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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第六十九話 フィオーナ艦隊が出撃します。

 
前書き
 皆様、ご感想ありがとうございます。おかげさまで、執筆気力が戻ってきました。やはり感想をいただくのは励みになりますし、とてもありがたいことだと思っております。これからもお付き合いのほどお願いいたします。 

 
 増援として派遣されているフィオーナ艦隊19200隻は(ティアナ艦隊を臨時に麾下に含む。)リッテンハイム星系に陣を構えるブラウンシュヴァイク公爵・ミュッケンベルガー元帥の本隊と合流すべく進んでいた。ジークフリード・キルヒアイスを参謀長としているが「キルヒアイスに武勲を立てさせてやってほしい。」というラインハルトの内々の頼みをフィオーナは心にとめており、いつでもキルヒアイスに艦隊を預ける準備をしていたのだった。

 麾下に所属する主な指揮官は、ティアナ・フォン・ローメルド中将、バーバラ・フォン・パディントン少将、ルグニカ・ウェーゼル准将、ディッケル准将、ブクステフーデ准将、副官としてはザンデルス少佐、そしてフィオーナの前世の教え子であるシアーナ・フォン・エクレール大尉らである。彼女はフィオーナがイルーナを教官と呼ぶように、フィオーナのことを教官と呼んで慕っているのだった。

 艦隊旗艦の司令官個室でフィオーナ、ティアナ、そしてバーバラの三人が話し合っていた。残念ながらシアーナは副官業務で同席できず、キルヒアイスもまた参謀長としての職務で同席できなかったのだが。
「エリーセル艦隊、か。」
ティアナが感慨深そうに言った。
「ラインハルトの言葉をパクるわけじゃないけれど、中将になってようやく一個艦隊を私たちが指揮することになったわけで、やっと戦局を左右できる立ち位置に来たわね。」
「まだわからないじゃない。中将に昇進したって結局は上の命令で行動するんだから。今回だってミュッケンベルガー元帥の麾下に配属されるわけでしょ?第四次ティアマト会戦のラインハルト艦隊みたいに、囮に使われたりでもしたらたまらないわよ。」
と、バーバラが不安そうな顔をする。ピンク色の髪をサイドテールにしたこの女性はよく言えば慎重派、悪く言うと悲観論者である。ヴァンフリート星域会戦においてロイエンタールの巡航艦オルレアンにおいて一緒だった時も「女性士官の統率ができない。」と嘆いていたのが彼女である。前世に置いて名門貴族出身だった彼女はどこかそういった甘さをもっていた。好人物だし能力は決して低くはないのだが、せっかくの美点がそれで損なわれていることが多かった。
「あんたって、どうしてそういう悲観論ばかり言うわけ?」
「悲観論なんかじゃないわよ。あり得る可能性を言っているのよ。もう・・・・。」
「二人とも。」
フィオーナが柔らかく制した。
「バーバラのいう事も一理あるわよ。仮に私たちがミュッケンベルガー元帥の本隊に囮役として使われたりでもしたら、どう切り抜けるかを考えなくちゃ。」
ラインハルト戦法は、あの時、あの布陣、あの陣容、あの人々の中でこそなしえたものであり、本人の言う通り「邪道」なものであった。同じことをフィオーナがやれば、敵味方の双方から砲火を受けて大損害を出してしまうことは高い可能性であった。
「フィオ、何か思案でもあるの?」
ティアナの問いかけにフィオーナは軽くうなずきを示した。
「あるわよ。でも、想定は少しでも多い方がいいと思うの。だから知恵を貸してほしいの。3人寄れば文殊の知恵っていうでしょ?」
3人はその後検討に入った。微に入り細に穿って、リッテンハイム星系の詳細、ミュッケンベルガー元帥の本隊布陣、将官の陣容などが研究され、リッテンハイム侯爵陣営についても同様に検討されたのだった。だが、戦場においてフィオーナ艦隊がどういう行動をとることになるか・・・・それはひとえに敵の布陣とミュッケンベルガー元帥ら首脳部がフィオーナ艦隊にどのような指令を下すかにかかっていたのである。



一方――。
 ブラウンシュヴァイク公爵の旗艦ベルリンでは、ミュッケンベルガー元帥ら軍首脳陣、ブラウンシュヴァイク公爵とその家臣団は苦々しい顔を並べて作戦協議していた。リッテンハイム侯爵の強襲が彼らのプライドを痛く傷つけていたのだった。それだけではない。ミュッケンベルガー元帥は内心「だから前祝いの酒宴など早すぎるといったのではないか。」と腹立たしく思っており、それが顔に出て憤然とした表情に拍車をかけている。ブラウンシュヴァイク公爵もそれについては負い目がないわけではない。それがまた「ミュッケンベルガー元帥ごときに大貴族の長たる儂が頭を下げねばならんのか!?」と、不機嫌さに拍車をかける結果となっていた。

 どうやらこれまで蜜月関係であった両者の間にも亀裂が生じ始めてきたようだった。

 アンスバッハらブラウンシュヴァイク公爵の家臣らは「まずいことになった。」と内心思っていたし、ベルンシュタイン中将に至っては焦りを覚えてもいた。ブラウンシュヴァイク公爵がラインハルトに勝つためには、ミュッケンベルガー元帥の艦隊運用が不可欠だからだ。既にラインハルトがメルカッツと長い事肩を並べて戦っている事実を知っているベルンシュタインは、メルカッツではなくミュッケンベルガーを対ラインハルト戦の実質的な総司令官にと考えていただけに、舌打ちを禁じ得ない思いだった。

「元帥、公爵閣下、リッテンハイム侯爵が強襲をかけたからと言って、無様に敗退したのは酒宴に打ち興じていた貴族だけであります。正規艦隊は未だ健在。精鋭を持って撃ちかかればリッテンハイム侯爵ごとき敵ではありますまい。」
会議に参加していた一中将のこのKY発言がブラウンシュヴァイク公爵の怒りに触れたのは言うまでもない。本人はこの沈滞した空気を打開したいと思っていったのかもしれないが、これは完全な逆効果であった。
「無礼者!!儂ら貴族のせいで先の戦に負けたとそう卿は申すのか!?ええ!?!?」
ブラウンシュヴァイク公爵が罵り、貴族連中は一斉に怒りの声を上げたため、当の中将はバッタのごとくはいつくばる勢いで懸命に謝った。ミュッケンベルガー元帥もとりなしたので、その場では事は収まったが、どうも先行きが思いやられる空気になってきていた。
 結局会議では積極攻勢どころか積極的発言をするものさえほとんどおらず、具体的決定はラインハルトからの援軍到着を待ってから、という理由の下、会議は次回に持ち越しになったのだった。
ベルンシュタイン中将は一人憮然とした表情で会議室から下がってくるところをアンスバッハ准将に呼び止められた。
「何でしょうか?」
「少しお話があります。お付き合いいただけませんでしょうか?」
後ろにはフェルナー、シュトライトと言ったブラウンシュヴァイク公爵の主だった家臣たちと将官が顔をそろえている。
「伺いましょう。」
ベルンシュタイン中将は言葉少なくそういった。一同はアンスバッハが用意した防音個室にこもった。酒もなく料理もなく、あるのはただ喉を潤す水くらいなものである。その水を勢いよくグラスに注いでぐっと飲みほしたアンスバッハが大息を吐いた。
「卿にしては随分な飲み方だな。」
シュトライト准将が言う。
「失礼。どうもこうしなければやりきれない部分がありましてな、見苦しいところをお目にかけた。」
「気になさる必要はありますまい。誰しもが思っていることはほぼ同じであると小官は推察いたしますが。」
と、フェルナー大佐。
「なんだそれは?」
と、フォーゲル少将が険のんな表情を浮かべる。
「つまりは、今のままではリッテンハイム侯爵にとどめを刺すことはおぼつかないということです。ブラウンシュヴァイク公が酒宴をおやめになり、ミュッケンベルガー元帥と歩調を取って戦わない限りは、ですが。その原因をもっと突き詰めれば、我々の陣営に多く加わっている生粋の貴族連中の進退でしょうな。」
居並ぶ者は一斉にと息を吐いた。フェルナー大佐のあけすけな言葉が出席者の大部分の心情を代弁していた。
「ラインハルト・フォン・ミューゼル、いや、今やローエングラム伯ですが、そのローエングラム上級大将閣下麾下の精鋭を融通してもらわなくては、リッテンハイム侯爵と対決はできないでしょう。」
「いや、それはない。むしろそれは危険だ。」
と、素早く言ったのはベルンシュタイン中将だった。日頃あまり表だって発言しない中将がいつになくそう言ったことが一同の耳目を集めた。
「それはどういうことですかな、ベルンシュタイン中将閣下。」
アンスバッハの問いかけに、ベルンシュタイン中将は視線を一同に向けながら、
「あのローエングラム伯の力量はなるほど素晴らしいものだ。それは私も認める。だがあの方は並々ならぬ野心を秘めておられる。いずれ姉に対する皇帝陛下のご寵愛をかさに、もっと高位な、それも万人が手を触れてはならぬ地位にまで手を伸ばそうとしている節がある。」
「まさか。そのようなことはありますまい。そのような大それたことをあの金髪の孺子ごときが思いつくはずもない。まだ小生意気な、少し程度用兵のできるといって有頂天になっている10代の孺子ではありませんか。第一そのような事はブラウンシュヴァイク公ら大貴族の長がお許しにならぬはずではありませんかな、ベルンシュタイン中将。」
そう言ったのは、シュターデン中将だった。
「野心というものは秘めていてもそれを表に出さないものです。すぐに気づかれるような野心を持つ者の力量などそうたいしたことはない。ところがローエングラム伯の力量は先述したように優れたものです。」
「すると中将閣下は大貴族の長であるブラウンシュヴァイク公爵よりもあの孺子が優れているとそうおっしゃりたいのか。」
そう血相を変えて詰め寄ったのは、ブラウンシュヴァイク公爵の家臣の一人だった。名前は知らない。原作には出てこない人物だろうとベルンシュタイン中将は思った。だが、彼の発言は中将に対して妙な風向きを起させるきっかけとなった。
ブラウンシュヴァイク公爵の家臣でありながら、主君を非難するとは何たることか、と居並ぶ者たちが無言の非難を浴びせてきている。もっとも、アンスバッハ、シュトライト、フェルナーらは別であったが。ベルンシュタイン中将は内心と息を吐いた。ここでは軍の階級よりも公爵の家臣としてどれほどのステータスがあるかが序列を決める。その点で行けば、この男は上位に分類されるべき人物であった。すなわち、おべっか使い、小才子、パーティーなどで見栄えする薄っぺらい軽薄さ、等を備えている人物である。
これ以上この話題に触れるべきではないとベルンシュタイン中将はとっさに思った。
「・・・・言葉が過ぎました、お許しください。」
ベルンシュタイン中将が謝ったので、それ以上追求しようという空気はいったんはなくなったが、中将自身は澱を心の底にためていた。ラインハルトに対抗するためにはブラウンシュヴァイク公爵の力を借りるしかない。だがその家臣たちはラインハルトの麾下と比べ、なんと狭量で低能なのだろう。シュトライト、アンスバッハ、フェルナーらがいるとはいえ、それら有能な家臣はほんの一握りに過ぎないのだ。
これらの人々と共にラインハルトに立ち向かうことができるのか。原作OVAなどで知っているとはいえ、改めてこの問題に直面したベルンシュタイン中将の心には暗雲が立ち込め始めていた。

 だが、彼は諦めなかった。この集まりの後に、ひそかにフレーゲル男爵と面会したベルンシュタイン中将は1時間余り男爵と話し込んでいたのである。ラインハルトを狙うことが叶わないというのであれば――!!



* * * * *
 フィオーナ艦隊がミュッケンベルガー元帥、ブラウンシュヴァイク公爵の本隊の下に到着したのは、帝国歴486年11月18日の事である。彼女はティアナと共にミュッケンベルガー元帥、ブラウンシュヴァイク公爵に挨拶したが、その様子は芳しいものではなかった。露骨に女性蔑視をするフレーゲル男爵ら一門にティアナは拳を握りしめたが、フィオーナの落ち着いた態度と、ミュッケンベルガー元帥の制止、そしてブラウンシュヴァイク公爵自身の「卿らの武勲と才幹に期待する。」という言葉により、会談は一応は何事もなく終わった。
「あの、クソヘルメッツ!!!」
ティアナが旗艦に戻るシャトルの狭い専用個室に乗り込んだ途端怒声をはり上げた。
「まぁまぁ、抑えて抑えて。」
と、フィオーナ。親友の気性の荒さは前世からよく知っているフィオーナだった。いったん怒りだすとそれが冷めない限り何を言っても無駄だという事もよく知っているし、冷めたら自分のことを振り返ってよく反省する性格も知っていた。だから、そのなだめかたは真剣になって行ったのではなかった。
「絶対に生かしておかないんだから!!見てなさい!!リップシュタット戦役になった瞬間にあいつらを粉みじんにして地獄の大釜に叩き込んでやる!!!」
「はいはい、抑えて抑えて。」
「あのフレーゲルとかいうヘルメットなんて、何さまなわけ!?まともに武器を取ったら1秒だってまともに戦えないような奴がえらそうに!!口だけは達者!!おまけに女性蔑視!!あんなヘルメットが一人前に人間の口を利くこと自体が腹立たしい事この上ないわよ!!!」
バチン!!と拳を手のひらに打ち付けたティアナが散々罵声を見えない彼方のフレーゲルら門閥貴族に浴びせ終わった後、シャトルは旗艦に到着した。とたんにティアナはばつの悪そうな顔をした。
「ごめん。フィオ。一番怒っていいのはあなたなのにね。勝手に怒って迷惑かけてごめんね。」
「いいのよ。ティアナが怒ってくれて、私もちょっと気分がスッキリしたわ。ありがとう。」
親友の柔らかい表情にティアナは救われた思いだった。自分が怒った時、何かした時、この親友は一部を除いて今のように慰めてくれている。そのことが嬉しかったし、同時に少し後ろめたさも感じることもあった。
「こちらこそ、ありがとう。」
ティアナは少し赤くなったが、やがて咳払いして表情を改めた。
「さっきの話だけれど・・・・。」
ティアナが言いかけたちょうどその時、シャトルが旗艦に接舷して、ドアが開いたのでいったん話は途切れた。二人は移動床に乗って艦橋を目指した。
「さっきの話だけれど、ミュッケンベルガー元帥はやっぱり第四次ティアマト会戦と同じ手で来たわね。私たちの部隊を左翼にしたってことはそういう事でしょ?」
ティアナは「ゴホン!」と咳払いして、
「『着陣早々に申し訳ないが、左翼艦隊はエリーセル中将指揮下の増援艦隊にやってもらう。これは敵の攻撃に対して極めて重要な位置であり戦局を左右するものである。』とかなんとか言っちゃってさ。結局は私たちを乗せようってことなんだものね。」
プッ!とフィオーナが我慢できないように笑った。
「どうしたの?」
「・・・ごめんなさい。でもあなたの物まねがとってもおかしくて。笑っている場合じゃないのにね。でも、おかしくて。」
フィオーナが笑ったので、ティアナもつられて相好を崩した。
「ま、とにかくこれで、私たちが道中話し合ってきたことが、いよいよ現実のものになるってことなのよね。いいわ、私たちの手でリッテンハイム侯爵艦隊を壊滅させてやりまっ・・・!あぁっ・・・・!!」
「どうしたの?具合でも悪いの?」
突然ティアナの勢いが止まったので、フィオーナが心配そうに尋ねた。
「キルヒアイスよ。」
ティアナが言った。
「キルヒアイスに武勲を立てさせなくちゃならないわ。それを忘れるところだったの。今回の私たちの遠征もそれが目的なんだから。」
あっ!とフィオーナは声を上げた。
「そうよね。それに関してだけれど、道々私たちが話したことについてキルヒアイスに採点してもらおうと思っているの。彼ならば私たち以上に何か別の策を思いつくかもしれないわ。」
「流石はフィオ。じゃあ早速キルヒアイスを呼んで話をしてみましょう。」
そうと決まれば善は急げ、と二人は早速キルヒアイスに司令官室に来てもらったのだった。


* * * * *
 キルヒアイスが穏やかな顔をして司令官室に入ってきた。
「突然お呼びたてしてごめんなさい。」
フィオーナが謝った。
「構いません。で、私に何か御用でしょうか?」
「その前にどうぞ座ってください。立ったままでは申し訳ありませんもの。私たちの話を聞いてもらえますか?」
キルヒアイスが腰を下ろすと、フィオーナとティアナは先ほどのミュッケンベルガー元帥、ブラウンシュヴァイク公爵らとの会見や道々バーバラと三人で話し合ってきた「対第四次ティアマト会戦的会戦への対策」の様子などを語った。
「なるほど、元帥閣下やブラウンシュヴァイク公は私たちを生贄にするつもりのようですね。」
「そういうことね。」
と、ティアナ。
「で、キルヒアイス。私たちとしては命令には逆らえないから、できる範囲をもってこの状況を打開したいと思っているの。一応私たちの方で案があるのだけれど、それを採点してほしいのよ。」
「採点だなどと・・・私には過ぎたことです。フロイレイン・フィオーナやフロイレイン・ティアナ、お二人の方がずっと良い思案を持たれていると思いますが。」
「謙遜しないで。」
と、ティアナが言う横で、フィオーナがいくつかの案のデータの移っている小さなPCを示しながら、
「これなのですけれど・・・・。」
と言う。少しためらっていたキルヒアイスは重ねての二人の要望に「失礼します。」と断ってから、それを丁寧に持ち上げて検討し始めた。二人は邪魔にならないようにそっと座っていた。
「・・・・積極攻勢、ですか。」
キルヒアイスは顔を上げ、穏やかな眼を二人に向けた。
「それでこそ、フロイレイン・フィオーナ、フロイレイン・ティアナお二人らしいお考えだと私には思います。私としても異存はありません。」
「あなたは参謀長です。ですが、ご要望があれば一時的に前線指揮官として配置換えをしても良いと思っています。どうなさいますか?」
「お二人のよろしいようになさってください。武勲を立てたいというのはラインハルト様と私の個人的な希望で有って、それがお二人の作戦指揮に優先する事項ではないのですから。」
 言葉だけではないことは、キルヒアイスの表情と目で見ればわかる。彼は心からそう思っているのだった。フィオーナとティアナは顔を見合わせたが、結局この場では結論が出ず、後日に持ち越すこととなった。それにもう一つ、問題があったのである。
カール・グスタフ・ケンプ准将がフィオーナ艦隊のワルキューレ部隊の指揮統括を行っているのだった。本来であればラインハルト麾下に所属する提督ではあるが、今回彼が異動してフィオーナ艦隊の下に配属されたと聞いた二人は驚きとショックをもって彼を迎え入れたのだった。まして彼はサイオキシン麻薬摘発捜査の時に憲兵隊上官として二人と共に働いた仲である。その後彼はワルキューレ空戦部隊の部隊長として武勲を重ね、艦隊ワルキューレ部隊の統括指揮官となったのだった。また、ヴァンフリート星域会戦において陸戦隊の指揮官だったリューネブルク准将が、今は少将としてここにきているのだった。
「困ったわね。ケンプ准将やリューネブルク少将が私たちの指令を聞いてくれればいいのだけれど、どうなるのかしら・・・・。」
考え込むフィオーナだったが、今更配置転換も何もできない。どうしようもこうしようもなかったが、とにかく今は前に進むしかなかったのである。


 それにもう一つ問題があった。ブラウンシュヴァイク公爵陣営にいるベルンシュタイン中将の事である。ラインハルトから派遣されてきているフィオーナ艦隊について、転生者である彼がどう出てくるか、フィオーナたちは一抹の不安を覚えないわけではなかった。ベルンシュタイン中将は転生者であり反ラインハルト派だ。今やイルーナ以下の親ラインハルト派転生者たちはそのことをはっきりと悟っている。転生者である以上、第四次ティアマト会戦の時のラインハルト艦隊の敵前転進を知っているベルンシュタイン中将はその対策をしているに違いなかった。その裏をどうかくか――。


 フィオーナたちはこの戦いを一つの正念場としてとらえていた。対リッテンハイム侯爵との戦いであるが、対転生者の戦いでもあるのだ。


 帝国歴486年11月19日、フィオーナ艦隊はその布陣を完了し、帝国軍左翼部隊として配置についた。ブラウンシュヴァイク公爵とリッテンハイム侯爵の抗争はここに最終段階に突入したのである。
 
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