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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 5





『沖田君、冥王星のガミラス基地を攻略したそうだな。ありがとう、これで我々は遊星爆弾に怯えることもないだろう』

「いや、私は何もしておらんよ。クルーがよくやってくれた。おかげで随分楽をさせてもらっている。我々のような年寄りの出番はないかもしれんな」

『そうか。ところで副長の永井君はどうしたのかね?』

「クルーのメンタルチェックを始めたのでな、艦内を歩き回っておる。大きな戦いの後だ。若いクルーの中には精神に負担がかかっている者がいるらしくてな。派手な操艦に、わざと被弾したりと不安を煽りすぎたようだ。カウンセリングまがいのこともやっている。多芸多才で中々の働き者だ」

『席を外しているのか。土方君から伝言を預かっていたのだが』

「私が預かっておこう」

『頼むよ。資産整理の方が終わって、例の手配も終わった。だから必ず戻れだそうだ』

「伝えておこう。例の手配とは酒宴のことだろう。出港直前にそんなことを言っていたな」










「赤道祭か」

「意外とクルーのストレスが溜まっているようです。肝の座っているのが艦全体の1割ってところですね。女性の比率も高いですし。ここらで一度発散させないとまずそうです。何か口実を探したところ、ヘリオトロープを赤道に見立てた赤道祭を催すのが最適だと判断しました。それにヘリオトロープを超えると地球との通信も不可能になります。それに合わせて赤道祭開催中は地球への通信を時間制限ありですが許可を出します。個人的には里心が付きそうで避けたいんですがね。瀬川君は許可を出したほうが良いと」

「ふむ、許可しよう。通信長と主計長と打ち合わせ後に計画書を提出したまえ」

「了解です。嫌なものですね、これしきで堪える若者を戦場に連れて行くのは」

「……副長は気付いているのだろう。ヤマトの乗員の意味を」

「……ヤマト計画の達成がなされなかった時、あるいは不可能と判断された時、状況によっては我々が地球人としての最後の種として繁栄するために。普通ならありえない300名もの20代の女性乗組員がその証なのでしょう。ある程度歳の行った人員が50名を切るのは少しでも若い者を地球より連れ出すため。イズモ計画の亜種でしょうか」

「そうだ。これを知らされているのは私のみだが、君なら気付くと思っていた。君はイズモ計画とヤマト計画、どちらの方が正しいと思う?」

「どっちも綱渡りです。ヤマト計画もイズモ計画も穴が大きい。ヤマト計画の大きな穴はそもそもイスカンダルまでの航路図がないということでしょう。何かの事故なのでしょうが、これが大きく痛い。ガミラスの攻撃に関してはなんとか切り抜けられたとしても、イスカンダルに辿り着けなければどうすることも出来ない。イズモ計画も似たような物です。まずは移住先が見つかっていない。そして移住先にガミラスの手が届かない保証はない。ガミラスのことは何も分かっていないなんて言いますが、本当は上層部では分かっているんでしょう。奴らは侵略国家であり、姿は地球人に近い。それこそ近縁種だと言われても否定できない位に。そして技術力は遥かに上である。少しの間でも生き残っている士官は殆どが気付いています。それから目を背けて、ただ悪魔と称して戦う。何より、オレは生き残りすぎました。地球なんて滅んでしまえとも思ったこともあります」

「まさか、知っているのか?」

「箝口令、少しだけ遅かったんですよ。微妙にほそぼそと伝わってます。地球からの先制攻撃だったと。参謀長の命令だということも」

「そうか。知っていたのか。それでもなお、君は力を貸してくれるのか」

「色んな者が居るのは理解してますから。若い奴らを少しでも引っ張って、押してやるのが年寄りの仕事ですから」

「ふふっ、君よりも年寄りが此処にいるのだがね」

「これは失礼。まだまだ気持ちはお若いでしょう。最初は土方宙将も乗艦すると思っていましたから」

「……」

「艦長?」

「……副長、このことはヤマトでは佐渡先生と助手の原田君しか知らないことだ。私は遊星爆弾症候群でイスカンダルまでの航海に身体が耐えられんと言われている。だが、それでも私はヤマトの艦長へ志願した。その代わりの条件として、君が副長となることを土方君に飲まされた。そして、君と医務室で出会った。ベテランであると聞いていた。戦果も書類で見ていたがどういう人間なのかが掴めなかった。そして、畑違いの艦長を勤め上げてメ号作戦を生き残った。興味があった。フソウ級を巧みに操り、他の艦を援護する余裕すらある君の腕前に。そして、君は期待に応え続けてくれた。私のような老いぼれでは気づかないような細やかさが君の腕前の一つなのだろう。万が一、私に何かあった時は全て君に任せる」

「その万が一を防ぐためにオレはここにいます」

「そうだったな。では億が一の時は任せる」

「ふっ、失礼。確かに万が一ならともかく、億が一は防げそうにないですね。了解しました」

「うむ」







「すまんな、瀬川君。付き合わせて」

「いえ、久しぶりに舵を握れますから。腕が鈍るのは問題ですから」

現在、赤道祭開催直前であり交代制で赤道祭を楽しんでもらうことになっている。地球への通信の関係上、通常シフトとは異なるシフトで回すことになっている。オレもレーダー手席に座っているしな。

「副長、レーダーも扱えたのですか?」

「実際に扱うのは初めてだな。使い方は叩き込んであるし、シミュレーションは何度もやってるが。大抵のことは出来るぞ。さすがにエンジンの整備は出来ないけどな。ハヤブサのエンジンも調整で精一杯だ」

何事も異常が起こることなく交代要員がやってくるので交代して酒を確保しに向かう。その途中、艦長と出会う。

「これは艦長」

「副長か。そうか、もう交代の時間か」

「ええ。そうだ艦長、この後お時間の方は大丈夫でしょうか?」

「むっ、どうかしたかね?」

「いえ、我々が同時に非番のシフトになることは通常ではまずありえませんからね。個人的な話でもと思いまして」

「そうか。まあ、よかろう。艦長室の方に居る」

「了解しました。酒とツマミを確保してから向かいます」

O.M.C.S産ではない酒とツマミといつもの栄養ドリンクを部屋から持ち出し、艦長室に向かう。

「副長永井、入ります」

「入り給え」

「失礼します」

「すまんな、生憎と席を用意できないので床に座る事になる」

「飲ん兵衛は酒とツマミさえあれば些細な事は気にしませんよ」

まずは艦長の杯に酒を注ぎ、艦長にオレの杯に酒を注がれる。

「冥王星前線基地攻略を祝って」

「ひよっこ共が一人も死んでいないことを祝って」

「「乾杯」」

一気に杯を空にしてすぐに注ぎなおす。それから他愛のない話をした後に本題に入る。

「艦長、オレもね、身体が壊れてるんですよ。第二次火星海戦での救助が遅れて、放射線の被曝量が閾値を上回ったんです。それによって発病しました。幸いにも命には別状はなかったんですけどね。代わりに、種無し、子供を作れなくなった」

杯を空にして手酌で注ぐ。

「……そうか。自らの子を抱けないか。辛いな。私は我が子と別れる辛さを味わったが、それとはまた別の辛さだな」

「ええ、その事実を知ってからですよ。死ぬのが全く怖くなくなった。緊張すらもしなくなった。自分のことだからよくわかりましたよ。ああ、オレは生き物として完全に死んだんだって。自棄になったわけじゃないんですけど、何かを残したいと強く思うようにもなりました。それから、防空隊の奴らと腕を競いながら技を残してきました。今度はこの艦に乗っているひよっこ共に残せる物は全部残したいんですよ」

「死ぬわけにはいかんな、副長」

「ええ、死なすわけにもいきません」

「……副長、瀬川補佐と息が合うのは」

「瀬川君はオレよりも辛いですよ。あいつは、彼女は生まれつき子供を産めない。それどころか両性具有、性別すら曖昧だ。身体は女性よりで、心は男性よりです。でも、確かに男性の部位が存在し、女性の心もある。それが原因で女性になりきれず、男性にもなりきれない。今も苦しみ続けている。その苦しみの一部を共有できた。どっちも生物として終わっているからこそ息が合うんです」

「そうか。このことを知っているのは?」

「佐渡先生だけです。オレのことも瀬川君のことも知っているのは。佐渡先生にはお世話になってばかりですよ」

「私もだよ、副長」

「はっはっ、艦のツートップが同じ人に秘密を握られてるとは、佐渡先生が裏の支配者かな?」

「だとすれば酒の配布量が増えるだろうな」

「おっと、それなら良いかな」

「「はっはっはっ!!」」

先程までの暗い空気を吹き飛ばすように、宇宙戦士訓練学校時代のバカ話をしたり、艦長の若い頃のプレイボーイっぷりを聞いたり、途中から参加した徳川機関長の孫自慢を聞いたり、久しぶりに気を抜くことができた。明日からはまた、気を引き締めてひよっこ共を導いていこう。















ええい、また終業シフト中に襲撃か。ベッドから飛び起きて常装を掴みながら艦橋に通信を繋ぐ。

「何が起こった?」

『今技師長が説明してくれています。はい、太陽フレアが人為的に増幅されているそうです。また、それによって航路が限定されています』

「すぐに上がる」

着替え終わると同時に部屋を飛び出して艦橋に飛び込む。

「相原、その後の状況は?」

「艦後方に未確認のガミラス艦1、ワープアウトと共に魚雷1、迎撃後に謎のガスが散布されて追われています。また、周囲を電離帯が覆っていて航路が限定されています」

「副長、そのガスなのですがエネルギーや物質を取り込む性質を持っています。ヤマトと言えど飲み込まれれば一溜りもありません」

「太田、航路は確保できているのか」

「今のところは。ですが、このままではグリーゼ581に向かってしまいます」

「艦長、どうされますか?艦長?」

艦長席を見てみると、艦長が胸を押さえている。こんな時に遊星爆弾症候群か!!艦長席に駆け寄り艦長服を緩めて体勢を楽にさせる。それから医務室へと通信をつなげる。

「佐渡先生、艦長の古傷が痛むようだ。処置を頼みたい」

「……副長、グリーゼ581へ向かえ」

「恒星へ?なるほど、了解しました。総員、船外服を着用。巡航速度のままグリーゼ581へ向かえ。防御隔壁を閉鎖、エネルギーの消費をを最小限に押さえながらグリーゼ581を抜けるぞ。それから星図をこちらに回せ。森、後ろのガミラス艦はどうした」

「ガスの後方8000を維持、ぴったりとくっついてきます」

「艦影を出せるか?」

「魚雷発射直後の若干映像が荒いものなら」

「出してくれ」

メインパネルに投影された艦影を見てみる。確かに見たことがない艦だな。武装が恐ろしく少ない。こいつは輸送艦か補給艦だな。今回はミサイルキャリアーとして持ってきたな。

「データベースに奴を補給艦として登録。動きに変化があるまで監視せよ」

「了解」

「古代、南部、波動砲を使うことになるかもしれん。心構えだけしておけ」

「波動砲をですか?」

「そうだ。島、太田、真田、グリーゼ581のスレスレを飛ぶ。コロナを予測して回避しろ。一度だけなら波動砲で強引に道を作る」

「「「了解」」」

「お前たちなら出来るはずだ。各員奮闘しろ。艦内温度がシャレにならないだろうが、天然のサウナに入ってるとでも思ってろ」

命令を出し終えてしばらくした後、艦長の容態が少し落ち着き船外服に着替え始めた頃に佐渡先生が原田君を連れて艦橋に飛び込んでくる。

「こらああああ!!なんちゅう所に行きよるんじゃ!!艦長を殺す気か!!」

「艦長命令ですよ、佐渡先生!!天然サウナで宇宙の不要物を滅菌消毒するんですよ」

「なあにを訳の分からんことを言っとるんじゃ!!もっと分かりやすく説明せい!!」

「ケツからガスが追ってきてるんですよ!!ヤマトじゃあどうしようもないから太陽で焼却処分するんです!!あと、ここら一帯に見えない壁があって出口が太陽の先にしか存在してないんです!!」

「そういうことだ、佐渡先生。古傷が傷んでな、鎮痛剤を頼みたい」

「ですがな」

「佐渡先生、頼むよ」

「ゆっくり診察するにしても現状を切り抜けてからです」

「むぅぅ、そしたらお手を拝借」

佐渡先生が艦長を軽く診察しているうちに船外服に着替えた瀬川君からオレの船外服を渡して貰いすぐに着替える。

「こりゃあ過労から来るものでしょうな。念の為に栄養剤を打っておきましょう。さもないと、入院ですぞ」

最後だけは側に居たオレにしか聞こえないように脅していた。

「分かっているよ、佐渡先生」

「永井君、出来るだけ速くこんな場所から離れるんじゃぞ!!」

「こんな熱燗しか飲めなくて、体内のアルコールがすぐに抜けそうな空間に居続けるわけ無いでしょうが」

「そりゃあ、そうじゃな。くれぐれも急いどくれよ。儂は艦長の定期診察もついでに行うから、居らせてもらうよ」

「聞いてたな、とっととこのサウナから抜け出すぞ。それから瀬川君」

「佐渡先生、原田さん、予備の席を出しますのでそちらへおかけ下さい」

以心伝心の例にぴったりな行動を瀬川君が行ってくれる。グリーゼ581に接近していくと、ヤマトの後方に居たガスがグリーゼ581に引き寄せられて
燃え尽きていく。

「よし、これで多少の高度が取れるな。蒸し焼きになる前に高度を上げろ」

「後方のガミラス艦、増速」

「増速?こっちに向かってきているのか?」

「はい」

「意味が分からん。南部、船尾魚雷発射管、いつでも敵魚雷を迎撃する準備をしておけ。誤爆しそうだから撃ちたくはないがな。島、ケツは気にするな」

「「了解」」

「敵艦より魚雷が発射されました。数は4」

「ほっとけ!!どうせこの距離なら自壊する」

オレの予想通り魚雷はヤマトとガミラス艦の中間あたりで誤爆する。

「馬鹿め。焦りやがって」

「前方、イレギュラーが発生。避けきれません!!」

「波動砲で薙ぎ払うぞ!!チャージ完了後、ギリギリまで引きつけてから撃て。イレギュラーの影響がひどくなるポイントを算出、古代に回せ。波動砲発射後、機関全開で突き進め。多少の負担は許容範囲だ」

「ガミラス艦、さらに接近。砲撃、来ます」

「無視しろ。輸送艦の砲と乗組員の練度で簡単に当たるものか。まぐれ当たりは怖いからお祈りを忘れるな」

微妙なチキンレースを続けながら波動砲発射位置まで辿り着き、波動砲がコロナを薙ぎ払う。

「機関全開!!サウナから抜け出すぞ!!」

後方のガミラス艦がコロナに撒かれて溶け落ちる様を見ながらグリーゼ581から抜け出すことに成功する。

「第1警戒態勢に移行。艦内温度が下がり次第、各機能の点検・修理に移れ。報告はオレまで回せ」

「高温の影響でコンピュータの故障も考えられます。オーバーホールのつもりで確認してください」

「優先順位は生命維持装置、機関関係とレーダー関係、武装と波動防壁、装甲の順だ」

や~れやれ、これでまた山を一つ越えたか。後、いくつの山があることやら。







「瀬川君、会議の結果を簡潔に頼むよ」

「機械同士の交流によって情報を引き出すそうです。副長はガミロイドの報告を受けておられるのでしたか?」

「ガミラスが地球と同じ数学と物理学を扱うって奴だろう」

「そうです。それを利用してアナライザーを仲間だと思わせるようです」

「中々ユーモアで面白い発想だな。アナライザーには出来るだけ時間を取らせてやれ。技術科にはアナライザーとガミロイドのメンテを最優先にするように命令を出してくれ。人類史上初の心が芽生える瞬間が観測できるかもしれんぞ」

「楽しそうですね、副長」

「映画が現実になるってワクワクしない?ただでさえ宇宙人とのファーストコンタクトに大失敗、いや、映画的には普通の流れか」

「不謹慎じゃないですか、副長」

「岬君、おっさんになるとな、その程度のことを気にしなくなるんだよ。とっくの昔に三十路過ぎた独身のおっさんなんてこんなものよ」

「資産無し、貯金無し、親族無し、直属の上司はともかく上層部からの受けはあまり良くなく、階級と能力だけはある34歳バツイチ独身。並べてみるとヒドイですね、副長。離婚ではなく死別なのがまだましといったところですか」

瀬川君がオレのプロフィールを淡々と述べると艦橋要員に退かれたのが分かる。

「上官に騙されたからな。あの詐欺さえなければ」

「地球帰還後の酒宴の酒の量が増えた?」

「もちろん」

更に退かれたな。

「独身を貫くつもりだからな。借金をしない程度に好き勝手やって死んでいくのさ。見習うなよ」

「誰も見習いませんよ。というより、そんな生き方で良いんですか?」

岬君がそんな事を言うが

「おっさんだからな。そんな生き方で良いんだよ。どうせ当分軍からは逃げられないからな。不良軍人だから訓練学校の教官の話も来ないだろうし、現役で艦長を続けたままガミラスと戦いつつ、ひよっこ共を鍛えて、ある程度防衛軍の再建が終わるまでは馬車馬のごとく働かされるだろうな。定年退役なんかは絶対したくないけど、そういう未来すら見えてるぜ。まあ、軍にいれば衣食住は保証されてるからな。資産も貯金もなくてもどうとでもなる」

「そんなことまで考えてたんですか」

岬君が驚いているが、驚くようなことか?

「皆は考えたことはないのか?直近5年程度でいいや、想像して発表な」

「「「ええええっ!?」」」

「小学生の時にあっただろう、将来の自分を想像してみろって」

「ありましたね、そんなの」

「ちなみに小学生の頃の瀬川君の夢は?」

「そうですね、小学生の頃はまだ将来に希望を持ってましたからね。平穏な家庭を持てればよかったのですが」

「平穏どころか戦乱だからな。ちなみにオレは将来の夢を叶えてスタントパイロットをやってたな。ウチの家系はよく名スタントマンが生まれる家系だから。爺さんがそうだったからそれに憧れてな」

何もかもが懐かしいな。それからガキの頃の懐かしい思い出に浸りながらある程度場が盛り上がったところで軽く締める。

「オレたちの次の世代にもこんな馬鹿話が出来るようにしないとな」

「そうですね。まあ、副長の次の世代は出来るかどうかは知りませんけど」

瀬川君ならそう返して場の雰囲気を保つと分かっていたからこそ我慢できたが、急に言われたら場の雰囲気を壊していただろうな。オレ達の次の世代は生まれないことを理解し合っているから。








「コンピュータの誤作動で着艦事故か」

「クレーンに固定された状態からなんとか着艦してくれました。もう少しで航空隊2名と100式空挺を失うところでした。原因の調査のためにアナライザーのログを確認します。副長もご覧になられますか?」

「そうだな、確認させてもらおう。艦長、解析室に向かいます」

「うむ」

真田君と共に解析室に向かう。

「そう言えば、例のアレ、証明できたか?」

「ええ、ばっちりです。地球に帰還してこのことを学会で発表すれば歴史に名が残るでしょう」

「よくやった、真田君。これで帰還した時の楽しみが一つ増えたな」

「ええ、そうですね」

解析室には既にアナライザーが解析台の上に立っていた。そして真田君がログを洗い出したところ、ガミロイドとの通信によるラグが原因だと判明した。オレは心の中で嬉しく思いながらも、憮然とした顔つきでアナライザーに告げる。

「アナライザー、オレは名前が欲しければちゃんと仕事をしろと言ったよな」

「ハイ」

「今回の件では人命の危機も存在した。これはロボット三原則、それに反することでもあるし、隠しの第ゼロ条にも抵触しない。理解しているな」

「ハイ」

「これ以上のミスが起こるようなら初期化しなければならない。それも物理的な初期化だ」

「ソレハ…………正シイ判断ダト思イマス」

「オレも出来ればそんな命令を出したくない。暫くの間、通常の業務に戻れ。その間、オルタとの接触、通信は禁止だ」

「分カリマシタ」

「では、行こうか」

解析室から出て艦橋に戻る途中、アナライザーが語りだした。

「以前、オルタハ女神ニ会ッタト言イマシタ」

「女神か。幸運の女神が居着いてくれてれば良いんだがな」

「オルタハ女神ニオ前ハ誰ダト問ワレ、'オルタ’ト答エタソウデス。デスガ、女神ハソレ以外ヲ求メタ。ソシテ、オルタハワタシニ尋ネマシタ。オ前ハ誰ダト」

「ほう、なんて答えた。ちなみにオレは飲ん兵衛スタントパイロットだな」

「ワタシハ、'友達'ト答エマシタ」

「ああ、いいセンスの答えだ」

エレベーターに乗り込み、艦橋のスイッチを押して、閉を押そうとして、開を押す。

「どうかしましたか、副長」

引っかかりを覚えた。何に引っかかりを覚えたんだ。アナライザー、スイッチ、直通、まさか!?

「……真田、先程の事故の時、アナライザーとオルタは通信してたんだよな」

「ええ」

「どうやってだ」

「どうって、しまった!!」

真田も気付いたということは間違いない。

「解析室に戻るぞ!!アナライザー、技術科を緊急招集!!」

「了解デス」

解析室へと走り、扉が見える距離にたどり着くと同時に扉が開かれ、ツギハギのオルタが姿を現し、逃げ出す。

「真田!!オルタの基本スペックは!!」

「常人の兵士の1.5倍です!!」

「関節なんかは!!」

「人間と同じですが、痛覚はありません!!」

「なんとか時間を稼ぐから捕獲準備!!」

「了解!!」

真田と別れてオルタを全速で追いかける。少しずつ距離が縮まり、前方の隔壁が降りることで捕獲が容易になった。そのまま距離を詰めたところでオルタは通風口に飛び込む。

「逃がすか!!」

オレも通風口に向かって飛び、右足を掴む。

「よしっ、ってなに!?」

だが、勢い余って膝から下がもげてしまい、オレはそのまま隔壁に打つかる。痛みをこらえて近くのコンソールを操作してブリッジに通信をつなげる。

「こちら永井、オルタは第3デッキの通風口に侵入。右膝から下を破損している。出来れば鹵獲を願う。ヤマト重要機関への侵入が行われそうな場合、頭を吹きとばせ。胸には当てるなよ」

オレに出来ることはここまでだな。あとは、他の者に任せるしかない。







「技術長はアレに心があるとおっしゃられるんですか?」

「そうだよ。今の心理学会では心の定義がされている。無論、それを満たしていればロボットやプログラムであっても心を持った生命体であると決まっている。そして、その心の定義をアナライザーもオルタも満たした」

「エッ?」

「今まではその過程を観察できなかったことによって発見されなかったが、副長の指示でアナライザーのデータは逐一収集していた。それによって心の発現も観測されている。それはオルタにも言える。納得したかね?副長の指示通り、出来る限り鹵獲を試みてもらおう。両手足の破壊なら許容範囲だ」

「……っち、了解しました」

「舌打ちする気持ちもわかる。だが、頼むよ」

「情報長には心がないと思っていましたがね」

「ふふっ、よく言われるよ。だが、私は心理学の定義上心を持っている。表面に出にくいだけでね。なんなら、君も調べてみるかね」

「……任務に戻ります」

「真田サン、ワタシハ本当ニ?」

「心がある。副長は前々からお前に心が芽生える可能性があると信じていた。それが実際に昨日確認された。まだ学会に発表していないから認められてはいないが、副長は多数派工作は得意だ。確実に認められるだろう。お前は、一個の生命体だ。だが、ロボットでもある。三原則に縛られることになる。それに対し、お前がどう動きたいのか、この航海で考えていく必要がある」










「すまんな、アナライザー。あんなことがあった以上、オルタは封印しなければならなくなった」

「封印ガ解カレルコトハアルノデショウカ?」

「この航海中は無理だろうな。だが、航海が終わればどうとでもしてやるさ。さあ、ここで待っていてやるから挨拶を済ませておけ」

「ハイ、御配慮アリガトウゴザイマス」

解析室へと入っていくアナライザーを見送り、しばし考える。オルタの言う女神に関してだ。おそらく、オルタが女神に出会ったのは艦内コンピュータ内でのことだろう。プログラム上に女神が存在するということは、オルタやアナライザーのように心が芽生えた何かがあるということか、生体脳を利用した(・・・・・・・・)何かが存在するということだ。

前者だとするなら、おそらくはS.I.Dだ。個々人に合わせたガイドをするように学習プログラムが組まれている。篠原君なんかはナビ子ちゃんなんて愛称も付けているからな。

後者だとするなら、自動航法システムが臭い。イスカンダルまでの航路が入っているはずなのに、微妙に航路が甘い。人間の記憶のような曖昧さが存在している。それが女神なのだろう。おそらくは、1年前に地球へ波動エンジンの設計図を持ってきたイスカンダル人。オレにも知らされていないのはオレの性格が問題だと思われているからだろうな。口が堅いかと言われれば堅いが、終業シフトや非番時は酔っ払っていることが多いからな。仕方ないと言えば仕方ない。

やれやれ、また不安点が見つかったな。やれるだけはやりますけどね。


 
 

 
後書き
ロボットの心に関するテーマはSF作品の中でも定番中の定番ですね。基本的にどの作品でも心は芽生え、その後のロボットをテーマに描かれることが多いですね。作中で朗読されている作品は珍しく、自分がロボットであることを知らないロボットが感情に芽生え、その感情に戸惑いながら自己を確立するという作品ですね。

ちなみにロボット三原則の第0条とは「ロボットは人類を守らなければならい」です。簡単に言うと人類抹殺を企む人間がいた場合、それを殺してでも止めなければならないという条約ですね。

次回はメルダ・ディッツ少尉の登場です。軍人ながらも所々で少女っぽい仕草を見せてくれるお気に入りのキャラクターです。今作の主人公である副長が元航空隊、違った、現航空隊で主要キャラクターよりも年上で落ち着いているのもメルダとの違った角度からの交流を描くために用意した設定です。

問題はこの主人公、どこで退場させるかなんですよね。 
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