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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督と艦娘達の夏休み~縁日デートは危険な香り編・4~

「聞いたで~?随分パンピー相手に無茶したみたいやんか?」

 食事休憩に紛れ込んできた龍驤が、タコヤキを口の中に放り込みながら、そう苦言を呈してきた。

「しかしな、ありゃ向こうが悪いんだぞ?嫌がる村雨に無理やりくっついて……」

「あ~、ちゃうちゃう。そっちやのうて射的屋のおっちゃんの方やで、司令はん」

 そう言いながら俺から拝借したビールを開ける黒潮。なんでも、焼きそばやらフランクフルトを買いに行った時にたこ焼屋台の前で偶然鉢合わせになったらしい。

「いくら筋モンとは言え、現役の軍人が手ェ出しだらアカンよ?司令はん」

「……面目無い」

ぐぅの音もでない。

「黒潮のたこ焼ちょっと変わってるわね?1つちょうだい?」

「エエよ、はいあーん」

 時雨に催促されて、黒潮がたこ焼を口に放り込む。相当に中の生地がトロトロらしく、若干涙目だ。

「あふい、けど、おいひぃお」

「せやろ~、この店ウチのお気に入りやねん」

 黒潮の話によると、街中にあるたこ焼屋が屋台を借りて出店していたらしい。

「ここのたこ焼な、削り粉と鰹だしがたっぷりで生地が美味しいんや。中身は天かすとネギとタコだけ、シンプルやろ?」

「紅生姜は入ってないのか?」

「紅生姜は酸っぱすぎてダシが負けてまうねんて。せやから……これを載せて食べるんや」

たこ焼のパックに添えられていたのは、寿司屋でよく見るガリ……生姜の甘酢漬けだった。なるほど、甘酢漬けならそれほど酸味は強くない。マヨネーズもかけず、ソースと青海苔、花鰹、そしてガリで頂くワケか。中々美味そうだ。

「アカンなぁ、黒潮。たこ焼は日々進化してるんやで~?目新しいのを食べて、開拓せな」

 そう言う龍驤の食べているたこ焼は、通常の物よりも大分赤い。

「随分と赤いな、そのたこ焼」

「これな、『キムタコ』言うらしいわ。生地に微塵切りにしたキムチが入ってんねんて」

 成る程、キムチか。味の調整は難しいだろうが、お好み焼きでも海鮮とキムチを合わせたりするから上手く作れれば美味いだろう。

「なんでそういう要らん事するかなぁ。たこ焼はシンプルイズベストやんか!」

「なんでや!色んなバリエーションがあった方が食べてて楽しいやろ!?」

 同じくたこ焼を愛する者同士でも、意見が違うとこうも割れるらしい。俺としては新しかろうが昔ながらの味だろうが、美味けりゃいいと思うんだが。



~ケバブにも色々あるんだよ~

「ありゃ、提督じゃん。何してんの?」

 背後から声をかけられたので振り返ると、ビールとサンドイッチらしき物を持った加古が立っていた。加古は私服や浴衣ではなく、いつもの制服だ。どう見てもセーラー服の女子高生なので、その姿でビールを飲むのはやめてもらいたい。

「いいじゃんかさぁ、身分証持ってれば艦娘だって証明できるからお酒も煙草も買えるしさぁ」

 よっこいしょ、と言いながら俺の隣に腰掛ける加古。因みに隣に座っていた白露は、グリーンカレーがよっぽど辛かったのか、夕立と共に追加のラムネを買いに行っている。※村雨と時雨は難なく完食

「そりゃあそうだがよ。なんか見てるこっちがな……」

「またまたぁ、中坊の頃から呑兵衛だった人の発言とは思えないよ」

 否定できない所がまた辛い。

「ところで、何を食べてるんだ?」

「あぁこれ?さっき見つけたケバブの屋台で買ったんだ~」

 加古はそう言いながら左手に持ったケバブサンドにワイルドにかぶりつくと、右手に持ったビールを流し込む。

「くぅ~っ、美味い!」

 頬に付いたチリソースを指で拭い、舐め取りながら加古が唸る。

 ケバブってのは中東やインド、モンゴルに近いウイグルの辺りに伝わる、肉や魚を串に刺してローストした料理の総称だ。国ごとに微妙に発音が違うが、大体の調理法は一緒だ。日本ではインド料理のシークカバブがシシカバブーとして親しまれていたが、近年では味付け肉を上から順に串に刺して積み重ね、水平回転させながらロースターで焼くドネル・ケバブが市民権を得ている。

 本場のドネルケバブは削いだ肉を皿に盛り付けても食べるようだが、日本では肉と何種類かの野菜をパン等に挟み、ソースをかけて食べるケバブサンドが一般的だ。ソースもチリソースやサルサソース、ヨーグルトやワカモレ等多種多様で飽きが来ない。そしてそのどれもが酒に合うこと請け合いだ。

「提督、ただいまー」

「ようやく舌がヒリヒリしなくなったっぽい……」

 追加のラムネを飲みながら、白露と夕立が戻ってきた。

「さて、そろそろいくか」

 俺が立ち上がると、怨めしそうな目で加古がこちらを見ている。俺一人なら連れてってもいいが、流石に今日はご遠慮願おう。

「加古、すまんがーー…」

「解ってるよ提督、今日は白露達に構ってあげて」

「悪いな、また今度」

 短く言葉を交わし、歩を進める。加古の肩が小刻みに震えていたのは、気のせいだろうか。




~やめて!屋台のおじさんのライフポイントはもう0よ!~

「あら、提督」

「なんで居るんですか……」

加古達と別れてしばらく、俺達は扶桑と山城の2人に出くわした。2人の立っていたのは紐くじの屋台。紐の先に景品がくくりつけてあり、引いて持ち上がった景品がGET出来る、って寸法だ。ハズレくじが存在しないため、1回500円とお高目だ。

「あ、PS4がある!」

「スゴい!こっちはネックレスとかあるよ!」

 ぐるっと見る限り、高額な景品はどれも本物のようだ。しかしハズレに当たる景品は100円ショップでも買えそうな物ばかり。ハイリスクハイリターン、これは客も飛び付くだろう。

「おぅ、イカサマなんてちゃちな真似はしてねぇだろうな?」

「まさか。なんなら全部いっぺんに引っ張ってみてもいいですよ?ダンナ」

 店員に促され、紐の束を一気に引く。全ての景品が持ち上がったのを見る限り、イカサマは無いようだ。大抵なら、束をまとめている紐が高額景品の紐、なんてのが定番なんだが……。

「扶桑と山城も何か狙ってるのか?」

「えぇ、あの簪が可愛いので欲しいなと……」

「20回もやったのに、全然取れないんです」

「お、おぅ……」

 つまりは1万もスったのか、この屋台で。何とも可哀想な話だ。

「ねぇおじさん、僕がやってもいいかい?」

 そう言い出したのは時雨。その手には自分の財布から出したのであろう5000円札が握られている。

「あぁいいよ、10回やるのかい?」

「うん、どうしても扶桑に簪を取ってあげたいからね」

 ん~……と唸りながら引く紐を選ぶ時雨。何かこれイヤな予感するの俺だけかな。

「よし、これだ!」

 時雨が紐を引くと、扶桑の欲しがっていた簪が持ち上がった。

「おぉ~やるねぇお嬢ちゃん。まだやるかい?」

「もちろんさ」

 そこからは何となく予想していた通り、時雨はネックレスや腕時計などの高額景品を次々と吊り上げ、トドメとばかりに最高額であろうPS4(ソフト付き)まで吊り上げた。店のオヤジも段々と青くなり、終いには放心状態になってしまっていた。……なんか、スマン。




~白露型の宣戦布告!~

その他色々ありながら、縁日会場の一番奥、神社の社殿に辿り着いた。

「折角ここまで来たんだ、ついでに拝んでくか?」

4人とも頷き、自分の財布からお賽銭を入れる。鈴を鳴らし、二礼、二拍。願いを念じて、一礼。

「……で、お前らは何を願ったんだ?」

「「「「秘密~」」」」

 口を揃えてそう言われてしまった。俺は当然、家内安全と皆の健康祈願。……商売繁盛と迷ったのは内緒だ。

「あいたっ!」

 村雨がしゃがみこんだ。見ると、下駄の鼻緒が切れたらしい。

「しゃあねぇなぁ。ホレ、乗れ」

 俺が背中を差し出すと、嬉々として背負われる村雨。それをジト目で睨んでくる時雨と夕立。しょうがないだろうに、事故なんだから。

「えへへー、早速お願い叶っちゃったぁ♪」

「はぁ?鼻緒が切れますように、なんてお願いしたのか?」

「そんな訳無いでしょ、もう!」

 背中を軽くつねられるが、それ以上に当たっているモノの感触が幸せすぎてあまり痛くない。願いの内容は何となく想像が付くが、止めておこう。

「ねぇ提督?」

「……なんだ?」

「私、戦艦や空母が相手でも負けないから」

「僕もだよ」

「夕立も~♪」

 そう言って夕方のようにくっついてくる3人。

「やれやれ、我が妹達ながらその趣味は理解出来ないわ……」

 という白露のボヤきは聞き流しつつ、暗くなった帰り道をゆっくりと帰った。……帰ったその後?何もねぇよ。 
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