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提督はBarにいる。

作者:ごません
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心ばかりの豆腐尽くし

 
前書き
 ここからは金剛視点ではなく、いつも通りの提督の視点となります。 

 

 午前中の執務の引き継ぎを終えた所で、待たせていた金剛とアイオワが前に進み出て来る。

「改めて、ウチに着任おめでとうアイオワ。俺がここの提督だ。朝に会った時には寝る寸前だったんでな、少しだらしなく見えたかも知れんが、宜しくな」

「え、えぇ。宜しくお願いシマス……」

 なんだかぎこちねぇな。俺が何か粗相をしただろうか?隣に立ってる金剛は苦笑いしてやがるし。

「どうした?着任早々何かトラブルか?」

「あ~…そうじゃなくてデスね、アイオワが提督の事を勘違いしてたんデス」

「勘違い?」

 聞けば、俺が夜にBarを切り盛りしているのを知らず、午前中は寝ているとだけ聞いて職務怠慢のとんでもない提督だと憤慨して、それが理由を聞いて誤解が解けた途端に気恥ずかしくなってしまったらしい。

「なんだよ、そんな事か。」

 そもそもウチの業務形態が特殊過ぎるんだ、事情を知らなけりゃそんな勘違いも起こるってもんさ。

「気にすんな、そんなのは日常茶飯事だからよ。……寧ろ、新任で驚かなかった奴の方が少ない」

「デ、デモ……」

「司令官の俺がいい、って言ってんだ。この話はこれで終了。まぁ、堅苦しい話は大淀にでも聞いてくれ」

 そう言って無理矢理に話を切る。そうでもしないと延々とこの話で終わりそうだったからな。そして、ここからが俺の本題。

「……それでな、アイオワ。ウチの恒例行事なんだが、新任の艦娘は着任した夜に俺の店でもてなす事になってるんだ。そこで、何か食べたい物はあるか?」

「ディナーのリクエスト、という訳ね。それなら私トウフ料理が沢山食べたいわ!」

「豆腐?豆腐って白くて大豆から出来る、あの豆腐か?」

「? それ以外に何があるの?」

「あ~、実はアイオワは納豆も食べられる位の和食好きなんですヨ」

「あ、そうなのか?……解った、今晩は美味い豆腐を沢山食わせてやるからな」

「フフ、楽しみにしてるわね!」

 そう言って微笑むと、スキップでもしそうな様子で執務室を出ていくアイオワ。こりゃ、馴染みの豆腐屋に追加注文しとかねぇとな。

「やっぱデカくするにはタンパク質摂らんといかんのか……そうやないとあの牛乳の説明が…」

 などとぶつぶつ呟いている龍驤を尻目に、俺は今宵の献立を考えながら午後の執務に取り掛かった。




 さて、考え事をしていると時間の経つのは早いもので既に店の開店時間だ。頼んでおいた豆腐は既に納品されており、準備は万端だ。後はゲストを待つばかりなのだが、何を手間取っているのか中々現れない。ちょっとイライラし始めたそんな頃、控え目なノックの音が。

「開いてるぞ~、入ってこい」

「し、失礼シマス……」

「darling、今晩は私も付き合うネ!」

 昼間会った時よりもバッチリメイクのアイオワと、何故か付いてきた部屋着姿の金剛のお出ましだ。

「なぁ~んでお前も居るんだ……よっ!」

 ツッコミ替わりにチョップをかまそうとしたが、真剣白刃取りの要領で受け止められてしまった。

「私だってたまにはdarlingの手料理食べたいヨ~!」

 どう見ても大きな駄々っ子です、本当に(ry)な状況になってしまえば、もう梃子でも動かない。

「……ハァ、わかったわかった。とっとと座れ二人とも」

 こういう時、諦めというのは本当に肝心だ。金剛もカウンターの席に座らせ、フルートグラスを3つ用意する。着任祝いだしな、乾杯くらいは豪勢にいこう。

「Oh、ドンペリとは奮発したネ~darling」

「やかましい、いらん事言うと飲ませねぇぞ?」

 そう言って脅してやると金剛は、両手で口を隠すように覆った。ドンペリなんてウチは殆ど仕入れないからな。この機会を逃せば次はいつ飲める事やら。

 ドンペリ……ドン・ペリニヨンが正式名称だが、シャンパンを世に産み出したフランスのシャンパーニュ地方の修道士の名前がそのまま酒の名前になっている。日本でシャンパンというとドンペリ、というイメージが強いのは、バブル経済の時期に成金趣味の人々がこぞって飲んだ事からその名が広まったとされている。

「実はジェームズ・ボンドの大好物なんだよネ!」

 自慢げに雑学を語る金剛。まぁ、『007』シリーズの主人公がシャンパン好きなのは公式の設定だ。まぁ、1987年以降のシリーズではドンペリを作っているライバル会社がスポンサーに付いたから、ドンペリは出てこなくなってしまったが。

「んな事ぁどうでもいいんだよ、さぁ飲もうぜ」

 コルク栓に力を掛けると、瓶の中に充満していた炭酸ガスの影響でシュポン!と勢いよく飛んでいく。変な所には飛んで行かなかったからまぁよしとするか。トクトクトク……とフルートグラスに注いでいくと、シュワシュワとキメ細やかな泡が発泡しているのがよくわかる。透き通った黄金色の液体の中で、その泡がよく映える。

「綺麗……」

 アイオワは初めて見たのか、目を輝かせている。いつまでも眺めていてもしょうがない……酒は眺めるモンじゃなくて飲む物だからな。

「さ、乾杯しよう」

 俺の音頭で2人もグラスを持った。

「アイオワ、着任おめでとう。これから宜しくな……乾杯」

 グラスをぶつける事なく、軽く目線より持ち上げる。薄く見た目を重視して作られているグラスは、これでいい。そのまま口へ迎え入れると、葡萄の甘味と酸味がしっかりと伝わってくる。そこに炭酸の刺激とが相俟って、飲み込むと口の中に清涼感というか、爽快感のような物が残る。

「うん、甘くて美味しい♪」

「口当たりがとってもソフトだから、飲みやすいネー!」

 そう、その飲みやすさがウチの店でドンペリを扱わない最大の理由だ。




 昔、1度だけドンペリを大量に仕入れた事があった。とあるお祝い事の為だったのだが、飲兵衛共に見つかってしまいその日は大試飲会になってしまった。甘くて飲みやすいドンペリは、飲兵衛達からすればそれこそジュースと何ら変わりなく、終いにはラッパ飲みまで始まる始末。結局仕入れたドンペリを全て飲み干されて呆然としている俺に、

「甘過ぎて飲んだ気がしない。焼酎やウイスキーの方がいい」

 という身も蓋もない言葉がトドメを刺し、以来ウチの店ではドンペリを仕入れなくなった。飲兵衛共にゃ高い酒は勿体無い。

「さて、リクエストは豆腐料理だったな。まずはシンプルに冷奴だ」

 そう言って俺は金剛とアイオワの前に水気を切った豆腐を一丁、そのまま皿に載せて出してやる。ネギや生姜すら載っていない、まさに豆腐のみである。

「ちょっとdarling、これは手抜きじゃないんデスか!?」

 まぁまぁ落ち着け金剛。薬味は今から出てくるんだよ。

「上に載せる薬味やタレは、こっから好きなのを選んでかけて食べな。少しずつ色んな物をかけるもよし、1種類だけを沢山かけるもよし」

 俺が用意した薬味は10種類、タレは5種類。

《タレ》

・塩レモンだれ

・ごま油ポン酢

・中華風万能ニラだれ

・大葉にんにく醤油

・韓国風ネギだれ「ヤンニョンジャン」

《薬味》

・じゃこニラトマト

・しょうゆ卵

・しらすわさび

・めかぶ納豆

・アボカドキムチ

・ミョウガキムチ

・塩麹トマト

・らっきょうそぼろ

・ネギラーメンマ

・食べラーザーサイ



……の変わり種15種類。勿論シンプルに醤油やポン酢、刻みネギやおろし生姜も支度してある。豆腐はその淡白な味ゆえに和洋中、どんな味にでも合わせやすいのが特徴だ。

「このドレッシング、スパイシーで美味しい!」

「このレモンのタレも爽やかで美味しいネ!」

 2人も思い思いの組み合わせを楽しんでいるようだ。詳しい作り方は次回にでも。 
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