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IS ーインフィニット・ストラトスー 〜英雄束ねし者〜

作者:龍牙
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22話『聖なる破壊者』

 ―ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前。識別上の名前―
 ―遺伝子強化試験体C-0037。それが私に一番最初につけられた記号―
 ―人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた―
 ―ただ戦いのためだけに作られ、産まれ、育てられ、鍛えられた―
 ―格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦を体得した―
 ―産まれて、訓練され、その全てで最高レベルを出し続け、優秀であるとされた―

 彼女……VTシステムに取り込まれながら、ラウラは己の過去を思い起こす。……其処に有るのは“人”では無く人の形をした“兵器”とでも言う様な過去……。文字通り、優秀な兵士こそが最も高価な兵器とでも言うべきだろうか?
 だが、人が兵器として作り出される世界に於いてデジモンと言う存在を軍や国家の上層部の人間が知ってしまったのならば、今度は人口のデジモンまで生み出してしまわないか、デジタルワールド……そこで最も神聖な場所と言える『始まりの町』さえ手にしようとしないか、と言う不安さえ四季は抱いている。

 だが、優秀な兵士として作られた彼女の人生が一変する事件が起こる。

 ―それがある時、世界最強の兵器『IS』が現れた事で世界は一変した―

 そう、開発者の意図がどうであれ、ISは最強の兵器たるだけの能力を持ってしまっていた。

 ―その適合性上昇のために行なわれた処置『ヴォーダン・オージェ』。脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と胴体反射の強化を目的とした肉眼へのナノマシン移植処置を施されたのだ―
 ―危険性は全く無い。はず、だった―
 ―しかし、この処置によって私の左目は金色へと変質し、制御不能へと陥った―
 ―この事故により私はIS訓練に遅れを取る事になる―

 何故彼女にだけそんな事故が起こったのか、理由は定かでは無い。『ヴォーダン・オージェ』に対して彼女が遺伝子レベルで相性が良かったのか、逆に相性が最悪だったのかは不明だが、どちらだとしても彼女にとっては不幸としか言いようが無いだろう。

 ―そして、トップの座から転落した私を待っていたのは、部隊員からの嘲笑と侮蔑、そして『出来損ない』の烙印だった―



『くだらないな、人間と言う存在は』



 彼女……ラウラの過去の中、彼女が堕ち居ていく闇の中で『それ』は無感情に告げていた。嘲笑も侮蔑も無い……ただの認識している事実の確認をするだけ。

 そして、そんな彼女が始めて目にした光……織斑千冬との出会いの光景を何の感慨も無く見下ろしていた。
 いや、何の感慨も無いと言うと語弊があるだろう。感情は感じている……強いてそれに名をつけるのならば、それは『退屈』と言うべき感情だろう。
 それは人間では無く、生物でもない。パートナーと共に戦い成長しその文明の存続を司る唯一の同胞にさえ侮蔑の念を抱いていた。強大な力を持ちながら誰かに使われるだけの人形でしかない劣った人形だと。

 ラウラの過去を見据えながら再びそれは己の作られた意味を再認識する。

 肉体は失った。力も勝者となった愚かな人形である同胞が手にした。真なる存在になれず亡骸も愚かな同胞の操者と敵対する者に利用された結果……意識だけが拾われた。

(力が欲しい)

『願うか……? 汝、自らの変革を望むか……? より強い力を欲するか……?』

「寄越せ! 唯一無二の絶対を! 比類なき最強を!?」

 VTシステムの声に答えるラウラ。織斑一夏にも……千冬を否定している五峰四季を絶対に敗北させる力を。彼女の中にある絶対的な『力』の象徴を。

「空っぽの私など、全てお前にくれてやる! だから、力を……比類なき最強を、唯一無二の力を…………私に寄越せ!」

 ラウラの慟哭にも似た叫びが響く。そんなラウラをVTシステムとの違う何かが掴む。

『良いだろう、貴様等を寄越せ……我が復活の贄として』

 漆黒の巨人の全身に文字の様な物が光、ガンダムタイプに似た漆黒の巨人……否、機兵が告げる。

「な、なんだ、貴様は!?」

『貴様の全てと引き換えにくれてやろう……この世界の天地を作り返し神の如き力を。我が復活の生贄として! 我が名はルーンレックス、『聖機兵ルーンレックス』』

「う……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 巨大な影に……絶対に抗えない化け物に飲み込まれていくラウラの心の刻まれた感情は一つ……『恐怖』だった。



 Damage Level …………D.
 Mind Condition …………Uplift.
 Certification …………Clear.



 そんな彼女を他所に機体に積まれているシステムは動き出していく。


 《Valkyrie Trace System》……boot.


 当然ながら単なるプログラムは己の中にある……機兼極まりないものの存在など知りはしない。








「過去の千冬の姿か……」

 その姿は何度も脳裏に思い浮かべ、己の敵として剣を振って来た相手。千冬が第一回モンド・グロッソに優勝した時は興味など湧かなかった。……その試合を初めて観たのは太一達に出会うよりも前……初めて詩乃の為の勇者になると誓ったときだろう。

 千冬の雄姿は四季にとってそれを決意した時の詩乃の姿を連想させる。

「丁度良い……イメージトレーニングだけじゃ意味無い……何処までオレが強くなったのか、確かめさせてもらう!」

 シールドを収納し、ブレードを構えながらVTシステムへと向かう。IS学園側からの通信はカット、ブースターを全開にしての一閃がVTシステムの持つ『雪片』とぶつかり合い、互いに弾き飛ばしあう。

(この程度か……オレは!? 違うだろう!!!)

 過去のデータ程度も超えられない己が『勇者』等と名乗れるわけが無い。そう己を鼓舞しブースターの出力を落とさずに弾かれた以上に距離を詰めながら、弾かれた勢いのまま一回転した一閃をVTシステムへと叩き付ける。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 とっさに放った一撃……技も何も無い本能的に放った反撃だが上手くは行った様子だ。

「七星天剣流……回羅旋……」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」


 回羅旋斬による追撃を放とうとした時、一夏が乱入してくる。だが、その特攻も避けられて逆に斬り飛ばされる。

「っ!? 一兄っ!?」

 尚も向かっていこうとする一夏を四季は慌てて止める。先ほど突っ込んでいった一夏の姿に冷静になったのも有るが、

「放せ、四季! あれは千冬姉の剣だ。千冬姉だけの物なんだよ!」

「……いや、少しは冷静に話してほしいんだけどな……」

 一夏の言葉を聞いてVTシステムへと視線を向ける。……確かに相手の剣は『過去』の千冬の技だ。

「それに、デュノア。一兄もそうだけど、残念ながらお前達は戦うな」

「なっ!? どう言う意味だよ!?」

「SEの残量を確認した方がいいだろう。零落白夜とシールドバンカーで殆ど削られたんじゃないのか?」

「くっ……」

 四季の指摘に頭が冷えたのか、悔しげな声を一夏は上げる。四季の一撃さえ無ければシャルロットのラファールのエネルギーを譲渡すれば武器だけの展開で一撃分程度のエネルギーは確保できるだろうが、残念ながら殆どのSEが削られてしまっている。

 なにより、

「また前回の代表戦のような事がないとも限らないんだ……最低限ISを展開できるようにしておいたほうが良い」

 主に冷静になった部分で四季は獣騎士ベルガ・ダラスの襲撃を警戒している。
 あの時は助けに現われた流星の騎士団とデュナスモンの手助けで勝利出来たものの、一人では一夏達も含めて皆殺しになっていた危険がある相手である以上、次も勝利できるとは断言できない。
 また敵が新しい刺客を送ってこないとも限らない。VTシステムを倒した後を見計らって現れたら、対処のしようが無い。
 まして、どんな敵が現れるか分からない状況を考えると、最低限の生命維持が期待できるISまで無くなっては、確実に一夏やシャルロットでは生命の危険がある。本来は対戦相手の一夏に任せるのが筋だろうが、後の事を警戒すると戦うべきは十分に戦える余力のある己がすべきだろうと判断した。

「そんな事!?」

「悪いけど、あれはオレが倒すっ!」

「放せ! あいつ、ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」

「いや、だから冷静になれと……」

「四季、お前だって知っているだろう!? あれは、あの剣技は、オレが……オレ達が最初に千冬姉に習った『真剣』の技だった……」

「悪い、忘れた」

 そう言って四季は一夏を後方にいるシャルロットへと投げ渡す。

「一夏!?」

「少し頭を冷やせ、一兄。……でないと」


「こいつっ!!!」


 その声が聞こえたほうへと視線を向けると、其処には何時の間にアリーナの中にいた秋八が黒式を纏ってVTシステムと戦っていた。
 だが、相手のVTシステムに使われているのは織斑千冬……過去の世界大会の優勝者のデータだ。辛うじてVTシステムの剣を受け止めている秋八だったが、次第に圧倒されていく。

「エネルギーがあっても、ああなるぞ」

 『何やってるんだ、あいつは?』と言う心境でVTシステムと戦っている秋八を眺めていた。

「あ、ああ」

「……彼、何しに来たのかな……? どう見ても相手になって無い様に見えるんだけど……」

「さあ」

 そう言って四季は再びVTシステムへと視線を向ける。……そもそも、あの頃は殆ど束の所に遊びに行っていた為に技を教えられた経験も二人に比べて少なく、寧ろ“仲間”達や詩乃と出会った記憶の方が強い。

「だけど、あれは」

「……わが師は言っていた。剣は振るう物であり、振るわれる物では無い、と。それはシステムだって同様だ……」

「……それって……」

「人の命を奪う武器の重さは常に忘れるな……それを忘れた瞬間から、技は暴力へと変わる」

 七星天剣流の技を持ってして成したい目的は一つ、詩乃を守る事だ。だが、その為に持つ武器は彼女を苦しませている物と同じく容易く命を奪える物。だからこそ忘れない……大切な人を己が苦しめないためにも、暴力の剣を振るわない為に。
 四季の言葉に一夏は思わず言葉を失ってしまう。そんな一夏を他所に四季はブレードを構え、

「剣、忍風雷爆火、山!」

 初めて唱える七星天剣流の精神統一の言葉。完全に冷静さを取り戻した四季はヴレイブのデュアルアイの奥から目の前に居る相手を見据える。

「七星天剣流……五峰四季、参る!」









「くっ……どうなっているんだ!?」

 ラウラのISに組み込まれているVTシステム等秋八にとって汚名を返上するための踏み台に過ぎなかったはずだ。
 四季の存在でIS学園では今までとは違い最低の評価しか与えられていない。アリーナに乱入してきた不明機を撃破した四季とは違い簡単に負けた役立たず。代表決定戦でもまぐれ勝ちしか出来ない無能。

(そんな事はアイツが……四季が言われているはずだったのに!?)

 心の中で秋八は絶叫する。一夏とシャルロットが組んだのは良い……。残念ながら彼女との接点が薄すぎたのだから、仕方ない、チャンスはまだ有ると諦めていた。それでも箒と組む事で一回戦は突破できた。一回戦突破とは言え相手は専用機持ちどころか代表候補生ですらない一般の生徒……専用機を持っている秋八にとって敵では無い相手だった。

(この程度の事なら出来て当然なんだ!!! そうだ、本来はこうである筈だったんだ!!!)

 ラウラがこうなるのは分かっていたから黒式のエネルギーを回復させて何時でも飛び出せるように準備していた。だから、直ぐにアリーナのシールドを零落白夜で破り、アリーナ内に入り込んだ。

(だけど、なんでボクが負けているんだ! こんな模造品に!!!)

 蓋を開けてみれば手も足も出ずに、VTシステムの一撃によってアリーナの地面に叩き付けられ、ISを強制解除させられた。

 そんな秋八の視線の先で四季の剣とVTシステムの剣がぶつかり合う。

(一夏じゃなくて、あいつが来たのか!? 二人は……)

 四季の姿を見た瞬間、秋八は慌てて二人を探し始めると、二人の姿は簡単に見つかったが、ISを纏った二人を見て何か分からなかった。

(長々と時間をかけてちゃ、この後何が有るか分からない……。一撃で終らせる)

 VTシステムが鋭く早い袈裟懸けを振るって来たが、それは何度もイメージして受けた技。その攻撃を、

「七星天剣流……。天地!」

 袈裟懸けを受け止めると同時にブースターを全開にしてVTシステムの剣を上空に飛び上がりながら弾く。そして、前転しながら降下し斬撃を放つ。

「降斬!!!」

 七星天剣流の技の一つ『天地降斬』。七星天剣流における一閃二断の技。
 一閃二断の構え。一夏と秋八が千冬や箒から学び教えられた剣術の構えだが、四季の中にも同じ技はある。

「最強? 所詮過去のデータ……一年前の最強も容易く越えられる壁に変わる」

 真っ二つに割れた千冬の形をしたVTシステムを見据えながら四季はそう呟く。ゆっくりとVTシステムから開放されたラウラと目が合う。

「っ!?」

 その目を見た瞬間四季の表情が変わる。……彼女の目に映っていた意思は『恐怖』。何かから助けを求めるようなそんな意思があるのが分かる。その瞬間……


『クダランナ』


 何かの声が響く。


『所詮は人間族……我から見れば雑魚にすらならない相手だ』


 ラウラの求めていた最強を嘲笑うようにそれは言葉を続ける。


『見せてやろう……本当の力を』


 再び黒い液化したISにラウラの体が取り込まれる。助けを求める様に伸ばされた手は虚しく黒い液の中に取り込まれていった。

(何が起こっているんだ!?)

 立ち上がった秋八の視線がラウラへと向かう。秋八の知る知識の中では、あれで終わりのはずだった。……起こるはずの無い二度目のVTシステムの発動……それ以前にあんな声は聞えなかった筈だ。

 秋八の困惑を他所に黒い泥は再び全身装甲(フルスキン)の形態をとるが、人間型では無く人型ではあるがロボットの様な姿となる。

 本来の大きさでは巨人だろうが、その姿は額を含めて三つの目を持った頭部を持った四季のヴレイブと似た外見へと変わる。ボディに浮かぶ文字が光り輝くと二つの瞳に光が宿る。


『我が名は『聖機兵ルーンレックス』。脆弱な人間を模した程度の人形とは違う、己の意思で動き、戦う、最強のロボット機兵だ』


 突然の宣言……ルーンレックスの言葉に困惑する周囲の反応を他所に、四季だけはその言葉の意味を真に理解してしまっている。

(……『聖機兵ルーンレックス』!? 騎士GP01さんから聞いた……真聖機兵の戦いを演じた自動機兵か!?)

 両手から光の針を出現させる黒いルーンレックス。新たな敵が現れた瞬間だった。
 
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