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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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七つの大罪を統べる者~Beelzebub~

 
前書き
修正に伴い、次話の序盤をこちらに移してもう1話として追加しました。 

 
†††Sideシャルロッテ†††

エリオやキャロ、それにルーテシアやレヴィヤタンを食べようとしていた変態ことベルゼブブと対峙する。つい最近に誕生したっていう話で、放たれている威圧感からその実力の高さが他の罪たちとは一線を画しているのはよく判る。だけど、こっちは生前から幾度も死線を越えてきたんだ。だからこの程度の威圧感。

「なんともない!」

――閃駆――

一撃で決めるために高速歩法・閃駆で仕掛ける。狙うのは、どのような存在でも変わることのない急所である首。そこを刎ねてしまえば、“大罪ペッカートゥム”の分裂体であるベルゼブブもそれで終わりだ。

「急ぎ過ぎると怪我をしますよ?」

「御忠告感謝! でも自分の心配をしたらどう!」

敵に対して気遣いをするベルゼブブの背後を取る。外見もそれなりに良いし、礼儀正しいし、ただの人間だったならすっごくモテそう。でも残念。コイツは殺すべき絶対の敵。一切の躊躇も容赦もなく、“キルシュブリューテ”をベルゼブブの首めがけて横一閃に振ろうとしたら・・・

「いきますよ!」

ベルゼブブのその言葉の次に、私の前髪が小さくフワッと靡く。風・・・? そう思った瞬間、私の足元に幾何学模様、まるで“口”が開いたような紋様があるのに気付いた。ベルゼブブが「あぁ、一撃目はサービスです。ちゃんと避けてくださいね。そう漏らす。逃げろ。そう直感が告げた。

「くっ・・・!」

閃駆を使ってベルゼブブから、そして“口”から後退して距離をとる。直後、目の前を下から上へと何かが通り過ぎて、“口”の範囲内のギリギリにあった私の後ろ髪の毛先1cm辺りが消えた。

「今のは!?」

正体不明の攻撃に驚きつつも、自然と靡く後ろ髪を手に取って、雑に切られたようになっている髪を見る。くそぉ、毎日時間を掛けて手入れしている自慢の髪なのに・・・グスッ(涙)

「あぁ、申し訳ありません。女性にとって髪は命でしたね・・・」

ベルゼブブが心底すまなさそうに謝ってるけど・・・許さない。全力で睨みつけながら、後ろ髪を束ねてフープバインドで結う。こういう時にもバインドって役に立つんだぁって思った。習得しておいて本当に良かった。

「解ってるじゃない。だから覚えておくこと、来世でもね!」

――風牙真空烈風刃(エヒト・オルカーン)――

風嵐系最強の術式、真空の刃を複数巻き込んだ風圧の壁、真空烈風刃をベルゼブブに放つ。当然ベルゼブブは回避か防御に徹するかと思っていた。でも、「うそ!?」信じられないことに、真正面から私に向けて突進してきた。私の前には放ったばかりの風牙があるのに。

「見えるんですよ、僕には・・・。風の流れ方が!」

小さく囁いたベルゼブブの声が耳に届く。暴風の中を突き進みながらも真空の刃を流れるような動きで躱すその姿。そう、風読み。それはまるで風迅王イヴィリシリアや風の騎士公オペルのようなスキルで、動きだった。

「それにですね・・・」

「くっ・・・はあっ!」

無傷で風牙を突破してきたベルゼブブに“キルシュブリューテ”を薙ぎ払い一閃。けど、「っ! ちょっ・・・!」ベルゼブブはそれを読んでいたみたいで、振るった私の右手首を余裕で掴み取って、私を背負い投げする。私は背中から叩きつけられる前に無理やり両足をドシン!とつけて着地。そのまま左手でベルゼブブの右腕を掴み・・・

「こんのぉぉぉぉッ!」

強引に上半身を起こして、ベルゼブブを前方に引っ張り上げてそのまま地面に叩きつける。お互いの手が離れたのは同時。だからすぐさま“キルシュブリューテ”で、地面に倒れているベルゼブブに向けて刺突を放つ。

「っとと・・・!」

ベルゼブブは地面を転がって刺突を避けるけど、私の攻撃は終わらない。

――土龍閃・私バージョン――

私のお気に入りとなった飛天御剣流の1つをここでも使う。地面を斬り上げて石飛礫を放つものらしいけど、私はその石飛礫にさらに魔力を纏わせる。そのため、オリジナルよりはるかに威力が高いし、神秘もあるから十分ベルゼブブにもダメージを与えることが出来る・・・はず。

「ぐぅっ・・・!」

転がった勢いで立ち上がったベルゼブブに石飛礫が殺到していく。それをベルゼブブは顔の前で両腕を構えて防御。今のそんなベルゼブブは隙がありすぎて、逆にこちらが困惑するほどだ。でも、どうであれ今が攻撃のチャンスであることには変わらない。

(このまま一気に決めてやる・・・!)

――閃駆――

距離を詰める。“キルシュブリューテ”は取り出した鞘に納める。今から使うのは飛天御剣流の奥義、その名も天翔龍閃と書いて、あまかけるりゅうのひらめき、と読む。
創世結界作成の合間(ちょっと飽きてきた頃)に“英知の書庫アルヴィト”で何度も練習した剣技だ。んで、資料に書かれていた通りに何度もやったんだけど、全然上手く出来なかった。まっ、結局は6回目くらいで様になった。実戦で使うのは今回で初だね。

(そして今、試してみたい・・・すごく!)

居合い抜き、オリジナルは抜刀術って言うんだけど、その構えで最接近。ベルゼブブは未だに顔面を守るように腕を構えている。これならイケる。攻撃範囲に入ったことで左足で踏み込む。この左足での踏み込みこそがこの剣技の要だからだ。最初これを知った時はそんなバカな、って思ったり・・・。

――飛天御剣流奥義――

“キルシュブリューテ”を鞘から引き抜く。“キルシュブリューテ”の刀身は、鞘に納めている間は魔力化している。だから刀身は持ち主の身長に合わせられる。納刀時は刃先から魔力に戻るし、抜刀時はハバキの方から急速に実体化する。んで、完全に抜け切ったところで刃先までが実体化することで、居合抜きも可能とする。

――天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)――

鞘から完全に刀身が抜けて、桜色の刃がベルゼブブへ一直線に向かう。上手くいった。完全にものに出来てる。だけど・・・

「あっ・・・!」

「あぁ、先程の続きですが・・・」

柄を握っている私の右手首を完璧に捉え、掴み取ったベルゼブブがそう口にする。やられた。居合抜きから斬撃到着までの時間を完全に読まれていた。

「痛っ!」

ゴキッって右手首から嫌な音がした。関節を外されたかも。右手の握力が失くなって、“キルシュブリューテ”を取り落とす、って・・・。

「3rd・テスタメント。今のあなたでは、僕には勝てません」

右手から離れた“キルシュブリューテ”を宙で左手に取ったベルゼブブが、「やめ・・・っ!」私の生前からの愛刀“キルシュブリューテ”で、私の胸の下を横一線に斬り裂いた。

「あ・・・ごふっ、げほっ・・・!」

吐血。口から流れ出る血を押さえないで、斬り裂かれた傷口を手で押さえる。咄嗟に身を引いたから致命傷というような傷じゃない。

「ぐっ・・・こん・・・な・・・!」

傷口を押さえながら両膝をついて蹲る。やってくれた、この偽神父。よりにもよって私の“キルシュブリューテ”で、この私を・・・。許さない。こいつだけは、絶対に。

「あなたの敗因はですね、許されざる暴食(ボク)を相手に近接戦を選択したことです。先代も、四代前も、八代前も、九代前も、さらに前も、あなたが斃したんですよ、3rd・テスタメント。それゆえに、あなたの戦闘パターンの構築くらいは済んでいます」

「っ! 何故それを知っている・・・?)

「ん? あぁ、もしかして知らなかったんですか? 分裂体(ボクたち)は代を重ねると、知識も記録も戦力も強化されていくんですよ」

「なっ・・・げほっげほっ・・・!」

そんなことが。まずい、そんな情報は玉座にはない。代を重ねることで強化されるなんて。“ペッカートゥム”。厄介すぎる特性だ。

「最悪・・・」

斃せば斃すほどに強くなるなんて反則だよ、コイツら。

「確かにあなたは疾い。ですが人間としての疾さでしかない。界律の守護神(テスタメント)の位相空間転移ならまだしも、ただ速いだけの歩法が僕に通じることはないです。見えてしまいますので。あなたの歩法の疾さ程度ならば」

何とか立ち上がりながら、ベルゼブブを睨みつける。新たに取り出すのはナイフ型の概念兵装・“祝福の証ゼーゲン”。“キルシュブリューテ”に比べれば心許ないけど、武器が無いよりはマシだ。それに手にしていれば治癒が働く。少しでもいい。斬られた個所を治癒しておかないと。

「まだ戦うつもりですか。ですが先程申した通り、戦いが目的じゃありません。ですので僕はこれで失礼させてもらいます。あぁ、それと・・・」

私に背を向けて余裕をかまし、「この刀、少しお借りしますね」そんなことを言い放って、波打つ空間に消えていった。っていうか・・・

「返せぇぇぇぇぇぇッ! げほげほっ・・・!」

叫んだらお腹から血が噴いた。危険危険危険・・・危険だよ。

「あ~、なんかまずい・・・。でもこの程度・・・!」

頭がフラつく。血を流し過ぎたかも・・・。でもこんなんでリタイアなんてしない。何故ならベルゼブブの顔の形が変わるまで殴り倒して、“キルシュブリューテ”を取り戻さないといけないから。だから・・・

「フェイト? ちょっと助けてくれる? っていうか、シャマルいます?」

『っ! シ、シャル!?』

まずは治療が先だ。

†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††

「ありがとう、シャマル。ここまで治れば行けるかな・・・?」

シャルからの緊急通信に応えて、シャルをシャマルの元まで運んだ私とエリオとキャロ。お腹からたくさん血を流していたシャルを見たエリオとキャロの顔が蒼くなった。見せるんじゃなかったって少し反省と後悔。

「ちょっ、ダメよ、フライハイトちゃん!」

「そうですよ、シャルさん!」

「傷口が開いてしまいます!」

「っていうかヴァイス陸曹、何見てるんですか! 男の人はこっち見ないでください! セクハラで訴えますよ!?」

「痛っ! おいっ、俺も一応重傷なんだぜ!?」

そして今、オートパイロット状態のヘリの中で応急だけど治療を終えたシャルがゆりかごへ向かおうとするのを、必死に止めるシャマルとスバルとキャロ。ティアナは上半身が包帯だけの――半裸であるシャルを見ているヴァイス陸曹を訴えるとか言ってる。でも確かに操縦席に移らないのはどうかと思うよ、ヴァイス陸曹。

「ここまで傷が塞がったら大丈夫。あとはゆっくりとゆりかごの中で治すから」

「いやいや無茶だよ、シャル。あんなバッサリ斬られているのに・・・!」

シャルはお腹の辺りにまではだけさせていた水色のワンピースの袖に腕を通し、前の留め具を固定してから、横に置いてあった白のショートジャケットを手に取って羽織る。

「あのクソ神父をボコボコにしないと気がすまないの。それにスバルとティアナは行くんでしょ、ゆりかごに」

「「それは・・・そうですけど・・・」」

ゆりかごに居るなのは達と連絡が取れないということが判ってる。それはAMFが原因だということも。だからスバルとティアナが迎えに行く。スバルの戦闘機人としての力を使えば、たとえAMFの中でも支障はないから。そしてティアナは、ヴァイス陸曹のバイクで進入することになってる。つまりは足、だね。

「私もそれについてく。いいよね? ね? ね? ね~?」

「「うっ・・・はい」」

「「「ええええええええ!?」」」

迫ってきた怖い笑顔のシャルの前に、ついには折れるスバルとティアナ。それを見ていたエリオとキャロとシャマルからの驚愕の声。私はもう慣れた。というよりはもう諦めに近い。何を言っても聞かないんだから、なのはとシャルは。はぁ・・・。

「それにやっぱり気になるんだ。ベルゼブブのことが・・・」

真剣な面持ちになったシャルがゆりかごを見る。これまで姿を見せて来なかった“ペッカートゥム”の1体、ベルゼブブ。私もレヴィヤタン救出の際に見たけど、その威圧感は圧倒的で足が竦むほどだった。レヴィヤタンやアスモデウスなんて目じゃない程に。でもまさかシャルにここまでの深手を負わせるなんて思いもしなかった。

(そんなベルゼブブが、ゆりかごに向かった。確かに心配だけど、シャルを送り出すのも不安。このジレンマ。私にも魔術が使えればいいのに・・・)

今回の事件が始まって、敵がルシルとシャルにしか倒せない存在だって知ってから常々そう考えるようになった。そうすればもっとルシルと同じ目線で、一緒に戦えることが出来るのに。

「え~と・・・じゃあシャルさんも一緒に行くってことでいいんすか?」

「もう! 無茶だけは絶対にダメよ、フライハイトちゃん!」

シャマルも折れた。人差し指を立てて、少し怒りながらの注意。医者としては止めるべきだろうけど、もう言っても止まらないのはシャマルも解ってる。というか、私みたいに諦めの境地だ。

「ありがとう、シャマル。それじゃ、フェイト達も気をつけて」

「うん。シャルも。そしてスバルとティアナも気をつけて。なのは達をお願いね」

「「はい!」」

私とエリオとキャロは地上に残る。一度は活動を停止したガジェットがまた動きだしたからだ。すでにレヴィヤタン達が、せめての罪滅ぼしということで掃討に向かっている。一度レヴィヤタン達と合流するためにヘリを降りた私たちは、ゆりかごへ飛んで行ったヘリを見送った。

「それじゃあエリオ、キャロ。疲れてくるかもしれないけど、もう少し頑張って」

「「はい!!」」

私たちは地上に蔓延るガジェットの掃討へと出る。もうこれ以上好き勝手させないために。

†††Sideフェイト⇒なのは†††

神父のような人を見て怯えているヴィヴィオを強く抱きしめる。震えているのが判る。けど、それは私も同じ。震えが止まらない。

「あれが・・・ペッカートゥムって奴なんか・・・?」

リインを強く抱きしめるはやてちゃんの震えた声。あの人はさっきまで戦ってたバエルって女の人以上に危険だ。それ以上に気になるのが、その人が持っている物。ソレはシャルちゃんの綺麗な桜色の刀身を持つ刀・“キルシュブリューテ”だ。しかも刀身に血が付いている。誰の?と考えて真っ先に浮かぶのは・・・

「シャルちゃんの・・・?」

“キルシュブリューテ”の持ち主のシャルちゃんただ1人。そんなこと考えたくない。でも一度そう思ったら頭から離れない。シャルちゃんが、あの人に“キルシュブリューテ”を奪われて、そして斬られた・・・?

「それならここに用はありませんね。ですので、勝手ながら退かせていただきます」

その人が綺麗な一礼をしてそう言った。助かった。正直あの人とこうして相対しているだけで冷や汗が止まらない。でも「待て」それを止めるのはルシル君。ゆっくりとあの人に歩いていく。手に持っているのは“グングニル”。ルシル君はあの人と戦う気だ。

「ルシ――」

それを止めようとした時、ルシル君が一瞬だけ視線を向けてきた。

「もう一度訊く。そのキルシュブリューテはどうした?」

怖い。今のルシル君のことが怖い。私たちに向けられたものじゃないけど、その殺気の濃さは十分すぎる。

「あぁ、これですか? お借りしたんですよ。あぁ、持ち主は無事ですのでご安心を。僕はルシファーを斃しに来ただけなんで、無駄な殺害はしませんよ」

「ルシファーだと? さっきまで戦っていたのは女だったが・・・?」

ルシル君の歩みは止まらず、徐々にあの人に近付いて行く。

「その辺りはこちらの不手際ということで」

「そうか。で、お前もペッカートゥムなんだな?」

「ええ。大罪(ペッカートゥム)が一、許されざる暴食(ベルゼブブ)です」

あの人がベルゼブブ。確か“ペッカートゥム”の中で最強だってシャルちゃんに聞いた。それを聞いたルシル君が歩みを止めて、背中に12枚の蒼い剣の翼、アンピエルを展開した。

「ならばここでお前を斃す。・・・『なのは、はやて。私が時間を稼ぐ。君たちは急いでこのゆりかごから脱出するんだ』」

念話でルシル君がそう告げてきた。腰のホルスターに納められた黄金の“星填銃”を抜いて、銃口を私たちに――正確には出口を閉ざしている扉に向けて撃とうとしている。私たちは巻き添えを受けないように急いで扉から離れる。直後、銃口から蒼い閃光が放たれて、扉を吹き飛ばした。

「「ルシル君・・・!」」

「ルシルさん!」

「ルシルパパ・・・!」

それぞれルシル君を呼ぶ。振り向くルシル君は、私たちを心配させないためか笑顔だった。

「大丈夫だ。すぐに終わらせて、必ず追いつく。だから先に行っていてくれ」

「判った。待ってるからね、ルシル君。行こう、はやてちゃん、リイン。ここに私たちが残ると邪魔になるから・・・!」

「・・・ごめんな、ルシル君! 力になれんくって!」

「ごめんなさいです!」

私はヴィヴィオを抱き上げたまま壊れた扉の先を目指す。はやてちゃんはリインを肩に乗せてから戦闘機人を背負って、私の先を行く。出口を潜って走り出そうとした時、「え・・!?」私たちの間を何かが通り過ぎた。足を止めて、ゆっくりと後ろを振り返る。

「あぁ、申し訳ありませんお嬢様方。手加減が難しかったもので・・・」

さっきみたいに綺麗な一礼で謝ってくるベルゼブブ。その周囲にある5つの光球が、ベルゼブブを中心として回っていた。けどルシル君の姿が無かった。視線を玉座の間に佇むベルゼブブから、私たちが向かおうとしていた扉の奥、通路の方へと向き直した。通路の先に居たのは、四肢をついて起き上がろうとしていたルシル君だった。

「「ルシル君!」」

「ルシルパパ・・・!」

ルシル君は側に転がってた“グングニル”を手に取って、杖にように突いて立ち上がろうとしたけど、ガクッとまた崩れ落ちた。私たちは急いでルシル君の側に駆け寄った。

†††Sideなのは⇒ルシリオン†††

なのは達を送り出し、そしていざベルゼブブへと攻撃を加えようとしたところで、「やられた・・・?」いきなりの高速移動で不意を突かれ、気が付けば通路まで吹き飛ばされた。“グングニル”を支えに知恵何とか立ち上がって、玉座の間へと――ベルゼブブへと視線を戻す。

「・・・問題ない。さぁ、みんなは早く行くんだ」

俺の元へと駆け寄って来てくれていた、心配そうな顔のなのは達と目が合う。口に中にある血を吐き捨てる。女の子の見せるようなものじゃないが、今はそんなことを言ってはいられない。はやてが「でも!」そう納得できないと声を荒げる。

「この戦いは私たちの問題だ。みんなを巻き込むわけにはいかない。それに・・・君たちの魔法は、許されざる暴食(アレ)には通用しない」

さっきのように魔法に神秘を乗せたような術式を展開してやればいいが、あれではリスクが大きすぎる。攻撃の手段があっても、防御の手段がなのは達にはない。それはつまりベルゼブブの攻撃を常に防がないといけなくなる上、ちょっとしたミスでなのは達を死なせるようなことになってしまうということだ。そうなれば自殺ものだ。かつてのように守れなくて、心が壊れ、その果てに私はまた・・・。

「ルシルパパ・・・」

なのはに抱き上げられているヴィヴィオが手を伸ばしてくる。玉座の間に向かう足を止め、そっと優しく握る。

「小さいな・・・」

誰にも聞こえないように静かに呟く。この子たちの未来を奪わせないためにも負けるわけにはいかない。

「大丈夫だ、行ってくれ・・・」

それだけ告げて、振り返らずに玉座の間へと再び歩みを進める。すると背後から「頑張って」とヴィヴィオの声援を受けた。それに片手を上げることだけで応える。それで最後だ。通路を走る足音が遠ざかっていく。

「あのお嬢様方と一緒に行かれれば・・・」

「アポリュオンは、絶対殲滅対象の名の通り全て滅殺。それが界律の守護神(われら)が存在意義。理由はない。そうなるよう世界が定めている。ゆえにそれに従おう」

契約は果てていない。“堕天使エグリゴリ”を殲滅し終えるまでは。それまでは踊ってやるさ。無様だろうと何だろうと・・・。

「そうですか・・・・決められた事項を果たすだけ・・・ですか。あぁ、なんと哀しい方々だ界律の守護神(テスタメント)。かなしい哀しい悲しいカナシイ」

ベルゼブブの周囲を回転している光球がさらに速く回る。そしてその全てがベルゼブブの胸へと入っていき・・・

「あまりに哀れで涙を誘います。あぁ、やはり主の言うことは正しい」

奴の存在感が増し、その神秘が本来の“大罪ペッカートゥム”と同等近くにまで膨れ上がった。あぁ、くそ。さすがに魔術師状態で戦うにはきつ過ぎる展開だぞ、これは。最早嘆息しか出て来ないが、やるべき事は不変。ベルゼブブを撃破するだけだ。

(さぁ。行こうか・・・!)

 
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