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提督はBarにいる。

作者:ごません
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6月第3日曜日・1

 その日、他の鎮守府へと会議に向かった提督を見送った後、今日の予定をどうしようかと決めあぐねていた。必要最低限の遠征班と民間からの護衛任務以外は出撃は無し……実質の休日である。しかしその休日を共に謳歌したい夫はたった今見送ったばかり。さてどうしたものか、と鎮守府内の廊下を進んでいると、食堂の中からざわざわと話し声が聞こえる。

『はて、朝食の時間はとうに終わっているはずだけど……?』

 そのざわめきに引き寄せられるように、金剛はその扉を開けた。

「ヘーイ、何してるデスかー?」

 扉を開けるとそこには、20人近くの艦娘が揃っていた。戦艦・空母・軽空母・重巡・軽巡に駆逐艦、潜水艦。駆逐艦や軽巡などは、各級からの代表なのだろうか、姉妹艦の中から1隻ずつが参加している。その顔には皆一様に、『焦り』のような物が浮かんでいる。

『何か怪しい……』

 そう踏んだ金剛は、怪しまれないように努めてにこやかに近寄っていく。

「みんなで集まって何の相談デース?」

「いや、特に、何という事はなくてだな……」

 隙間に身体を捩じ込むように、無理矢理長門の隣に座った。良くも悪くも実直なこのゴリ……いや、長門ならばその“企み”を聞き出しやすいだろうとの判断からの行動だった。




「冷たいデスねー、私も混ぜてくれてもイイんじゃないですカ~……?」

 そう言いながら左手で頬杖をつき、右手の人差し指で長門の露出した脇腹をなぞる。鉄壁に見えるその筋肉の鎧は、存外くすぐりに弱い事を長年の付き合いで知っているからこその責めだ。

「ふひっ……だ、ダメだダメだ!お前を加えるとサプライズの成功確率が……あ」

 ちょろいなぁ、と思いつつもその思いは顔には出さない。その場に揃っていた他の面子は、『やっちまった』と皆ガックリと項垂れている。どうやら何かしらのサプライズの計画だったらしい。金剛を加えるとバレる確率が上がる……という事は、まず間違いなく提督へのサプライズなのだろう。

「さぁ、もう少し詳しく話してもらいマース……」

 両手をわきわきと動かし、長門をくすぐって吐かせようとした瞬間、

「そこまでです、お姉様」

「比叡……榛名に、霧島まで…」

 金剛を制止したのは、愛すべき3人の妹達だった。

「要するに、私一人が除け者だったワケですネー?」

 少しぶすっとした顔で、妹達をねめつける。妹達も少しばつが悪そうに、僅かに視線を泳がせている。

「彼女たちは私が相談に乗って貰っていたんですよ。この計画の立案者は別の娘達です」

 だからあまり責めないであげてくださいね?そう言って進み出て来たのは、間宮だった。

「ンー?間宮さんも噛んでるなんて、随分とビッグプロジェクトデスねー」

 艦娘が企画した催し事でも、間宮と伊良湖はあまり絡んでくる事はない。あくまでも裏方に徹していて、その辺りは提督が気に病んでいる所でもあった。

「私が最初に相談を受けたので、そういう事になっちゃいました」

 そう言って舌をペロリと覗かせる間宮。間宮に相談を持ちかけたという事は、料理やお菓子絡みの事か。サプライズパーティか何かだろうか?と金剛は当たりを付けた。

「わ、私達が間宮さんに相談したの!」

 そう言って進み出て来たのは、

「睦月ちゃん……」

 そう、普段はその低燃費を活かして遠征や護衛任務に大活躍している睦月型の面々だった。今日もその半数以上は遠征に出ており、この場にいたのは睦月、如月、三日月の3名だった。

「でもなんでまたこんな時期にサプライズのパーティを?」

「え、えっと……その…」

 睦月は恥ずかしいのか、口を開こうとしない。

「も、もうすぐ『父の日』ですよね!?な、なので私達のお父さんのような司令官に日頃の感謝を伝えたくて!その……」

 あぁそういえば、と三日月に言われて金剛は思い至る。6月の第3日曜日……つまり次の日曜日は父の日だったか。昔、冗談半分で贈り物をしたら、『俺はそんな歳でもねぇし、第一お前は俺の娘じゃねぇだろ!』と怒られた事があった。……まぁ、その時に贈った腕時計は未だに使ってくれているようだが。

「それで、私がパーティをしたいと相談を受けて」

 と間宮が言い、

「睦月型だけズルい!と他の駆逐艦達が混ざって」

 と吹雪が続けた。

「そこに面白い匂いを嗅ぎ付けた青葉が来て、全員に知れ渡っちゃったんです」

 比叡がそう言うと、皆が頷いた。あのパパラッチめ、と金剛は少し思ったが、確かに金剛にもバラしてしまえばサプライズの成功確率はガクンと落ちるだろう。何せ夫婦だ、仕事の時以外は顔を合わせている時間が他の艦娘に比べて圧倒的に多い。青葉もその辺は空気を読んで、金剛には明かさなかったのだろう。




「それなら、提督のバースデーでイイんじゃないですか?」

「た、誕生日だと毎年バレちゃうんだもの!」

「アー……」

 暁に言われて思い当たる節もあった。何度かサプライズバースデーをやろうとして、途中でバレた事もあった。

「クリスマスは毎年皆で騒いでいるし」

「バレンタインデーは何故だか提督疲れてるし」

「お正月はお酒で撃沈多数で動けないし」

 他の催し事でのお祝いを避けた理由を挙げられていけば、確かに残るは父の日位だった。

「成る程、事情は飲み込めまシタ。知ってしまったからには私も協力せざるを得ませんネ~…」

「いえ、いずれお姉様にも明かして、提督を鎮守府から連れ出す役目をお願いするつもりでした」

 そこまで考えられていたのか。榛名にそう言われて、かなり早い段階から綿密に計画が練られていた事を思い知った金剛。

『darling……皆から愛されてますよ』

 そう、今はいない夫に思いを馳せながら。
 
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