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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第41話『予兆』

 
前書き
最近投稿速度が遅くなっていますが、気にしないで頂けると助かります。 

 
 
「ん…」


珍しく、一瞬で意識が覚醒した。
目の前に見えるのは、一応見慣れたユヅキの家の天井。懐かしの我が家の天井も良いが、2日間過ごしたせいかこの天井にもよくわからない愛着があった。


「よいしょっ…」

「むぅ」

「んん…!?」


流れで倦怠感と共に身体を起こすと、伴ってきたのは唸り声。
驚きつつ見ると、晴登の腰に手を回すようにしがみついたまま眠るユヅキの姿があった。
「なぜこんなことに?」と頭で考えると、そういえば昨日寝る間際に抱きつかれてた気がする、という記憶が掘り起こされる。しかもこの状況ということは、一夜の間ずっと抱きつかれてたということだろうか。


「さ、さすがに二度寝はできないな…」


この事実に気づいてしまった今、もう一度この温かさに包まれようなどという腑抜けたことはできない。嫌という訳ではないのだが・・・。
…ユヅキが起きてしまって互いに気まずくなる前に、この腕を離さなければ。


「し、失礼…」


口では言いながら、中々手が動かない。
散々手を握られたりしてたというのに、こういう場面ではユヅキが女の子であることを意識してしまうのだ。
しかも、こうもしっかりと抱きつかれてしまっては、離そうと思うと不思議な罪悪感が湧いてくる。


「信頼されてる、ってことなのかな」


自意識過剰ではないのかと疑うが、彼女自身がそう口にする以上は否定できない。
無償の信頼。それがこんなに、彼女を安心させた眠りにつかせているのだろうか。


「…あれ、よく考えたらこの状況ってマズくないか?」


一通り彼女へ意識を向けていた所で、そんな疑問が口を飛び出す。
昨日はまだ離れて寝ていたが、今日は同じ布団の上だ。晴登だって思春期男子。昨日のハプニングといい、目の前にあるユヅキの可憐な寝顔を見て、ドキドキしない訳がない。

寝起きの朗らかだった気持ちも、急に冷静になっていく。


「っ!」


羞恥に頬を紅くしながら、あんなに苦労していた腕外しを一瞬でやってのける。そして、立ち上がることもせずに急いで壁まで後退した。
肩で息をしながら、一旦呼吸を整えようとする。


「ヤバいヤバいヤバい…!」


しかし呼吸は乱れる一方だ。
晴登はとり憑かれたように早口で呟きながら、顔を洗って頭を冷やそうと、洗面台へ向かう。



冷たい水を顔に浴びると、いくらか火照っていた気持ちが収まった。


「あ、危ねぇ…」


濡れた顔を拭いながらため息を一つ。
そして1分もかからないであろう今の出来事を振り返る。

何が自分を焦らせているのか。
その答えはただ1つ。


「恥ずかしいって以外に何があんの…」


友達として意識していれば良かったものを、男女という風に意識したから起こったことだ。
・・・友達とはいえ男女が同じ屋根の下で寝るのはどうなのか、という疑問はこの際忘れよう。

とりあえずユヅキと顔を合わせる前に、平常心に戻らなければならない。さもなくば、今日1日に支障をきたしてしまう。


「ふぅ…」


晴登は一喝とばかりに頬を叩く。
冷たい水での洗顔も合わさり、随分と気持ちが落ち着いた。
余計なことは考えずに、今まで通りを心掛ける。
残り1日と少し。その間、彼女との別れに未練を残さないようにした方がいい。

晴登は独りでに口角を上げ、


「朝ごはん、作ってやるか」


清々しい笑みを浮かべた。







「おはようハルト・・・っておぉ!?」


目覚めてからテーブルに目を向けたユヅキが驚愕の声を洩らす。寝起きだというのに目は見開かれており、その反応に晴登は小気味好いものを感じた。


「おはようユヅキ。見ての通り、朝食を準備したよ」

「う、うん…ありがとう。にしても、見たことない料理だね」

「俺の地元料理・・・って言いたいところだけど、全部創作料理なんだ」


昨日とは違い、異世界での料理の勝手はわかっていた。それでも変わらなかったのは、この世界独特の食材である。
お陰で晴登は現実世界の料理を真似できず、試行錯誤しながらの料理となった。
しかし、我ながら良い出来だと思う。


「う…ボクのより美味しそう…」

「え!? そんなことないって! ユヅキのだって美味しいと思うよ」


ユヅキが悔しそうな表情をするので慌ててフォロー。もちろん、本心からの言葉である。
ユヅキは少しだけ恨めしそうにこちらを見たが、すぐに破顔して席についた。
晴登もその向かいに座る。


「「いただきます」」


2人の声が重なり、朝食をゆったりと食べ始める。
途端、ユヅキが舌鼓を打った。


「美味しっ! え、何これ!?」

「そ、そんなに美味しい?」

「うん! ハルトって料理の才能あるね!」

「う、うん。ありがとう」


あまりにも真っ向からの感想だったので、照れながら応える。正直、料理で誉められた事はあまりないから、いざ言われると嬉しい。
頭を掻きながら喜びを噛みしめていると、


「・・・何だかハルトってお嫁さんみたいだね」

「ぶほっ! ちょ、何をいきなり!?」


ユヅキの発言にたまらず噴き出す。何とか努めて被害を最小限に減らしたが、心には中々のダメージが入った。


「え? だって料理上手だし」

「それだけで!?」

「ハルトに婿入りするのも悪くないかな〜」

「いや普通逆でしょ!?」

「ボクがハルトに嫁ぐ?」

「え、あ、待って、そういう意味じゃなくて…!」

「ふふ、冗談だよ」


穏やかだった食卓が一気に騒がしくなった。ユヅキの言葉に晴登が清々しいくらいに翻弄される。
その様子を見てユヅキは笑うが、晴登にとっては顔を真っ赤にされる威力の爆弾発言だ。


「俺のさっきの覚悟が無駄になるだろ…」

「覚悟って?」

「こっちの話」


馬鹿みたいに焦った約1時間前。
それから気持ちを切り替えたはずだが、まだすぐに揺らぐ程度のようだ。

晴登はヤケクソになって、朝食を頬張る。


「……ごくっ。よし! ラグナさんとこ行こう!」

「唐突だね。でももうちょっと待って」

「あーはい…」


自分だけ食べ終わったが周りが食べ終わってないという、一種の仲間外れ感。それを感じつつ、晴登はユヅキの食べ終わりを待った。
何かを準備する訳でもないので、本当にただ待っていた。







「相変わらず天気が悪いな」

「雨が降るようには見えないけどね」

「それが唯一の救いか」


頃合いの時間になり、王都へ向かっていた道中。晴登がふと空を見上げて放った言葉だ。
見ただけで厚いとわかる白い雲に覆われ、太陽の光は完全に遮られている。
ユヅキの言う通り、雨が降るとは考えにくい天気だが、晴れになるとも思えない。

気になるが気にしない。そう決めた頃、王都までの道のりの間に存在する森に入った。


「そういや何も気にせずにここ歩いてたけど、この森って迷ったらヤバいよね?」

「まぁ王都を囲む感じで広がってるから、そうかもしれないね」

「マジか」


晴登は身震いし、その後足元を見てそれなりに整備された道を見て一息。
森で迷った経験などないが、もし脇道に逸れでもしたら帰ってこれないのは明白。そこまでにこの森は鬱蒼としていた。
つまり、この通路様々である。


「にしても──何か変だよ」

「え?」


唐突に放たれたユヅキの言葉を聞き、晴登は辺りに意識を向ける。…いつもと同じ、暗く青々とした風景が広がるだけだった。


「何かおかしい所がある?」

「ハルトは2日しか通ってないからわからないだろうけど・・・ボクにはわかる。いつもと森の様子が違うんだ」

「え…?」


晴登は眉間にシワを寄せ、また辺りに見回してみる。しかし一昨日や昨日と比べて、何の変化も感じられない。
ユヅキの言う“森の様子”は、外観ということではないようだ。
だとすれば・・・


ガサッ


「「っ!?」」


不意に背後から響いた、草がざわめく微かな音。二人は反射的に振り返る。その時見えたのは、今まで歩いてきた道のりだけだ。
では、今の音は何なのか。風の仕業だと言うこともできるが、今回は2人ともそれは違うとわかった。
森に流れる不穏な気配。そして怪しげに動いた草木。
これらを照らし合わせると、あの音の正体は想像に難くない。


「何か、いる…」


そう口にすると、緊張感が体を支配する。
少なくとも、あの草むらの向こうには動物がいるのだ。無害な奴か、あるいは…危険な奴か。
もちろん、前者で済むのに越したことはない。猫とか狸とかが出てきて和むのもアリだ。
だが今この森は、ユヅキ曰くであるが『おかしい』らしい。
であれば、レアな動物との邂逅を満喫するなんてことは起こり得ないだろう。


ガサッ


さっきよりも音が大きくなる。…それの存在が近付いている証拠だ。
2人は身構え、それの登場を待つ。



ガササッ!


「「っ!」」


それが姿を現した途端、2人は冷や汗を垂らす。
目の前に出現したのは、一言で言って『獣』だった。

見た目は端的に言うと狼に近い。が、何でも切り裂けるであろう鋭く尖った犬歯や爪は、晴登の知るそれより遥かに危険だと思われる。
その獣は口の端から涎を垂らしながら、紅く輝く敵意に染まった瞳をこちらに向けていた。

…間違いない。ハズレである。


「ゆ、ユヅキ、あれは…?」

「…ウォルエナだよ。昨日話した」


いきなりの危機に晴登は怯えるが、ユヅキは意外にも冷静だった。もしかしたら、森が変だと勘ぐった時点でこれくらいの予想ができてたのかもしれない。
だが、それは今気にすべき事柄ではない。

明らかな敵意・・・もとい、殺意。
それを向けられるのが初体験でないというのを、晴登は頭の奥で理解していた。


「あの時以来…だぜ」


目の前の存在の実態を知って、さらに足がすくむ。絶対的な恐怖。それをひしひしと感じつつ、過去を思い起こす。

正直、あの時の『熊』の殺意は忘れられない。
それなりに怪我だってして、言ってしまえばトラウマもんだ。
だから、その経験だけで恐怖に慣れるなんてことはまずない。

目の前にいるのは…あの『熊』と同類だ。


「グルル…!」


ウォルエナが唸る。素人目でも、その行動は威嚇なのだとわかった。
加えて溢れんばかりの殺意。危険…過ぎるだろ。


「ユヅキ…どうする?」


晴登は打開策を見つけるため、自分よりは土地勘が良いユヅキの知恵を借りることにする。
こいつと戦うのは最悪の最終手段。まずは逃げる算段を整えなければ。


「簡単な話、王都まで走っていくのが最善かな。単純に足の速さじゃ負けるだろうけど」

「それは俺の魔術でカバーできるよ。だから…いつ走り出す?」

「そうだね・・・」


晴登の提案に、ユヅキは納得したような表情を見せて考え始める。
晴登自身、この案は中々の物だと思った。

『何らかの方法』でウォルエナの注意を引き、その隙に“追い風”を使って王都に走って逃げる。
幸い、ウォルエナの位置は王都側の反対、今通ってきた道上だ。『立ち塞がれているから、避けて通らなければならない』だなんて面倒な条件は存在しない。

しかし問題は『何らかの方法』だ。
奴に背を向けて走る以上、襲い掛かってくるのは必然。
だから数秒間でも奴の気を、できれば奴の後ろに引き付けて時間を稼ぎたい。


「だったら、この場合『気を引く』のが鉄板だな。とりあえず石でも投げて・・・」

「でもそれって相手に見られてたら意味ないんじゃ…」

「うわ、ホントだ」


自分の持つ知識を生かそうとするも、それが無意味だと気づかされる。
あのウォルエナの標的は、どう考えても自分ら2人。
下手に石っころを放ると、気を引くどころか反感を買って襲ってくるかもしれない。


「ボクが氷を放つ…っていうのも同じだよね」

「だったらいっそのこと、石投げてみるか」


晴登は身近に落ちてた小石を手に取る。さすがにサイズが小さいかと思ったが、充分だろう。
ウォルエナとの距離は約5m。目標はその向こう側。難しくはない距離だ。


「じゃあ…いくよ」

「うん」


ユヅキの返事と共に、晴登は腕を振るった。さすがは小石、あまりに軽くて加減ができない。
とはいえ、空中に放物線を描き、予定の地点よりも遥か遠くに落下・・・



「ガウッ!?」

「「あ」」


・・・すると思っていた。

晴登とユヅキは同時に声を上げ、顔を見合わす。
晴登は申し訳なさそうに苦笑し、ユヅキはその顔をジト目で見返す。

そう、その怒りはごもっとも。
晴登自身も「やっちまった」と感じていた。


──着弾地点が“ウォルエナの額”だなんて、運命様は非情すぎる。
 
 

 
後書き
何とかストーリーに繋げられました。いや~良かった良かった。
「前回の終わりからどう繋がるんだよ!」と自分で吠えていたのが懐かしい。

・・・懐かしい?
はいそうです。前回の更新から10日ほど経ってます(悲)
前書きに書いておきましたが、最近忙しいので更新が遅れています。
少なくとも今年度はこの調子だと思われます。
予定で二週間とはしていますが、一週間で書きたいんですよ…勉強しないといけないけど(←切ないジレンマ)

12月に入ってかなり寒くなってきました。
家を暖かくして過ごしましょう。では。 
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