| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3章:再会、繋がる絆
  閑話8「闇の書・後」

 
前書き
一話にまとめるにはあまりにも長すぎたので分けました。
 

 






       =司side=







「.....ん....。」

 目を、覚ます。深い微睡から目覚めたように、眠気を伴いながら。

「ここ...は....?」

 直前の記憶があやふやだ。ついさっきまで何をしていたか少し思い出せない。

「...確か....闇の書と...。」

 そう。私は皆と一緒に闇の書と戦っていたはず。なら、これは...。

「っ.....!」

 ....そこで、ついさっきまでの出来事を思い出した。

「そう、だ...!私っ...!」

 私は、闇の書に吸収された。
 なら、今私が見ているこの光景は夢か幻覚辺りだろう。

「早く何とかしないと、また...!また...!」

   ―――皆に、迷惑が掛かってしまう...!





「....司?起きているの?」

「.....え....?」

 ...思考が、一瞬停止した。
 扉越しに聞こえてきたその声の主が、あまりにも信じられない存在だったからだ。

「起きているのなら、早く下りてらっしゃい。朝食はもうできてるわよ。」

「.....お母...さん.....?」

 誰にも聞こえない程、か細く私は呟いた。
 ...そう。その声の主はお母さんだ。...ただし、前世の。

「(なんで....?)」

 理解ができなかった。...いや、私が無意識に理解するのを避けていた。
 ありえない...というより、辻褄が合わないからだ。

 ...それに、何よりもお母さんが私なんかにあんな優しく声をかける訳がない。

「一体...どうなって....。」

 体は司のまま。だけど、状況は前世の聖司の状態。
 よく見れば、今私がいる部屋は入院前の私の部屋にそっくりだった。

「司?起きているのなら早く....。」

「っ.....!」

 部屋の中の物音で私が起きていると判断したのか、お母さんが入ってくる。
 ...その瞬間、私の体が震えあがった。

「っ...ぁ....!?」

「司!?ど、どうしたの!?」

 震えが治まらない。お母さんを見るだけで叫びたい程の感情の昂りを覚える。
 ...そう、これは恐怖だ。...私は、お母さんに恐怖している。

「ぁ....ぁ....。」

「司!司!大丈夫!?しっかりしなさい!」

 これは夢だと、頭でわかっていても体の震えは一向に治まらない。
 ...それだけ、私にとってお母さんが恐怖の象徴となっているのだろう。

「.........。」

 そのまま、力が抜けるように私は意識を失ってしまった。







「.......。」

 ...再び、目を覚ます。
 今度は直前の事は覚えている。...私がお母さんに恐怖した事も。

 多分、あれは私のトラウマが掘り起こされたようなものなのだろう。
 だから、私はあそこまで怯えていたのだと思う。それこそ、気を失う程。

「....落ち着いた?」

「...お母...さん...。」

 ずっと看病してたのだろうか。お母さんが話しかけてくる。
 ...今度は、大丈夫だった。

「ごめん、なさい...。」

「何を謝ってるのよ...。それより、大丈夫なの?」

「...なんとか...。」

 それでも、まだ恐怖は拭いきれていない。
 恐る恐る私は話すけど、お母さんは優しく語り掛けてくる。



   ―――“優しく”....?





「.....司?」

「はっ..!?...な、なんでもないよ...。」

 何か違和感を感じたけど、今は気にしないでおく。

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。....ちょっと、夢見が悪かっただけ...。」

 適当に言い訳をしておく。

「そう...。なら、早く朝食を食べましょう。」

「うん。」

 お母さんと一緒にリビングへと降り、そこにいるお父さんと一緒に朝食を食べる。

「大丈夫だったか?母さんから聞いたが、相当怯えたような様子だったが...。」

「だ、大丈夫だよ...。」

 お母さんと同じように、お父さんも“優しく”言ってくれる。

「......。」

 その後は、軽く雑談しながら、朝食を食べ終わり、朝の支度も終わった。
 まるで、何気ない日常のように幸せで...。





   ―――....“幸せ”....?





「....ぁ.....。」

 ...なんとなく自分の部屋に戻って物思いに耽った所で、気づく。
 ....気づいて、しまう。







   ―――あんたなんかに....幸せなる権利なんてないわよ....!







「ぁぁ....ぁああ.....!」

 そう。この夢は、私が望んだ夢だ。
 私が、“こうであれば幸せだろう”と思ったからできた夢だ。
 “幸せ”になれる。そんな夢...なんだ...!

「ぁああああああああ!!」

 だけど、それはダメだ。許されない。赦しては、いけない...。

「私が...私なんかが...!」

 私に幸せになる資格はない。だから、だから...!

「こんな夢なんて、見ていられない!だから....シュライン!」



   ―――この夢を...“拒絶”する。



「“セイント・エクスプロージョン”!!」

 大きく魔法陣が広がり、爆ぜた。
 それと同時に、世界に罅が入り...壊れた。













       =out side=







「が、ぁっ!?」

「神夜君!」

 攻撃が躱され、ビルに叩きつけられる。
 その力はあまりにも強大だったのか、ビルは崩れ、神夜の防御力を貫通していた。

「終わりだ。」

「ぐ...く....!」

 四対一でさえ、劣勢だった。
 叩きつけられた神夜は、そのままバインドで拘束され、巨大なドリルのような槍が差し向けられる。

「させ....っ!」

     ドドドォン!!

「っ....!」

「邪魔はさせん。」

 阻止しに行こうとした奏だが、飛んできた赤い短剣に阻まれ、近づけない。
 そのまま、槍が放たれそうになった瞬間...。

「ぁああああああっ!!」

     ―――ザンッ!!

 闇の書から光の球が現れ、そこから司が飛び出してくる。
 そして、強い魔力を持ったシュラインで槍を真っ二つに切り裂いた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

「司....?」

「司さん!」

 息を切らし、シュラインを振り切った司は、そのまま闇の書を睨む。

「....まさか、もう抜け出してくるとはな...。」

「っ...あの夢で、私が囚われるだなんて、思わないで!」

 瞬間、司は感情に任せて突貫する。
 そのスピードは今までよりも遥かに速く、闇の書もパイルスピアで咄嗟に防いだ。

「ぁあああああっ!!」

 防がれた状態から、司はさらに魔力を放出し、穂先から衝撃波を繰り出す。

「むっ...!?」

「その想いを以って、打ち砕け!」

〈“Prayer blow(プレイヤーブロウ)”〉

 障壁を展開し、ほんの少しだけ間合いが離れるに留まった闇の書が、先程よりも強く穂先に集まる魔力に気づき、声をあげる。
 その瞬間、司の祈りをそのまま力にした槍の一突きが放たれた。

「っ....!?」

「ぁあああっ!!」

 咄嗟に障壁を十枚展開し、自身も後ろに飛び退く。
 刹那、障壁は五枚程割れ、闇の書は海の方角へ吹き飛ばされる。
 それを追うように司は声を上げ、追撃を繰り出す。

     ギギィン!ギギギギィン!

「っ、ぁ....!」

 息をつかせぬ勢いで司は連撃を放つ。
 突き、払い、叩きつけ。長物の槍とは思えない程高速に司は動いた。

 ...だが、その全てを闇の書は受け止めていた。
 それも、吹き飛ばされた勢いはそのままとはいえ、無傷に...だ。

「っ....!」

「囚われる前よりは動きがいいが...一つ覚えのような連撃、徹ると思うてか。」

 全ての攻撃がパイルスピアと障壁で受け流される。
 ...当然だ。今の司は感情に任せて攻撃している。
 そんな直線的な攻撃では戦乱に存在していた闇の書に勝てるはずもない。

「ならっ!」

 今度は間合いが離れたまま槍を振るう。
 瞬間、シュラインから斬撃が飛び、闇の書を襲う。

「.....!」

「はぁっ!」

 それを避けずに受け止めた闇の書。
 その背後から司は襲い掛かるが...。

「甘い。」

「っ!?」

     ギィイイン!!

 後ろを取ったのが仇となり、受け流された斬撃が司を襲う。
 咄嗟にシュラインで防ぎきるが、明確な隙を生じてしまう。

「ふっ!」

「ぐ....ぁあっ!?」

 意趣返しかのように背後から強襲され、大きく吹き飛ばされる司。
 いつの間にか海に来ていたのか、暴走の影響で海から生えてきた角のような柱に司はそのまま叩きつけられてしまう。

「虹よ...七色の光となりて撃ち貫け。“Regenbogen Strahl(レーゲンボーゲン・シュトラール)”...!」

「っ.....!?」

 虹のような七筋の砲撃。それが無慈悲にも司に放たれた。

「ぁあっ!」

 着弾の寸前、司は祈りの力を放出する。

「っ、なに...!?」

「“セイント・エクスプロージョン”!!」

 すると、司の姿は砲撃が着弾した所から消え、闇の書のすぐ傍にいた。
 それに闇の書が気づくも一足遅く、司はシュラインを振り下ろして爆発を起こした。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ....!」

〈マスター!〉

「大..丈夫...!」

 普段と違う戦法。それは、あまりにも苛烈な攻め方なため、体力の消費も大きかった。
 シュラインも司を心配するが、司は依然変わらないまま構える。

「........。」

「っ.....!」

 そして、無傷で現れる闇の書。
 無傷だという事実に、司は少し恐怖を覚えた。





「司さん...どうしちゃったの...?」

「...どこか、今までと違う...。」

 司が闇の書を吹き飛ばした後、なのは達も闇の書を追いかけてきていた。

「...司、どうしちまったんだ...!一体、闇の書の中で何が...!」

 三人とも、復帰した司の様子に、困惑していた。
 特に、司を好いている神夜は“原作”から闇の書の夢を知っているが故に、人一倍司の事を心配していた。

 ...三人は知らない。
 司は“幸せになってはいけない”という、強迫観念に囚われているのを。

「今すぐにでも、援護した方が...。」

「ダメ...!あの状態の司だと、下手に援護すると却って危険...!」

「そんな...!」

 未だ繰り広げられる、闇の書と司の苛烈な攻防を、三人は眺めるしかなかった。

「...司がやられそうになるまで、見てるしかないのか...!」

「っ....。」

 悔しそうに神夜は言い、何もできない事に手を握り締めるなのは。

「...なのは、A.C.Sは使えるか?」

「えっ?...使えるけど...どうして神夜君が...。」

 ふと思いついたように、神夜がなのはに聞く。
 なのはは、なぜレイジングハートの新たな機能を知っているのか疑問に思った。

「二人のデバイスにカートリッジを実装される時に、マリーさんに聞いたんだ。」

「そうなんだ。」

 実際は“原作”で知っていただけで、神夜は少し冷や汗を掻いていた。
 思わない所でボロを出してしまいそうになったからだ。

「...それで、私は何をすればいいの?」

「闇の書が隙を見せるか、司がやられそうになった時、突撃してくれ。援護は俺とフェイトでやる。だから、迎撃とかは気にするな。」

「っ...!...うん、わかったよ。」

 神夜の言う事に、なのははしっかりと返事をする。
 そして、三人は来るべき時に備えながらも、司を見守った。





「ぁぁあっ!」

「....!」

     ギィン!ギギィン!

 槍とパイルスピアがぶつかり、展開されたお互いの魔力弾は相殺される。
 司が後を考えずに猛攻を仕掛けているため、ギリギリ戦いは拮抗していた。

「っ、ぁあっ!」

「はぁっ!」

 ...だが、それはいつまでも続かない。
 力負けした司が柱に叩きつけられ、そこへ闇の書が追撃する。

「っ、ぐ...!」

 ギリギリでそれを回避するも、追撃で放たれた回し蹴りを喰らってしまう。

「が...ぁ...っ!?」

〈マスター!!〉

 意識が飛びそうになるのを、司はシュラインの声で何とか保つ。

「っ、ぁっ!」

「む...!」

 祈りを反映させ、下から突き上げるような砲撃を放つ。
 それを見た闇の書はすぐに飛び退き回避する。

「ぐ...かふっ....!」

「......。」

 その間に司はその場から飛び退き、間合いを離す。
 ...しかし、動きが鈍くなった事により生じた隙を闇の書は見逃さない。

「....よくやった、と言いたい所だな。」

〈“Photon Lancer Genocide Shift(フォトンランサー・ジェノサイドシフト)”〉

「....だが、終わりだ。」

 司を包囲するように、魔力弾が包囲する。
 フェイトの扱う最大魔法...その派生魔法だ。

「っ、ぁ....!?」

〈マスター!防御を!!〉

 既に満身創痍。その状態で包囲するように展開された大量の魔力弾。
 それは、不安定な司の心を恐怖に陥れるには、十分だった。

「っ...ぁあああああああ!!」

〈“Mind shell(マインドシェル)”〉

 そんな状態での、祈りを反映させる防御魔法。
 しかし、恐怖した心が功を為し、普段よりもよっぽど強固な防御魔法が展開された。
 殻に閉じこもるように司は防御魔法に包まれ、射出された魔力弾を防ぐ。



「っ、はぁっ、はぁっ....。」

 何とか防ぎきり、防御魔法も砕け散る。
 1000発を超える魔力弾を防ぎきり、司は少し安堵する。

 ...しかし、それがいけなかった。

「がっ....!?」

「...あれを防ぎきるのは予想外だった。」

 柱に叩きつけられるように、司は闇の書に首を掴まれる。

「だが、これで今度こそ終わりだ。」

「ひっ....!?」

 冷たく、ただ冷たく自身を見てくる闇の書に、司は怯える。

   ―――....怖い...。

「っ、ぁ....ぁぁ....!?」

「...心が折れたか。ならば、せめて痛みを感じずに....眠れ!」

 無慈悲に放たれるパイルスピアの一撃。
 魔力もほとんど使い果たし、恐怖で身動きの取れない司に、それを防ぐ力はない。

「ぁああああああああっ!!」

「っ!?」

 ...だが...いや、だからこそ、司はそれを“拒絶”した。
 少しだけの魔力...しかし、祈りの力で極限まで強化された魔力が、闇の書を弾く。

「ぁ......っ....。」

 ...そして、それが司の限界だった。
 そのまま、力尽きるように司は落ちていく。

「.......っ!?」

「はぁああああああっ!!」

 落ちていく司を見下ろし、トドメを放とうとする闇の書。
 しかし、バインドが足に掛かり、そこへなのはが突貫してきた。

「(...ぁ....みん、な......。)」

 司を抱きかかえるように救出するフェイト。
 カートリッジを何発もロードし、闇の書を押すなのは。

 皆が助けに来た事に安堵し、司はそのまま意識を闇に落とした。













       =司side=







「......っ....。」

 目を、覚ます。
 直前の記憶を思い出そうとして、体が震える。

「わた、し...は....。」

「目が覚めましたか?」

 体の痛みに耐えつつ横を見ると、そこにはリニスが座っていた。

「どう、なったの...?」

「事件は一応の解決となりました。司が気絶した後、フェイト達に加え、結界の解析も終わった事で私やアルフ達も増援に駆け付け、はやてさんの意識を覚醒させました。その後は復活したヴォルケンリッターとはやてさんに協力してもらい、闇の書の防衛プログラムのコアを破壊する事に成功しました。」

「...そう、なんだ...。」

 上手く行った。...と言う事なのだろう。

「私は、結局....。」

「...司の今の状態は、リンカーコアを蒐集された時に相当する程のひどさです。....よく、ここまで頑張りましたね....。」

「ぁ....。」

 優しく、リニスは私を撫でる。
 ...今は、それがどんな言葉よりも癒しになった。

「....ただ...。」

「...え?」

 少し目を伏せ、悲しそうにするリニスに、私は動揺した。

「...防衛プログラムは確かに破壊しました。...しかし、それも結局は一時的なもの。...またいつかは、暴走してしまうようなんです。」

「なん...で....。」

 あれほどまでに頑張ったのに、また復活してしまう。
 その事に、私は絶望を感じずにはいられなかった。

「だから、闇の書...いえ、夜天の書の管制人格であるリインフォースさんは...そのプログラムごと、自身の消滅を望みました。」

「っ...!?」

「管制人格である自分と共に消えれば、プログラムのバグが復活する事はない....と、リインフォースさん本人が言っていました。」

 それは...つまり、自分が犠牲になるという事。

「そんなの...残される人は...はやてちゃんはどうなるの!?」

「...はやてさん自身は、しばらくアースラの監視下でヴォルケンリッターを含め、無償奉仕をする事になっています。」

「そういう事じゃなくて...!」

「.........。」

 この後どうなるのかではなく、どんな思いをするのかという意味でリニスに聞く。
 ....けど、リニスは目を伏せたまま喋らない。

「ダメ....ダメだよ...そんなの、せっかく...助けられたのに....!」

「...リインフォースさん自身が望んだ事なんです...どうか、聞き入れてください...。」

「っ......。」

 例え、消滅する本人が望んだ事でも、私は納得できなかった。

「...何か...他に何か、バグを消し去る方法とか...プログラムを安全化する手段はないの!?そんなの、納得できないよ...!」

 せっかく助かったのに、結局助からない。
 そんな事実、私は認められなかった。...認めたく、なかった。

「...無限書庫であれば、可能性はあるでしょう。...しかし、あまりに時間が足りません。」

「っ....でも....!」

 それでも、諦めきれない。
 なりふり構わずにはいられなくなり、私は立ち上がろうとする。

「っ、無理しないでください!司はまだ、動けるような体じゃ...!」

「シュライン!!」

 リニスが痛みを堪えて動こうとする私を抑えようとする。
 そこで私はシュラインに呼びかけ、私の力を行使する。

〈...後回しにするだけです。マスターの今の状態は、マスター自身の力が起こしたもの。マスターの力では、一時的に凌ぐだけです。〉

「それでもいい!」

〈...では。...後の事を覚悟しておいてください。〉

 そういって、シュラインは私の力を受け、魔法陣を発生させる。
 その瞬間、私の体から痛みが引いていく。

「.....!」

「司!待ってください!司!!」

 リニスの制止を無視して、私は駆けだす。
 目指すは...件のリインフォースさんのいる所!!







「皆!!」

 廊下を歩くなのはちゃん達を見つける。
 その姿は、まるで何かにお別れを告げに行くようで...。

「つ、司さん!?」

「はぁっ、はぁっ....リインフォースさんは、どこ!?」

 なのはちゃん達の驚きを無視して、私は問いただす。

「え、えっと海鳴市の見晴らしのいい場所に行ってるって...。」

「っ....!」

「あ、司さん!?」

 見晴らしのいい場所...それはつまり、高台の可能性が高い!
 そう思った私は、なのはちゃん達を追い抜いて転送ポートへ駆け込む。

「座標は...海鳴市の上空!」





「っ...!」

 上空に放り出されるように転移が完了する。
 すぐに飛行魔法を使い、辺りを見渡す。

「(見晴らしが良さそうな場所は...あそこ!)」

 見つけたのは、海鳴市の中でも一番見晴らしがいいと呼ばれる高台だった。
 ...そして、そこに目的の人物も立っていた。

「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ....。」

「.....!」

 着地し、切らしていた息を整える。
 ...目覚めたばかりだから、体力の消耗も大きい。

「お前は....。」

「リイン...フォースさん....。」

 彼女は、じっと海鳴市の景色を眺めていた。
 ...まるで、これが見納めとでも言うかのように。

「...聖奈司といったな...なぜ、ここに...?つい先ほどは、まだ眠っていると聞いたが...。」

「...っ....貴女を、止めに来ました....!」

 彼女の声に、少し体が震える。昨日の戦いが少なからずトラウマになっているのだろう。
 だけど、それを抑え込んで私はそう言った。

「...無理だ。話は聞いただろう?このままでは、再び暴走が起こってしまう。」

「っ...でも、何か他に方法が...!」

 あるはず。...そうでなくては困る。
 そんな思いで私は聞く。...けど....。

「...無理だ。それこそ、奇跡を起こさない限り...。だが、既に奇跡は起こしてしまった。...我が主を闇から解き放つという、奇跡をな...。」

「そん...な.....。」

 私はその場に崩れ落ちる。
 無限書庫や別の何かで他の方法を調べる時間はない。...だからこその絶望だった。



   ―――....そして、それでもまだ、諦められなかった。



「....嫌だ.....。」

「...なに?」

「.....もう、嫌だ....!」

 ...いや、これは諦められないというより、認めたくなかったのだろう。

「私の目の前で、“不幸”になる人は、見たくないの!!」

「だが、これはどうする事も...。」

 それは、後から考えれば気持ちの押し付けだっただろう。
 だけど、それでも認められなくて...“拒絶”した。

「ぁああああああ!!」

 精神が不安定だからか、私は取り乱すように“力”を行使する。
 シュライン辺りが止めようとしてただろうけど...それは届かなかった。

「っ、く....!?」

「ぁ....っ!?」

 ...やってしまってから、気づいた。
 いつの間にか展開していたシュラインの穂先が、リインフォースさんを貫いていた。



   ―――...でも、結果的には、それが唯一の“正解”の手段だった。



「ぁ、ぁぁ...!」

「っ、....?....なに...?」

 何をやっているのだろうと、後悔と絶望に崩れ落ちる。
 そんな私を余所に、リインフォースさんは怪訝な声をあげていた。

「バグが....完全に消滅している...?」

「....ぇ....?」

 その言葉に、私は顔を上げる。
 ...見れば、シュラインに貫かれたはずのリインフォースさんには、傷が一つもない。

〈...マスターの“拒絶”の意志が、功を為したのでしょう。リインフォース様に対する、“消えてほしくない”という強い想いが、バグを打ち消す力となって働いたのです。〉

「....そう...なの...?」

「そのような事が...あるのか...。」

 ただただ驚くリインフォースさんと一緒に、私は茫然とする。

「リインフォースさん!」

「司!」

 そこへ、急いで追いかけてきていたのか、なのはちゃんとフェイトちゃんが駆け付ける。
 
「な、なにが...。」

「これは...。」

 結果的に大丈夫だったとはいえ、今の私はバリアジャケットを纏っており、シュラインも展開している。...既にシュラインは地面に降ろしているとはいえ、傍から見れば私がリインフォースさんに刃を向けていたようにしか見えない。

「えっと、これは.....ぁ....?」

 とりあえず、弁解しようとして...その場で目眩に見舞われる。

「え!?あ、司さん!?」

「っ、しっかりするんだ!」

 そのまま、座り込むように立っていられなくなる。
 なのはちゃんや、リインフォースさんの心配する声が、どこか遠くに聞こえた...。











「.....ぁ....。」

 ...気が付けば、そこは先程もいた医務室のベッドだった。
 また、気絶してたんだ...。

「....司...。」

「り、リニス...?」

 声を掛けられそちらを見ると、明らかに怒っているリニスがそこにいた。

「...貴女はまた無茶をして...!シュラインとリインフォースさんから話は聞きましたよ。ただ無茶をするだけならまだしも、錯乱してリインフォースさんを刺すとはどういう事ですか!」

「う....ごめんなさい...。」

 体を動かそうとして動かなかったので、とりあえず口だけでも謝っておく。
 ...落ち着けば、ホントになんであんな事を仕出かしたのかが理解できない。

「....ただ、その行為が結果的にリインフォースさんを救う事になったのは、本当に良かったです。...貴女がリインフォースさんを救ったのですよ。」

「私...が....?」

 実感が湧かない。...だって、前世は私のせいで皆に迷惑が掛かったのだから。

「とにかく、安静にしていてください。無茶をした体で、さらに無茶をしたんですから。」

「....うん...。」

 リニスに言われて、私はベッドに沈み込むように休む。







 ....それからは、なぁなぁな感じで事が過ぎて行った。
 私がリインフォースさんにやったあの奇跡は、結局あの時限りの不安定な精神状態での強い想いと偶然が引き起こした正真正銘の“奇跡”という事で、これ以降は起きないだろうという事で片づけられた。
 はやてちゃん達は、全ての原因がバグだという事で、リニスの言っていた通り、アースラの監視付きでしばらくの無償奉仕という処遇になった。
 そして、私はというと...。

「....久しぶりな気がするなぁ...。」

 久しぶりに翠屋にやってきていた。もちろん、お客として。
 あの後、体を癒した後は特に何も聞かれなかった。
 私のレアスキルが特殊なのと、私自身、あの時の力の使い方は覚えていないから、聞いても無駄だと判断されたみたい。
 ....本当に、この力は一体なんなのだろう。
 “祈り”を現実に反映させてるみたいだけど...。

「『...ねぇ、シュライン。教えてくれないの?』」

〈『教えるもなにも、以前に教えた事が全てです。』〉

 念話でシュラインに聞いてみるも、そんな返答しかない。
 シュラインから以前聞いたのは、祈りを現実に反映させる事というだけ。
 ...でも、それにしては...。

「『強力すぎない?』」

〈『...それだけ、マスターの想いが強かったのです。また、私は祈祷型のデバイス。マスターのレアスキルの力を強化する事も可能です。』〉

「『そっか...。』」

 そこまで、私の想いが強かったのかと疑問は残るけど、一応それで納得する。

「さて、と...。」

「あれ?司さん、帰っちゃうの?」

 席を立つと、店の手伝いをしていたなのはちゃんにそう言われる。

「うん。ここでのんびりするのもいいけど、家でゆっくりするんだ。」

「そうなんだ...。じゃあ、はいこれ。」

 そういってなのはちゃんからシュークリームの箱を渡される。

「お母さんから。皆頑張ってきたからだって。」

「...うん。ありがとう。」

 “頑張ってきた”というのは闇の書の事だろう。あの後、なのはちゃんの家族や、すずかちゃん、アリサちゃんとか一部の人達には魔法の事を話したからね。
 断る理由もないので、しっかりと受け取っておく。

「じゃあね。」

「はい!また来てね!」

 なのはちゃんの笑顔に見送られながら、私は帰路に就く。

 “平和”だと実感できる、何事もない日常に帰ってきた。
 私が“拒絶”した犠牲のある事件の終焉を、私たちは回避する事ができた。





   ―――だけど....。







「....っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

 夜中の時間、私は飛び起きる。
 体中に冷や汗を掻き、私は動悸を抑えるように呼吸を整える。

「....また....。」

 私がこうやって飛び起きる理由は、先日の闇の書との戦い。
 あの時の追い詰められた事が、私のトラウマとなっているのだろう。

「(...“勝てない”...。)」

 夢の中で、私はひたすらそう思いながら闇の書に追い詰められていく。
 そして、いつも最後は首を掴まれ、冷たく見つめられながら折られて目が覚めるのだ。

「っ.....。」

 体が震える。...一歩間違えればあそこで死んでいたかもしれないのだから。

「(シュラインも、医務室の人も落ち着けば治るって言ってた...けど...。)」

 度々夢に出てきて、私はその夢に魘される。
 その度に私はこうして飛び起きて恐怖に苛まれた。







 確かに、言われた通りにしばらくしたらそれも治まった。
 だけど、確かにその恐怖は私の心にしっかりと植え付けられてしまった。







   ―――私の心の底で、黒いナニカが燻ったような気がした...。















       ―――――――――――――――――――――















「(私に幸せになる資格なんてない...。)」

 改めて、その言葉を頭の中で反芻する。
 だけど、それ以外にも...。

「(っ......。)」

 あの時の恐怖心が、私の心を侵す。
 ただただ“怖い”と、体が震える。

「(....っ.....ぅ...ぅぅ.....。)」

 私は幸せにはなれない。だけど、それでも...それでも...。



   ―――孤独と闇が、怖かった。









 .....怖い....恐いよ....優輝君.....。

 早く....早く■けに....来て.....。











 
 

 
後書き
Regenbogen Strahl(レーゲンボーゲン・シュトラール)…七つの砲撃を同時に放つ魔法。虹のようにカラフルだが、その威力は一つ一つがなのはのディバインバスター並。由来は“虹”と“光線”のドイツ語。

Mind shell(マインドシェル)…心の壁。所謂A.Tフィールド。恐怖や拒絶と言った感情と相性のいい魔法だが、やはり本領は祈りの力の方が強固。由来は英語での“精神”と“殻”。

最後は“今”の司です。...過去視点との区切りでいいのが見つからない...。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧