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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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贖罪-エクスピエイション-part3/地下に眠る少女

「鍵を開けよ、とな?」
魔法学院の学院長室にて、アニエスからある要求を受けたオスマンは耳を疑うように声を漏らした。
「ええ、この魔法学院には秘密の地下公文書館があると陛下から聞きました。その図書館には、表沙汰にできない…しかし公文書であるがゆえに処分できない資料を大量に保管しているとか。ならば、私が求めていた情報を持つ資料もそこに保管されているはずです」
アニエスは故郷を滅ぼした者たちへの復讐のために生きてきた。黒幕であるリッシュモンは、残念ながら同じく彼に憎しみを持っていたウェザリーにとられてしまったが、実行犯だけはなんとしても自分の手で殺さなければならない。肝心の実行犯の情報は、リッシュモンを突き止める知る機会さえも得られなかったが、この学院に隠されている地下図書館なら、ダングルテール事件の資料と、村を焼いた奴らの名前がわかるかもしれない。
いずれレコンキスタの野望を挫くため、アンリエッタはアルビオンへ出兵を命じることになる。その時は自分も参戦する。そうなれば、この機会は二度と来ないだろう。
「例の図書館への扉は特殊な魔法でロックされていて、通常のコモンマジックでは解除できないと聞いております。学院長、あなたのお力でどうか施錠を解除願いたい。ご覧の通り、許可証もいただいております」
アニエスはアンリエッタからもらった許可証をオスマンに見せた。これを見せつけられると、さすがのオスマンとて女王命令に従わざるを得ない。
…はずだったのだが、オスマンは予想に反して拒否してきた。
「……危険じゃ。あそこは千年以上前に造られ、防犯対策として特別な魔法の仕掛けや罠が施されておる。その詳細はわしにもわかっておらん」
「開けないとおっしゃるのか?」
「君は女王陛下の大切な片腕でもあるのじゃ。いくら陛下が許可したとしても、君の命を考えれば、それを易々と許可はできぬ」
「…ッ。私は騎士だ!死などいちいち恐れていられるか!」
アニエスは反発するが、それでもオスマンは許可を下そうとしなかった。苛立ちを募らせるアニエスを見て、オスマンは彼女に言葉をかけた。
「君の目を見ていると…やはり不安なのじゃよ」
「不安だと?私が死ぬことについて仰っているのか?先ほども申したが私は騎士で…」
だから死は恐れない。そう言おうとしたが、オスマンは遮るように言葉を続けた。
「騎士とかそういう問題ではない。君は騎士である以前に、一人の女性であり、人間じゃ。せっかく親からもらった命を無駄にしてはならぬ」
「女…それに親、だと!?私を侮辱しているのか!?それに貴様に、無残に殺された私の親や友…ダングルテールの皆の何がわかる!?」
女扱いされることは、騎士となった今の自分からすれば侮辱行為に等しいという認識に続き、殺されてしまったダングルテールの皆の事も引き合いに出されたアニエスにとって、オスマンの言い分は屈辱を覚えさせるものだった。
だが、オスマンはアニエスの言い分にまったく怯まなかった。
「確かに分からぬよ。だからこそ…君は一番よく知っておるはずじゃ」
アニエスからの鋭い視線に充てられてなお、優しい眼差しを向けてきた。その視線は、今のアニエスには眩し過ぎた。
そして思い出した。まだ彼女がすべてを失い、復讐心に囚われる以前…無垢な子供だった頃、自分に愛を注いで育ててくれた両親や、一緒に遊んでくれた友達や近所の人たちの顔がよぎる。…オスマンの言うとおりのことを、きっと言うかもしれない。
いや、そうだとしても…すぐのあの炎に包まれた村の記憶が蘇る。そう考えるだけで、たとえ復讐者の道を行く自分を彼らが許さなくても、自分もまた、罪もない彼らを殺した実行犯を許せないという気持ちが湧き上がった。
だがオスマンは、アニエスの主張を許す気配がない。
「……もういい!あなたでは話にならん!」
これ以上は無駄だと気づき、アニエスは学院長室を後にした。
オスマンは去って行ったアニエスを見て、ふぅ…と息を吐いた。
「…もったいないのぉ、まだ若く麗しいというのに」
オスマンのスケベな性格を考えると、どこかふざけた意味にも聞こえるが、この時の彼はいたって真剣に、アニエスが一人の女性としての道を歩こうとしないことを嘆いていた。


「くそ…」
学院長室を出て、アニエスは不満を隠しきれないまま廊下を歩いていた。
腹立たしい。あのような世迷いごとをいう老いぼれを折れさせることができないとは。腰抜けが!アニエスは思わず罵倒したくなった。危険にいちいちビクついて、それでも魔法学院長かと…いや、だからかもしれないとも思えてきた。
不機嫌オーラを放ちながら外に出てくると、広場の様子が見えた。
「とお」「やあ!」
ミシェルとは別に、新たな副官を既存の銃士隊の隊員から抜擢して、彼女に不在の間の訓練を監督してもらっている。生徒たちは初日と変わらず、ぎこちない動きだ。声も小さくて気合が足りていない。星人に誘拐された者が多く、その恐怖を和らげるという意図があるはずなのに、まるで成長していない。未だに魔法が無敵だと筋違いな勘違いでも抱いているのか。…いや、一朝一夕で同行なるわけがないか。
「お前たち、なんだその軟弱な声は!もっと声を出して訓練に精を出しきれ!」
アニエスは部下たちの指導を受けていた生徒たちに向けて怒声を浴びせ、気合を入れ直させた。
「まったく…初日から思っていたが、たかが平民の女ごときが僕らに訓練を施すだと?陛下からシュヴァリエに選ばれたからって調子に乗るなよな」
しかし、男子生徒たちの一人が、銃士隊の隊員たちが平民の女性であることを理由に大口を叩いてきた。当然、その不遜な口のきき方を聞くということは、これまでに発生し続けたトリステインの危機を未だに自覚しきれていないという証拠だった。その生徒は、実は幸運にも怪獣災害や星人の誘拐事件に巻き込まれなかった者だった。彼以外にも同じ類の人と思われる生徒たちも、銃士隊を見て眉を吊り上げている。自分たちより身分の低い者に、元はただの平民だったアニエスに命令されているのが非常に気に食わなかったことも大きな理由だった。
「そうだそうだ!えばるな!下賤の出の分際で!」
「魔法も使えもしない下郎が…」
彼に続いて、まだ被害にあっていなかった生徒たちも彼女に対して傍若無人な文句を垂れはじめる。
「……」
たかが平民、女。オスマンに突かれた屈辱のワードが、まともに戦いも知らない生徒たちからの言葉と重なってアニエスの心を不快に刺激し始めていた。
「なんだよ?図星を突かれて声も出せないのか?はっ、これだから平民は……ぐぁぁ!!?」
返答しないアニエスに、言い負かしてやったといい気になったその男子生徒だが、その直後だった。アニエスはその男子生徒を、前触れなく切れのある背負い投げで芝生の上に投げ倒し、押さえつけてしまった。突然の彼女の行動に生徒たちも銃士隊も驚きを露わにした。
「き、貴様卑怯だぞ!!やるなら正々堂々戦…っが…!!」
芝生の上に押さえつけられた男子生徒はアニエスに文句を言い出す。しかし、アニエスからさらに強く腕をきつく押さえつけられ、言葉を続けられなくなる。アニエスはギロッとその生徒を睨み付け、静かに言い放った。
「戦場では…敵はいかにも卑劣な手を使うかわからない。今が戦場だったら、貴様は殺されていた頃だぞ」
「ひ…」
これまで怪獣災害や星人の侵略が始まる前に、メイジを相手に勝利を飾ってきたアニエスのプレッシャーに、男子生徒は思わず悲鳴を漏らし始める。それと同時にアニエスは男子生徒を離した。
「い、いいのか!?そんなことを言って!僕の父上がお前を…」
解放された生徒は、虚勢を張りながらアニエスに向けて怒鳴るが、そんなことで怯むアニエスではなかった。
「私が女王陛下直々に、貴様らに訓練を施すように命じられたのを忘れたのか?」
その一言で、押し黙らされた生徒たち。銃士隊がこうして自分たちに訓練を与えるのは、
女王のお眼鏡にかかったからっていい気になりやがって…と思うが、それは彼らも同じこと…。貴族の生まれという後ろ盾で己の傲慢さをひけらかしていたのだから。
「いいか、男子生徒諸君。貴君らはじきに女王陛下からの徴兵命令が下されよう。それまでに我らの訓練で基礎を培っておけ!
女子生徒諸君、君たちもだ!場合によっては我々のように、君たちも戦場に立つかもしれぬし、そうでなくても自らの身が危険にさらされることもあろう。そのような有事に備えるためにも訓練に励め!」
それ以降、誰もアニエスたちに文句を言わなくなり、生徒たちは訓練に参加するのだった。
「…む」
ふと、アニエスはある場所に目を向ける。中庭をコルベールが歩いていた。見ると、なぜか鉄の板を数枚ほど宙に浮かせて運んでいる。生徒たちが訓練しているというのに、あの男はずいぶんと自分の趣味にご執心のようだ。ただ、あの機体にはアニエスも見覚えがある。彼女もレコンキスタが怪獣や改造レキシントン号で攻めてきたタルブ村の戦いに参戦していたからだ。ウルトラマンたちが来てくれなかったら危なかった。そんな彼らが現れる直前に、サイトがあの機体を操縦してレコンキスタや怪獣軍団を足止めしていたとか。
…まぁ、コルベールのことだ。あれを戦争の兵器として使われるのをよしとせず、研究のためなどに使うつもりだろう。アニエスは放っておくことにした。

(あ~あ。かったるいわねぇ)
一方で、棒を片手にキュルケは心の中でそのように呟いていた。訓練も面白くないものだな。いっそサボってしまおうかとも考え始めていた。
横ではタバサが何もせずに突っ立っている。キュルケは、サイトが現れてからこれまで自分の身に降りかかった大事件を潜り抜けてきた。先日付き合ったタバサの任務においても同様で、どんな危険にも生き延びる自信が彼女にあった。それに引き替え、あのコルベールは訓練にも参加していないとは。タルブ村での出来事までは、少なくともあんな臆病な男だとは思っていなかったのに…。アニエス同様、広場を通りがかるだけのコルベールに嫌悪した。


ホーク3号の修理は、さすがに専用の設備がない上に、シュウも手を付けたことのない機械を相手にしたので、短期間で完了することは不可能だった。
しかしそれでも、シュウは修理作業中ストレスを紛らわすことがある程度ながらもできていた。コルベールの強引な戒めが皮肉にも効果を表していたのだ。
夕日が沈み始めた時間帯となった頃。
「クロサキ君、今日はもう遅い。この辺りで打ち止めにしてはどうだね?」
「…そうですね」
確かに暗くなった。広場で銃士隊の訓練を受けていた生徒たちもすでに寮に戻っている。
機械の修理は1mmほどの細部まで確かめなければならない。明るい環境が整っていない以上、その日は一度打ち止めにすることにした。
顔が少しオイルで汚れているので、適当にタオルで拭って上着を着直した。
コルベールから研究室で寝泊まりしても構わないと言われた。その間コルベール自身は教員用に用意された宿直室にて泊まるようになった。
先に戻っていくコルベールを見ると、すぐに装備品を返してくれと言いたくなるが、あの様子だと梃子でも折れる様子がない。
(…やはりどこかで隙を突くべきか)
アスカやティファニアたちと逸れてしまい、ここにきて数日以上は経過している。皆は無事だろうか。コルベールの強引な気遣いで装備品を取り上げられて以来確かめることもできず、それだけが気がかりだ。あの男なりに自分に対して気を使おうとしているのかもしれないが、自分としてこれ以上ここにゆったりしている場合じゃないのだ。
寝泊まりに使う彼の研究室へ向かう最中、ふとシュウは思い出した。思い起こせば、アルビオンのロサイスから、この魔法学院…距離としてはあまりに遠すぎる場所だ。なのに、なぜ俺はこんなところに飛ばされてきたのだろうか。
…行ってみるか。シュウは一度、コルベールに見つけてもらったというあの地下室へと向かってみることにした。


地下室には、コルベールが訪れた時と同じように、酷く散らかっていて埃被っていた。しかし夕暮れが近づいているせいで、やはり暗くなっている。
やはり中はほとんど明かりがともされておらず、真っ暗だった。こんな暗闇ばかりに満ちた場所へ、どうしてアルビオンから飛ばされたのだろう。
それでも、さらなる奥地へシュウは足を踏み入れてみた。夜道は慣れている。まったく見えていない、というわけでもなかった。
シュウは明かりのついていない闇の中を進みながら、地下室の最深部につく。一通り回ってみたが、無造作にものが置いてあるだけで特にこれといって何もない。もしかしたら、自分がどうしてアルビオンから遠く離れたこと場所に飛ばされたのか、その理由がわかるかもしれない。何かしらの原因がここにあると思っていたのだが…。
「…ん?」
ふと、シュウはあるものに目が留まった。
鉄…いや、灰色の箱だろうか。それが蓋を半開きにした状態で置いてあった。気味が悪く感じた。人がちょうど一人分入りそうな大きさで、奇妙な模様も刻み込まれている。まるで棺桶だ。
おぼろげな興味を抱き、彼は蓋が飛来は箱の中を覗こうとした時だった。
「何者だッ!姿を見せろ」
シュウの足音が聞こえたのか、その声の主は彼に向けて怒鳴り声を飛ばしてきた。もしや、侵入者?それとも、単にここを見回りしている学院勤務の誰かだろうか。
入口方面の暗闇の中、ランプで照らされた女性の姿が見えた。
「あんたは…確か、女王の…」
「お前は…あの時の…?」
地下室にやって来たのはアニエスだった。
二人はラグドリアン湖でアンリエッタを奪還した際に顔を合わせて以来だ。それにちょくちょくアニエスは、魔法学院に留まるようになったシュウの姿を見かけている。
「そうか。そういえば、お前はしばらくコルベールの世話になっていたみたいだな。
しかし、どうしてお前がここに…いや、そもそもなぜ魔法学院にいる?サイトの話だと、長らく連絡が着かなかったと聞いているが」
思えば、今の自分の立ち位置は女王の側近でもある彼女からすれば非常に怪しいことにシュウは気づいた。
補足を入れると、アニエスはまだシュウがウルトラマンであることを知らない。彼がありえったが操られたウェールズに誘拐された際に彼が変身したとき、メンヌヴィルが差し向けてきたビーストヒューマンに足止めを食らって変身した時の、さらには変身を解除した時の光景を見ていなかったためだ。
彼女は警戒心が強く、少しでも怪しい真似をしたらきっと目を光らせる。あまり怪しまれるのも考え物と思い、シュウは思いついたことを明かした。
「そのことを含めて、今後のことについて、平賀たちと話をしようと思っていた。だが平賀たちはいないみたいだな」
「ああ、彼らなら今、女王陛下の任務を承って、ラ・ロシェールの方に向かっているはずだ。戻るにはしばし時間がかかるだろう」
「そうか…」
ラ・ロシェールならシュウも忘れないまま記憶に残している。ゼロがラフレイアを炎の蹴りで倒したために壊滅的被害を受けた街だ。ここからその町までは時間がかかりすぎる。エボルトラスターもブラストショットもない以上、サイトたちの救援はできそうにない。
「平賀がないとわかったそのあと、本来ならすぐにここを出るはずだった。大事なものをあの男に没収されて、出るに出られない」
「大事なもの?」
「装備品だ。俺が戦うための」
コルベールが、彼の装備品を取り上げた。アニエスはそれを聞いて目を細めた。そのような物取りのような行為をあの男がしたというのか?
「お前が何か問題でも起こしたのか?」
「違う。すぐになさなければならないことがある。そのためにもあの装備が必要なんだ。だが、彼はそれを返してくれようとしない。
どうも俺が無理をしているように見えたらしくて、無理やり取り上げたそうだ」
「……」
コルベールめ、そのようないらぬおせっかいを彼に押し付けているのか。コルベールに対して、さらに不快な感情を抱いた。一方でシュウを見て、彼に対して奇妙な親近感を覚えた。よくわからないが、彼からも自分と同じ何かを感じ取れた。
「そういうあなたは、ここで何をしようとしていたんだ?」
そう思っていると、アニエスからシュウから問いかけられた。
「…地下の秘密公文書館の入口を探している。本当は、既に明かされている入口があったのだが…」
アニエスはそこから、地下公文書館への入口が特殊な魔法で施錠されている事、それを解除してもらおうとしたが、オスマンから彼女の身の安全を理由に下されなかったこと、だからこうして別の入口を見つけようと、地下室を訪れていたという。
最も、確実にそういったものはないと考えるべきだろう。だが、魔法学院というものは意外と秘密が多く、どうしてもそう言った可能性を模索したくなるところがあった。
「藁にもすがる思い…だな」
「…全くだ。自分でも呆れるが、藁にも縋る思いが過ぎたな」
シュウからの一言に、アニエスも自嘲気味に呟く。ふと、彼女は彼の傍らに、先ほどシュウが見つけ出した棺桶のような箱を見つける。
「ところで、その箱はなんだ?」
「俺も今見つけたばかりなんだ。なんなのかはまだわからない」
隣に並んで、箱を覗き込んできたアニエスにシュウはそう答えた。
「まるで棺だな」
彼女も同じことを考えていたらしい。だがすぐに棺のような箱から視線をシュウの方に戻してくる。
「物置に放置されていたとはいえ、あまり覗くものじゃない。ここはもう暗いし、地上に上がっておけ」
「…ああ」
彼女の言うとおりだ。これ以上ここに留まる理由はないし、これ以上、この場所に転移された原因を突き止めるには今の時間は暗すぎる。言われた通りシュウはアニエスと共に、一度地上に出ようとする。
が、ここでまたしてもちょっとしたことに出くわした。
「お前たちは…」
アニエスは地下室の出口にて二人の人物が待ち構えていたのを見て、はぁ…と深いため息を漏らした。シュウは一体どうしたのかと気になり、アニエスの向こう側に立っている二人の人物を見て…アニエスと同じように目を細めた。
「…なぜお前たちがここにいる?」
「はぁい」
そこにいたのは、どういうわけかキュルケとタバサの二人だった。調子よく、手を振って軽く挨拶をしてくるキュルケが妙に腹立つように感じたシュウ。大方面白半分で付けてきたのだ。
「たまたま窓の外を見ていたら素敵な殿方がかの銃士隊の隊長殿と一緒に行くのを見つけて着いて来てみたら…まさかあなたがいるなんてね」
「……」
タバサは何も言わない。おそらくキュルケに付き添ってきただけだ。特に深い意味もなく、ただの気紛れなのだろう。
「で、そういうあなたも何をしていたの?もしかして逢引?」
「「それはない」」
キュルケはどうやら、夜に差し掛かる時間に誰も近よらない暗い空間に若い男女二人という状況を、そのように察したらしい。だがシュウとアニエスは見事に声をハモらせながら、面白半分で尋ねてきたキュルケの質問を否定した。
「そうね。あなたには可愛らしい女の子がご主人様だものね」
茶化すようにキュルケは言う。シュウはその人物が誰の事なのかすぐに察したが、彼女から視線を背けて何も言い返さなかった。
「でも違うなら、どうしてかしら?あなたこそアルビオンにいるはずじゃない」
「何?お前アルビオンにいたのか?」
聞いていないぞと言うようにアニエスは、キュルケの言った言葉を聞いてシュウを見やる。
「逃げてきただけだ。あそこは何かと物騒だからな」
シュウは全てを話さずに簡潔にそう告げる。別に嘘はついていないので構わないだろう。
「まさか、ティファニアたちを置いて?」
「道中で怪我したのを機に逸れただけだ。俺とて安否を確認したいが、あいにくコルベールという教師が俺の武器を強引に取り上げてな」
「ミスタ・コルベールが?」
「あれらがないと、己の身を守ることが難しい。ここから出るに出られないんだ」
なぜ彼がそんなことを?キュルケもそうだが、タバサも奇妙に感じ取った。
しかしこのタイミングで、棺のような箱の蓋がズルっと落ち、中身が露わとなってしまった。突然箱の蓋が落ちた音を聞いて、シュウたちは視線を再び箱の方を振り向いた。
蓋が床に落ちたことで、中身が見える。
「なに?あの箱。ちょっと見てみましょうか」
「お、おいこら!」
真っ先に身を乗り出してきたキュルケがシュウとアニエスを除けて地下室に入り込んできてしまう。放っておくわけにいかず、シュウたち三人もついていく。
「な、なにこれ…!?」
キュルケは、あの箱の中を覗き込むと、思わず驚いて後退り出した。後に続いてきた三人も、彼女が何を見たのか確かめるべく箱の中を覗き込んだ。
「な、これは…!?」
中身を見た彼らは驚愕する。



「女の子…?」



箱の中にいたのは…なんと女の子だった。それもまだ、10歳に差し掛かるかそうでないかの幼い、長い青髪の少女。生まれたままの姿で、まるで古代遺跡の棺に眠る王のような姿勢で眠っていたのだ。
全員が困惑した。なぜこんなところにこんな小さな少女が?
「誰かが死体遺棄でもしたのか?」
「まさか…」
シュウが物騒な憶測を立てると、アニエスがあまりその可能性を肯定しきれないと言った。
学院の誰かが殺人を犯すようなことがあっては魔法学院でもフォローできない非常事態だ。それに隠す場所にしても、もっと巧妙に隠せる場所があるはずである。さらにいえば、この少女は…死体にしては生気を感じる。
「ふぁ…」
驚いたことに、その少女から吐息が漏れてきた。まさか、生きていたのか?アニエスは思わず剣を構える。シュウも突然目覚めた少女に警戒心を抱く。
「……」
一方、タバサは箱の中に人がいるという事態に一瞬固まっていた。自然と杖を握る手に、普段よりも力が入っている。…実をいうと彼女、何事にも平気そうに見えるが、実は怪談物が大の苦手だったのである。これは親友であるキュルケもまだ知らない。
すると、少女の目がパチッと開かれた。
「……う~?」
彼女は体を起こすと、ボーっとしている眼で自分を覗き込むアニエスとシュウの二人の姿を確認する。
「………君は、誰だ?」
とりあえず、何者かをシュウは少女に尋ねてみる。
「おい、返事をして大丈夫なのか?」
「わからないが、他に手段がない」
言うとおり。ただ、彼女が本当に危険な存在なのかはまだわからない。二人はまだ警戒を解かなかった。しかしひとつ気が付いたことがあった。
「って、やだ!この子裸じゃない!」
キュルケが思わず声を上げた。この少女は生まれたままの姿で、服は一切着ていなかった。それを聞いて、シュウはすぐに自分の上着をとって少女に差し出した。
「着ておけ。そのままじゃ寒いだろ?」
少女は差し出された彼の上着を羽織った。身一つ来ていないせいか、少女はその薄い上着でも温かく感じたのか、ほっこりしたような表情を浮かべて彼の上着に身をくるんだ。着心地が良かったらしい。

ひとまず二人は、この少女をどこか別の場所へ連れて話を聞くことにした。


「地下にこのような少女が眠っていたというのかね?」
すぐに頼ることができたコルベールに事情を説明し、それをシュウから聞いたコルベールは驚いた。しかしまさか、学院の地下にこんな幼い少女が眠っていたなんて。考えてみれば事件だ。
ちなみに地下で見つけた少女だが、今はシュウが貸してあげた上着ではなく、タバサが用意してくれた服に着替えさせた。
「コルベール、学院の教師であるお前なら何か知っているのではないのか?」
アニエスがコルベールに知っていることを話すように求めるが、コルベールは首を横に振る。
「残念だが私は何も知らないんだ」
コルベールも知らなかったらしい。まあ、こいつの情報など宛にならないとアニエスは断じた。
「私それなりに平民の顔は覚えてますが、この子の顔は見たことがありませんわ」
キュルケは平民にも自分の情熱を燃やせるような男がいないか探ることがあり、学院勤務の平民の顔は結構知っている方だ。それでもあの少女の顔は知らない。
「まず、この子の話を聞く」
タバサが、まずはこの少女から話を聞き出すことを勧める。確かに、この場の誰もがわからないなら、直接彼女から話を聞くしかない。
「ねえ、あなたお名前は?」
キュルケが少女に尋ねる。
「リシュ」
少女は無垢な表情のまま名乗った。
リシュ、その名前を聞いて、一同は唸る。聞き覚えがまるでなく、やはり誰もが知らないようだ。リシュ、か…と呟きながら、シュウは少女の名前を認識すると、彼女に質問を投げかけてみる。
「早速だがリシュ。俺たちの質問に答えてもらう。どうしてあの場所で眠っていた?」
「ちょっと、そんな言い方じゃこの子が怖がってしまうわ」
どこか訊問しようとしているような口調のシュウに、キュルケが指摘を入れてきた。しかし、少女は彼に物怖じすることなくシュウたちにこう答えた。
「…わかんない。リシュ、気付いたらあそこで寝ていたの」
「あの箱の中に入れられた記憶もないのか?お前を箱に入れ込んだ奴の顔も?」
「うん、わかんない」
「親や兄弟はどうした?」
「…わかんない。リシュ、名前以外何もわからない」
「名前以外がわからない?」
分からないと一点張りのリシュに、キュルケは耳を疑う。
「…記憶喪失?」
タバサが一つの憶測を立てる。確かに彼女の予想の通りリシュが記憶を失っているのが本当なら、わからないとしか答えようがないだろう。しかし一方で、アニエスは強い疑念を抱き始め、疑惑眼差しをリシュに向けた。
「いや、嘘をついているのではないのか?お前のような幼い子供が、何の事情もなしに、魔法学院の地下で眠っていたなどありえんだろう」
「…そんなこと言われても、わかんないもん」
アニエスの気迫にリシュは怖気づき、シュウの影に隠れる。彼女が白であろうと黒であろうと、何があってもわからないとしか答えられないようだ。
「…コルベール、こいつはオスマン学院長に報告すべきだ」
「むぅ、そうだな。リシュ君のような小さな子供が学院の地下で眠っていたなど、ただ事ではないぞ」
「ッ…!」
少しばかり痺れを切らしたアニエスからの提案に、コルベールも同じ考えを抱き、彼女の案に賛成する。しかしその途端、リシュがシュウの服をぎゅっとつかんで身を強張らせた。
「…おい、そんなに服をつかむな」
「やだ…リシュをどこかに連れて行くの?いじめるの?」
その姿はひどく怯えきっていた。がたがたと身を震えさせている。演技というにはあまりに迫真すぎていて、彼女が嘘をついているとは思えなかった。
「別に、いじめようとしているわけじゃなくてだな…」
「リシュ、怖いよ……お願いだから…」
シュウが説明を入れてリシュを泣き止ませようとしたが、どうも伝わっていないのか、リシュは恐怖で目を潤ませながら懇願する。その時のシュウは彼女の脳裏に、戦いに赴こうとした自分を、泣きそうな顔で必死に引き留めようとした果てに…

――――足手まといなんだよ!

その一言で拒絶してしまった時の、ティファニアの悲しみに満ちた顔が蘇る。
「……………」
おそらく、テファと直接会ったら自分は彼女から逆に冷たい言葉を返されるかもしれない。もしかしたら、もう自分の近くに現れるな!といってくるかもしれない。でも…それでもいいだろう。
自分はどうせ、優しくされていいような人間ではない。
…そのように自分を認識しているのに、今更ながら罪悪感がわいてしまった。しかもリシュは、偶然にも声が少しテファと似ている。目を閉ざし、耳を澄ませたら、幼い子供になった彼女自身のようにも聞こえた。
「ねぇ、隊長さん。この子のこと、今はそっとしておいてあげるべきじゃなくて?急を要したら、かえってこの子が怖がっちゃうわ」
「何を言っているんだ。まだこの娘が何者かが…」
「ふむ、ミス・ツェルプストーの言うとおりだな…アニエス君。今日のところは皆、休むとしよう。オールド・オスマンもすでにお休みのはずだ」
「…仕方あるまい」
報告する相手であるオスマンが休んでいるというのなら、確かに何も言うことができない。コルベールに同意されているというのが気に食わないが、アニエスは今日のところはリシュのことを無理に報告しないことにした。
ふと、タバサがシュウに向けて尋ねてくる。
「…今日は、どうするの?」
「?どう、とは?」
「この子の事」
口数が少ないからすぐに察することができなかったが、リシュのことを見て、シュウはあることに気づく。今日はこの少女をどこに泊めるか、だ。
ふと、もう一つ気が付いたことがある。
「…さっきからなぜ俺から離れない?」
リシュはなぜかシュウの服をつかんだまま離れようとしていなかった。
「…だめ?」
どうもアニエスのことを警戒しているのか、彼女から隠れるようにぴったりとシュウの足にくっついていた。
「あらあら、なつかれちゃったみたいね。確か、あなたってアルビオンに似た頃、何人かの子供たちに囲まれていたじゃない」
「…だからって、なんだ。その妙に熱を帯びた目は」
キュルケが、一度アルビオンのウエストウッド村を、偶然が重なってルイズらと共に来訪したときのことを思い出し、リシュになつかれているように見受けられるシュウを見て、妙に生暖かい目で見てきた。
「ミス、もしや彼とはアルビオンで一度会ったことがあるのかね?」
「ええ。そうですけど…別にミスタには関係ないことですよね?」
コルベールがキュルケの話の内容に興味を抱いたが、キュルケは連日の彼の態度を見て、臆病者と認識しているコルベールを軽蔑の眼差しで見返してくる。その視線にコルベールは息を詰まらせたが、すぐに今の状態の方に意識を戻した。
「…クロサキ君は子供の扱いに慣れていたのか。それなら、リシュ君のことはひとまず君に任せるのがいいかもしれないな」
「おい、ちょっと待ってくれ。俺はまだ…」
リシュを自分の手元に置くとは言っていないのに、それが前提で話が進んでいく。シュウがそのことに抗議しようとする。
「シュウ、あなた別に危ない趣味を持っているわけじゃないんでしょ?それなら別にあなたが面倒見ても問題ないじゃない?」
「ぐ………」
キュルケから言われてみて、シュウは何も言えなくなった。確かに幼女に欲情するほど落ちぶれた覚えはない。シュウはどうも自分が子供が苦手だという認識があった。
「…リシュ、邪魔?」
とはいえ、だからといってリシュをこのまま放っておくこともできないのも事実だ。放置したらかえっていらない罪を重ねてしまう。
「…はぁ、わかった。俺が見ておく」
仕方ないので、シュウはリシュをひとまず自分の傍に保護していくことを受け入れた。
「決まりね」
キュルケが笑うと、同時にリシュがシュウに飛びついてきた。
「わあい!!ありがと、お兄ちゃん!」
「な、おい…!くっつくな…!」
さっきまでとはまるで正反対のテンション。無口な子かと思ったらそうでもなく、意外に人懐っこい性格だったようだ。すっかりシュウになついたリシュを見て、周囲は少し和やかな空気が流れた。
だが、アニエスやコルベールは、学院の地下でどういうわけか眠っていたこの少女に対して、やはり何かがおかしいのではという疑心を抱いていた。



しかし、リシュの事よりも…彼らが対応しなければならない事態が起きることとなる。



その日の真夜中…魔法学院にて、再三にわたる邪悪が迫っていた。


「ここか、ウルトラマンゼロが主な根拠地としているとかいう学院とやらは」
魔法学院を遠くから眺めている一人の男がいた。
弱いガキどもをいじめたところで大した刺激にはならないだろうが、逆にそれで、これまで自分が獲物として狙っていたウルトラマンネクサスに匹敵する戦士、ウルトラマンゼロをおびき出せる。そう考えると、また新たな楽しみが待っていることに気持ちが喜びで昂る。
「奴を焼き殺して出来た死体の匂い…くくく…どれほど甘美なものなのだろうなぁ…」

闇の力を持つ邪悪な男、メンヌヴィルの月夜に照らされた姿は、彼の強い狂気に満ちた喜びを強く表していた。
 
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