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提督はBarにいる。

作者:ごません
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今からでも遅くない!大人のBar使いこなし講座・その3

「お待たせしました」

 いつものチャキチャキの江戸っ子のような威勢のいい喋り口ではなく、あくまでも優雅で淑やかな口調だ。生徒である駆逐艦達も聞き覚えのない口調に、誰だろうかとざわついている。

「空いてるぞ、入ってくれ」

 俺がそう声をかけると、彼女がドアを開けて入ってきた。いつもの巫女さんのような服ではなく、ベージュを基調としたカクテルドレス。襟や袖、裾にはレースの刺繍が施されており、落ち着きに華やかさがプラスされている。

 特徴的なツンツンとした髪は綺麗に梳いてあり、すみれ色の僅かにウェーブのかかったヘアースタイルがドレスによく映える。化粧もけばけばしくなく、あくまでもナチュラルメイクで不自然な所がない。

 その場にいた駆逐艦達は皆唖然としている。暁など、口があんぐりと開いたまま閉まらない。

「え~、という訳で特別講師の隼鷹だ。どうだ、ビックリしたか?」

 俺がそう言いながらニヤリと笑うと、駆逐艦達も現実に引き戻されたようで、

「ほ、ホントに隼鷹さん!?」

「び、美人さんなのです!レディなのです!」

「すご~い、女優さんみたい!」

「街中で会ったら気付かないかも……」

 等々、様々な感想を述べていく。未だに暁は固まったままだが。

「まぁ、隼鷹を見たら解るかもしれんが、バーに入る時の注意点その1、『ドレスコードに注意』だな」

 ホテルのメインバーなどの格式高い店だと、男性はジャケットにネクタイ、女性はカジュアル過ぎない服装で……とドレスコードを設定している所も多い。街の中にあるカウンターバーでもジャージやスウェットなどのラフ過ぎる格好やTシャツ短パン等は出来るだけ避けよう。店に入っても恐らく浮いてしまうし、すごく恥ずかしくなるぞ。少し小綺麗で気取った服装でカッコつけてみるのも楽しみと思って、ファッションも楽しんでみよう。……出会いがあるかも知れんしな。
 



「さぁ、あなた達も立ってないで座ったら?」

 隼鷹がクスリと笑いながら駆逐艦達を促すと、慌てたようにカウンターの席に着く駆逐艦達。

「……さてと?実はもうあなた達はバーに来る時に、犯してはいけないミスを2つ犯しています。それはなんでしょう?」

 席に着いた途端に隼鷹からの質問。駆逐艦達は必死に頭を捻って考えているのだが、当然ながら解らない。

「答えは『来店時の人数』と『着席の仕方』だ。これも1つずつ解説するぞ」


 バー初心者によく聞かれる質問に「何人くらいで店に行けばいいの?」という質問がある。俺の答えは『1人ないし2人がベスト、多くても3人』と答えるようにしている。

 カウンターのみのバーだと、狭いと6席位から、広くても15席位がスタンダードだ。5人も6人もで押し掛けてしまっては店側としても迷惑だし、カウンターに5人以上が並んで話すには自然と大きな声になってしまう。ボックスシートがあるならいいが、カウンターバーでは避けた方がスマートだ。煩いと店の雰囲気を壊すから、と追い出される事も有り得るからな。

 更に、着席する時のマナー。これはマナーというよりも気遣いの類いに近いが、ホテルバーではなく街のバーには大概、『常連さん』が存在する。その中には指定席のような物がある人もいるし、予約(リザーブ)席のサービスを行っている店だとそこだけぽっかりと空いたりしている。そこに座ろうとしてマスターに引き留められたりしたら赤っ恥、もしも彼女や仕事の上での営業先の人などと飲みに来た場合には、いい印象は持たれないだろう。なので初めて来た(又は来店回数が少ない)店だと、マスターに案内されるのを待つのがベターだろう。手順としては、

1.扉を少しだけ開けて中を覗き、『〇名ですが座れますか?』と尋ねる。

2.OKが得られたら店に入り、マスターの案内を待つか空いている席に近寄って座ってよいかを尋ねる。

3.マスターの了承を得たら着席

 位の流れの方が不馴れな場合には座りやすいだろう。





「成る程ねぇ……気遣いって重要なのね!」

「まぁ、ウチの店はそんなに肩肘張らなくてもいいがな」

 雷とそんな会話を交わしていると、カウンターの端に座った巻雲がカウンターに置いてあったワインボトルを弄っている。

「巻雲さん?お行儀悪いわよ?」

 隣に座った夕雲が嗜めるが、不満げに口を尖らせる巻雲。しかしこの場合は夕雲が正しい。

 バーの調度品ってのは店の拘りが表れる物だ。ラムのボトルが中身入りで置かれていたり、空でも珍しいワインのボトルが飾ってあったりする。しかもヴィンテージならボトルだけで数万の値が付いたりするお宝もあったりするのだ。手に取って眺めたい場合にはマスターの了承を得てからにしよう。

 ここでちょっとした豆知識だが、バーテンダーを『バーテンさん』と呼ぶ人がたまにいる。実はこれ、バーテンダーという職種がまだ一般的でなかった頃に生まれた蔑称なのだ。WWⅡの最中、アメリカ人が日本人をjapと読んでいたのと同じような物だ。バーテンと呼ばれるのを嫌うバーテンダーを、俺も何人も知っている。呼ぶ際にはバーテンダーさんかマスターと呼ぶのが気遣いの出来る客だと、俺は思うがね。




「さぁて、と。ご注文は?」

「先生、質問なのです!」

 注文を取ろうとした所で電が挙手をした。なんだか本当に学校の授業のようで、少し面白い。

「ん、どうした電(でん)ちゃん?」

「もう!だから電の名前は……もういいのです、最初の一杯目のお酒は何を頼めば良いのでしょうか?」

 ふむ、これもよく聞かれる質問だ。バーでの最初の一杯は何を頼むべきか?俺なりに導きだした答えは、

『アルコール度数の高くない、炭酸系の口当たりのよい物を頼む』

 という物だ。勿論、ビール好きならビールでもいいだろうし、定番のジントニックやハイボールなんかもいいだろう。ジントニックやハイボールのようなシンプルなカクテルってのは、案外そのバーテンダーの腕が表れる為、居酒屋などで出される物よりも段違いに美味い物が多い。炭酸水の発砲が抜けすぎないように、バースプーン等を使って上手くステアしなければならないからな。丁度寿司屋の力量を見るために卵やこはだを1貫目に頼む感覚に近い。最近の個人的オススメはジンフィズ。シェイクやステアなど、バーテンダーの必要なスキルが集約された1杯だ。バーテンダーからしてみれば、『初見のお客様だが、この客は酒をわかっているぞ』と思わせ、気が抜けない客だと良い意味で警戒させる事が出来る。お代わりの際にもベースの酒を変えて楽しむ事が出来る為、続けての注文の組み立てもしやすい。他にもオススメはあるので、少し書き出してみる。

・キール・ロワイヤル

・ニュートン(白ビールにリンゴの果汁を添加した、カクテルのようなビール)

・リンデマンス=ペシェリーゼ(桃の果汁を加えて発酵・熟成させたフルーツランビック)

・シードル※夏場限定(発泡性のリンゴのリキュール)

・モスコミュール

等々、自分の好きな酒を探してみるのもいいだろうが、『オススメ』は避けよう。バーテンダーというのは事前に食べてきた料理や客個人ごとの嗜好に合わせてカクテルを作る。そこでいきなりオススメと言われても、何が好みなのか判らないと作りようが無いのだ。なので、頼むなら甘めか酸っぱめか、ベースの酒は何がいいか、苦手なフルーツ等は無いかを注文すればある程度の好みに合わせて作ってくれる。メニューが置いてある店もあるので、それを見て注文するのも良いだろうな。後は他店のオリジナルカクテルを頼むのも止めよう、バーテンダーとしては面白くないぞ。

「さぁ、他に聞きたい事はないか?」 
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