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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第42話『違和感の正体』

 
前書き
今更だけど、晴登の口調が定まらない…。 

 
誰が予想できただろうか。
少なくとも向こうに飛ぶであろう。そんな慢心で放った結果、見事石はウォルエナに直撃する。
もちろん、先制攻撃を仕掛けられたことでウォルエナは激昂し、臨戦態勢をとる。


「ハルトのバカっ!」

「いや、ホントにごめんっ!」


ユヅキに怒られながら、晴登は作戦が瓦解したのを理解する。原因はほぼ自分と言って間違いない。
しかしそんな反省は程々に、2人はウォルエナに背を向け全速力で走り出した。


「よし、じゃあ早速“追い風”を・・・ってうわっ!?」

「ハルト、下がって!」


1秒でも速く奴から離れるため、晴登は急いで魔術を使おうとするも、ユヅキに突き飛ばされて頓挫。

実は、背後からウォルエナが跳びかかってくるのを目敏く見つけたユヅキが、晴登を押し退けたのだ。でもって、見上げるほど大きい氷の壁を造り出していた。

勢いのあるウォルエナはそれに為す術なく頭からぶつかり、少しの間ふらふらとしていた。
一方で、ぶつかられた氷の壁は役目を終えたのだと言わんばかりに一瞬で霧散する。
ちなみにその時、まるでダイヤモンドダストの様な光景になっていたため、晴登はちょっと見入っていたりする。


「ちょっとハルト! 見惚れてないで“風”! “風”お願い!」

「…お、ごめんユヅキ! けど今の、かっこ良かったよ!」

「う、うん、ありがとう……?」


急かされた晴登はユヅキをそう賛美し、今度こそ追い風の展開を図った。
呆れるユヅキと自分の周囲の空気の流れが変わり、全てが晴登の都合の良いように操られる。


「おおっ、ハルトすごい!」

「ちょっと俺自身も驚いてるよ!」


再び走り出した2人の身体は風と共に流れ、逆にウォルエナの体は引っ張られるように後退していく。
そう、今は晴登らに向ける風の他に、ウォルエナに向ける風までつくり出しているのだ。
その器用さに、ユヅキだけでなく晴登も驚きを隠せない。


「よし、このまま逃げ切って・・・うわぃっ!?」

「大丈夫、ハルト?!」

「いや大丈夫、当たってない。つかあいつめ…何かしてきやがった」


しかし快調に逃げてたのも束の間、晴登の傍の地面がいきなり爆ぜる。衝撃波が起こり、それに軽く吹き飛ばされた晴登は尻餅をついた。
見た限り、今の攻撃はウォルエナのものだろう。
そしてクレーターとなった地面を見て、直撃してたらどうなっただろうかと、身を震わせる。


「魔法を使ってくるから、逃げるのも一筋縄じゃいかないね」

「あいつのはどういう魔法?」


晴登はウォルエナを指差しながら質問。
どう見ても、あいつの姿はここから10mは離れている。今はただ、こちらを見て唸っているばかりだ。
つまり、今の攻撃は遠距離攻撃。ならば、対処のためにその原理は知っておきたい。


「“光線とか何か放つ系”なのか、それとも“見える範囲を攻撃する系”か。後者が圧倒的に面倒だが、そのどっちかか?」

「ウォルエナの魔法は“練魔砲”、つまり前者だよ。体の中の魔力を練り上げ、それを光線として放つ。これの厄介なのが、個体によって属性から威力まで色々変わるっていうこと。…にしてもよくわかったね? 初見なのに」

「…地元の知識ってやつだよ」


毎日毎日マンガを読むという日課が、ここにきて生きる。現実では絶対に不必要だった雑学が、この異世界には通用するのだ。
とりあえず、予想が的中したことを素直に喜びたい。


「じゃあ少しは勝算も見えてくるな」

「え、戦う気!? ダメだよ、アレでも人喰いなんだから!」

「思ったけど、このまま逃げてもあいつを王都に連れていくだけだ。だったら、ここで仕留めておいた方が良くない?」

「それは、そうだけど…」


晴登は今をもって思いついた正論を放ち、ユヅキを押し黙らせる。
何をするのが最善なのか。それは逃げることなのか。

・・・違う。
今を考えるんじゃなくて、未来を考えろ。
その場しのぎがどこまで持つかはわからないのだ。


「俺ら2人なら…できるんじゃないか?」

「でも…」

「恐がる必要はない。俺があいつを絶対に近づけないから。だからその間に、撃退でもいい、奴を王都から遠ざけるんだ」


晴登の提案にユヅキは口ごもる。
確かにこれは危険な案だ。ウォルエナはあくまで人喰い魔獣。どんな安全策だろうと、拭えない恐怖がある。晴登だって、熊を撃退した経験が無ければ、尻尾を巻いて逃げていただろう。
だからユヅキが拒否するなら、その時は逃げる。ウォルエナを相手に、1人では勝算は薄い。動きを止めるのが関の山だろう。だからこそ、2人で力を合わせる必要があるのだ。


ユヅキの選択に、全て委ねる。


「うーん…」

「時間がない。早く決めて」


その意図を汲んでかどうか、ユヅキは逡巡を見せた。
言ってしまえば、晴登の言った言葉は「命を預けろ」みたいなものだ。迷うのも無理はない。

でも事実、時間もない。
この距離なら、ウォルエナはすぐに詰めてくるだろう。
それまでに・・・



「…わかった。ハルト、やろう」

「いいのか…?」

「ハルトが言い出したじゃん。ボクも付き合うよ」


苦笑しながら、ユヅキは言う。
晴登は、それが彼女の選択なのだと理解した。


「あ、危ないんだよ…?」

「ボクは恐いよ、こんなこと。でも、ハルトが守ってくれるんでしょ?」

「あ…」


無垢な笑顔を見せてくるユヅキに、場違いながら晴登は照れる。
先の言葉もそうだが、どうにも晴登は詰めが甘い。人を焚き付けておくだけおいて、結局は尻込みしてしまう。
でもだからこそ、今のユヅキの言葉は晴登の迷いを断てた。

晴登は一瞬黙り込んだが、


「頼んだよ、ユヅキ」

「お互い様だね、ハルト」


2人はウォルエナを向く。いつしか震えは止まっていた。

標的を見据えるその表情──それからは、互いへの信頼が見て取れた。





肌にしみる冷気。それは隣の少女から伝わってくる。

頬を撫でる風。それは隣の少年から伝わってくる。


「それじゃ、いくぞ!」

「グルッ…!?」


晴登によって巻き起こる強風が、ウォルエナの身体を包み込む。
あらゆる向きから吹く風に、ウォルエナは行動を封じられ、為す術なく停滞した。


「ユヅキ!」

「うん!」


その隙にユヅキが造り出すのは、拳サイズの氷塊。
必殺には物足りないが、脅すくらいならば充分な大きさだ。
それを見たウォルエナの瞳が、若干揺らぐ。


「いっくよー!」


氷塊が無抵抗な魔獣へ一直線に射出される。
その間も氷に触れる空気は凍みていき、白い軌跡を描いていた。


「ガウッ!!」


ウォルエナは最後の足掻きとして、練魔砲を放つ。黄色い光の光線だった。
だが威力はユヅキに劣っており、氷塊は練魔砲を打ち破りながら直進する。


刹那、ウォルエナの眼前で氷塊が弾けた。
しかしウォルエナの仕業ではない。ユヅキの意図だ。
晴登が起こしていた風に弾けた氷片が触れることで、ウォルエナの周囲を渦巻いていた風がたちまち凍りつく。
つまり、ウォルエナを氷に閉じ込めたのだ。


「一丁上がり…か?」

「さすがに動けないと思うけど…」


恐る恐る近づいてみたが、ウォルエナに動きはなし。どうやら完全に氷漬けになっていて、拘束できているらしい。

その事実を悟った2人は盛大に息をつく。
緊張の糸が切れ、晴登は勢いでその場に座り込んだ。


「もうダメだ、疲れた~!」

「ちょっとハルト、緩みすぎ」


服の汚れを気にせず寝転ぶ晴登。眼前に人喰い魔獣の氷像がいるにも拘らず、かなりの緩みっぷりだ。
だが仕方ない。それだけの緊張感だったのだから。

そんな晴登を見て、ユヅキは密かに笑みを浮かべていた。







「すごい慌てようだな」

「いや、ハルトが楽観しすぎなの。最初はビビってたくせに」

「あれ、記憶にないな〜」


気楽なやり取りをしながら、晴登たちはラグナの店へ向かう。

ちなみに“慌てよう”というのは、ずばり関所の門兵のことだ。
先程王都へ入る際、晴登は門兵にウォルエナについて伝えた。門兵は「確かめてくる」と一言残し、森へ入っていった。
初めは冗談かと疑われたが、きっと真剣に話したから信じてくれたのだろう。
証拠の氷像だってちゃんと有る。これで王都への危険は無くなったはずだ。一件落着である。


「…と、着いた」


ユヅキがそう洩らし、ラグナの時計屋の扉を開ける。
よく考えると、これが最後のラグナとの対面。思い残すことがないように別れなければ。


「いらっしゃい!・・・って、何だお前らか」

「あれ、珍しい」

「珍しいとは失礼な。俺だっていっつも寝てる訳じゃねぇよ」


頭を掻きながら、バツの悪そうな顔をするラグナ。
最初のかけ声から察するに、今日はやる気が有るといったところだろうか。


「何せ今日は大行事、『大討伐』があるからな!」

「討伐…ですか?」

「あぁ。北方で大量発生したウォルエナを駆除する祭りだ。だから今日は人がガッポガッポ・・・」

「何ですかその祭りは!? そんなので客が来る訳ないじゃないですか・・・あれ? それってどこかで…」


晴登はラグナの言葉の中に聞き覚えがあり、途端に口を閉じる。晴登が確認の為にユヅキの方を振り向くと、彼女は頷いて応えた。
もしかしなくても『大討伐』は、昨日の“ウォルエナ騒ぎ”が成就した結果らしい。

晴登が急に黙り込んだから、ラグナは心配そうに訊いてきた。


「なんだ、知ってるのか?」

「昨日の内にそれっぽい話を聞いたんですよ。騎士がどうたらこうたら…」

「うーん…確か王都の騎士の半分は討伐に向かったって話だ」

「ホントに大掛かりなんですね」


王都の騎士団の規模はよくわからないが、それでもこの広さだ。数百人は行ったのではなかろうか。


「大掛かりなのも仕方ない。“人喰い”って言われてるからな。捕まったら一発でガブリだ」

「表現がかわいくても言ってることはすごい恐いですよ。さっき襲われたとき喰われなくて良かった・・・て、やべ!」

「襲われた…?」


ラグナには心配を掛けまいと黙っていたつもりの事柄が、不意に口から飛び出てしまう。
口を塞ぐも時すでに遅し。ラグナの目は見開かれ、今の発言に興味津々といったところだ。


「どういうことだ? ハルト」

「う…」


さすがに逃げられないと思い、晴登はユヅキに応援を求めるも、「諦めて」というジェスチャーを返される。


「じ、実はカクカクシカジカで・・・」





「・・・で、襲われたってか? 無事だったから何も言わねぇけど、まず出会う時点で災厄以外の何でもねぇぞ」

「はは…」


ラグナは呆れた表情を見せたが、その奥は安堵しているように見えた。
ラグナの言う通り、逃げ切れたのは万々歳だ。ユヅキとだったから上手くいったけど、他の人とだったらどうなっただろうか。
喰われるバッドエンドは想像もしたくない。


「…けどよ」

「はい?」


すると、ラグナが急に声の調子を落とす。
そして徐ろに口を開き、


「それだとおかしい点が1つある。お前らが出会ったのがウォルエナ1匹だけだなんて…ありえるのか?」


謎めいた発言。晴登は聞いた瞬間、理解ができなかった。
だがしばし反芻してようやく、王都でのユヅキの発言を思い出す。

晴登はそれを悟った刹那、質問をぶつけた。


「つまり、100匹以上のウォルエナが潜んでいた…?」

「…あぁ、その可能性が高い」


ラグナはハッキリと言った。それを聞いて、晴登は青ざめる。


それと同時に、王都の南門から数多の雄叫びが響き渡るのを聴いた。

 
 

 
後書き
お膳立ては完璧。戦闘シーンはゴミ。…何これぇ??
戦闘を書くのに、未だに自信がございません。
もうこれアレですわ。一回体験しなきゃ分からないやつですわ。
てな訳で、取りあえず魔術覚えてきます(無理)

さて、今月はあと一話は投稿できそうです。
勉強の合間を縫って書くのだけは慣れてきました。
この調子で受験を頑張ります(笑)

フラグが簡単過ぎますけども、文句は止めてくだせぇ! では、また次回! 
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