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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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ほっぽと御馳走の山

 『深淵』を飛び出したほっぽちゃん、一路鎮守府へ向かいます。が……

「鎮守府ッテ、ドコニアルノ?」

 ほっぽちゃん、当然ながら鎮守府のある場所を知りません。ほっぽちゃんは深海棲艦の中でも『陸上基地型』に属する娘です。自分の守る基地を攻められはしても、自分から攻めた事なんてありません。鎮守府の場所を知らないのも、ある意味必然です。

「トリアエズ、マッスグススム!」

 そう言ってほっぽちゃんはお飾りの入った木箱を頭の上に乗せるように抱えると、太平洋の真ん中辺りから西に向かって一直線に進み始めました。子供のような成りとはいえ、そこは姫級。通常の深海棲艦の数倍の速度で太平洋を渡って行きます。

「ン?カンムスノハンノウ!」

 ほっぽちゃん、前髪のアホ毛が電探の役割でも果たしているのか、前方に艦娘の反応を検知したようです。しかし、海の上を進んでいる影は見えません。しかし、水面をよく見ると3つの頭が水面ギリギリから覗いています。どうやら、ほっぽちゃんの見つけた反応は潜水艦娘の物だったようです。




「にひひっ、今日も燃料に弾薬、大漁なのねー♪」

「日課の任務も終わったし、とっとと帰るでち。」

「あ!そういえば今日は端午の節句のお祝いパーティする日じゃなかったっけ!?」

「「えっ!!」」

「や、やべぇでち。こんなトコでノコノコしてたらてーとくの料理食べ損ねるでち。……オラッ、野郎共急ぐでちよ!」

「そもそもイク達、野郎じゃないのねー。」

「こまけぇこたぁいいんでち!」

 なんだかとっても騒がしい3人組です。でも、このワォワォでちでちのねのね言ってる3人に付いていけば、鎮守府には辿り着けそうです。ほっぽちゃんは付かず離れず、気付かれないようにあとを尾けていきます。やがて、赤い煉瓦造りの建物が見えてきて、潜水艦娘3人も漸く着いたとホッとしています。

「さぁ、資材を倉庫にぶち込んで、とっととご馳走食べに行くでち!」

 3人はほっぽちゃんに気付いた様子もなく、その場をさっさと離れます。ほっぽちゃんも彼女達が使っていた梯子を使って、港に降り立ちました。

「ココガ……チンジュフ…。」

 ほっぽちゃん、勿論鎮守府に来るのなんて初めてです。見える物、聞こえる物、漂う匂い……。全てが物珍しく、全てが初体験です。

「ア、ニモツ、カエサナキャ……。」

 しかし、艦娘に会って直接渡すわけにはいきません。何より、艦娘に遭遇するのが怖いのです。いきなり襲われるんじゃないか、痛い思いをするんじゃないか。小さな心は不安でいっぱいです。

「ソウダ!」

 ほっぽちゃんがポケットをごそごそ漁って取り出したのは、クレヨンと画用紙の切れ端でした。お絵描きが好きなほっぽちゃん、お姉ちゃんである港湾棲姫からクレヨンと画用紙を貰っていたのです。そこに『コレ カエス  ホッポ』と書くと、その場に木箱を置いてそこの下にメモを挟みました。これで誰かが見つけてくれる筈です。

「ヨシ、カエロウ!」

 そうほっぽちゃんが決意した瞬間、お腹がグウゥ……と鳴りました。どうやら、ほっぽちゃんの身体はまだ帰りたくないようです。




「オナカ、スイタ……。」

 帰ろうという発言に抗議するように鳴ったお腹をさするほっぽちゃん。 何か食べ物があって、空腹を満たす事が出来れば元気一杯に帰る事が出来そうなのですが……。と、何やらいい匂い。

「コッチダ!」

 ほっぽちゃん、お腹ペコペコなのも忘れていい匂いの方向に走り出しました。そこには、「烹炊所」と書かれていますが、ほっぽちゃんには読めませんし、意味も解りません。しかしいい匂いはここから漂ってきます。そう、ここは料理を作る為のスペースであり、提督や間宮さん、伊良湖ちゃん、鳳翔さん等が協力して準備したパーティのご馳走が山積みになっています。




「オ、オジャマシマス……。」

 ほっぽちゃん、誰も中に居ない事を確認すると、部屋の中に忍び込みます。その部屋のテーブルの上には、柏餅や粽(ちまき)、ちらし寿司等のお祝い事に供される料理に加え、鯛、鰹、筍、豆、海老、蓮や蓬といった縁起のいい食材を使った料理や唐揚げ、フライドポテト等のオードブル、ケーキといったご馳走の山が所狭しと並んでいました。

 ゴクリ、と生唾を飲み込むほっぽちゃん。泥棒はいけない事ですが空腹には変えられません。

「ダイジョウブ、コレハドロボウジャナクテ『ギンバイ』ダカラ、ダイジョウブ……。」

 どこで覚えたんでしょう、その言葉。というより、誰が教えたんでしょうか。とにかく、ほっぽちゃんは手近に有った柏餅を1つ掴んで、柏の葉っぱごとかじりつきます。本当は柏の葉っぱは食べないんですが、そんな事ほっぽちゃんは知りません。

「オイシイ!」

 思わず叫んでしまって、慌てて口を抑えるほっぽちゃん、うっかり忘れていましたが、ここは敵地のど真ん中です。しかし、美味しい。こんなに甘くてモチモチしていて、美味しい食べ物は初めて食べました。

 深海には元々、食材が多くありません。せいぜいが魚に深海にいる海鼠や蟹、ごく稀に人間から略奪した食料が食卓にのぼる程度で、ほとんど『料理』や『お菓子』という物を食べた事が無いのです。そこに『提督はBarにいる。』の提督さん特製の料理です。ひとたまりもありません。一瞬で罪悪感など消し飛び、色んな食べ物を泥棒……いえ、ギンバイしていきます。

「フゥ……マンゾク!」

 一人で1/10程を食べ尽くしたほっぽちゃん、ふとある事を考えます。

『お姉ちゃん達にも食べさせたい。』

 元々、ル級達が強奪した荷物を返しに来たはずなのに、再び物を奪おうとしています。本末転倒なような気もしますが、そこは思考がお子様のほっぽちゃん、既に頭の中は美味しい料理を食べて喜ぶお姉ちゃん達の顔で一杯です。近くにあった袋に持ち帰り易そうな柏餅と粽を目一杯詰め込むと、それを担いで烹炊所を後にします。しかし幸か不幸か、その姿を目撃されてしまったのです。 
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