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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  閑話7「闇の書・前」

 
前書き
所謂過去編。
司がいかにして闇の書に対して絶対的な強さをイメージするようになったかの回です。
...え?本編はどうしたって?...し、知りませんね。(目逸らし)

一話に無理矢理詰め込んだので文字数ががが...。
 

 








       =out side=







「.......。」

 ...ふと、司は思い出す。闇の書事件と呼ばれた出来事の一部を。
 “勝てない”と、心からそう思ってしまった、その戦いを。

「(....あの時も、“拒絶”したっけ....?)」

 “拒絶”...それは、司が周りに行っている行為。
 “自分はいてはいけない”。そう思って、皆の記憶から自身を拒絶させた。

「(....私は、幸せになる資格なんてない....。)」

 暗く、暗い闇の中で、司は閉じこもるようにただそう思考していた。

















       ―――闇の書事件、当時...





「どうして...!神夜...!」

「悪いな奏...。俺だって、引き下がれない!」

 海鳴病院の屋上にて、複数の者達が睨み合っていた。
 片や、管理局の一員として、闇の書の暴走を止めようとする者。
 片や、優しき主のために意地でも闇の書を完成させようとする者とその協力者。
 今にも戦いが始まりそうな雰囲気に、屋上は包まれていた。

「(もうすぐリーゼ姉妹が俺たちを拘束しようとする...!バインドの一つや二つぐらいなら回避や破壊が可能だから、そこから全員を助け出して...!)」

 その中で、神夜はその後に起きる“原作”の流れを思い出し、どう行動するか考える。
 ...しかし、飽くまでこの世界は“原作”に似ただけの世界。
 想像通りにはいかないのが常である。

「っ、なっ...!?」

 神夜の驚愕の声に、全員がその方向を見る。
 なんと、幾重ものバインドが集中的に神夜を拘束していたのだ。

「まさか...!」

 すぐさま乱入者に気づいた司は、術者を探知する。
 その間に、設置されていたらしきバインドにシグナムとフェイトが捕まる。

「見つけ...っ!」

 司は術者である仮面の男を見つけると同時に、仕掛けられたリングバインドを躱す。
 司の視線を見て、奏がそちらへ飛ぼうとするが...。

「甘い。」

「しまっ...!?」

 飛び掛かってくるのを予想して設置されたバインドに捕らえられる。

「きゃぁっ!?」

「なっ!?くそっ...!」

「くっ...外れない...!」

 司達がバインドの術者に気を取られている内に、もう一人の仮面の男がシャマルを不意打ちで倒し、ヴィータとなのはをバインドで捕える。

「後は貴様だけだ。」

「くっ...!」

 全員がバインドに捕らえられ、魔力弾によって人質を取られる形になる。
 唯一司だけが無事だったが、人質によって身動きができなかった。

「厄介な者達には眠っておいてもらおうか。」

「何を...っ、が...!?」

 “するつもりなのか”と司が聞く前に、魔力弾が叩き込まれて全員が気絶させられる。

「今の内に蒐集を。脳を揺らして意識を失わせたが、すぐに目を覚ます。」

「了解。」

 全員を気絶させたのを確認した仮面の男たちは、シャマルから闇の書を奪い、ヴォルケンリッターの内、シグナムとシャマルの二人のリンカーコアを蒐集する。
 蒐集されきった二人は、そのまま服のみを残して消えてしまった。

「...っと、忘れていた。」

「てぉぁあああああ!!」

「もう一人いたのだったな。」

 自宅で待機しており、異変を感じ取ったザフィーラが駆け付け、殴り掛かる。
 しかし、それを仮面の男の一人が防御魔法で防ぐ。

「終わりだ。」

「ぬ、ぐぅ...!貴様らぁっ...!」

 防御魔法で防いでいる内にザフィーラはバインドで拘束され、そのまま蒐集された。
 蒐集が終わった時、やはりザフィーラの姿はもうなかった。

「....では、予定通りに。」

「...ああ。」

 二人はそういうや否や、変身魔法で姿を変える。
 ...そう、なのはとフェイトの姿に。

「さぁ、闇の書の目覚めの時だ。」











       =司side=





「っ、ぐ、ぅ....!」

 痛む頭を押さえながら、私は目覚める。

「...そうだった...!私、仮面の男たちにやられて...!」

 記憶がほとんど残っていないが、“原作”にもこんな展開があったはず...。
 ...つまりは、まんまとしてやられた訳...か。

「(...バインドで手足を使えないように四重で縛って、さらに檻のような拘束魔法も使われている...。デバイスなしじゃあ、このバインドは厳しいね...。)」

 努めて冷静に今の状況を確認し、どう動こうか考える。

「(....私が、もっとちゃんとしていれば...。)」

 つい、そう考えてしまう。
 とりあえず、今はそんな事を考えている場合じゃないと思考を切り替える。

「う...ぐ...。」

「う、ぅぅ....。」

 すると、皆が目を覚ます。
 私より目を覚ますのが遅かったのは、多分バインドをされてなかった分、私だけ無意識に魔力弾に対して身構えていたからだと思う。

「ここは...?」

「...拘束魔法の中だよ。...捕まってるの。私たち。」

 なのはちゃんの疑問の声に私が答える。

「そんな...!」

「目を覚ましたのなら、話は早いね。皆は自分に掛かってるバインドを解除して!私がこの檻を...!」

 私たちをデバイスも使えない程バインドで拘束したのはいい判断だと思う。
 ...だけど、私とシュラインはそれだけじゃ足りない!

「我を囲いし檻よ...破綻せよ!」

〈“Restraint break(リストレイントブレイク)”〉

 自身に触れているバインドを全て破壊する。
 ...そう。この祈りを実現する能力で、バインドを即座に破壊したのだ。

「急いで!」

 すぐに飛んで病院の屋上へ戻る。
 私の魔法で皆のバインドも緩んでいたらしく、皆もすぐついてきた。

「っ....!」

「ぁあああああああああ!!」

 でも、もう手遅れだった。
 あの二人が何をしたのかはわからないけど...はやてちゃんが涙を流し叫んでいた。
 辺りにはヴォルケンリッターの服...殺されたのだろう。

「(また...周りの人を不幸に....。)」

 私がもっとしっかりしていれば...と、つい私はそう思ってしまう。
 だけど、それどころじゃないと思い知らされる。

「はやてちゃん...!?」

「あれは...!?」

 なのはちゃんとフェイトちゃんの驚く声が聞こえる。
 ...はやてちゃんの足元に魔法陣が展開され、闇の書の暴走が始まるのだ。
 はやてちゃんの姿が変わり、銀髪の女性へとなる。

「....また...全てが終わってしまった...。一体幾度、こんな悲しみを繰り返せばいいのか...。」

 その女性は、背中に生える二対四枚の黒翼を広げ、淡々とそう言った。

「はやてちゃん...?」

「はやて...。」

 変貌してしまったはやてちゃん...いや、あれは闇の書だ。はやてちゃんじゃない。
 その闇の書に、なのはちゃんとフェイトちゃんは悲しそうに名前を呟く。

「...我は闇の書...。我が力の全ては....。」

   ―――“Diabolic Emission(デアボリック・エミッション)

「「「「「っ.....!!」」」」」

 闇の書が上に掌を向け、闇色の球体を出現させる。
 広域殲滅魔法...!まずい...!

「主の願いの...そのままに....!」

「っ―――!シュライン!!」

〈はいっ!!〉

 球体が膨張する瞬間、私はシュラインに呼びかけて防御魔法を張る。
 誰も庇う余裕なんてない。見れば、皆同じように防御魔法で防いでいた。

 ....そして、衝撃が私たちを襲った。











       =out side=







「....隠れたか。」

 広域殲滅魔法を放ち終わった闇の書は、静かにそう呟いた。



「くっ...!」

「...皆、無事か?」

「何とか....。」

 少し離れたビルの影。そこに司達は隠れていた。

「広域攻撃型...接近したら、避けるのは難しいよ。」

「そう...なら。」

 司の言葉にフェイトは頷き、ソニックフォームからライトニングフォームへと戻る。
 少しでも防御力を上げるつもりなのだ。

「フェイト!」

「皆!」

 そこへ、ユーノとアルフが合流してくる。



「....主よ、貴女の望みを叶えます...。」

 一方、闇の書は自身の中に眠るはやてに語り掛けるようにそう言い、魔法陣を展開する。

「愛おしき守護者たちを傷つけた者達を...今、破壊します。」

〈“Gefängnis der Magie(ゲフェングニス・デア・マギー)”〉

 既に張られていた結界を上書きするように、閉じ込めるための結界が展開された。



「っ....!結界...!?」

「あの時と同じ、閉じ込めるタイプのだ...!」

 結界が展開された際の波動を感じ、司達は気を引き締める。

「私たちを狙ってるんだ...。」

「今、クロノが解決法を探してる。援護も向かってるんだけど、まだ時間が...。」

 フェイトの呟きに、ユーノがそういう。

「つまり、それまで私たちで何とかするしかない...。」

「...そういう事になる。」

 息をのみ、それぞれが闇の書という強敵にどう立ち向かうか考える。









「っ....なに....!?」

「....!」

 その頃、先に帰っていたアリサとすずか、アリシアが辺りの異変に気付く。

「人が....!?」

「(これは...!)」

 人がいなくなり、どこか色を失ったような景色になる。
 それに、アリシアは見覚えがあった。

「(結界...という事は...。)」

 随分と遠くにある病院をアリシアは見据える。
 そこで戦っているであろう、妹たちを想って。

「どうしよう...。」

「とにかく、誰かいないか探すわよ!」

「あ...。」

 そうしている間に、アリサとすずかが人を探そうと行動に移る。
 さっさと手分けして探しに行ってしまったので、アリシアは取り残された。

「...どう説明しよう...。」

 まだアリサとすずかは魔法を知らない。
 なので、アリシアはこの状況をどう伝えようか悩んでいた。

「...とりあえず...頑張って...!フェイト、皆...!」

 一度病院の方角を振り返り、アリシアは二人を追いかけた。











     ドォオオオン!!

「なっ....!?」

「...やはり、ここにいたか。」

 隠れるのに使っていたビルを突き破って、闇の書が現れる。
 あまりにいきなりすぎるその行動に、全員が一瞬硬直する。

「薙ぎ払え。」

   ―――“verdr''angen(フェアドレンゲン)

「っ...!抑え込んで!!」

〈はいっ...!〉

 膨れ上がる魔力を感じた司は、咄嗟にシュラインに呼びかける。
 闇の書を包むように障壁が展開され、放たれた広域砲撃魔法を封じ込む。

「ぐっ、ぅううう....!」

「っ、今の内に離脱!奏!司を頼んだよ!」

「ガードスキル“Delay(ディレイ)”...!」

 少しの間、司が抑え込んでいる間に、全員が魔法の範囲外に逃げる。
 最後に奏が司を連れ去るように抱えて離脱する事で、ギリギリ魔法を回避した。

「あんなの、まともに喰らったら...!」

「っ...!司!」

 妨害がなくなって放たれた砲撃魔法を見て、思わず司はそう呟く。
 奏から離してもらい、いざ動こうとしてユーノの言葉で咄嗟に動く。
 襲い掛かってきていた闇の書の一撃を、防御魔法で防ぐ。

「まずはお前からだ...。」

「っ、させない...!」

 防御魔法の上から、パイルスピアで何か仕掛けようとする闇の書。
 それを見た奏は、すぐに動いて攻撃を仕掛ける。

「甘い。」

「っ、ぐっ...!」

 しかし、それは回り込むように躱され、反撃をガードするものの喰らってしまう。

「はぁあああっ!!」

「.....!」

 そこへ、神夜がアロンダイトを構え、突っ込んでくる。
 バックステップで闇の書は躱すが、神夜は間髪入れずに追撃に向かう。

「むっ....!?」

「隙ありっ!」

 闇の書に対し、二種類の魔力弾が襲い掛かる。...なのはとフェイトの魔力弾だ。
 それを防御魔法で防ぐも、それで両腕が使えなくなる。
 好機と見て、神夜は斬撃を繰り出すが...。

「吹き飛べ。」

「なっ!?がっ...!?」

「く、ぅうう....!」

 闇の書から放たれた魔力の衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
 近くにいた司もその衝撃波を受けるが、距離が開いているためなんとか踏ん張る。
 ....踏ん張るのが、いけなかった。

「そら。」

「っ!ぐ...!」

 再び襲い掛かる闇の書。
 パイルスピアの一撃をシュラインの柄で司は受け止める。
 しかし、その状態で穂先から閃光が放たれ、不意を突かれた司はまともに受ける。
 幸い、威力も高くなく、バリアジャケットのおかげで傷はなかった。

「はぁあっ!」

「ガードスキル“Hand sonic(ハンドソニック)”...!」

 司に対する追撃を阻止するため、フェイトと奏が斬りかかる。

「....断て。」

   ―――“Schild(シルト)

 しかし、その攻撃は闇の書の一言で展開された二つの障壁に阻まれる。

「レイジングハート、撃ち抜いて!」

〈“Divine Buster(ディバインバスター)”〉

 フェイトと奏の攻撃を防いだ闇の書の背後から、なのはが砲撃魔法をお見舞いする。

「....ふ。」

   ―――“Blitz Action(ブリッツアクション)

 だが、闇の書はそれを薄く笑いながら、フェイトの移動魔法で躱す。
 しかも、それだけでなく...。

「っ、なのはちゃん!」

「きゃぁっ!?」

 なのはの背後に回り、パイルスピアの一突きが放たれる。
 辛うじて司の呼びかけにより、なのはは咄嗟の防御魔法が間に合って吹き飛ばされるだけに留める事ができた。

「今のって...!」

「...うん。私の魔法だ...。」

 司は、なのはが何とか助かった事にホッとしつつも、今の魔法に驚く。
 隣に来たフェイトも、自身の魔法が使われて驚いていた。

「夜天の書は、収集したリンカーコアの持ち主の魔法を扱えるんだ!多分、フェイトのだけじゃなく、なのはや司の魔法も...!」

「そんな...!」

 ユーノの言葉に、司は驚きを隠せない。
 自分たちが使ってきたからこそ、厄介だと直感的に悟ったからだ。

「はぁああっ!!」

「....!」

 そこへ、再び神夜が斬りかかる。
 多少の魔法では効かないが故の、ごり押しな攻め方だ。

「『ユーノ!今の内にとびっきりのバインドを頼む!』」

「『っ、了解!』」

 執拗に闇の書に斬りかかる神夜からの念話に、ユーノは頷く。
 そして、よく狙いを定め...。

「っ...!」

「よしっ!」

 ユーノのリングバインドがかかる。
 それに追従するように、アルフもバインドを仕掛けた。

「今度は...フルパワーだよ!!」

〈“Divine Buster(ディバインバスター)”〉

 それを見計らったように、カートリッジを三発ロードしたなのはの全力のディバインバスターが闇の書に向けて放たれる。

 なのはの得意な“集束”を生かした超高威力の砲撃魔法。
 回避も防御も不可能だろうと思われたその一撃は...。

「...甘い。」

   ―――“Bohrung stoß(ボールングシュトース)

 闇の書の掌から放たれた細めの砲撃魔法により、打ち破られた。
 片手にかかるバインドだけに集中し、片手だけを自由にして砲撃魔法を放ったのだ。

「っ、ぁあああっ!?」

「なっ!?」

 ギリギリ相殺に持ち込めたものの、爆発によってなのはは吹き飛ばされる。
 まさか砲撃魔法でなのはが打ち負けると思っていなかったため、神夜は動揺する。

「吹き飛べ。」

   ―――“stoß(シュトース)

「がぁっ!?」

 その隙を闇の書は見逃さず、鋭い突きで神夜を吹き飛ばす。
 パイルスピアから放たれたその一撃は、神夜の防御力を貫通したようだ。

「っ....!」

「よくも神夜を!」

「はぁっ!」

 神夜が吹き飛ばされた事により、奏、アルフ、フェイトが同時に仕掛ける。

「待って皆!」

 司が慌てて止めようとするが、一瞬遅く...。

「堕ちろ。」

「っ!」

 魔力の衝撃波により、神夜達と同じように地面へと吹き飛ばされる。

「....滅せよ、悪なる者を...。」

「っ...!まずい!皆!逃げ―――」

   ―――“セイント・エクスプロージョン”

 司の言葉が言い終わる前に、広範囲に渡って地面に魔法陣が展開される。
 そのまま魔法陣の輝きが増し、魔法が炸裂する所で...。

「....っ、ぐ、ぅ....!シュライン....!」

〈数秒が限界です!〉

 司の“祈りの力”で、発動させまいと抑え込む。
 自分がよく使う魔法だからこその荒業だった。

「なのは!神夜!」

 その間に最も機動力の高いフェイトがダメージを受けて怯んでいるなのはと神夜を連れ、一気に魔法の範囲外から逃げ出す。

〈限界です!〉

「司!」

 司の抑え込みが破られ、魔法が発動する。
 抑え込むために動けなかった司は、ユーノの防御魔法で庇われた。







「っ...。闇の書は...。」

「どこに...?」

 何とか耐え切り、闇の書を見失う司とユーノ。
 他の皆はギリギリ範囲外まで逃げ切れたようだ。

「っ、あそこ...!」

「なっ...!?あれって...!?」

 上にいる闇の書を司が見つけるが、それを見てユーノは驚愕する。
 闇の書が構えているのは、鳴動する桃色の球体。その魔法は...。

「.....咎人達に、滅びの光を...。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ...。」

「スターライトブレイカー....!?」

「嘘...あんなの、ここに落とされたら...!」

 既に集束を終わらせるだけの段階まで術式は組み立てられている。
 その事から阻止するのは不可能と判断し、二人は逃げ出す。

「『全員、今すぐ闇の書から距離を!』」

「『なのはちゃんのスターライトブレイカーが落とされる!!』」

 急いで念話で皆に呼びかけ、一気に離脱する。

「『こ、こんなに距離を取らなくても...。』」

「『至近で食らったら、防御の上からでも堕とされる!』」

「『なのはちゃん!自覚がないのは時として自分を追い詰める事になるよ!』」

「『ええ!?』」

 なのはの疑問に、フェイトと司が諭すように言う。

「(どうしてこんな事に...!もっと、私がしっかりしていれば...!)」

 必死に闇の書から距離を取りながら、司はこんな状況になった事を後悔する。

〈っ...!マスター!十時の方向、300m先に誰かいます!〉

「っ!?嘘っ!?」

 そこへ、シュラインの忠告が耳に入る。

「(近くには...ユーノ君とアルフさん...!)シュライン!案内して!」

〈はい!〉

 同じ方向に逃げている面子を分析し、司はシュラインが示す場所へと向かう。

「『ユーノ君!アルフさん!こっちに来て!巻き込まれた人がいる!』」

「『なんだって!?』」

「『っ、わかった!すぐに行く!』」

 その途中で、ユーノとアルフを呼んでおく。

「(私だけだと、守り切れないかもしれない...!そんなのは絶対ダメ!)」

 自分のせいで守れないのは嫌だと焦りながら、司は急いだ。









「何...あれ....?」

「アリシアちゃん...。」

「っ.....。」

 一方、巻き込まれた人物であるアリシア達は、スターライトブレイカーの光を見て立ち止まっていた。

「(なのはのスターライトブレイカー...でも、なのはが使うには状況がおかしい...!なら、あれは敵が...!?)」

 唯一事情を知り、尚且つなのはの魔法の恐ろしさを知るアリシアは、病院の方角にある桃色の光に戦慄する。

「アリシア...あれは一体何なの!?」

「知ってるんだよね...?」

「....一応、ね。」

 人がいないからと、色々と動き回ろうとする二人を、アリシアは先程止めていた。
 “不用意に動き回ると危険”と言って止めたアリシアを、二人は何か事情を知っていると理解し、こうして三人で固まっていたのだ。

「...逃げるよ二人とも。」

「逃げるって...どこに?」

「とにかくアレから離れるよ!防ぐ手立てがない私たちじゃ、そうでもしないと助からない!」

 必死にそういうアリシアに、アリサとすずかもただ事ではないと理解し、走り出す。
 気休めにしかならない。絶望的な状況だと分かりながらも、ただ走り続けた。



「シュライン!ここら辺?」

〈はい!....っ、見えました!〉

 そこへ、司が駆け付ける。急いで来た司は、誰がいるのか確認する。

「嘘...アリシアちゃんにアリサちゃん、すずかちゃん...。」

〈...おそらく、はやて様の所にお見舞いに行った以上、闇の書に敵対認証されてしまったのでしょう...。〉

「そんな!?ただ巻き込まれただけなのに!」

 魔法について知っているアリシアはともかく、アリサとすずかは本当に巻き込まれただけな事に司はそう言わざるを得なかった。

「とにかく、守らないと...!」

 スピードを上げ、アリシア達の所へ辿り着く。

「アリシアちゃん!」

「っ...司!」

 必死に走っている三人の上から、司は呼びかける。
 それに気づいたアリシアが、上を向いて一度立ち止まる。

「ぇ...司、さん...?」

「ごめん、アリサちゃん、すずかちゃん!説明は後。そこから動かないでね!」

「何を...!?」

 司はそういうや否や三人の前に立ち、シュラインを地面に立てるように構える。

「....貫け、閃光。“スターライトブレイカー”。」

 ...そして、全てを塗りつぶす程の桃色の極光が放たれた。

「(余波が来るまで時間はある...!)シュライン!!」

〈はい!〉

 魔力を迸らせ、司は魔法陣を展開する。

「司!」

「っ、ユーノ君!アルフさん!状況は見て判断!急いで防御を!」

「了解...!」

 駆け付けたユーノとアルフもアリシア達を見て庇うように防御魔法を展開する。
 余波が辿り着くまで十秒もない。急いで司は言葉を紡ぐ。

「...其れは遥か遠き理想郷。未来永劫干渉される事のない領域を、今一度ここに...!あらゆる干渉を防げ!“アヴァロン”!!」

〈“Avalon(アヴァロン)”〉

 司の前に、青と黄金を基調とした鞘のようなものが現れる。
 それを中心とし、司達全員を囲うように障壁が展開される。

「っ....!!」

 そして、破壊の星の光が司達を襲った。

「ぐ、ぅうううううう....!!」

「なん、て重さ....!」

 スターライトブレイカーは、周囲の魔力を集め、放つ魔法。
 周囲の魔力が多い...つまり、その場での戦いが激しく、尚且つ人数が多い程威力が増す。
 そして、この結界においては既に強力な魔法が何度か使われており、さらには魔力の多い魔導師も多く集まっている。

 ...よって、今司達を襲うスターライトブレイカーの威力は計り知れなかった。

「(耐え切って...見せる...!)」

「っ、ぁあああああ!!」

「はぁあああああ!!」

 魔力を必死に送り、障壁を保たせようとする。
 余波が過ぎ去るまでたったの数秒...だが、司達にとってそれは長く続く苦痛だった。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

「防ぎ...きれた...?」

 司、ユーノ、アルフの張った障壁全てに大きな罅が入った所で凌ぎきる。
 司はともかく、司が防いだ砲撃の余波だけでユーノとアルフの障壁に罅を入れた事から、どれほど強力な攻撃だったのかが伺えた。

「っ....。」

「だ、大丈夫...?」

「な、なんとか...。」

 守り切ったアリシアから尋ねられ、息を切らしながらも司は答える。

「『司!無事なのか!?』」

「『無事...だけど、アリシアちゃん達が...!』」

 神夜の慌てた念話に司が答える。
 神夜達は神夜達で、なんとか射程範囲外に逃れていたようだ。

「(くそ...!アリシアがいるから大丈夫だと思ってたけど、やっぱり結界内に...!)」

「『エイミィさん!』」

 予想が外れたと悔しがっている神夜を余所に、司はアースラへと念話をかける。

『避難させたい...んだけど、さっきの魔法と、結界の影響で外にはしばらく避難させれない!』

「っ....!」

『こっちで結界の解析を急いでいるから、それまで結界内で避難させて!』

 スターライトブレイカーのあまりの威力によって、アースラからの転移が安定しなくなり、さらには闇の書が張った結界のせいで閉じ込められて出られなくなっていた。

「そんな...。」

「つ、司さん...。」

「.....ごめん、なさい...。巻き込んでしまって...。」

 “巻き込んでしまった”。その事実が、司の精神を追い込める。

「....僕とアルフで守っておくよ。司はなのは達の助けに行って。」

「え、でも...。」

「任せなよ。ユーノは防御魔法が得意で、あたしも主を守る使い魔...守りに関しては得意なのさ。」

 適材適所。そう言われた司はアリシア達をユーノ達に任せ、闇の書の方へ向かった。

「(...もう一度アレを撃たれる前に、何とかしなきゃ...!)」

「司!」

「っ...!」

 司が闇の書へ向かう途中、別方向から神夜達が合流する。

『皆!クロノ君から連絡!闇の書の主に...はやてちゃんに、投降と停止を呼びかけてって!』

「.....!」

 さらにそこへ、エイミィ経由のクロノからの連絡が来る。
 それに従い、なのはとフェイトが呼びかけるが...それは拒絶された。

「『ふざけるなっ!それをはやてが本当に望んでいるとでもいうのか!?』」

 騎士たちを殺された事が夢であってほしい。だから幸せな夢の中で眠らせ、他は全て破壊する事で“願い”を成就させようとする闇の書に、神夜がそういう。

「『...お前の事は、主も大事にされていた...。ならば、お前も私の中で眠るといい。』」

「『断る!俺ははやてを...そしてお前も助け出す!』」

「『私も...?愚かな。主だけならまだしも、私を助けるなどと言うとは...。』」

 神夜と闇の書が念話で問答を続けていると、地面から炎が噴き出してくる。

「『...早いな。もう崩壊が始まったか。』」

「......!」

「『...私も時期に、意識をなくす。そうなればすぐに暴走は始まる。』」

 聞く耳を持たないと、その場にいる全員が理解した。
 それと同時に、このままでは明らかに危険だという事も。

「『皆!何とかしてダメージを与えるんだ!中で眠っているはやてを叩き起こすんだ!』」

「『た、叩き起こすって...。』」

「『さすが神夜君!わかったよ!』」

 根拠もないのに、神夜の言う事が正しいと思ったなのはとフェイトはすぐに動く。

「『....飽くまで抵抗するつもりか。』」

「『当たり前だ!』」

「『...ならば、皆、ここで闇に沈め...!』」

 その動きを見た闇の書は、神夜の言葉に敵意を強める。
 瞬間、四人の元へ赤い短剣が飛来した。

「っ...!ぐっ...!」

「ああっ!?」

「っ...!」

「皆!」

 神夜は防いで耐え切り、なのはは被弾。フェイトがギリギリで躱す。
 司も飛び退く事で回避し、皆の心配をする。

「っ、後ろだ!」

「ふっ!」

「きゃっ!?」

 その瞬間、闇の書は司の背後に回り、パイルスピアを繰り出す。
 ギリギリで司は反応してシュラインで防ぎ、その場から飛び退く。

「...魔法の傾向、騎士たちの戦闘記録から、お前たちの戦闘パターンは読めている。...諦めて、闇に沈め...。」

「なっ...!?」

 言外に“動きは読めている”という闇の書に神夜は驚きを隠せない。
 なにせ、“原作”にはなかった事だ。“原作”を前提に考えている神夜が驚くのも無理はないかもしれない。

「はぁっ!」

「....。」

     ギィン!

 すぐに復帰してきた司が斬りかかるも、パイルスピアで防がれる。

「それでも...!諦められない...!見過ごせない!」

「なに....?」

「シュライン!」

 鍔迫り合いの状態から、魔法陣を展開。司は自分ごと魔法で攻撃した。

「っ....!今までの戦法が通じないなら、戦い方を変えるまで...!」

「...そうか。理にかなっている。だが、それだけだ。」

「がっ...!?」

 しかし、その魔法はパンツァーガイストという身に纏う防御魔法で防がれる。
 そのまま闇の書は空いている手で司の首を掴む。

「司!」

「司さん!」

「う...ぐぅ....!?」

 力を込めれば首の骨が折れる。
 そんな司を人質にした状況にされ、なのは達は動きが取れなくなる。

「どれほどの力の持ち主か分かっていれば、どれほどのスピードで動くかもわかる。...例え戦術を変えようとも、付け焼刃では通じない。」

「っ.....!」

 もがこうとする司だが、闇の書の力が強く、びくともしない。

「(私のせいで、皆が動きを取れない...。)シュ...ライン....!」

〈はい!〉

 息苦しい中、司は魔力をシュラインに通し、それを闇の書に当てる。

「っ....!」

「っぐ...はぁ...はぁ...はぁ...!」

 なんとか拘束から逃れ、シュラインを構えながら司は息を整える。

「っ...ぁ....!」

「司!」

 すかさず他の皆がフォローに入り、司を少し休ませる。
 ...しかし、司の様子がおかしかった。

「(.....怖い。)」

 容赦なく自身を蹂躙する闇の書に対し、司は恐怖を抱いていた。
 その恐怖は、まるで前世で虐げられた時のようで...。

「っ、ぁぁ....ぁああああああ!!」

「司!?」

 一瞬とはいえ、恐怖が司の臨界点を突破し、シュラインを構えて突貫する。

〈マスター!?〉

「あああああああっ!!」

 先ほどまでと違い、我武者羅に司は攻撃を放つ。
 シュラインの声も届かず、半ば暴走状態にあった。

「....お前も、“闇”を抱えているのか...。」

「っ....!?」

 そんな様子の司を見て、闇の書は何を思ったのか、障壁で正面から攻撃を受け止める。
 そして...。

「...ならば、お前も私の中で眠るといい...。」

「ぁ....ぁ....!?」

 司は淡い光に包まれ、その場から姿を消してしまった。

〈“Absorption(アプソプツィオン)”〉

「司...!?」

「嘘...!?消えた....?」

 司が吸収された。
 その事実に、なのは達は驚きを隠せなかった。

「てめぇええええええ!!」

 神夜は激昂し、アロンダイトを構えて闇の書に斬りかかる。
 それに続くように、なのは達もデバイスを構えた。









   ―――悲しみの夜は、まだ続く...。











 
 

 
後書き
Avalon(アヴァロン)…司の持つ魔法の中で最大級の防御魔法。かのアーサー王伝説に記されるエクスカリバーの鞘の効果を模した魔法で、あらゆる攻撃を防ぐ。元ネタはもちろんFate。

リーゼ姉妹の下りは完全に原作そのままなのでカット。
王牙はアースラで療養中です。少し前の戦闘で蒐集&ボロボロにされたので。(話に組み込めなかっただけだなんて言えない...。) 
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