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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第七十一話 決着の時です。

 
前書き
後書きを付け加えました。 

 
 リッテンハイム侯爵艦隊は崩壊しつつある。波動砲斉射による一撃はまさしく恐慌的な打撃をリッテンハイム侯爵艦隊にあたえた。背後がごっそりやられ、その背後からフィオーナ艦隊がキルヒアイス分艦隊を先鋒にして一気に突入し、各所に猛攻撃を仕掛けながら突破を敢行している。これに息を吹き返したブラウンシュヴァイク公爵・ミュッケンベルガー元帥の本隊も猛然と攻勢に転じた。フィオーナ艦隊は混乱するリッテンハイム侯爵艦隊を突破してブラウンシュヴァイク公爵とミュッケンベルガー元帥の本隊に合流すると、その最右翼に布陣して共同歩調を取って激しい攻勢をかけてきた。

攻勢は一瞬のうちに逆転した。リッテンハイム側は攻勢の勢いを急速に減衰させ、所変わって押し寄せる敵側のビームの渦に巻き込まれていったのである。

「よし。敵は崩れた。全艦隊攻撃を再開せよ。」
ミュッケンベルガー元帥の号令一下、各艦隊は今までの屈辱を晴らすのは今こそと攻撃を集中させたのである。リッテンハイム侯爵の前衛はつんのめるようにして勢いを減衰させ、たちまち爆散し、宇宙に大輪の光の花を咲き乱れさせた。
それ以上にリッテンハイム侯爵を青ざめさせたのは逃亡者の発生だった。前後からの猛攻の勢いに耐えられず、各部隊は戦線を放棄し、逃亡する艦が続出しているのだ。
「ええい!何を、何をしておる!!あと一歩で、ブラウンシュヴァイクめの首をとれるではないか!!」
リッテンハイム侯がもはや狂態としか表現できない喚き方をしている。リッテンハイム侯爵にしてみれば信じがたい事であっただろう。ブラウンシュヴァイク公爵とミュッケンベルガー元帥の本隊に肉薄し、あと一歩で旗艦を目視できる位置にまで来ているというところに致命的な逆撃を受けたという事が。
「もうおやめください!!」
ディッテンダルグ中将が喚き散らすリッテンハイム侯爵の腕をつかんだ。
「もはや大勢は決しました。これ以上の抵抗は無意味です。この上はこの戦場を離脱なさるか、若しくは貴族として潔い進退を決せられるべきでしょう。」
リッテンハイム侯の瞳が一瞬恐怖で大きく見開かれる。喚くことによってそれから逃避しようとしているところに現実を突き付けられたのだ。
「儂は・・・儂はどうすれば・・・・・。」
「もし愚見をお聞き届けいただけるのであれば、戦場を離脱なさって、亡命すべきでしょう。フェザーンなり自由惑星同盟なりに亡命すれば、大貴族の長である閣下を厚く遇してくださると思いますが。」
「亡命・・・・。」
呆然とその言葉をつぶやいたリッテンハイム侯爵は、まだ信じられないという顔をしている。一時前にいた何万隻という艦邸が、今や灰をふきちらしたようにいなくなりつつあるのだ。現在まとまって組織的抵抗を続けているのは、バイエルン候エーバルト艦隊くらいのものである。
『リッテンハイム侯、私が殿を務めます。候はいち早くこの戦場を離脱なさって、再起をおはかりください。』
バイエルン候エーバルトは淡々とそう言ったが、再起など図れるものではないことは彼が一番よく知っていたかもしれない。何しろ主だった将帥やリッテンハイム一門は悉く戦死、あるいは侯爵艦隊から逃亡を図り始めているからだ。
「こ、後方より大艦隊が出現!!数、およそ8万隻!!」
オペレーターの絶叫が艦橋の空気を凍らせた。
「ロ、ローエングラム上級大将の別働艦隊です!!逃亡しようとする艦艇は、こ、悉く撃破され、あるいは降伏を、よ、余儀なくされております!!」
敵は半包囲体制を敷いて後方を扼し、逃げる艦艇を片っ端から撃破あるいは降伏に至らしめているという。フィオーナ艦隊はラインハルト艦隊の到着を見届けるや、艦隊を鮮やかに転進させ、戦線をスライドさせてブラウンシュヴァイク公爵の本隊及びミュッケンベルガー元帥本隊の一部と協力して、バイエルン候エーバルト艦隊と激しく戦っていた。
「閣下!!」
リッテンハイム侯はディッテンダルグ中将の叱責に等しい呼びかけに呆然とするばかりだった。
(貴族とはこんなものなのか!!??)
ディッテンダルグ中将は戦慄すら覚えていた。彼も貴族なのだが、リッテンハイム侯爵は大貴族の長として長年君臨してきた人物である。その人物がこうも醜態をさらけ出して動かなくなってしまうとは・・・・。
(いや、バイエルン候エーバルト様の方がずっとご立派ではないか!このような負け戦になっても、候をお逃がし申し上げようと最後の最後まで奮戦なさっておられる!やはりリッテンハイム侯とは器が違う!!では、その器の差とは何だ!?家柄か?本人の力量なのか?それともこれも劣悪遺伝子によるものなのか?家柄に関係なく劣悪遺伝子は発生するというものなのか?それならば・・・・。)
ディッテンダルグ中将の考えは多少曲解的ではあるが、今の帝国の政治体制に潜む裏側の真実の一片を掘り当てようとしていた。もう少し彼が思考していればその本筋にたどり着けたかもしれない。

だが、時はそれを許さなかった。勝ち誇った敵艦隊がいよいよリッテンハイム侯爵の護衛艦隊にまで殺到してきたのである。
「戦艦シャンバーグ接近!!こちらに砲撃を加えてきます!!」
オペレーターが絶叫したのである。
「応戦せよ!!」
艦長が叫んだ。2隻の戦艦は至近距離にまで接近し撃ちあいを続けた。中性子ビーム砲がそれぞれのシールドにはじかれ、それる。だが、リッテンハイム侯爵の旗艦オストマルクの出力が敵艦を上回った。至近距離で発射されたビーム砲が敵のシールドを打ち破り、大爆発を起こしたシャンバーグが宇宙の塵の仲間入りを果たしたのである。
「続いて、戦艦ツェーレンドルフ!!発砲してきます!!」
「撃ち返せ!!」
艦長以下が声をからして応戦し続ける姿をディッテンダルグ中将は普段と違った面持ちで眺めていた。主であるリッテンハイム侯爵が呆然としているのに、なんとけなげな忠誠心を持つのだろう。だが、ディッテンダルグ中将は勘違いをしていた。彼らは生き残りたいのであって、リッテンハイム侯爵に忠誠を尽くすためにとどまっているのではないのだ。
この大いなる勘違いが、ディッテンダルグ中将をして次なる行動に移らせたのである。
「閣下・・・なんですと!?私に指揮を委ねると・・・・そうでございますか?かしこまりました!」
ディッテンダルグ中将は呆然自失状態のリッテンハイム侯爵の顔に近づき、二度三度うなずいて見せたのである。艦橋要員に見えるように。だが、それを見ていたのは艦長以下数人に過ぎなかったが、ディッテンダルグ中将にとってはそれで十分だった。
「全艦隊、紡錘陣形をとれ!!」
ディッテンダルグ中将の号令が、艦橋要員を一斉に振り返らせた。
「リッテンハイム侯爵はもはや艦隊を指揮することができぬ。侯爵閣下の御命令で私が直接指揮を執る!!敵陣を突破し、この戦場を離脱する!!」
既に副司令官以下散り散りバラバラになっている今、階級的にもディッテンダルグ中将が指揮を執るほかなかった。但しリッテンハイム侯爵護衛艦隊本隊のみであるが。


「面白い。こちらの重厚な布陣を突破して逃げようという算段か。」
ラインハルトは不敵に笑ったが、すぐに麾下の諸隊に指令して、その進路を封じにかかったのである。
「生死は問わぬ!リッテンハイム侯の身柄を確保し、この内乱に終止符を打て!!」
彼の号令一下、8万隻の大艦隊がリッテンハイム侯爵艦隊めがけて殺到した・・・のではなく、ごく一部が接触行動に移った。ラインハルトは分厚い包囲網を崩さず、あくまで慎重に艦隊を動かして対処したのである。
その代わりリッテンハイム侯爵艦隊に相対したのは、ロイエンタール艦隊とミッターマイヤー艦隊という帝国双璧の二人である。その攻撃は尋常ではなく、次々とリッテンハイム侯爵艦隊は数を減らしていった。
『私は帝国軍元帥グレゴール・フォン・ミュッケンベルガーである。リッテンハイム侯爵ら全艦隊に告ぐ、降伏せよ。艦を停止しすべての戦闘をやめよ。しからざれば撃沈す。繰り返す。降伏せよ。』
ミュッケンベルガー元帥自らの音声が各艦隊を中継してリッテンハイム侯爵艦隊に告げられる。この時わずか数百隻にまでその数を減らしていたリッテンハイム侯爵艦隊であったが、狂乱する応戦体制は一向に解けなかった。足をとめず、応戦の手も止めず、再三にわたる降伏勧告も無視された形である。
「いかがいたしましょうか?」
ラインハルトはミュッケンベルガー元帥とブラウンシュヴァイク公爵に指示を仰いだ。
『構わん!それほどまでに降伏を拒否し、あまっさえ自ら死ぬのが嫌だというのなら、我らの手で楽にしてやるまでだ!!どうせ一門は破滅することになるのだからな。』
ブラウンシュヴァイク公爵が吐き捨てるようにそう言ったが、その後ですぐに顔を背けたところを見ると、彼もこの指示を100%好んで発していないという事だ。だが、事態は既にブラウンシュヴァイク公爵一人では止められないほど巨大化してしまっている。
『そういうわけだ、ローエングラム上級大将。』
まだ正式に叙爵していないラインハルトをミュッケンベルガー元帥は皮肉を込めてそう呼んだ。
「抽象的なお言葉ではなく、正式な命令を、願います。」
ミュッケンベルガー元帥は一瞬むっとしたが、すぐに改めて命令を下した。
『卿に命令する。リッテンハイム侯爵を艦もろともに粉砕せよ。』
うなずいたラインハルトは敬礼を返すと、通信を切り、すぐ麾下の艦隊に指示を下した。
「ロイエンタール、ミッターマイヤー。」
『はっ!』
「聞いてのとおりだ。これ以上の手加減は無用だ。楽にしてやれ。」
その口ぶりにはいささかのためらいもなかった。
『御意!!』
敬礼を返した二人はすぐさま麾下諸部隊数千隻に対し、リッテンハイム侯爵艦隊に一斉砲撃を指令したのである。

苛烈そのものの砲撃を叩き付けられて、リッテンハイム侯爵艦隊は次々と爆沈していく。文字通り宇宙の塵になっていくのだ。

彼らは戦闘兵士ではなかった。ただ虐殺される側として、食肉処理場で屠殺される牛豚のごとく無慈悲に殺されていったのである。そこには階級も身分も年齢も性別もなかった。彼らはただ殺されるためだけに存在し、そしてその存在意義を全うして消滅していったのである。
降伏勧告を受諾しようと発行信号を明滅させた瞬間に爆沈する艦、何とかして回頭して逃げようとする瞬間を狙い撃ちされる艦、他の艦の爆発に巻き込まれて沈む艦など、幾百の艦が次々と消えていった。

リッテンハイム侯爵の旗艦オストマルクも例外ではなかった。先に死んでいった死者たちがヴァルハラからその無慈悲な冷たい手を差し伸べ、オストマルクもろともリッテンハイム侯爵をヴァルハラに連れ去ろうとしているようだった。左右の2隻の盾艦は主を守ろうとする義務を果たそうとしたが、あっけなく爆沈し、続いて旗艦そのものにも次々と被弾し、シールドの限界耐性をこえていく、ついに各所から火が出はじめた。
「大貴族の長、門閥貴族ともてはやされたあの御仁が、なんとあっけない最期か。貴族だろうと平民だろうと、人が迎える最後には惨めなものもあるものと見える・・・。」
ロイエンタールは艦橋で一人考え込んでいたが、すぐに索敵主任に指令した。
「シャトルで脱出した者はいないか?」
ロイエンタールの言葉に索敵主任が、リッテンハイム侯の旗艦から脱出したと思われるシャトル群を確認しました、と答えた。
「ワルキューレ部隊、及び駆逐艦隊を発艦させ、それらをすべて確保せよ。」
「はっ!」
「待て。」
駆けだそうとした副官をロイエンタールは制止した。
「撃沈はするなよ。足止め程度なら許可をするが、体勢は既に決した。非力な相手に武を振るうことほど武人として卑劣なことはないからな。」
「はっ!」
ロイエンタールが何よりも卑怯を嫌っているということを彼の部下たちはよく承知していたのである。

リッテンハイム侯爵の身柄は、その後シャトルの一つに乗っているところをディッテンダルグ中将ともどもとらえられていた。身柄、というのはリッテンハイム侯が既に服毒自殺を遂げていたからである。本人がするはずもないから、一緒に搭乗していたディッテンダルグ中将が半ば強制的にしたのではないか、と後で憶測が流れた。もっともこれは憶測だけで終わり真相は謎のままだった。なぜならば、中将もまたブラスターで自殺を遂げていたからである。

バイエルン候エーバルト艦隊は最後まで組織的抵抗を続けていたが、フィオーナ艦隊麾下のキルヒアイスが護衛役として臨時に抜擢されたバーバラと共に小隊を率いて侯爵の旗艦に突っ込み、内部に突入した。侯爵の親衛隊と侯爵自身と激しく戦ったが、力尽きた侯爵はキルヒアイス自身の手によって捕虜となったのである。これはフィオーナが「なんとかしてキルヒアイスに武勲を立てさせてあげたいわ。」とティアナたちに相談した結果、決行されたもので、ラインハルトは後でそのことを知ってフィオーナに感謝すると同時に一瞬寒気を覚えたとキルヒアイスに言った。
「もし、バイエルン候が旗艦ごと自爆をする道を選んだら、俺はフロイレイン・フィオーナを一生恨むところだっただろうな。」
冗談交じりに言うラインハルトに、キルヒアイスは半ば困ったような顔をするほかなかった。もっともこれは深刻なものではなかった。キルヒアイスは生きて帰ってきた。それだけでラインハルトには十分なのである。おまけに武勲をたて、少将へ昇進することが確実となったのだから。

こうして、リッテンハイム星系の大会戦は終わった。リッテンハイム侯側は完全破壊19356隻、大破以下30682隻、捕獲された艦49729隻、残りは逃亡したが、その半ばは各所の警備艦隊に捕まって撃沈或いは捕獲されたのだった。対するにブラウンシュヴァイク公爵、ミュッケンベルガー元帥本隊の損害は20828隻であったが、フィオーナ艦隊は損傷率1割程度、ラインハルト艦隊に至ってはほとんど損害がない。
 もっともブラウンシュヴァイク公爵とミュッケンベルガー元帥の本隊、そしてラインハルト艦隊は勝利の余韻に浸ることもなくすぐさまリッテンハイム星系に進出した。後味の悪い掃討戦を行わなくてはならなかったためである。

リッテンハイム侯一門のメルサック男爵ら生き残りはすべて拘禁・投獄されたがここで一つの問題が生じた。

それは他ならぬサビーネ・フォン・リッテンハイムの処遇である。リッテンハイム侯の娘であるサビーネであるから、当然処分の対象となるだろうと誰もが思った。イルーナとアレーナらはそのことを覚悟していたし、なんとかしてサビーネを守ろうと四方八方に手を伸ばし始めていた。

ところが、案に相違してサビーネは処刑を免れたのである。理由はリッテンハイム侯の種ではなかったというものだ。

これについては証人が多数いた。サビーネの父親はゲオルク・フォン・アルテンシュベルク侯爵という代々帝室に近い家系であり、フリードリヒ4世即位にも骨を折った人物だった。その功績に免じてサビーネだけはリッテンハイム侯一門ではなく、アルテンシュベルク一門として処刑リストから免れたのだった。

ブランデンブルク侯爵跡目争いにも決着がついた。エリーゼ・フォン・ブランデンブルクはリッテンハイム星系本星にいたが、勝ちに乗じて殺到降下してきた帝国軍本隊に捕縛され、ブラウンシュヴァイク公爵の立ち合いの即決裁判の下騒乱罪を企てたとして自殺を言い渡され、味方していた一門そのほかの者と服毒自殺を遂げた。ヘルマン・フォン・ブランデンブルクが侯爵として当主になったのだが、これとてブラウンシュヴァイク公爵の傀儡であることは一目瞭然であった。


バイエルン候エーバルト、ブリュッヘル伯爵は主要な生き残りとしてとらえられていた。前財務尚書のカストロプ公爵もカストロプ星系で既に逮捕されている。彼らに加えて、内務尚書メッテルニヒ伯爵、司法尚書ナッサウ伯爵は宮廷での役職と貴族籍はく奪の上、農奴階級に落とされ、一族もろとも辺境に追放となったのだった。
 もっともカストロプ公爵はその途上で輸送船もろとも海賊に襲撃され、爆沈させられている。これが海賊によるものなのか、はたまた何者かの真意によるものなのか、それははっきりとはわからない。


 リッテンハイム侯に味方した貴族1700余人は悉くその領地を没収され、あるいは減俸され、農奴階級に落とされるなどされた。一門の使用人などを加えると数十万人が栄華から奈落の底に突き落とされたのである。
 これによって、ブラウンシュヴァイク公爵一門、そしてブラウンシュヴァイク公爵に味方した貴族らはますます肥え太ったが、他方これに従事した将兵たちには通り一辺倒の恩賞しか与えられなかったため、次第にブラウンシュヴァイク公爵らへの不満が高まっていった。
 
 ただ、ラインハルトにとって一つ良いことがあった。バイエルン候ら軍の上層部が抜けたため、麾下の諸提督らが昇進したのだが、彼自身も皇帝フリードリヒ4世の計らいによって元帥に昇進することが決まったのである。これには訳がある。ミュッケンベルガー元帥は主席元帥としての名誉称号を帯び、伯爵の地位を得ることとなった。メルカッツ提督は作戦途中の負傷のために男爵号を得るにとどまったが、それを引きついでカストロプ星系の動乱を鎮め、リッテンハイム星系会戦に参加して武勲を上げたラインハルトに何もしないというのはいささか不公平だとフリードリヒ4世がリヒテンラーデ侯爵に漏らしたのであった。

 リヒテンラーデ侯爵にしても、ブラウンシュヴァイク公爵らの一門の栄達を苦々しく思っており、これを阻止する道具としてラインハルトの台頭を受け入れたのだった。なお、メルカッツ提督は負傷した傷がまだ癒えなかったので、ラインハルトが正式に宇宙艦隊副司令長官となることが決定した。同時にマインホフ元帥、ワルターメッツ元帥は勇退し、変わってシュタインホフ上級大将、エーレンベルク上級大将がそれぞれ元帥に昇格して、統帥本部総長、軍務尚書となったのである。

こうして、ラインハルトは原作同様正規艦隊の半数を指揮下に置き、元帥府を開設し、その麾下正規艦隊九個艦隊を始めとする十五万余隻を手足のごとく指揮する立場となったのであった。

彼の麾下に所属する主だった将官は次のとおりである。なお、論功行賞によって多少なりとも序列が代わったことを付け加えておく。【】はローエングラム元帥府における役職を示し、●は転生者を示す。なお、中将以上の者は正規艦隊の司令官を兼務することとなる。

【上級大将】
●イルーナ・フォン・ヴァンクラフト上級大将。【副司令長官補佐兼元帥府次長】
【大将】
オスカー・フォン・ロイエンタール大将【元帥府参謀本部作戦本部長】
ヴォルグガング・ミッターマイヤー大将【元帥府艦隊運用部長】
●フィオーナ・フォン・エリーセル大将【元帥府軍務局局長】
【中将】
●ティアナ・フォン・ローメルド中将   【元帥府参謀本部作戦本部次長】
フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト中将【元帥府陸戦部隊司令官】
コルネリアス・ルッツ中将        【元帥府軍務局教育部統括】
エルネスト・メックリンガー中将     【元帥府軍務局人事部統括】
アウグスト・ザムエル・ワーレン中将   【元帥府軍務局後方支援部統括】
ナイトハルト・ミュラー中将       【元帥府軍務局情報部統括】
エルンスト・フォン・アイゼナッハ中将  【元帥府軍務局補給部統括】
●バーバラ・フォン・パディントン中将  【元帥府帝都防衛司令官】
【少将】
カール・グスタフ・ケンプ少将 【元帥府航空戦隊司令官】
●レイン・フェリル少将    【元帥府参謀作戦本部第一課長】
ルグニカ・ウェーゼル少将   【元帥府陸戦部隊指揮官】
 ウルリッヒ・ケスラー少将   【元帥府軍務局科学技術部門補佐役】
ヘルムート・レンネンカンプ少将 【元帥府憲兵部隊司令官】

そして――。
ジークフリード・キルヒアイスは未だ少将ではあったが、ラインハルトの参謀長として常にそばにいる。いずれはラインハルトはイルーナと共にローエングラム陣営の№2にさせたい考えを持っていた。

 ケンプはワルキューレ部隊の陣頭指揮を執り、アースグリム級戦艦の爆発に巻き込まれたとみられていたが、奇跡的に無事だったのだ。通信装置が故障して通信できなかったという事である。
 また、当然この他にもまだまだ将官は多数所属しているが、これは割愛する。なお、リューネブルク少将はフィオーナ艦隊直属の陸戦隊指揮官として彼女が身柄を引き取っている。
 


 ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将の元帥任命の式典は皇帝陛下自らが執り行うことになっていた。



ランディール侯爵邸――
■ アレーナ・フォン・ランディール
式典当日だってのに朝から雪が舞っているわね。外に出たら確実に氷点下の寒波だわ。ま、ラインハルトの式典までには雪はやむだろうって言っていたから大丈夫でしょ。

あ~あ・・・。

 未だに後味が悪いわ。おじいさまにそれとなく引退を勧めてOKをもらったところまではいいのだけれど、ああもあっさりとOKを言われると拍子抜けしちゃうわ。耄碌したとか、ボケが始まったとか、そういう事じゃなくて、なんていうか、グリンメルスハウゼン子爵爺様がいなくなっちゃったので、気が抜けてしまったみたいなのね。私よりもヴァルハラを見ていた感じだったわ。それが見てらんなくて、
「グリンメルスハウゼン子爵爺様に申し訳ないと思わないのおじい様!?」
ってきつい調子で言っちゃった。おじいさまはびっくりなさってたわ。
「グリンメルスハウゼン子爵爺様の分まで生きようとは思わないの?」
「無駄じゃよ、アレーナ。人には天命というものがある。それを闇雲に伸ばすようなことはヴァルハラにおわす大神オーディンの意志に逆らうことになるでな。」
驚いちゃった。おじいさまはグリンメルスハウゼン子爵爺様とおんなじことを言ってる。
「それに、儂の役目は終わった。」
急におじいさまが改まった顔をしてぽつんとつぶやいたのを危うく聞き逃すところだった。思わず聞き返しちゃった。終わった?今「終わった。」っておっしゃったの?どういうこと?
「アレーナ。かの金髪の孺子・・・いや、ローエングラム伯が元帥になったのじゃ。後はかの者の力量がかの者の運命を決めていくじゃろう。」
今度は絶句。言葉が出てこないってこういうことを言うのね。まさか昼行燈なおじいさまがすべてお見通しだったなんて。
「どうしてそれを――。」
「はっはっは、ナァに、グリンメルスハウゼンや陛下の受け売りじゃよ。儂自身がそこまで洞察したわけではないでなぁ。じゃが、かの者の力量は確かに稀代の英雄と言ってよいじゃろう。それを成さしめたのはかの者自身の力量によるものじゃろうが、アレーナ、お前たちの力もあったことも大きいのではないかな?」
「ええ、その通りです。おじい様。私たちは何としてもラインハルトを支えるって、守り抜くって、決めたんです。今更それを隠そうとも思わないわ。」
「よいよい。それでこそお前らしい。」
おじいさまはそういってまたお笑いになった。しまったなぁ。昼行燈だのなんだのってちょっとバカにしていたことを心底後悔しているわ。やっぱり年の功よね~。それとも天網恢恢疎にして漏らさずってやつ?どっちでもいいけれど、いずれにしてもごまかしは聞かないってことか。

おじいさまは私の肩を軽くたたくと、部屋を出ていった。でっぷりしている割にその足取りはまだしっかりしているけれど、その背中はなんだか中身スカスカのパンのようでちょっと頼りなかった。軍務尚書っていう荷物を下ろしたから?それとも拠り所がなくなって気落ちしているから?おじいさまは何もおっしゃってくれないから、どういう心境か私にはわからない。

おじい様ごめんね。でもね、私たちはラインハルト、そしてキルヒアイス、アンネローゼを守り抜くって決めているの。これからもそうよ。

だから利用できるものは何でも利用するの。それが私のスタンスだから。

回想から意識が戻ると、あぁ、だいぶ雪がおさまってきたわね。私の部屋からはうっすらと雪化粧をしたノイエ・サンスーシが遠くに見える。今頃ラインハルト、キルヒアイス、そしてイルーナたちがあそこにスタンバイしてる頃合いかな。

ラインハルト。あなたの背中、そして両肩にはたくさんの人の思いが、希望が乗っているわ。それは眼には見えないし、たぶん多くの人々が自覚すらしていないものだけれど、でも、あなたはそれを背負って歩き続けなくちゃならない。お姉様を取り戻しただけで「ハイ、サヨウナラ。」なんて言うのは許さないからね。だからがっかりさせないで。元帥になったからといってそこで道は終わらないんだから。

あなたが本当に歩かなくちゃならない道はこれから始まるんだから・・・。





 ノイエ・サンスーシ 黒真珠の間 控室――。
ラインハルト、キルヒアイス、そしてイルーナ、フィオーナ、ティアナが彼の傍らに立っていた。正装したラインハルトは席に座り、キルヒアイスたちは傍らに立っている。
「残念です。アレーナ姉上がいてくださったら、そして姉上がいてくださったら、私には何も言うことはないのですが。」
「アレーナには後であなたから話を聞かせてやるといいわ。この式典の後アンネローゼには会えるのだし。それにしても・・・・。」
イルーナは一瞬目をしばたたかせ、不意に横を向いた。
「イルーナ姉上?」
『教官?』
「イルーナ様?」
これにはラインハルトだけでなくフィオーナ、ティアナ、キルヒアイスも驚いたらしい。
「いえ、ついにあなたがここまで上り詰めたのだと思うと、感慨深いものがあるの。それでつい・・・。ごめんなさいね。むろんこれが終着点ではなく通過点に過ぎないことは承知しているけれど。」
「わかっております。ええ・・・。」
ラインハルトの瞳にもかすかにゆらめくものがあったのを確かにイルーナは見届けたのだった。
「そろそろお時間です、お支度を。」と侍従武官が知らせに来たので、ラインハルトは立ち上がった。
「では、私たちは控えの間にいっております。」
キルヒアイスが言う。
「ラインハルト。」
ワルキューレは汝の勇気を愛せり、が演奏され始める中をイルーナはラインハルトに声をかけた。
「元帥になったからにはあなたは宮廷と深いかかわりを持つことになるわ。今まで以上に大変な思いをすることがあるだろうけれど、私たちはこれまで通りずっとあなたを支えていくから。」
しっかりとうなずきを返したラインハルトは、前を向き、ぎいっと開かれた黒檀の大扉から中に入っていった。4人はそれを見届けて控室に下がっていく。
両側にと列する文官武官の中をラインハルトはしっかりした足取りで、ただ前だけを向いて歩いていく。その視線の先には皇帝陛下が玉座に座っているが、ラインハルトの瞳はその先を、見通しているようだった。たとえ皇帝と言えども自分の志をとめることはできはしないのだというかのように。

午前10時。冬の陽光が厚い雲を通してかすかな光を投げかけているのが、厚いガラス窓の外に見える。今朝がた降っていた雪は既にやんでいた。

ひざまずいたラインハルトの頭上に皇帝陛下のお声がふってきた。
「ローエングラム伯、ミュッケンベルガー主席元帥、ブラウンシュヴァイク公爵と協力し、反乱軍を鎮圧した此度の武勲、見事なものであった。」
「恐れ入ります。これもひとえに陛下の御威光の賜物でございます。」
ラインハルトは静かに頭を下げた。が、その胸中は複雑であった。皇帝に対しての憎悪はある。だが他方でつい先日まで傍らにいた門閥貴族の一員であるリッテンハイム侯爵を反乱軍という一言であっさり片付けてしまうフリードリヒ4世の心情に疑問を持っていたのだった。あまりにもあっさりとしすぎているのだ。何かしら心情を垣間見えることができないか、と思ったが、すべて平板な声の他には何も感じ取れなかった。もっとも、フリードリヒ4世は本心を韜晦するすべを身に着けているとイルーナたちから散々聞かされていたから、そのあっさりした態度がフリードリヒ4世の本心とは思わなかった。

そのようなことを考えているラインハルトをよそに、儀式は進行していく。フリードリヒ4世は傍らに立つ侍従から捧げられた羊皮紙を手に取り、穏やかな声で読み上げた。
「カストロプ星系会戦、リッテンハイム星系会戦の反乱軍討伐功績により、汝ローエングラム伯ラインハルトを帝国元帥に任ず。また帝国軍宇宙艦隊副司令官に任じ、宇宙艦隊の半数を汝の指揮下に置くものとする。帝国歴486年12月23日、銀河帝国皇帝フリードリヒ4世。」
元帥杖を受領したラインハルトがゆっくりと玉座から下がっていく。この時拍手も何もなく、ただ荘厳な雰囲気だけが漂っていたが、ラインハルトにとっては他者の関心などどうでもよかった。

ラインハルト・フォン・ローエングラムが元帥になった瞬間であった。原作よりも3か月早い昇進であった。
 
 

 
後書き
 ラインハルトが元帥に任命されたことをもって第一部は終了しました。ここまでだいぶ時間がかかりましたが、ようやく原作における「アスターテ星域会戦以後」のスタートラインに立ったわけです。ここまでのラインハルトは原作で経験しえなかったことを経験することができ、反対に原作で経験をしたことを未だ経験していません。
 この先がどうなるのか、ラインハルトが宇宙の統一を成しえるか、転生者たちはどう感じ動くのか、それを見守っていただければと思います。 
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