守府を配置し過ぎたせいで迎撃の為の指令が遅延する、という本末転倒な状態。その上敵さんも分厚い防衛線に興味を示したのか、攻撃される頻度が増しているという全くもって意味のねぇ状況。その上更に横須賀周辺に配備する艦隊増やそうとしてる、ってんだからアホの一言だ。こっちは300近く艦娘が居たって手が足らねぇってのに、ったく。

「ホントよねぇ、忙しすぎて阿賀野が休憩する暇が無いじゃない、もう!」

「その割には言ってる事とやってる事が一致してねぇがな」

 そんな会話を交わしている今日の日替わり秘書艦の阿賀野は今、執務机ではなくソファに腰掛けてティーカップを持っている。テーブルの上には今日の気まぐれ手作りおやつの『バナナとウォールナッツ(胡桃)のマフィン』だ。

《意外と簡単、おやつにマフィン》※分量5個分

・バナナ(完熟):2本

・胡桃:15g

・レモン汁:少々

・バター:50g

・砂糖:70g

・強力粉:100g

・薄力粉:60g

・卵:2個

・ベーキングパウダー:5g

・シナモンパウダー:小さじ1/3

・サラダ油:大さじ2

 まずは材料の下拵え。バターと卵は冷蔵庫から出して室温に戻しておき、バナナの1本は薄くスライスし、もう1本は5等分にカットしてレモン汁をまぶしておく。胡桃は粗めに砕く。

 砂糖以外の粉類を一緒にして篩にかける。連結型のマフィン型にグラシンカップ(カップ形のクッキングシート)をセットしておき、オーブンを180℃に余熱スタート。

 室温に戻したバターをボウルに入れ、ハンドミキサーでクリーム状になるまで練り、砂糖を加えて白っぽくなるまでよく混ぜる。別容器に卵を溶いて、練ったバターに少しずつ加えてハンドミキサーで更に混ぜる。

 卵とバターが混ざったら、ふるっておいた粉類を加えてゴムべらに持ち替え、練らずにさっくりと混ぜる。まだ粉が見える位の混ざり具合の時にスライスバナナとサラダ油を加えて更にさっくりと混ぜる。

 生地が出来たら型に入れ、中心にバナナを挿し込む。……いやらしい意味じゃないぞ?念の為。軽く押し込んで周りに胡桃を散らす。

 オーブンに入れて25分程焼き上げる。竹串を刺して生焼けの生地が付いて来なければ完成。マフィンのベースはこれで出来るので、具材を変えればバリエーション豊かなマフィンが楽しめる。そんなマフィンを楽しみつつ、阿賀野は3時のお茶を楽しんでいる訳だ。俺に仕事をさせながら。

「今の阿賀野の状態を休憩中と言わんで何と言うんだろうなぁ?えぇ?」

「て、提督さん顔がコワイよ?ほほほ、ほら、紅茶でも飲んでリラックスして?」

「OK!」

「あいたぁ!」

 ゴン。返事は拳骨でしておいた。……さて、残った仕事は阿賀野に任せて、俺も休憩するとしよう。次にもてなす提督のもてなし方を考えながら。




 そして件の帆波大佐がやって来る日、一応晩餐会のような形という事で、こちらの仕事終わりに合わせて訪れる事になっていた。

「お、来たか」

 どうやらブルネイの一般の空港から送迎されて来たらしい。黒塗りの高級車から降りてきた2人が、今宵のゲストらしい。

「どうも、本日はお招き頂き……」

「あ~、ヤメヤメ。んな堅っ苦しい挨拶はいらんよ。階級章と制服に縛られてたんじゃ、折角の飯が不味くなるからな」

 そう、ウチの鎮守府への視察ならともかく、今日は晩酌の為に来ただけだ。客に気を遣われる様じゃあその店は終わりだと、個人的に思う。あくまでももてなす店主ともてなされる客。こういう時くらいはその関係性でいたい。

「は、はぁ……」

 多少戸惑い気味だが、基本的には素直なタイプ。ただちょっと陰が見え隠れする……第一印象はそんな所か。随伴は秘書艦である叢雲。こっちも歴戦の風格漂ういい面構えだ。

「ま、玄関で立ち話もナンだ。とっとと移動しよう」

 そう言って帆波大佐を先に歩かせつつ、さりげなく頸椎の辺りを確認。そこには報告書通り、攻〇殻機動隊とかマ〇リックスに出てきそうな、ヘッドフォンを小さくしたような物が装着されているのがチラリと見える。

『成る程、こいつが……』

 気付かれないように目を細めた。ウチの青葉に調べ上げさせた情報で、知ってはいたが実際に見ると違和感を覚えるモンだ。

「いや~、出来る事なら明るい内から視察したかったんですが、ウチの秘書艦が離してくれなかったもので」

「はぁ!?何勝手な事言ってんのよ!アンタが仕事を溜め込んでいるのが悪いんでしょ!」

 目の前では夫婦漫才かな?と思える程に仲の良いやり取りが繰り広げられている。

「視察なら、ウチはいつでも大歓迎だ。結構要請は多いしな」

 ウチは設立の経緯から、かなり注目度が高いらしい。まぁ、『同一艦娘の量産化』なんて人権やら倫理観をガン無視してそうな物を研究していた場所柄、技術者やらそういう関係者からの視察は多い。

「いやいや、出来たら貴方の『腕前』が見たいんですよ、金城提督」

 そう言って振り向いた帆波大佐の目の奥に、何か光る物が見えたような気がした。……あの光はよく知っている。『好奇心』の焔だ。

「つまり、演習か……強えぇぞ?ウチの連中は」

「存じ上げてますよ、『第二世代型』の艦娘じゃあ、ここが最強だと言う人も居ますし」

「おいおい、そりゃ持ち上げ過ぎだ」

 同じ姿の艦娘だが、時代の変遷と共にその『中身』は大きく変わっている。特にも艤装の進化は著しい。その進化は大きく分けて3世代に分別されている。

第一世代型……艦娘が世に現れたばかりの最初期の艦娘及び艤装。人が艦娘に転位した者である為、ダメージによる修復が難しく、現存する個体はほぼ居ない。身近な所ではジジィの所の三笠教官は第一世代だったか。その分、リミッター等が付いていない艤装の出力は高い。

第二世代型……量産化が始まった頃の技術を使って建造された艦娘及び艤装。リミッターをかけられて出力は落ちた分、扱いやすくなった艤装を使用する。それでも艤装を思い通りに扱うには妖精さんとの連携が不可欠であり、空母の艦載機等のパイロットも妖精さん。扱いが艦娘頼りの部分が大きい為、艦娘自身の力量に性能が左右されやすい。

第三世代型……電子デバイス等が組み込めるようになり、かなりハイテク化が進んだ物。最近の鎮守府はこれが多いらしい。艦載機を艦娘自身にコントロールさせたり、武装の一部をリンクした提督が操作出来たりと、ちょっとメ〇タルモデルっぽい、と思ったのをよく覚えている。艦娘自身の力量に左右されにくく、安定した戦果を出しやすく生残性も高い。



 言ってみればウチの連中は電子機器無しの旧車、帆波大佐のトコの艦娘は電子機器搭載した最新型スポーツカーとでも言えばわかりやすいか。

「またまたご謙遜を。『名伯楽』の名が泣きますよ?」

「自分から名乗った事はねぇんだがな」

 これまた青葉から聞いた笑い話だ。俺の二つ名のような物が真しやかに語られているらしい。曰く、

『金城大将の艦娘は艦娘らしからぬ動きをする』

『あれだけ武術に精通した動きをする艦娘は見た事ない』

『っていうか砲撃戦ってなんだっけ?』

 なんて噂が聞こえてくるとか来ないとか。確かに、演習やら出撃の際の基本戦術は指示するが、その後は任せっきり。たまにほとんど弾薬を使わずに演習で勝ってくる事もあって首を捻っていたが、何の事はない。

 俺が仕込んだ近接格闘で戦ってた。

 砲撃やら雷撃もするし、空母も航空攻撃もするんだが、至近距離になると格闘戦に持ち込んで文字通り相手を『叩きのめして』いた。そんな奇想天外な戦い方で、しかも強いからと誰が呼んだか『名伯楽』の称号を頂いてしまっていた。

『俺は必要最低限、必ず生き残って来る技術を教え込んでるだけなんだがなぁ……』

 俺はトレーナーなんぞなる気もないし、そもそもが酒と料理が好きなただのオッサンだ、と個人的には思っている。

「ま、今日はそういう堅い話は無しにしようや。さ、ここだ」

 毎度のごとく、帆波大佐と叢雲はポカンとしている。 
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