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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第65話 お泊まり

 
前書き
休載から復活しました

迷惑を掛けてしまった関係者に深くお詫びします!
読者の方々に大変な迷惑を掛けてしまい、大変申し訳ないです
申し訳ありませんでした 

 
巨大な歯車がいくつか点在してあるモノクロのチェスのようなとある部屋にオレンジ色の鎧を着た坊主頭の餓鬼道が立ち、ブカブカの巨大なジッパー付きの緑色の服を着て、口を覆い隠している男が歯車に座っていた。

緑色の服を着た男は、ポケットに片腕を突っ込みながらもう片方の手で『罪と罰』の本を読み、眠そうな目をして捲っている。
眠そうな目の右側には紫色に鈍く光る輪廻眼があり、黒のピアスがキラリと光った。

「修羅道がヤラレタか......」
餓鬼道が鎧を軋ませながら、腕を組んで神妙な顏で目を細めた。

「みたいですね......だが、あいつ六道の中でも最弱」

測定不能(レベルエラー)
地獄道

「んだ、六道に入れたのが不思議なくらいだ」
餓鬼道と地獄道が互いに嘲笑うように首を傾けていると、彼らの前にいた肩を抉られた修羅道が怒鳴り始めた。

「はぁ!テメェらどういう意味だコラ!ってかさっさと治せよ地獄道!」
紅い髪を逆立て怒りを露わにする修羅道の側に風呂敷が敷かれており、様々な部品が並べられていた。
「ふぅ、修羅道これで全部だと思うよ」
フードを被った女性「人間道」がニコニコとしながら、修羅道の顏を覗き込んだ。
「ちっ!」
「?」
視線を逸らす修羅道に人間道は疑問符を浮かべた。

「照れないのですか?......」
「はぁ!?照れてねーし!」
「修羅道は歳上好きだから本命は別だ」
「そういえば......そうですね。前に廊下で告白していたみたいですし」
「だあぁぁー!ガキの頃の話だろ!!」
「いや2年前だから変わりありません」
「んだんだ」
「何同意してんだ餓鬼道!?このデブが」
「デブではないぽっちゃり系だ」

顏を真っ赤にしながら否定する修羅道を揶揄う餓鬼道と地獄道。
怒鳴った事で更に抉られた肩の部品がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。

「うげ!?分かったから......さっさと治してくれ!」
「しょうがないですね......餓鬼道、回収したエネルギーのストックがありますか?」
本を閉じると猫背の姿勢で歯車の上から飛び降り、見上げるような形で餓鬼道を見た。
「ああ、第四位の能力者のがな」
餓鬼道が印を結ぶと共鳴するように輪廻眼が光りだすと、地獄道の身体が背景と滲むようなオーラに包まれた。

「!?第四位が来たのか!!?」
「餓鬼道が相手しましたら、あっさり退いたみたいですけど......さて」

地獄道は口を覆っているジッパーをゆっくり下ろすと痩せた胸部に巨大閻魔が彫り込まれたおり、印を結び封印を解除すると周囲から煉獄の炎が沸き上がった。

裁きの焔

その炎は修羅道の身体を覆うと青い炎となり、蒸気による陽炎の中で人の形を取り戻し始めていく。

「ふぅ、やっと戻ったぜ」
修羅道に纏わり付いていた青い炎は次第に小さくなり焚火に近くなった炎を地獄道は吸い込むようにして回収した。

「割としんどい能力ですからね......任務だけならまだしも......小さな子供に負けそうになるなんて」
炎を口に入れると、胸に刻まれた閻魔の輪郭に血液が流れたように光りだした。
地獄道はそれを覆い隠すように開けたジッパーを上げて、猫背のまま歯車に飛び移った。

「負けてねーし!本気出せば俺の勝ちだ」
着崩した赤いジャージを直しながら、修羅道はテーブルの脇に置いてある安楽椅子にやや乱暴に腰を下ろした。
「子供相手に本気になるな」
「うるせぇ!仕事は真面目にやってたんだ!サボっていた人間道に文句を言え」
「ふぇ?」

「何何?責任転嫁?!ださいわねー」
所々破れたソファに座り、携帯ゲームに仰向けで遊んでいる頭に二つの団子を作ったような髪型の女性が一瞥もせずにボタンを押しながら馬鹿にしたように笑う。

測定不能(レベルエラー)
畜生道

「はぁ!?なんだとー!畜生道!」
「修羅道もまだまだ子供ね~。まあ私には関係ないけど」
「獣に頼る弱虫には言われたかねーな!!
「あ?アンタなんて私の可愛い動物軍団で引き裂いてあげようかしら?」

プレイしていたゲームに『ゲームオーバー』と表示され、機械をテーブルに置くと魔女のような帽子を被り始めて、威嚇するように模様が描かれた掌を向ける。

「まあまあ、喧嘩しないでロールケーキ食べようよ」
喧嘩しそうに殺気を飛ばし合っている修羅道と畜生道の間に人間道が入ってにこにこしながらナイフでロールケーキを切り分けていき、皿に移していく。

「ちっ!!ってか大体なんで俺がコイツより弱い設定になってんだよ!人間道が最弱だろ」
「いや......能力発動したら修羅道なんてあっと言う間にやられる」
「猪突猛進ですからね......」
「単細胞バカ」
3人が口々に修羅道に向けて欠点に近い事を述べ始めるとイライラしながら椅子から修羅道が猛抗議をする。

「だぁぁー!今決着付けてやろうかぁ!?」
「こんなやっすい挑発にするから単細胞なのよ!嫌だわ、熱血キャラなんてダサいし」
「み、みんなほちついへ」
人間道がロールケーキを口に入れてモグモグしながらオロオロと右往左往している。
「何勝手に食ってんだテメェはぁぁー」
修羅道は人間道の首に腕を回すと頭をグリグリと拳を食い込ませてお仕置きを始める。

「いだいよー!だって我慢出来なかったんだもん!美味しいロールケーキだよ」
「こんな状況で食うバカが何処に居んだぁ!?
頬に生クリームを付けながら、痛みで涙を流している人間道を尻目に地獄道と畜生道が会話をし始めた。

「もう一人のターゲットはどうなっている訳?」
「そうですね......視界共有だと無事本拠地に入ったみたいですね」
「まあ、リーダーの天道が行っているから心配しなくて良いわね......さて、面白いゲームが始まるわよ」

畜生道は再び携帯ゲーム機を持って『続ける』の表示に合わせて遊び始めた。

******

赤髪狩りの事件に巻き込まれたフウエイを助けに来たサソリに叱られて大泣きをして、一頻り泣いた後疲れてしまったフウエイをサソリがおんぶしながら、日が暮れてしまった都市の道を歩いていた。
事件の中心人物である黒いピアスをした赤ジャージの男は依然として行方が掴めないものの、赤髪狩りに加担していた不良達の大量検挙に成功し、組織を壊滅することに成功した。

御坂と白井は門限が厳しい常盤台の寮に慌てて帰り始め、巻き込まれた挙句何故か大量検挙に貢献してしまった絹旗は、フレンダからの連絡により挨拶をしてアジトに戻ったらしい。

「......」
「......」

き、気まずい!
そういえばサソリと二人っきりになったのなんて随分久しぶりな気がする

幻想御手に手を出してしまった自分を叱り、今回の一件によりフウエイも一喝したサソリの姿に何か不思議な感情が湧いてしまい、うまく普段の調子を出せずに佐天は俯いたままサソリの歩調に合わせる。
背中に居るフウエイを気遣ってか、前後左右のブレもない優しい歩き方だ。

「なあ......」
「あの......」
二人の言葉が同時に漏れて思わず顔を見合わせた。
「どうした?」
「い、いやサソリの方こそ」

真っ直ぐ見つめてくる佐天にサソリは何かを感じながら、少しだけ懐かしさを覚えた。
「何でもねぇよ」

何かを感じた
それは合理主義のサソリに取っては不確定で曖昧な情報だ。
感情と同じく切り離すべき事柄に過ぎない。

「??」
少しだけペースを上げたサソリの後を追いかけるように速歩きをして追い付こうとするが......

ザザッ......

佐天の風景が一瞬だけ灰色になり、サソリの身体が乱れた砂嵐のように幽かになった。

「え......?」
心臓が跳ね返るような衝動に駆られた。
灰色の景色は直ぐにカラーの世界に戻り、サソリが振り返っていた。
「?どうした?」
「い、いや......」

サソリの顔を見ても、無事な様子を見ても胸騒ぎは治ることはなく更に拍車を掛ける。

な、なんか怖い......

サソリが何処か遠くに行ってしまうような言い様のない不安に襲われる。
サソリが居て、御坂さん達が居て繋がっていたモノが全て断ち切れるような恐怖だった。

「そろそろお前も帰って良いぞ。無理にオレに付き合わなくても良いし」
「えっ!?サソリ達はどうするの?白井さんみたいにテレポートで帰らないの?」
「時空間か......あれはかなりチャクラを消費するからなぁ......チャクラが不安定で使えねぇ。適当にその辺で寝泊まりをする。じゃあな」

「........」
前に歩み出したサソリの外套を佐天が掴んで引き止めた。
「?」
サソリが振り返って驚いたように目を見開いて佐天を見下ろした。

引き止めた佐天にもよく分からない感情が支配していて、上手く言葉や考えが出て来ないが......

今行動しないといけない気がした
後で後悔するくらいなら、今出来ることをしたい
でも何を?
何をしたら良いの?

しかし、佐天の理解よりも早く身体は咄嗟に動いて答えを示した。
「あのー、サソリ。良ければで良いんだけれど......あたしの部屋に泊まっちゃったりする?」
最後まで言った辺りで佐天の顔は真っ赤に染まった。熱暴走しそうになりながらも力を入れた手はサソリから離そうとしない。
「!!?」
「いや、体調が悪いなら世話をするし......フウエイちゃんも心配だから」
「......」
サソリは後ろで寝ているフウエイを端目で見ると、少しだけ考えるように空を見上げる。
「良いのか?」

******

佐天が住んでいる部屋に入ると布団に眠っているフウエイを起こさないように慎重に降ろして、優しく布団を掛ける。
「すまんな」
「こ、ここここちらこそ!散らかっている部屋でごめん」

何故か正座している佐天は紅潮した顔でガチガチに固まっていた。
初春や友人を泊めた事は何回かあったが、異性でしかも行為を寄せているサソリが部屋に居るのが不思議な気分だったり、パニックになりそうだったりと、しっちゃかめっちゃかになってしまう。

なりゆきとは云え、初めて男の人を部屋に上げてしまった
なんかお父さんごめんなさい
でも、何か特別な気がするようなしないような......
ここで一緒に過ごさないと後悔する
ただの妄想に近い直感だ

注)初めてではありません(レベルアッパー編)

「......サソリ」
佐天は確かめるようなアクセントで慎重に言葉を選び、紡いでいく。
「あなたは......何者ですか?」
非常に哲学的な命題だが、佐天の中にある疑問の根底を成すモノだった。

いつになく真剣にサソリに問いかける佐天にサソリは居を正した。
「それを訊いてどうする?」
「分からない......こんなに助けてくれているのに......あたしって馬鹿だし、察しが悪いから......サソリの事をもっと知りたいの」

数々の特質的な能力と常人を超えた洞察力で不利な状況をひっくり返していくサソリに一種の憧れを持っていた。
今までの能力者に対する羨望ではなく、純粋なる想い。

「......クク」
「?!」
予想に反して軽く笑い始めたサソリ。
それは何処か自嘲が混じっている。
「......あの時とは違うな......佐天」
「あの時?」
「レベルアッパーの時だ」
「あ、あれ?それがどうしたの?」
「お前に感じていた違和感というか......雰囲気の正体がな」
サソリは視線を少しだけ逸らした。
自分の記憶と向き合う、バラバラになったピースを組み立てていく。

「いや、その前に質問に答えるか......オレは傀儡師だ。それと同時に多くの人間を手に掛けてきた」
サソリの視線に殺意が混じりだす。
いつものサソリではなく『赤砂のサソリ』を佐天は真っ直ぐに捉えている。

冷や汗が流れだし、抹消が痺れ始める。
佐天のの驚異的な直感が具にサソリと自分の身体の変化を感じている。

ここで選ぶ言葉を間違えたらアウトだ
相手は殺人鬼だと割り切った方が良い

「そうなんだ......あまり聞いた事がないからびっくりしちゃった」
「......」
こちらから質問したが逆に試されているような感覚だ。
「でも、あたしや御坂さん達を助けたのはどうして?」
「......」
サソリが小さく首を傾けた。理屈や頭脳ではサソリには敵わない。
だけど、助けた『結果』は変わる事はない......はず

「......何でだろうな......オレも良く分からん」
サソリは少しだけの笑顔が佐天の中に違和感を作り出した。

あの時
木山さんと喫茶店で会話した時にサソリが見抜いた嘘付きのポイント
そうなんだ......サソリの中に既に『答え』があっての不明瞭な答え方をしたんだ

全てが嘘?
それとも一部が?
言うとマズイ事?
言えない事?
いや、会話の中にヒントがあった

手に掛ける
傀儡使い
違和感
あたし自身
雰囲気

「......あたしに対して言えない事?御坂さん達には言える?」
「......あまり考え無しじゃなさそうだな......オレの中ではお前だから言えねぇ」
「あたしだから言えない......?」

予想通りの答えだった
だが、何故かまでは不明だ
今までのサソリとの経験......
あたしの発言に対しての反応を思い出して

夢の中に現れた黒髪の女性の人形が言っていた言葉を思い出す。

オネガイ
サソリヲタスケテアゲテ

「はっ......」
分かったような分からないような不思議な感じだが、手にした解答に到着した際に不自然な箇所は直感的に無いに等しい。

「サソリの......お母さん?」
「......良く解ったな....,, オレが辿り着いた答えだ」
サソリは満足そうに立ち上がると佐天の頭を軽く撫でた。
「お前はオレのおふくろに似ている。だからかな」
「あたしがサソリのお母さんに......?」
あるはずのない、可能性のないピースが揃い始めて、佐天の心臓は早鐘のように高鳴りだした。

言われてみれば確かに。
サソリに対する気持ちはレベルアッパー事件以降から大きく変わった。
サソリの身を安じる、言葉をかける。
それは子を心配する親の気持ちや心配に近い。

「我ながら女々しいな......忘れ去ろうとしていた感情で助けていたんだってな」
サソリは呆然としている佐天を横目に見ながら、玄関に向かおうとするが佐天が外套の袖を掴んで、サソリの腕に抱き着いた。

「!??」
サソリが佐天の行動に戸惑いながら、腕に捕まっている佐天を見下ろした。
「サソリ......あたしサソリの事が好きだよ......いや大好き」

これがサソリの母親の気持ちだとは思わない
正真正銘のあたし自身の言葉
真っ直ぐで大切にしたい大事な感情

「佐天......?」
とサソリが声を出すと同時にベッドで横になっていたフウエイが目を覚ましてゴシゴシと目を擦っていた。
「?......んにゃ?」
見慣れない部屋の中をもの珍しそうにキョロキョロと見渡すと起き上がってサソリ達に近付いてきた。
「......?何をしてるの?」
「何でもないわよフウエイちゃん。サソリ、返事はまた次の機会にするからね」
フウエイを優しく抱き上げて、ニコッと吹っ切れたように笑う佐天の笑顔にサソリは、少しだけ頬を染めた。
「何なんだ......一体?」

何でオレの正体を知っても離れて行かないんだ......
湾内も佐天も......御坂達も付いてくるんだ......

全部、おふくろの仕業か......? 
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