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提督はBarにいる。

作者:ごません
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嗚呼、懐かしの烏賊尽くし・その4


 お好み焼き風のフライはほとんど原型のない料理だった。次は少しレベルを上げて、形の残る料理……イカの天ぷらを食べてもらおうと思う。揚げ物が続いて申し訳ないとは思うが、そこは勘弁してもらおう。

 ところで、イカの天ぷらと聞くと料理をする人はあまり良い顔はしない。家庭でやる天ぷらのタネの中でも難題なのがイカだと俺は思う。

 真っ直ぐの棒状に揚げようとしても丸まってしまったり、油が跳ねたり、衣が剥がれてしまったりと色々と素人には難しい。その為今回は、そんなイカ天のちょっとしたコツを紹介しながら天ぷらを揚げてみたいと思う。

Step1:下処理

 そもそもイカ天の油ハネの原因は、イカの身に含まれている水分と、イカの薄皮の存在が大きい。読者諸兄はイカの身に何枚の皮が存在しているか知っているだろうか?外側に3枚、胴の内側に1枚の合計4枚の皮があの厄介な油ハネを作り出しているのだ。揚げる事によってイカの身は水分が抜けて収縮し、逆に皮は膨張する。そして膨張が限界に達すると、ボンという大きな音と共に爆発するように油がハネるのだ。胴の内側の皮と外側の2枚の皮は比較的剥がしやすいのだが、外側の一番身に近い皮、こいつが特にも厄介者である。身と癒着しているかのような張り付き具合で、無理に剥がそうとすると身がボロボロになってしまう。なので、無理せず剥がせるだけの皮を剥がす。

 胴を開き、エンペラを外したら皮を剥がす。胴の内側の皮は滑るので、キッチンペーパー等で滑りを拭き取ってからだと剥がしやすい。

Step2:隠し包丁

 油ハネの大敵・薄皮がまだ残ってしまっている。ならばどうするか?……答えは簡単、薄皮の結合を破壊する為の隠し包丁を入れてやる。身の表側に細かく鹿の子状(斜めの格子状)に隠し包丁を入れる。深さは5mm位。これ以上入れてしまうとイカが丸まりやすくなってしまう。もっと丸まりやすくしない為には、両面に鹿の子状の隠し包丁を入れよう。深さは片面2mm前後で入れよう。

Step3:衣の付け方

 後は揚げる前の衣の付け方だ。Step1とStep2は、油ハネの対策だったので、ここからが衣の剥がれやすさへの対策だ。……とは言えこれも簡単、液体の衣を付ける前に、イカの水分をよく拭き取ってから、サラサラの小麦粉をまぶしておくのだ。衣が剥がれるのは揚げた事によって染み出した水分が衣に浸透し、衣の結合を弛くしてしまうからだ。その為、天ぷら専門店などは隠し包丁を入れた後で衣を付ける前にお湯をかけ、霜降りにしたりしてから衣を付ける。しかし家庭ではそんな手間はかけてられないので、出来る限りの水気を排除して、衣と馴染みやすくするためにサラサラの小麦粉をまぶす。ふるいにかけた薄力粉をまぶしてもいいが、日清製粉から発売されている「こんな小麦粉欲しかった」を使ってまぶすのが一番手軽だろう。いやぁ、最近は便利だね。

Step4:揚げる

 粉をまぶしたら衣を付けて、後は揚げるだけだ。油の温度だが、少し低めの170℃で揚げるのを俺は勧める。じっくりと揚げてやる事で、急激な温度上昇による身の収縮を防ぐ為だ。大体2分くらい揚げれば大丈夫だろう。今回は別レシピとして皮付きのままで輪切りにしたイカの胴も揚げる。




 
「おぉ……今度はテンプラか」

「お、流石に天ぷらは知ってたか」

「あぁ、何度かホーショーの店で頂いた。エビを食べなかったら、皆に『もったいない』と言われたよ」

 グラーフはそう苦笑しながら、日本酒を枡でチビチビとやっている。とっくの昔にビールは飲み干して、初霜から『菊正宗』を注いでもらっている。最近のお気に入りは日本酒らしく、来る度違う銘柄を楽しんでいる。揚げるのは朝霜に任せ、俺はその間に天ぷらを付ける2種類のタレを作ろう。

《鰹香る天つゆ》※分量2人前

・酒:100cc

・みりん:大さじ1

・水:600cc

・濃口醤油:大さじ3

・砂糖:大さじ1

・だしパック:2パック

 小鍋に酒とみりんを入れて煮切り、水とだしパックを入れて5分くらい煮出す。だしパックを取り除いたら醤油と砂糖を加えて混ぜたら完成。ここに薬味としておろした生姜と辛味大根でもあればパーフェクトだろう。もう1種類はグラーフにはちとハードルが高いかも知れんが、好きな人にはとことん好まれる味なのでご紹介。

《賛否両論!?腑味噌ソース》※分量2人前

・イカの腑:1杯分

・ごま油:小さじ1

・おろし生姜:1/2片

・味噌:大さじ1/2

・醤油:小さじ1

・酒、みりん:各大さじ1

 小鍋を熱してごま油を引いて、おろし生姜を炒めて香りを出す。そこに予め墨袋を外して切れ目を入れた腑を加え、軽く炒める。そこに味噌、醤油、酒、みりんを加えて少し煮詰めたら完成。

 この腑の生臭さが苦手だという人は多いが、好きな人には珍味の部類の味だろう。

「司令、揚がったよ!」

「おぅ、皿に紙敷いて盛り付けてくれや」

 油を吸わせる為の和紙を敷き、揚がった天ぷらを盛り付ける。そこに天つゆと味噌ソース、薬味の大根おろしとおろし生姜を別皿に盛り付ければ完成だ。




「ハイよ、お待たせ。『イカの天ぷら~2種のソースを添えて~』だ」

「テンプラは何度か食べたが、イカのテンプラは初挑戦だ……」

 些か緊張した面持ちで、グラーフが箸を取る。まずは板状の方の天ぷらから食べるようだ。

「アトミラール、まずはどう食べればいいかな?」

「まずはそのままの味を味わってみるのがいいと思うがな」

「そ、そうか……」

 グラーフ、またも躊躇いがちにイカ天の端をかじる。サクッ、というフライよりも軽い口当たりの音が響く。一口、二口と噛み進めると共に、グラーフの目に驚きの色が浮かぶ。

「あ、甘いぞアトミラール!イカとはこんなにも美味しい物だったのか!」

「美味いだろ?イカ」

「あぁ、とても甘くて美味しいんだが……これはいつ噛むのを止めればいいんだ?」

「クッ!」

 その変な声がした方を向くと、早霜が思わずといった表情で口を抑えていた。恐らく、笑ってしまったのだろう。

「まぁ、自分が飲み込めそうな大きさまで噛みちぎれたらいいんじゃないか?」

「そ、そうか……。しかしこれは本当に噛みきれるのだろうか?少し心配だ…」

 面白い事を言うな、グラーフ。揚げ物が続いたからなぁ、次は何にするか……。 
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