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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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ピースウォーカー・前

 
前書き
想定以上に長くなったので、前後に分割します。 

 
新暦67年9月24日、15時50分

気持ちを整え、ジャンゴ達はポー子爵の待ち受ける部屋へと足を踏み入れる。そこは暗闇に包まれた巨大な兵器格納庫で、以前マキナがスカルフェイス相手に大立ち回りをした通路が頭上に見える空間であった。

「死の舞踏会へようこそ。歓迎しよう、盛大に」

「アナタ達が喜ぶと思って、とっておきのプレゼントも用意しておいたわ……」

部屋の中央で小型の機械らしきものに寄りかかりながら、ポー子爵は待ち構えていた。エドガーが指を鳴らすと部屋の照明が一斉に点き、ヴァージニアの言う“プレゼント”の正体が判明する。

「こ、こいつは……もしかして!」

「やれやれ、まさかそう来るとはね……!」

それを目の当たりにして、思わずジャンゴとマキナが一歩引いて全身から冷たい汗を流す。目の前に現れたのは巨大な二足歩行兵器で、どこか恐竜を彷彿とさせる頭部に岩を抉れる威力の機銃が複数、右肩部にサルベージしたメタルギアZEEKのレールガン、左肩部には球体型レーダー、股間部に火炎放射器、右腕部にパイルバンカーと異様な雰囲気が漂う蛇腹剣を握り、腰部には投擲用グレネード弾、脚部にミサイル発射口のカバーが複数と、バックパックにも同様の機構が多く存在していた。

この場にいる者は全員、一目見て理解した。この機体こそがメタルギア・サヘラントロプスだと。なお、彼らは知らないが、この機体は多少の違いこそあれど、過去に存在したオリジナルのサヘラントロプスとほぼ同じ装備をしていた。

「キミ達が探していた核弾頭はこの機体に搭載されている。弾道計算プログラムもそこの彼女の母親(プレシア)が協力してくれたおかげで完成した……」

「後はここから核を発射するだけで、次元世界は報復の連鎖に飲まれるわ……」

ポー子爵がフェイトの逆鱗を逆撫でしながら、もはや一刻の猶予もない事を教える。怒りに任せて言い返そうとしたが、突然部屋の床面積のほとんどを占めるリフトが上昇を開始……ジャンゴ達やポー子爵、サヘラントロプス共々地上へ向かい始めた。

―――ギャィィィアアアアアアッッッッ!!!!!

しかも同時にサヘラントロプスも起動……金属の摩擦する音がまるで恐竜の雄叫びのように轟く。

「このリフトが地上に達し、サヘラントロプスがカウントダウンを終えたその時、核の炎がこの世界を焼き尽くす……」

「それまでの間にワタシ達を倒し、サヘラントロプスを止められるかしら……?」

「……止めて見せるよ。皆が必死に抗ったからこそ、僕達はここまで来れたんだ。その結果が世界の終わりじゃあ……割に合わないだろう!」

「うん! 私を信じてくれた人たちのためにも……この戦い、決して負けられない!」

「私だって、世の中がスカルフェイスの思い通りになるのは癪だ。ニダヴェリールの二の舞になんかさせてたまるか! 行くよアギト!!」

「オーケー、最初っから全力で行くぜ姉御! ユニゾン・イン!!」

「母さんと姉さんを利用した報いを……! お兄ちゃんが守った未来を……こんな形で失わせはしない!」

戦闘態勢への移行と並行して、ジャンゴ達が意気込みを語る。それを嘲笑うかのように、ポー子爵は一行を見下ろす。

「元気だねぇ」

「かわいい子達……」

「キミ達がどれだけの力を持っていようと」

「ワタシ達のコンビネーションはやぶれはしない……」

するとポー子爵が座っていた機械も起動し、彼らの身体を包み込んだ。その機械仕掛けの鎧を纏う様子を見て、「どこのパワードスーツだよ……」と思わずぼやいたマキナに仲間達も同感の意を示した。

「わが風の鎧はすべての弾をはね返し」

「わが大地の鎧はすべての刃をはね返す……」

紫色の鎧を纏い、西洋剣を構えるエドガー。緑色の鎧を纏い、ライフル二丁を構えるヴァージニア。そして彼らの背後には、核発射シークエンスを進めているサヘラントロプス。敵の準備が万全なのは一目瞭然であった。

「計画を成就させるため」

「覚悟してね……」

そう言い放たれた刹那、爆音の後に続いて両者の武器が衝突……戦いの幕が切って落とされた。

今回の戦闘はイモータルよりもサヘラントロプスの撃破が勝利条件となり、まだ地上に出ていない今の内に巨体ゆえに身動きが制限されるサヘラントロプスに攻撃を加えたいが、それを阻止すべくポー子爵が立ち回るのは必然。更にポー子爵の鎧の性質と得意な戦術を鑑みると、即ち彼らの得意な距離での戦いを制せねばダメージを与えられないことになる。苦手な距離で相手を倒すという戦術のセオリーが使えないのは、こういった時間に追われる状況ではなおさら焦燥感を刺激し、ミスを誘発しかねなかった。

だが、ここにいるのは多くの戦いを潜り抜けた猛者たち。それぐらいではうろたえはしなかったが……鎧をまとっても残念ながら彼らの動きは全く鈍らなかった。

「烈風連刃!」

「当たれ!」

ジャンゴの振るう袈裟斬りや返し斬りに合わせて、フェイトのザンバーが合間合間に加わることで隙の無い連撃を繰り出すも、エドガーの巧みな剣術によってうまく防がれ、更にサヘラントロプスから機銃が掃射されて、その度に二人は一旦下がらざるを得なかった。

「(オイオイ、なんて度胸だよ……!)」

「関心してる場合か!」

隣では駆け抜けながら発砲するマキナの銃口と寸分違わぬ位置にライフルの銃口を置き、全く同じタイミングかつ超高速で撃ち合って迎撃するヴァージニア。両方ともマガジンの弾が切れて一旦リロードに入ったと同時に蹴りを放ち、互いの腹部に衝突、その威力で両方とも後ろに回転しながら吹っ飛ぶ。

「マキナちゃん!」

すかさずなのはがカバーに入るが、サヘラントロプスのバックパックから空中機雷が発射され、そちらの迎撃にシューターを発射。空中機雷の爆発でサヘラントロプスにダメージが入りはしたが、所詮は微々たるものだった。

「クッ……敵にメタルギアがあると、こちらも迂闊に攻め込めない……!」

「しかもこいつはまだ本領を発揮していない……地上に出たらますます厳しくなるね」

「その通り……外に解き放たれたサヘラントロプスは、キミ達では止められなくなる」

「アナタ達は何も守れない……ただ破滅を見守ることしかできないわ」

ポー子爵の言葉に、「そんな事は無い!」と叫ぶなのはとフェイト。リフトが更に地上へ近づく中、二人が発した否定の言葉を嘲笑する彼らとの戦いは続く。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月24日、16時02分

ジャンゴ達がポー子爵と戦っている頃、地上でははやて達と敵側の教会騎士との戦闘がまだ続いていた。狙撃型スカルズはヴィータとシグナムが対応しているが、エナジーが無いせいで倒せず、妨害までしか出来ずにいる。はやてはリインとザフィーラと共に教会騎士の打倒に奮闘しており、シャマルは後方で戦況を見ながら指示し、ダメージを受けて一旦下がった味方に回復魔法を唱えていた。

「あんたら、いい加減目ぇ覚ませや! あんたらがやろうとしていることは、自分達の首を絞めることなんやで! そうまでして世界を滅ぼしたいんか!?」

「幾多の世界を滅ぼしてきた闇の書の持ち主が、それを言うか!」

「お前達は何も理解していない! もし奴らの思惑が為されてしまえば、全ての魔導師が死に絶えるのだぞ!」

「散々命を奪った騎士が偉そうに……! 貴様らのような存在こそが、崇高なベルカを貶めるのだ!」

「この……わからずや!!」

「わかっていないのは貴様らの方だ! 我らが聖王様を次元世界全ての人間が奉ってこそ、真の安寧がもたらされるということがなぜ理解できん!」

「人の信じる心は誰だろうと束縛してはならない! それにおまえ達の思う世界浄化虫は存在しない! 逆に魔導師を殺す世界解放虫が生み出されているんだ!」

「そんなはったりに、誰が引っ掛かるか!」

はやて達と敵の騎士達との議論は平行線で、意思が通じる兆しは全く無かった。今のまま話をしても埒が明かないと判断したはやてはその場をザフィーラに任せて一旦下がり、広域射撃魔法の詠唱に取り掛かる。

「広域殲滅魔法ほどやないけど、多人数を相手にするならこっちの方が都合がええ! いっくでぇ……エアッドスター!」

直後、クルセイダーをリリースしてシュベルトクロイツを展開したはやての周囲に縦横無尽に動かせる魔法陣が展開され、そこから無数の魔力弾が発射、軌跡を描きながら敵の騎士達に雷雨のごとく降り注いでいった。元々はやての魔導師適性はアウトレンジかつ魔力量も馬鹿みたいに多く、それだけ魔力も多く込められており、親衛隊に抜擢されるほど屈強な騎士達といえど、四方八方から撃たれては流石に耐えきれなかった。

「悲しいなぁ……この人達は騙されてるだけなのに、私らの話を聞き入れてくれへんかった。分かり合えるように頑張ったのに、結局力を行使せざるを得なかった……」

「主……」

視界の至る所に倒れ伏す敵の騎士達……彼らを見下ろす光景に、はやてはどこかやるせない気持ちを抱いた。ザフィーラとリインも同様の無力感を感じていたが、はやてが頭を振りながら「戦闘中に考え込んでる場合やない」と言った事で二人も意識を切り替え、ヴィータとシグナムの援護に向かおうとした。しかしいざ行こうとした瞬間、はやてが静止の声を投げかける。

「あ、ちょい待ちぃ。……何かが……来る?」

「(ふぇ? 何か、ですか?)」

「主も気づいておられたか。先程から、地面が鳴動しているのを……!」

ユニゾン中のリインはともかく、ザフィーラは自然体ではやての守りに入る。警戒して状況を待つと、やがて教会の向こう側から激しい戦闘音が聞こえてきたため、はやて達は飛行魔法で上空から俯瞰する。

「なんかヤバいの出てきよった!?」

「(で、でっかいロボットですぅ!?)」

「足元で盛大に戦っているのはジャンゴ達と……あれはイモータルなのか? ずいぶんと奇怪な格好だが、ここから見る限り連中の能力を強化しているようだ」

「(強化されてるとはいえ、イモータルだけが相手ならあそこにいる面子で十分勝てるはずですよね?)」

「なのに決着がついとらんって事は、あの機体の妨害がかなり厄介なんやろうな。せやったらあの機体を引き剥がしてやれば……!」

はやての意図にザフィーラもリインもすぐに気付く。巨大な質量兵器を自分達が引き付けている間にマキナ達がイモータルを封印するという即席の案に、二人は無言で了承した。

「さぁて! こっちに見惚れてもらうためにも、一発デカいのかましたるか! 早速SLBの準備を――――」

――――ギラッ……!

砲撃の準備をした途端、巨大兵器がはやて達に“眼”を向ける。その無慈悲な赤い光には、猛獣が獲物を見つけた時のような冷たい殺気が孕んでおり、はやては「撃つ前に気付かれてもうた……」と冷や汗をかく。それにいち早く気付いたマキナが、はやてに向かって怒鳴るように告げる。

「おい八神! こいつがサヘラントロプスだ! 核発射までのタイムリミットは既に刻まれてる、引き付けるんじゃなくて倒すつもりでやれ!」

「ちょ、マジかぁ!?」

この機体の名称を伝えられたはやてはこの機体の破壊が最優先目標であると理解した直後、徐に蛇腹剣を抜いたサヘラントロプスがそれを地面に突き刺す。すると地面が爆発するかの如く隆起、大地の槍がはやて達の浮かぶ空間を穿つ。咄嗟に回避したはやて達に、続けてサヘラントロプスは小型ミサイルを発射してきた。

「本格的にこっちに狙いを定めてきよったか……! 迎撃するで!!」

はやての合図と共にリインとザフィーラは魔力弾などでミサイルを撃ち落とす。だがその直後、脚部を屈めたサヘラントロプスは凄まじい大ジャンプを行い、一直線にはやての方へ向かって来た。あの大質量を受け止めるのは無理だと判断し、辛うじてはやてはサヘラントロプスとの衝突から逃れる。しかし次の瞬間、リインが血相を変えたように慌てた声を出してきた。

「(大変です! この軌道だとサヘラントロプスは私達が乗って来た次元航行艦の上に着地してしまいます!)」

「あ……しまった! あいつ、私らの戦艦を先に潰す気か!」

「聞こえたな、シャマル! 今すぐそこから離脱しろ!」

急速接近するサヘラントロプスに気付いたシャマルはザフィーラの声を聞いた瞬間、疑問を抱く間もなくその場から離脱……ディスト―ションシールドごと次元航行艦のブリッジが踏み潰されるのを目の当たりにした。仲間の危機を察知したヴィータとシグナムが魔力を多めに込めたバインドでスカルズを何とか無力化した後、急ぎシャマルの護衛に入り、そのままはやて達と合流する。

「マジかよ……S級とはいえ次元航行艦だぞ? なのに着地されただけでブリッジがペシャンコって……どんだけ重い機体なんだ!?」

「いや……よく見ればあの機体、足に杭がある。恐らく着地の際、落下の衝撃を緩和するパイルバンカーを同時に撃たれたのだろう。単に重量だけで潰したという訳ではないらしい」

「それでもあの大質量が脅威であることに変わりは無いわね。あんな巨体が機敏に動くだけでも厄介なのに……!」

各々が驚きの言葉を上げる中、サヘラントロプスが奇妙な動きを見せ始めたため、はやて達も警戒する。踏み潰した次元航行艦の後方に降りたサヘラントロプスは次元航行艦を右腕だけで持ち上げ、それをはやて達の方へぶん投げてきた。

「コラァ! テメェ、ンなもん投げんじゃねぇ!! アイゼン、カートリッジロード! ギガントハンマー!!」

「弾薬装填、レヴァンティン! 紫電一閃!!」

「わずかでも動きを抑える、鋼の軛!!」

直撃コースで迫る次元航行艦にヴィータ、シグナム、ザフィーラがそれぞれの全力を尽くして迎え撃ち、大気を振動させる程の衝撃が発生する。彼らが抑えている間にシャマルとリインのサポートを受けたはやても、最大限魔力を溜めたクルセイダー・チャージショットを発射、次元航行艦の中心に大穴をぶち抜いた。

はやて達がその穴を潜り抜けた後、次元航行艦が爆発して四散、墜落した。とりあえずそれは無視し、騎士達はそのまま一気呵成と言わんばかりにサヘラントロプスへ飛翔、攻撃を仕掛けるべく突撃する。相手も人に向けるには明らかに威力過多な機銃を撃ってくるが、それは物陰への退避や高速移動で対処、着実に接近していく。

「もらったぁ! ラケーテンハンマー!!」

一足先に接近に成功したヴィータが、大回転の勢いを利用した一撃を放つ。独楽のように迫るヴィータを迎え撃とうとするサヘラントロプスだが、はやてを含む他の騎士達が迎撃や防御などでそれを阻止し、ヴィータの攻撃を援護。ハンマーの先端がとうとうサヘラントロプスの頭部に届こうとした、その時……。

「んなっ!? 防御魔法ぉ!?」

ミッド式の防御魔法、プロテクション。サヘラントロプスにぶつけるつもりだったハンマーは、桃色に輝くその魔法で防がれていた。この魔法そのものは大して珍しいものではなく、むしろ一般的な基礎魔法の一つといっても過言ではない。しかしヴィータやはやて達が驚いたのは、魔法を発動したのが質量兵器であるからだ。

「魔導炉も搭載していないのに……どうして質量兵器が魔法を? まさか敵はリンカーコアを質量兵器に搭載する技術でも開発したというの!?」

「落ち着けシャマル。いくらメタルギアと言えど、そのような機能はない……いや、普通は出来ないはずだ。恐らく魔導炉ではなく、内部の人間が直接魔法を使ったのだろう」

「よく思い返せばアウターヘブン社のRAYだって、ユーリがデバイスと同じような性能を改造で組み込んだもので、メタルギア単体で魔法は使えないが……やろうと思えば今のと似たような事もできるはずだ」

「要するに、コクピットにいる奴が今の魔法を使ったんだな! トリックさえわかっちまえば驚くほどでもねぇ! 防御魔法ごとぶち抜けばいいだけだ!」

「せやな。でも……まさか、なぁ……?」

今の防御魔法の魔力光が桃色だったことから、はやては何か違和感を感じていたが、それはあり得ないと首を振る。その後、ヴィータとシグナムがコクピットをこじ開けるべくカートリッジ・ロード、ギガントシュラークとシュツルムファルケンの構えに入る。どちらも威力が高く、バリア破壊効果に優れており、防御魔法を突破してダメージを与える状況には適していた。

「轟天爆砕!」

「翔けよ、隼!」

巨大なハンマーに防御魔法を破壊された上に横殴りにされ、追撃として放たれた爆発する矢の直撃を受けて、サヘラントロプスは悲鳴にも聞こえる金属の摩擦音を響かせる。この調子でたたみ掛ければ核発射を食い止められると思った……次の瞬間、サヘラントロプスのコクピットがいきなり開いた。そしてはやて達は……驚愕する。

まず、サヘラントロプスのコクピットは大人の体格では入れないほどスペースが小さく、有人兵器としては明らかな欠陥である。ゆえにこれを操縦するには子供か遠隔操縦に頼るしかない、普通ならそう考える。そこで、かつてスカルフェイスは“第3の子供”と呼ばれる者の超能力を用い、これを動かしていた。しかしそのせいで別の人物にコントロールを奪われ、自分も瓦礫に埋もれるという皮肉な結末を辿った。

よってスカルフェイスは、前回と違う方法で操縦する必要があると考えた。管理局の技術を用いて彼は、ある方法を導き出した。それは……、

“パイロットの生体ユニット化”。

魔法により自我と思考能力を封印し、人間と機械を接続する機能を搭載させて、コクピットにただのパーツとして組み込む。スカリエッティの作った戦闘機人が人間に機械を融合させたものと表現するならば、スカルフェイスの作ったサヘラントロプスは機械に人間を融合させたもの。主軸となる存在が逆であるわけだ。

そしてはやて達が目にしたのは、コクピットと同化しているシリンダーの中で、無数のコードと接続しながら薬液に浸されている少女の姿。その少女の顔を、はやては知っていた。

サヘラントロプスの生体ユニットにされたのは――――高町なのはだった。

「な!? ど、どういうことや……なんでこんな所になのはちゃんがおんねん!? だって地上には……!?」

全身が凍えるような寒気を感じながら、確認のためにはやてが振り向くと、地上ではポー子爵と交戦中のジャンゴとマキナ、フェイト、そしてなのはの姿があった。

二人のなのは……マキナ達と共に戦っているなのはと、サヘラントロプスの生体ユニットにされているなのは。はやて達はどちらかがプロジェクトFATEによるクローンだと気付きはしたが、頭の方は混乱の極みにあり、攻撃の手が完全に止まってしまった。しかし相手ははやて達の躊躇なぞ一切関係なく、今度はなのはの魔法も含めて怒涛の反撃を繰り出して来た。

「な、なんてこと……! あのなのはちゃんの生命反応は健在だけど、それはあの機体が生命維持装置も兼ねているからだわ……!」

「では下手に攻撃すれば、あの高町を殺しかねない訳か。今は迂闊に攻める時ではないようだ……!」

「しかし先程の攻撃に加え、彼女のリンカーコアから魔法を発動しているとなると、我々でも長くは耐えられないぞ……!」

「クソッ! クソックソックソォッ!! 卑怯な真似しやがって!!」

「それでも……私らが諦めるわけにはいかん! 諦めたら彼女の命を見捨てることになる、だから絶対諦めたらあかん!! とにかく今は耐えるんや!!」

一方でマキナもはやて達の攻撃魔法が全くと言っていいほど発動しなくなったところから何か様子がおかしいと思い、そちらの方を見て大体の状況を把握した。

「うわぁ~そう来るかぁ……やってくれるじゃないか、ポー子爵。まさかオリジナルの高町なのはをサヘラントロプスの生体ユニットに使ってたなんて、どこのグレイズ・アインだっつぅの!」

「(あんなものを作って喜ぶか、変態どもが!!)」

「誤解のないように言っておくけど、あれはボク達じゃなくてスカルフェイスの発案だよ……」

「そもそもワタシ達ヴァランシアにとって、オリジナル・なのはの利用価値は既に無くなっていたの……」

「私のオリジナルに利用価値が無いって、どういう意味? ヴァンパイアにするつもりなら、オリジナルもクローンも関係ない気がするけど?」

「それはその通りだが、あちらの彼女は暗黒物質を使い過ぎたのだ。彼女が全くと言っていいほど休息を取らず、管理局の任務で幾度も戦いに赴き、凄まじい負担が溜まっていたのはキミ達も知っているだろう。魔法だけで戦ってきたのなら、その過労も休息によっていずれは完治できるはずだった。しかし……」

「暗黒物質は違うわ。アンデッドを倒すためにエナジーが必要だったとはいえ、彼女は人の身を蝕む闇の力を頻繁に、かつ過剰なまでに使った。元々月光仔の血が無い以上、その負担は魔法のソレとは比べ物にならない……身体の細胞が崩壊するどころか、遺伝子が傷ついてしまうほどだったの……」

「ストーカー男爵が着目したソルジャー遺伝子があろうと限界はある。4ヶ月前、管理局を利用して彼女の身柄を確保したは良いが、彼女の身体はもうクローンを生み出せないどころか、吸血変異にも耐えられないことがわかった……」

「暗黒物質を注いでも先に肉体が壊れるから、グールにすらなれない。まさに壊れた道具……つまり彼女をクイーンにするのは、もはや不可能と言っていいわ……」

「よって、ボク達の計画は水の泡となるはずだった。だけどそんな時、管理局が密かに生み出していたクローンの存在を知った。そのクローンこそ、キミだ……」

「素質も能力も全て同じ、身体はオリジナルより健康的で万全な状態のクローン。産廃を掴まされた以上、ワタシ達が狙わない理由は無かった……」

「ラジエルが巧妙に隠してたせいで、見つけるまでかなり時間が経った。だけど隠し続けるには限界がある……ボク達はキミがあの病院にいる情報を手に入れ、ライマーが身柄を確保しに向かった。でも……」

「そこに太陽の戦士が世紀末世界からやって来て、アナタを連れて行った……」

という訳で、オリジナルが手元にあるのにクローンを狙った理由は判明した。なのはは自分のオリジナルが身体を酷使し過ぎたせいでターゲットがクローンの自分に向いたということに若干呆れており、フェイトは「もう色々と絡み合い過ぎだよ……」と渋面を見せた。

「それからのクローン・なのはの顛末はキミ達の知っている通りだ。そして、結局何の役にも立たなかったオリジナル・なのはの処遇をどうするか、ボク達は考えた」

「最初は適当な場所で処分する予定だった……生かせておいても意味が無いから。でも廃棄する段階になって、唐突にスカルフェイスが使い道を見出したの。それがあの姿……サヘラントロプスの魔力源としての生体ユニット。そしてもう一つ、アナタ達がサヘラントロプスに攻撃できなくするための、いわば人質……いや、あの姿では人柱の方が的確かしら?」

「サヘラントロプスの機能が止まる時、彼女の命もまた潰える。生命維持装置も兼ねているサヘラントロプスを破壊するということは、彼女を殺すということでもあるんだ……」

「誰かのために戦える優しい人間達よ、選びなさい……。世界を救うために彼女の命を見捨てるか、それとも世界の破滅と引き換えに彼女を生き延びさせるか……」

突然押し付けられた理不尽な選択に、フェイトはたまらず「卑怯な……!」と憤怒の感情を見せる。バルディッシュを経由してはやて達も通信を繋いでいたので、今の会話がそのまま伝わっており、事態は把握したものの余計に攻撃の手を出せなくなってしまった。だが……、

「魔力充填! 斬鉄刃!!」

「撃ち抜く! トゥルードリーム!!」

刹那、ジャンゴの剣がエドガーを切り裂き、マキナの砲撃がヴァージニアを穿った。どうすれば良いか皆が悩む中、いきなり大技を繰り出したことに誰もが驚愕するが、二人は今のでパワードスーツが破壊されて倒れ伏すポー子爵に向け、聞いた者の背筋がゾッとする冷たい声で言い放つ。

「はぁ~……いい加減にしてよ。毎度毎度、そっちの勝手な都合で誰かを貶め、破滅させて……! 昔っからイモータルって、こういう意地の悪い人質作戦ホンット好きだね? リタ然り、母さん然り、父さん然り、サバタ然り……! そして何? 今度はオリジナル・なのは? もうさ……その手の作戦は怒りのボルテージを上げるだけだって覚えてよ。何度もこんな事されると、こちとら我慢の限界なんだよ……!」

「……私はさ、管理局にいた頃の高町なのはとはほとんど接点が無かったから、“高町”に対して特に思い入れは無い。むしろ一緒に戦ってきた“なのは”の方が親近感が湧くよ。なのに私がこんだけイラついてるのは、過去の傷を思い出すからだ。かつて闇の書に父が取り込まれたように、アレクトロ社に飼われてた頃の私のように、地獄の日々を味わっていたアギトのように……悪しき意思に利用されてるのが、たまらなく不愉快なんだよね……!」

「オリジナル・なのはをどうやって助ければいいのか、僕もまだわからない。無論、見捨てるつもりは全く無いし、最善は尽くすよ。で、それはそれとしてさ……」

「あんたらを倒したらいけない理由が出来たわけじゃあない。どうせあんたらに助ける方法を訊いた所で答えないか、そもそもわからないんだろうし。だったらこれ以上イラつかせる前に、大人しく退場願おうか?」

「さ、流石は太陽の戦士と闇の書の先代主の娘……」

「次元世界の常識を超えた行動を、いつもしているだけあるわね……」

どこか別の世界では合体してでも戦ったポー子爵だが、今回は自分達の認識不足が原因で致命傷をもらったため、素直に敗北を認めていた。しかし二人は黒煙が上がる身体を少しだけ起こし、負け惜しみと言わんばかりに笑う。

「一つだけ、忠告しておこう。サヘラントロプスに組み込んだ生命維持装置は、キミ達が思うような単純な代物ではないよ……」

「彼女がサヘラントロプスの拘束から外れた時、何が起こるかはその時までお楽しみにね……」

「すまない、ジニー。キミを守れなくて……」

「いいの、エディ。アナタと二人なら……」

無言のままジャンゴはベクターコフィンを、マキナはアイアンメイデンを取り出して手を掲げる。

ヴァランシアの一員、ポー子爵ことエドガーとヴァージニア……封印完了!

「(本気で怒ってる奴って、まるで導火線の火が炸薬のすぐ手前まで迫ってる爆弾のようで怖いんだよなぁ……マジで)」

イモータルすらビビらせる気迫を間近で見ていたアギトがポロッと本音を漏らすが、それを否定する者は誰もいなかった。

『そ、それで結局どうするん? イモータルを封印できたのは僥倖やけど、核発射を止めなきゃあかんのにサヘラントロプスを壊したらなのはちゃんが死ぬとか、もうどないすりゃあええねん!?』

「焦るな八神。イライラしてる私が言う事じゃないかもだけど、こういう時こそクールになれ。……さて、とりあえず質量兵器が相手である以上、非殺傷設定の効果が働かない点は見逃せない。管理局が推奨してきた魔法の性質の弱点を見事に突いてるから、それに頼ってきた人間から見ればとてつもなくやりにくいと察せるね」

『せやなぁ……非殺傷設定は相手を殺さずに済む確率を格段に上げてくれたし、管理局の治安維持組織としての信念には必要不可欠や。私らもその不殺の信念そのものは今も間違ってないって思っとるけど、それが通じんとなると途端に手段が狭まるなぁ……』

「ひとまず生命維持装置がどういう仕組みで高町の生命を繋ぎ止めているのか、それを解明しないことには迂闊な真似はできない。下手したらあのシリンダーから出した途端、身体が豆腐のようにボロッと崩れ去るなんてこともあり得るからね。だからその解析も含めて彼女を救う策が思いつくまでは、サヘラントロプスの動きを止めることに専念しよう。時間が残り少ないのが気がかりだけど、破壊云々はその後。とにかくバインドで拘束するなり、機能が停止しない程度に損傷させるなりで、あの暴れ馬を封じ込めるしかない」

『了解や。こっちのこと気遣った戦術を考え出してくれてありがとな。ところで、そこにいるなのはちゃんがクローンだったなんて私ら初耳やで?』

「それは何というか、私達もついさっき知ったばかりだけど一応悪いとは思ってる。ただね、クローンだからって彼女を責めるのはお門違いだよ?」

『それぐらいわかっとる。私らの知るなのはちゃんとは再会していなかった、という点に多少思う事はあるけど、誰にも悪気は無かったのは重々理解しとるよ。オリジナルじゃないから責めるなんて心無い真似は誰もせえへんって』

「ん~でもなんか微妙に気になる言い方で、ちょっと不安があるな。私はむしろこっちのなのはの方が信用に足る人物だと思ってるけど……ま、その辺のケジメはこの事態を終わらせてから、追々どうにかしていこう。それじゃあ各自、やる事は今言ったから……行動開始!」

マキナの発破を受けてジャンゴ達もサヘラントロプスの方へ向かい、回避し続けてたはやて達も完全に破壊しない範囲で攻撃を再開した。移動中、ふとフェイトがマキナに尋ねる。

「それにしても、リニスの時とは違ってずいぶん助ける気に満ちてるね。どうして?」

「え、当然でしょ。まだ生きてる奴を助けようとするのが何かおかしい?」

「ううん、そんな事は無いけど……」

「まぁ、アレだ。アンデッドや死体は無理だけど、生者ならまだ手の施しようがある。それに……」

「それに?」

「救出できたら八神から高い追加報酬をふんだくってやろうかとね、ドヤ顔で」

「だろうと思ったよ!」

こんな時でもちゃっかりしているマキナを見て、フェイトはこの事件が終わった後に頭を悩ませるであろうはやてに同情した。隣で聞いてたなのはは「アクアソルやゼータソルの特許料でこれからマキナちゃんの財布にはお金がずっと入ってくるのに、まだ稼ぐつもりなんだね……」とつい苦笑する。

そんなやり取りもつゆ知らないはやて達と合流すると、

「待たせたな!」

すれ違いざまにマキナがそう告げ、同時にジャンゴ達もサヘラントロプスとの戦闘に入る。オリジナル・なのはの存在が露見したからか、先程より人間に近い動きで翻弄するサヘラントロプスに対し、バインドが使える者はバインドで、使えない者は脚部や武装を中心に攻撃。そしてマキナとシャマルは隙を見ては検査魔法で生命維持装置を解析していき、情報を集めていく。

しかしオリジナル・なのはの命が掛かっている以上、威力も攻撃箇所も慎重にならざるを得ず、更に装甲が想像以上に頑丈なのと、時々発動する防御魔法のせいでダメージが今一つ通らずにいた。その上、チェーンバインドやリングバインドでサヘラントロプスの腕や胴体を絡めとり、必死に抑えようとしても人間とメタルギアではパワーが違い過ぎて、バインドの輪はたやすく千切れ、鎖は引っ張られて逆に魔導師の方が振り回される始末。それはさながら暴虐の限りを尽くす巨人相手に、小人が何度も吹き飛ばされながら挑みかかるような光景であった。

「あかん、こっちのパワーが全然足りてへん! 破壊するつもりなら他にもやりようはあるけど、こんなデカブツを止めるには、ここにいる何倍もの人数が必要や……!」

「(あまりに動き回るものだから、追いかけるだけでかなり時間がロスしてるぞ! 核の発射まで時間が無いってのに、もどかしくてしょうがねぇ!)」

「やっぱりこういう管理局風でお綺麗な戦術はどうもやりにくい……。あとさぁ、八神。愚痴る以前に、人数が足りないならさっさと応援を寄越せばいいじゃん。人海戦術は管理局の十八番でしょ?」

「(そ、そうでした! ここからならノアトゥンにも通信が届きます……クロノ提督ならきっと駆け付けてくれるはずです!)」

頭を抱えたくなる状況が連続で襲ってきたせいで実はかなり焦ってるはやてに、マキナは頭を冷やす時間と発破をかける意味でも、ノアトゥンにいるアースラに応援を要請するように指摘した。アギトが不安そうな面持ちで見守る中、手に汗を握らせながらはやてはアースラの艦長クロノへ通信を繋げようとする。

「あぁ……そうだ。後で文句言われない様に、今の内に言っておく。絶対条件として、核の発射だけは何としても阻止しなければならない。限界寸前まで足掻きはするけど、もし今のやり方でそれを止められそうになかったら、その時は――――」

「いや、その先は言わんといて、マキナちゃん。聞かなくてもわかるから。ただ……一度でも言葉にされたら、諦めることに納得してしまいそうやねん」

「あっそ。指揮官たるもの最悪の事態も想定しておく必要があるんだけど、やっぱり八神は考えたくなかったか。まぁ……あんたはそれでいいよ」

「マキナちゃん……」

「八神にやれないことは、私がやる。いざとなれば汚れ役だって引き受けるさ」

「………」

マキナの放った言葉に不安と微かな疑問を抱くはやてだが、彼女の目に宿る覚悟を見せ付けられて何も言い返せなかった。アギトはマキナの言葉に含まれた意味を全て理解しているが、報復心を芽生えさせないために黙っているように口止めされている。しかしやはりというべきか、言えないことのもどかしさがアギトの胸中を駆け巡っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月24日、16時23分

ミーミル首都ノアトゥン、管理局フェンサリル支部上空で待機中のアースラにて。

「クロノ艦長、八神二等陸尉から緊急通信です」

「緊急? 彼女に預けた次元航行艦から来ていないって事は……繋げ」

ブリッジで通信を受け取ったクロノはモニターを大きく展開し、向こうの状況が全員に見えるようにした。映像は中心に焦燥感溢れる表情のはやて、背景に戦闘中の仲間達、そしてサヘラントロプスが映し出されていた。

「はやて、そっちで何があった?」

『時間が無いから、詳細は巻くで。実は―――』

はやてから現状の説明を矢継ぎ早に伝えられ、クロノは説明不足の部分をいくつか想像で補いながら大まかな事態を把握した。

「了解した、すぐに応援をよこす。それまで何とか耐えてくれ!」

『出来るだけ急いでな! 私らだけでは正直厳しいから!』

「わかってる、もう誰も犠牲を出す訳にはいかない! ……エイミィ、全部隊に緊急出動を―――」

『―――その必要は無い』

クロノが出撃命令を出そうとした瞬間、唐突に別のモニターが展開して野太い男の声が聞こえた。クロノが眉をひそめて映像の人物を睨み付ける。

「アルビオン大司教……どうして……?」

茫然とした表情で、エイミィがその男の名を言う。高位の法衣を纏った初老の男は口元の髭をさすりながら、やけに清々しく告げた。

『聞こえなかったか? あれを破壊する必要は無いと言ったのだ』

「核の使用を見過ごせとは、どういうつもりだ……!」

『次元世界の安寧のためだと管理局が訴えてきたにも関わらず、エネルギー資源を渡さないどころか強固に抵抗して苦渋をなめさせ続けた敵の国家が、あれを放っておくだけで滅ぶのだぞ? それにだ、どうせ今から向かおうと間に合うわけがない。ならばあえて無視を決め込み、敵同士が倒れた所に我々が救いの手を差し伸べれば良いだろう』

「つまり……あなたは漁夫の利を得るために見捨てろと言いたいのか! そして弱った所を付け込み、管理世界の意図に従うように仕向けるつもりか!」

『管理局は今まで何度もこういった事をしてきた、今更だろう? たった一つの管理外世界と管理世界全て、どちらの存続を優先するべきか……最年少執務官ならわかるはずだ』

「いや……わかっていないのはあなただ、大司教。僕達はそんな卑怯者の選択はしない。僕達は助けを求める者全てに手を差し伸べる。少し前まで敵対していようとも、相手は同じ人間だ。僕達と同じ……生きている命だ! その命が失われようとしているのならば、一人の人間としてそれを止めてみせる!」

『愚かな……自らの物を分け与えようとしない傲慢な彼らを生かすということは、管理世界の者達に苦しみを強いるということなのだぞ? お前は見知らぬ連中のために、親しい者達が苦しむのを許容できるのか?』

「だからと言って相手の物を無理やり奪い取ろうとするのは間違っている! ましてや滅ぼしてまで手に入れようとは思わない! それに、人を見捨てた罪悪感は永遠に苦しみを与える……ならば一時の苦しみぐらい耐えてやるさ!」

『なるほど……どうやらお前は何も理解していなかったようだ』

残念そうに言うアルビオンを無視し、クロノは改めて指示を出そうとする。その時、突然エイミィが驚愕の声を上げる。

「え!? 嘘……!?」

「どうした、エイミィ?」

「私達とはやてちゃん達のSOPが……! SOPのリンカーコア封印機能が発動した! 誰もそんなことしてないのに、どうして!?」

エイミィの言葉に、誰もが絶句する。この状況でそれがどういう意味を示すのか、それははやてと繋いでる映像が表していた。

『な!? 急に飛行魔法が……バリアジャケットが維持できない!? バルディッシュ、再展開―――うわぁっ!!』

『そ、そんな! 治癒魔法も支援魔法も何一つ使えなくなったわ! まさかこれって……!』

『チクショォッ!! 動け! 動けよアイゼン!! こんな大事な時に動かなくなるんじゃねぇ!!』

『駄目だ、カートリッジのロードすら出来ない! デバイスの機能が完全にストップしている!』

『なんてことや……! 皆、直ちに安全な場所まで退避!!』

『木や物陰を利用して、被弾しないように下がれ! それまで俺が盾になる!』

『応援を呼ぶはずが逆に無力化されるとか、あまりにも馬鹿馬鹿しくて言葉も無いなぁ……。ジャミング装置も戦艦ごと壊れたようだし……しゃあない。八神達は下がってろ、私達だけでやる!!』

いきなり魔法が封印されたはやて達と、自分達だけで対応するしかなくなったマキナ達の阿鼻叫喚の状況が伝わってきた。その騒動で通信も途切れてしまい、この事態を引き起こしたアルビオンに、クロノは怒りに満ちた目を向けた。

『私は聖王教会の大司教であると同時に、管理局の少将でもある。お前達全員の無力化なぞ、ボタン一つで行える権限があるのだ』

「ふざけるな! 僕達どころか、今まさに戦っているはやて達を無力化してまで、核を発射させるつもりか!」

『言っておくが、これは私一人の意思ではなく最高評議会の決定だ。管理局に属する以上、お前達は命令に従う義務がある』

「最高評議会が……!? 馬鹿な! 下手すればこの一発をきっかけに、次元世界全てが滅びの道を進むかもしれないんだぞ!」

『いや、滅びはしない。確かに管理局だけならば、管理外世界の反乱は抑えきれないかもしれない。だが我々聖王教会が本腰を入れれば、その程度の脅威なぞ恐れるに足らんよ。お前達の懸念に意味は無い、次元世界の治安はすぐに取り戻せるのだ』

「そのためにどれだけの血が流れると思っている! どれだけ多くの悲劇が生まれると思っている!」

『必要な犠牲だ、世界の平和のためには受け入れるしかないのだよ。大体、魔力を抑えられたお前達に今何ができる? そこから指示を出した所で、実行できる戦力が無いだろう。そして、封印の解除もさせない……お前には何もできないのだ』

「くそ……! クズどもがぁ……!」

アルビオンの言う通り、魔力を封印された魔導師は一般人とほぼ変わりがない。ヴォルケンリッターだろうと魔力無しでは凄まじく弱体化してしまう以上、今の自分達やはやて達にメタルギアの相手はできるはずがない。だから行っても足手纏いになるだけ……クロノはその事実を理解しているからこそ、アルビオンの言葉に言い返せずにいた。その時、

「か、艦長! 現地に向かう複数の熱源を確認!」

「なにぃ!?」

 
 

 
後書き
烈風連刃:ゼノサーガ ジンの技。2連撃を行う使い勝手の良い攻撃です。
エアッドスター:ゼノサーガ E.S.ゼブルンの必殺技。この小説のはやては原作の魔法のほとんどが使えないため、こちらから追加しました。

ちなみに大人クロノの声って、ミラーの役もやってるんですよね。

とりあえず、次の話もよろしくお願いします。 
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