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落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜

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番外編 生裁戦士セイントカイダーll
  第5話 立ち上がる三代目ヒーロー

『助け……助けて……お願いぃ……!』

「おい、絵麗乃! どうした、何があった!」

 俺の聴覚が受け取ったのは、彼女の悲痛な涙声。その意味を想像した瞬間、俺はSOSの予感を覚えた。

『わ、私達……麻薬密売組織を見つけて、それで尾行してたんだけど……うぅっ、ひぐっ……!』

「泣いてたんじゃわからない! 頼む、教えてくれ!」

『えっく、で、でも、組織の罠だったの! それで私達、追跡してるつもりだったけど、待ち伏せしてる場所まで誘い込まれてたの!』

「なんだと!?」

『うまく逃げ出して、今はなんとか隠れてるけど、いつ見つかっちゃうかわかんないし、会長は……私達を庇ったせいで撃たれて、怪我して……うぅ、えぐっ……!』

 ――なんてことだ。俺が、俺がついていっていれば、こんなことにはッ!

「そこがどの辺りか、わかるか!?」

『城巌大学の近くにある、廃工場……だから……! ひっく……! お願いぃ、お願いだからぁ……』

「わかった。……絶対、絶対に、俺がなんとかして見せるから!」

 俺はそこで通話を切ると、礼も忘れて一目散に応接室を飛び出していた。
 路郎先輩のことがどうでもいいわけじゃない。――ただ、一分一秒が、今は惜しいんだ!

 「『できること』は、しっかりやれよ」という大路郎先輩の呟きだけを背に受けて、俺はひたすら走ることだけを考えた。

 651プロの事務所を出ると、全速力で裏に停めてあったセイサイラーに跨がる。
 普段は何気なくやっている、エンジンを掛けたりヘルメットを被ったりする動作がこの時ばかりはもどかしくてたまらなかった。

 ――会長が撃たれてるってことは、身動きが取れない状況なのか。
 それに、見つかるのも時間の問題だと……くそっ、間に合ってくれよッ!

 エンジンに重労働を強いて、俺は強制的に専用マシンを急発進させる。――会長、副会長、絵麗乃……!

 道行く人や車が、俺の視界から猛スピードで過ぎ去っていく。それらは最早、俺の目には「障害物」としてしか映らなかった。

 車を追い抜き、踏み切りのバーをギリギリでくぐり抜ける。
 近道をするべく路地裏に入り込み、たむろしていた不良達を驚かしていく。我ながら、無茶な突っ走りだ。

 ――だが、そんなことはどうだっていい。例えこれが原因でライセンスが剥奪されたって、俺は一向に構わない。

 なぜなら、俺が欲しかったのはヒーローの資格ではないのだから。欲しいのは……資質だ!

 そのためなら、なにがなんでも先輩達を助けなくてはならない! 後生大事に体裁を重んじて、守るべき人を失えば本末転倒だ!

「いた……! あそこだッ!」

 路地裏を抜け、廃工場にたどり着いた俺の眼前に映るのは――銃を持ち、紺色のスーツを着たガタイのいい男達。数は三十人程度か……。
 そして、彼らに囲まれた三人の男女。

 ――うちの制服を着ている以上、もはや頭を使う必要もない!

 俺はそのまま男の集団に向かってアクセルを踏み込み、こちらに気づいた連中を掻き回す!

「うおっ!? なんだこのガキ!」

「てめぇヒーローかっ!」

 突然の来客にあわてふためく彼ら。俺はその混乱に乗じて、セイサイラーを生徒三人を庇うように停める。

「栂……! 間に合ったか!」

「あぁ、よかったぁ……栂君、来てくれてぇ……!」

「ゆ、勇亮君ッ! あぁ、勇亮君……!」

 血に塗れた右腕を押さえる会長を、絵麗乃と副会長が支えている。
 どうやら、結局見つかってしまい、ここまで追い詰められていたらしい。

 普段は明るく元気な二人の美少女も、この時ばかりは不安を感じずにはいられなかったらしく、俺の到着に感極まった表情で涙した。

 すぐに一言声を掛けたいのは山々だが、今は敵側のパニックを利用したい。
 俺はサッとセイサイラーから飛び降りると、裏拳・回し蹴り・巴投げを続けざまに連中へお見舞いしていく。

「なっ――がふっ!?」

「このガキッ……ぎゃあ!」

 ナイフや釘バットを振りかぶる男達の攻撃をかわし、腹や顔面にパンチとキックを叩き込む。

 去年にセイントカイダーの後継者として検討されていた頃から、こういう訓練は欠かさなかった。おかげで、実戦経験が少ない俺でも十分に戦える。

 ――こんなことを考えている場合じゃないだろうが……ヒーローを目指してこの学園に入った俺にとっては、きっと今ほど充実した瞬間はないのだろう。

 子供の頃に憧れたヒーローになりたくて、俺はこの学園に来た。そして、セイントカイダーの存在を知り――強く惹かれたんだ。

 そんな俺の夢を受け入れてくれた、会長を初めとする生徒会のみんなには、感謝しても仕切れまい。
 ……だからこそ、彼らを傷つけた麻薬密売組織が、許せなかった。

 そして、彼らに立ち向かい、打ち勝つ力を――俺は今、持っている。

 もう、ヒーローになることだけが夢じゃないんだ。これからは……ヒーローとして、みんなを守る。かつて、自分自身が憧れた姿に近づくために!

 ――そして、「たった一人ではヒーローになれない」のなら……!

「絵麗乃ッ!」

「は、はいっ! なんでしょうか勇亮君!?」

「戦いは俺に任せてもらう! ――だからッ!」

「はいぃっ!」

「それからのこと――任せたよ」

「――え?」

 最後に出した声だけ、気がつけば落ち着いたものになっていた。
 新たな道が開けた――かもしれない、という可能性が現れたことから、心にゆとりが生まれたのだろうか。

「簡単さ。自分にできることは、なにがなんでもやり切る! でもって、後のことは仲間に全部任す! 『自分じゃできないこと』をやってもらうだけなんだから、大して気負いもしないだろ?」

 大路郎先輩の言葉が頭を過ぎる。

 俺は――俺は、ヒーローとして自分にできることを、必ずやり遂げる。だから、警察への対応、事後処理は全て……絵麗乃達に任せる!

 本当のヒーローになれさえすれば――俺は一人じゃなくたっていいんだ!

 一旦距離を取り、たじろぐ男達をキッと睨みつける。お遊びはおしまい、ということだ。

 ――そして、右腕に装着した変身ブレスレットをあらわにする!

「セイントッ……! カイダァアァアッ!」

 夢を叶えたい、ヒーローになりたい。他のことは考えない!
 その一心で、俺はブレスレットのスイッチを殴るように勢いよく入力した!

 刹那、俺の全身は瞬く間に純白の戦闘服に包まれ、顔を覆うマスクのゴーグル部分が、日の光りを浴びて輝く。

 俺が追い求めてきたヒーロー像。そのスタート地点こそ、今なんだ。

「生徒の手により裁くべきは、世に蔓延る無限の悪意!」

 腕を大きく振り、一定のポーズを決めてピシッと動きを止める。何度練習したのか忘れるほど繰り返してきた、「ヒーローの証」だ。

 ――そして今こそ、俺は名乗りを上げる。夢を叶える狼煙となる、ヒーローの名を。

「生裁戦士、セイントカイダーッ!」
 
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