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IS ーインフィニット・ストラトスー 〜英雄束ねし者〜

作者:龍牙
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16話『日常……なのか?』

「はぁ?」

 突然の一夏の行動で四季は困惑していた。……行き成り頭を下げてきた一夏に対して、だ。

「いや、行き成りそんな事を言われても困るんだけど……」

「ああ、実は……」

 何でも、四季を除いた一年生の専用機持ち+箒の何時ものメンバーで行なった模擬戦の結果、一位が鈴、二位がセシリア、三位が秋八で、四位が箒……最下位が一夏と言う訳である。専用機持ちの三人は兎も角、量産機の箒を相手に一夏は負けているのだから、本人にしてみれば情けない話だ。
 だが、結果は妥当な所だと思う……秋八を除いてだが。代表候補生二人の上位は確定、箒も一応は全国二位の剣道の実力者……長年剣道を離れていた一夏では勝ち目は無いだろう。
 それを一夏は昼休みに四季を除いた皆で昼食を取っていた時に思ったわけだ。
 ……何時もの事ながら四季は一人で昼食を取っていた訳であり、詳しい事情は知らないが……。流石に昼食の時くらい一人になりたいと思っているのに、毎回誰かしらにつけられている気配があるので、散々それを撒こうと行動していた結果、毎日一人で昼食を取っているわけである。
 どうも、このIS学園では二度に渡る活躍で毎日のように生徒達からの視線が集まっているので流石に落ち着かない気分なのだ。……事ある毎に縁起の悪い名前の欠陥機を押し付け様としてくる元姉に関しても。

 なお、一夏が認めているので仕方ないと思っているが、鈴とセシリアは秋八と箒の参加を内心では嫌がっていたりする。セシリアは四季に一夏の指導を頼まれたので、本当に仕方ないと言う感覚だった。

「鈴は中三から勉強して代表候補生になったんだから、オレだって……って意気込んでるんだけど」

「結果が最下位だからな」

 四季の容赦の無い一言が一夏の心に突き刺さる。仮に四季が模擬戦に参加したとしたら、最下位と言う結果は変わらず、一位が四季に変わっているだけだろうと予想している。まあ、四季と鈴は戦った事は無いが。

「でも、衝撃砲は厄介だろ?」

「いや、軌道を見る方法は幾らでも有るし、ヴレイブやゼロ炎には他の第三世代機に出来る事は大体似た事が出来たり、無力化したり出来るからな」

 当然ながら、鈴の機体である甲龍の第三世代の武装・衝撃砲は同じ事ができると言う範囲である。
 ブルー・ティアーズの武装のBIT兵器に甲龍の衝撃砲が、ヴレイブが出来る範囲にある。
 そもそも、見えない砲撃とは言え軌道を見る手段は幾らでも有る。……最も簡単な方法は爆煙と言った所だ。

「出来るのかよ?」

「ああ、似た技を習ったからな」

「習った、技ァ!?」

「ああ」

 そう言って足元に落ちていた枝を拾うと、それを振った瞬間近くに有った木の葉が弾けて落ちる。これぞ、剣士ゼータ直伝の乱れ流星に続く剣技『波動剣』。不明機襲撃の際にアリーナの他に出現したシャッフルガンダム相手にゼロ炎に使った技でもある。

「……頼む、オレを鍛えて……いや、弟子にしてくれ!!!」

「いや、なんでだよ?」

 当然ながら、生身で衝撃砲ならぬ『衝撃斬』等と言うマネが出来るなら、一夏としては絶対に弟子入りを頼んでいる。どう考えても世界最強である千冬でも剣術だけで衝撃砲モドキは使えない。まあ、ヴレイブやゼロ炎に乗らなければ威力は単なる牽制程度にしか使えず、難しい技なので実戦での成功率も低い、隠し芸と言うのが四季の弁だ。

 四季の学んだ七星天剣流には一子相伝の伝統やら命懸けの奥義継承などは無い、寧ろ歴代の継承者の多くが兄弟を持っている事から教えても大丈夫だろうが。

「悪いな、一兄。オレはオレの技を誰かに教える気は無い」

 今更剣術一つで世の中が変わるとは思わないが、七星天剣流は簡単に世に出すべきではない流儀では無いと理解している身の上であり、なによりまだ未熟だと理解している。だからこそ、一夏の頼みを断る事を選択したのだ。
 ……まあ、四季にとっての理想はガンダム達なのだから……高すぎるかもしれないし、其処にたどり着くのは人間を一つや二つは止めなきゃならないレベルだろう。
 まあ、あまり長い事学園に残って放課後まで千冬に会いたくないと言うのも有るが。

「まあ、オレの求めている強さと一兄が求めている強さは違うと思う。……今は、な」

 全てを守ると言うのが一夏の求める強さであり、四季の求める強さは大切な一人だけを守るだけの強さだ。
 仲間は大切だがどうも全員が全員過去、己よりも先を行く姿が真っ先に思い浮かぶので、守ると言う評価は浮かぶ以前に浮べる事事態が失礼だと思ってしまう。

「オレの求めている強さと、お前の求めている強さは違う?」

「そう言う事だよ、一兄」

 根本的に四季の求めている力は詩乃を守るための力。言ってみれば『たった一人を守るためだけの強さ』だ。

「ただ一つだけ、オレの剣の師から言われた事を言っておく」

「お、おう」

「己の求めている強さを見極めろ。例えそれが間違っているとしても、己が剣を振る理由を見極める事は何より大事だ」

 誰かを守るため、何かを欲する我ゆえ……或いはただ強さだけを求める。どんな理由があったとしても、理由無く振るわれる剣こそが最も危険だと教えられた。

「オレが剣を振る理由……か」

「そう言う事」

 そう言って手を振りながら四季はバイクを走らせていく。








 その日の夜、DEM支社のラボの一室……四季のHi-νガンダム・ヴレイブとウイングガンダムゼロ炎以前に開発されたνガンダム・ヴレイブ以外にもコアこそ無いが数機のISや武装が飾られている限られた者しか入れない一種の美術館に四季の姿があった。
 ……彼の仲間達はほぼ全員が顔パスで入ることを許されていたりするが。

(……やっぱり、似ているな)

 『ユニコーンガンダム』とネームプレートのあるISの前に立つとそれを見上げる。その頭部はシャッフルガンダムと良く似ていた。何度見てもそう思ってしまう。だが、四季の目的はそこだけでは無い。

「……ターンエーガンダム……シン」

 コアを外されているだけでなく封印するように鎖で繋がれている何機かのIS。危険性が高い固定武装と共に完成してしまったISが飾られているエリアだ。
 『ターンエーガンダム・シン』……スダ・ドアカワールドの冥府の神と天宮の国の全ての武者の始祖となったとされる正しき自我に目覚めた『最初の武者ガンダム』へと至った巨大なるカラクリ巨人をモデルとして作られた『ターンエーガンダム』の改造機だ。最大の特徴はロシアの国家代表……現更識家の当主の専用機のナノマシンシステムの発展型である攻勢型ナノマシン『月光蝶』が搭載された機体でもある。

 一夏が力を求めているのならば、力を間違う事無く仕えると確信するのならば、託すべきなのはユニコーンかターンエーガンダム・シンの何れかと判断していた。義父やガンダム達に相談するべきだろうが、此処に有る機体は何れ誰かが使うべき時を待っている機体でもある。だが、

「……みんなはこちら側に関わらせるべきじゃない……そうだよな?」

 ガンダムの姿と名を与えられた用意されているIS達へと視線を向け、その日が来ない事を祈りながら、四季はその部屋を後にしていく。








 翌日、

「で、結局外出の申請はダメになったと」

「う、うるさい! そもそも、お前が寮に居ないのが悪いんだ!!!」

 翌日の登校早々に四季はラウラとそんな会話を交わしていた。昨日の放課後、四季と分かれた後にシャルルと訓練していた一夏に戦いを挑んだらしい。……まあ、当然ながらIS学園の生徒の人数多く、アリーナの数は一般的に見れば豊富では有るが生徒の人数に対して少ないと言える。

 そんな状況で一夏達だけでなく、トーナメント前で他の生徒が練習している状況で突発的に戦闘……試合等が起こってしまえば当然、周りの生徒も巻き込まれてしまう。しかも、聞いた話によれば高威力のレールガンまで撃とうとして教師に咎められたらしい。……そもそも、試合が成立したとしても他の生徒の練習の妨害行為になる。どう考えてもラウラが悪い。
 他の生徒も利用する事から考えて、ラウラとの決闘も学園のアリーナでは無く、邪魔の入らないDEMのアリーナを利用する為のセッティングを整えたわけだ。決闘と言うのは一対一と言うのは四季の信条の一つでもある。……妙な所で戦闘狂な所が有る四季である。

 多くの生徒が利用しているアリーナでの危険行為を行なった以上……それなりの罰則が与えられるのは当然。その結果、ラウラには申請していた外出許可の取り消しとトーナメント終了までの間、IS学園の敷地内からの外出禁止を罰則として言い渡されてしまったわけである。……なお、当然ながら巻き込まれただけの一夏とシャルルはお咎めなしだったそうだ。

「罰則が軽くて良かったんじゃないのか?」

「うるさい、ちっとも良くないだろうが!?」

 寧ろ、シャルルが防いでくれたお蔭でラウラへの罰則もその程度で済んでいたのかも知れない。
 四季の言葉に『ウガー』と吼えるラウラの図。クラス担任の千冬からも怒られたらしく、彼女にはそれが効いたらしい。しかも、自分から挑んでいた四季への宣戦布告が自分が原因でお流れに成ったと言うのは……結構格好悪い。
 そもそも、放課後は学園に必要以上に残る気が無いので、トーナメント終了まで二人は試合できなくなったわけである。

「……だったら、トーナメントで戦えば良い」

「良いだろう、望むところだ」

 改めて四季が代案を出した所で再び二人の一戦の約束が交わされることとなる。自分が転校するまでの間、四季が一年の間で最強といわれていたのにもラウラは納得していた。……四季は強い、一夏や秋八だけでなく他の代表候補生よりも。
 ……ある意味では『織斑千冬の弟』としてラウラとしては最も認めていいと評価している。だが、それ以上に彼と千冬の関係が彼女としてはもっとも気に入らないものでもある。己の求めている物を得られる立場にいると言うのに、四季はそれを足蹴にしているのだ……認められるわけが無いだろう。

「五峰四季、私と当たるまで負けるなよ」

「それはこっちの台詞だ。オレの力を見せ付けてやる」








 ラウラとの約束を終えて、その日の放課後……

「悪い、四季、話があるんだ」

「話?」

 帰ろうとした所で一夏に呼び止められてそう話を切り出された。

「ああ、シャルルの事なんだ」

 一夏が切り出して来たのは四季の予想通りシャルルの事だった。まあ、シャルルに対して疑いを持っていた四季としては、来るべくして来たと言う心境では有るが。

「……シャルルの話しか。……“シャルル・デュノアは実は男じゃなくて『シャルロット・デュノア』と言うデュノア社の社長の愛人の娘でした”って言う話か?」

「っ!? な、なんで分かったんだ!?」

「いや、最初に会った時に探りを入れただろ、オレ?」

「……そう言えば。って、お前、あの時から怪しいって思ってたのかよ!?」

「ああ。仕草とかが明らかに女の子みたいだったからな。……はっきり言って、一兄が今まで気付いてなかった事に驚いている」

 まあ、普段から恋人と同棲している身の上だからか、細かい仕草から読み取れる。寧ろ、変装する時は有る程度仕草を隠すべきだろと思う。
 何より、秋八もシャルルが女の子だと気付いていた様子が有るのだし。

 四季の言葉にがっくりと肩を落している一夏に苦笑しつつ、四季は頬を掻きながら、

「それで、シャルル・デュノア改め『シャルロット・デュノア』が実は女の子だったから、これからどうするのか考えるのに協力して欲しい……って所か?」

「ああ。頼む、お前だけが頼りなんだ」

 立場上、織斑千冬よりもDEMと言う企業が後ろ盾になっている四季の方が今回の問題では力になると言うのが一夏の判断なのだろう。

 色々とそれによって被る迷惑を考えると一夏相手でも断りたい所だが……

(いや、デュノア社の事を調べるいい機会か)

 現在キャプテンガンダム達の遊撃チームがDEMフランス支社と協力してデュノア社の事を調べているが、思ったよりも成果が上がっていない。愛人とは言えトップの娘であるシャルロットを通じて情報を得る事が出来るだろう。……インフラックスの行方も含めて、だ。
 上手くすればデュノア社に対して大々的に動く口実を得る事が出来るだろうとも思う。……単に技術的に劣っていた為に第三世代が作られなかったのか、IS委員会からの新型強奪事件の実行犯と繋がっていたため、被害を受けない為に遅れていると偽っているのか、疑惑も色々と湧いてくる以上、此方もそろそろ大胆に動く必要が有る。

「それで、この事を相談したのは……」

「……お前だけだよ、四季」

 秋八に相談しなかったのはシャルル改めシャルロットが嫌がったからだそうだ。本気で彼に対して身の危険を感じていたらしい。
 後に聞いた話だが、シャルロット自身……秋八の機体は一夏の機体の同型であり、二次移行していないのなら一夏の白式のデータさえ有れば十分だと判断して、最低限しか関わらないでいようと判断したらしい。

「仕方ない、聞くだけは聞こうか」

「ホントか!? サンキュー、四季!」

 そう言って感謝する一夏に連れられて、初めてIS学園の学生寮へと足を運ぶ事になったのである。









 IS学園の寮の一室……此処に来るまでにも散々女生徒達から珍しい物を見る様な目で見られたが、その辺はある程度スルー出来る程度には熟れた事を実感してしまった。……何一つ嬉しくは無いが。

 広さは無いが生徒二人が快適に生活できる広さを持った無駄に金をかけていると分かる下手なホテルよりも立派な家具の配置された部屋……。一応、これで元々は一人部屋だったものにもう一人分の家具を配置されたのだから、他の部屋はどうなのかと疑問に思う。

(まあ、好みじゃないけどな)

 どうも貧乏性と言う訳ではないが、もう少し一般的な方が四季としては好みである。下手なホテルよりも高級なベッド等……返って落ち着かないと思う。そもそも四季は布団派であるし。

 そんなどうでも良い事を考えつつ、ジャージ姿で胸に女性特有の膨らみを見せ、ベッドに腰掛けているシャルロット・デュノアの姿があった。

「……それで、確認させて貰うが……お前が『シャルロット・デュノア』で良かったんだよな?」

「うん。最初に話題を出された時は本当に驚いたよ」

「それで、なんで男装してIS学園に入学なんて真似をしたんだ。……大体見当がつくけど」

「それはその……実家からそうしろって言われて……」

 四季の問いに言い難そうにしながら言い出した。

「ああ、デュノア社の社長だろ」

「そう。昨日の夜に一夏にも言ったけど、その人からの直接の命令なんだよ」

 何処か虚ろな瞳で告げられるシャルロットの話は大体四季の予想通りだった。……元々キャプテンガンダム達からの調査を元にして経てた推測なので概ね違うところは無かったが、一つだけ予想していない点は、彼女と両親との関係だった。
 非公式に手セュノア社のIS操縦者として生きてきたと言う所はまだ良い。実の父親だというのにあったのは数回、会話の時間も一時間にも満たないと言う話だ。己の義父とは大違いだと思う。何より酷いのは母親……社長婦人の方だ。

「随分と禄でもない連中だな」

 はき捨てる様に呟く四季。調べている一件が無くてもデュノア社に対する嫌悪感が増す覚えの四季だった。

「それから少し経ってデュノア社は経営危機に陥ったの」

「え? だって、デュノア社のISのシェアは世界三位だろ?」

「いや、そうでも無いぞ一兄。数年の内には世界各国の軍に配備されているラファールは量産型νに置き換わるらしい」

「え、ええ!?」

 その辺は初耳だったらしい一夏が挙げる疑問の声を四季が補足する。その辺の業界の裏事情はしっかりと知っている四季だった。そもそも、スペック的には量産型νはラファールの上位互換で……性能は圧倒的にラファールを上回る。

「結局は第二世代。第三世代の上位互換が開発されればこうなるのも無理は無いだろ」

「うん。しかも、フランスは今欧州連合の統合防衛計画で次期主力機の選定をする計画『イグニッシン・プラン』から除名されているからね。……其処に来てDEMからの技術提供を断られた事がトドメになって正式な開発許可を剥奪されたんだ」

 そう言い切るシャルロットの言葉に四季と一夏は以前セシリアが言っていた事を思い出す。
 イグニッション・プランではDEMの持つBIT兵器の発展系であるファンネル、インコムの技術を応用したティアーズタイプの三号機の開発に着手している事で他の国に対して大きくリードしている訳だ。

「それでも第三世代機の開発に成功すればもう一度開発許可が与えられるって政府との約束も有って第三世代型の開発は急務なんだ。デュノア社でも第三世代型を開発していたけど圧倒的にデータも時間も不足していて中々形にならなかったんだ」

「そうなのか?」

「……普通はね」

 疑問の視線を四季へと向ける。身近に新型の第三世代型を二つの開発した会社の関係者を前にすると、疑問に思う。
 まあ、中世ヨーロッパや江戸時代までの文明レベルしかないのに科学技術では自立型ロボットや巨大ロボット開発している世界もある上に、科学技術に特化したガンダム達からの技術によって時間を短縮しているDEMが特殊なだけでは有るが。

「それでIS開発に関しての資金援助が打ち切られて、デュノア社は倒産寸前の経営危機に陥ってるんだ。しかも、フランス政府はDEMに正式に新型の開発を依頼するって動きまで有るし」

 ……一応、フランスにも支社はある。だが、どちらかと言うとフランス支社はフランスでの調査活動をサポートする為の隠れ蓑と言う役割のほうが大きい。それを考えると依頼された所で断るだろうが。

「それで三人……特にDEMの広告塔として活躍しているオレの流れに乗っかって、デュノア社の広告塔兼オレや一兄達に対するスパイとして送られたわけか」

 同じ男性操縦者なら同じ部屋になる可能性が高い。それならば、データを盗むチャンスも多いだろう。……武器一つしか無い欠陥機と言う他無い白式、黒式のデータが役に立つかは疑問だが……。

(いや、能力を二次移行前に使えるって言うのは大きいか)

 そう考え直す。それを応用できれば後付の武装と引き換えに二次移行後にしか使えない能力を使うことが出来ると言う訳だから。

「でも、優先的に持ってくる事を命令されたのは君の専用機なんだよね」

「オレか……」

 シャルロットの言葉に思わず頭を抱えてしまう。が、これでデュノア社はキャプテン達の調査の対象としては……白だと言う事がよく分かった。インフラックスを盗んだのなら、それを偽装して新型と発表するだろうし、データも取り放題だろう。

「うん。折角のフランスへの技術提供をお父さんが余計な事を言って断られた挙げ句、イギリス以外の欧州連合所属の国への技術提供まで止めたって言うのに、恨んでるんだよね、あの人」

 『あはは』と苦笑しながら告げるシャルロット。一夏の視線が四季へと向くが……当の四季は。

「ああ。……そう言えばそんな事を言ってたな、義父さん」

 前に欧州連合所属の国々に対する技術提供をイギリスだけで取りやめた理由としてそんな事を聞いた事がある。イギリスとは良好に進んだとは聞いていたが、それ以降の事は聞いていなかったりする。

「まあ、デュノア社の事情やその辺の事は置いといて……一兄、彼女の事はどうする気なんだ?」

「ああ、それは『特記事項第二十一』を利用するんだ」

「本学園における生徒は、その在学中においてあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。って奴だろ?」

「ああ、この学園にいれば三年間は『無理だろ』え?」

 一夏の言葉を容赦なく斬り捨てる四季。四季はシャルロットへと視線を向け、

「残念ながらシャルルとシャルロットが同一人物であっても、残念ながら入学したのは本当は存在しない『シャルル・デュノア』としてだ。残念ながら彼女の安全な三年間も社長とやらの手の中に在る訳だ」

「どう言う事だよ……」

「簡単だ。『良心の呵責に耐えかねて自分の行いを告発する』とでも耳障りのいい事を言って彼女の事を表に出せばいい。肝心のIS学園の特記事項も学園の生徒ではない『シャルロット・デュノア』を助けてくれないだろ?」

 各国の留学生に代表候補生に国家代表……貴重な男性操縦者の所属している学園にスパイがいると言うのは外面が悪い。大々的に告発してしまえばデュノア社にもダメージは有るだろうが所詮は倒産寸前の企業、最悪クグツとなる者を社長にでも据え、表向きにでも経営から退けば……。

(いや、最悪裏に潜ってテロ組織にでも合流……代表候補生の彼女はその手土産って所か)

 最悪の事態をイメージしてもスパイとしてのシャルルは価値が無くなったとしても、IS操縦者として女としてのシャルロットの価値は残っている。一時的にでも強制的に帰国に追い込んだ所で拉致、その後は洗脳でもなんでもして無理矢理利用すればいい。

 既に危険なところまで追い込まれているデュノア社の状況を考えると、シャルロットを守りたいのなら何時でも退学に追い込める材料を相手に握られているのは危険極まりないだろう。

「それじゃあ……」

「相手は彼女の親だ。他にも彼女を退学に追い込む材料は幾つも持っている可能性だってある。特記事項だけを頼るのは危険だ。……相手もスパイ行為が失敗したのに気付かないほどバカかも知れないけど、彼女に他の……もっと利益になる使い道が出来たら無理矢理退学に追い込まれる危険がある」

 彼女を助ける方法は四季の手元には有るが、その手札を使うべきかと迷っている。……そもそも、四季にとって一番大事なのは何処まで行っても詩乃だけだ。他人のために其処までする理由は無い。

「なあ、一兄……一兄はシャルロット・デュノアを助けたいのか?」

「ああ、そんな事決まってるだろ!」

「……悪いけど、『人を助けるのに理由はいらない』とか、『クラスメイトなんだから』なんて言う理由はだめだ。その上で敢えて聞く……どうして一兄は彼女を助けたい?」

 そう問いかける。 
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