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夏の犬

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第一章

                 夏の犬
 松田梨帆は小学四年生だ、伸ばしている黒髪はポニーテールにしていて赤いリボンでくくっているのが常だ。細身で脚が長く夏はよく半ズボンでいる。目は大きくやや三白眼気味であるがあどけなく愛嬌のある顔立ちをしている。
 その梨帆にだ、両親は夏休みになるとこんなことを聞いてきた。
「ペット欲しくないか?」
「犬か猫のね」
「ペット?」
 そう聞かれてだ、梨帆はまずはきょとんとした顔で聞き返した。
「うちに?」
「そうだ、犬か猫か」
「そこはまだ決めてないけれどね」
「今度の日曜にホームセンターのペットショップに行ってな」
「何を飼うか選ばない?」
「ううん、ペットなら」
 それならとだ、梨帆は両親に言った。
「うちザリガニいるけれど、お兄ちゃんが飼ってる」
「それとは別にだ」
 父が娘に笑って言った。
「幸平が飼ってるあれだな」
「うん、ザリガニのカイザね」
「あれは幸平のペットだ」
 それになるというのだ。
「一応うちのペットだがな」
「家族全体で一緒にいるペットを飼いたいの」
 母はこう梨帆に話した。
「だからね」
「それでなの」
「そう、今度の日曜にホームセンターに行った時に」
「ペット飼うの」
「そうしような」
 また父が言ってきた。
「家族全員でな」
「それじゃあ」
 梨帆は今一つペットを飼うことについて実感が湧かないまま頷いた、そしてその日曜に父が運転する車で街のホームセンターに行った。家族で他の買いものをしてからだった。
 ペットショップに入った、大学生で家から少し離れた大学に通っている幸平はその鋭い目をさらに鋭くさせて梨帆に言った。
「お兄ちゃんはザリガニのコーナーに行ってるからな」
「そこで餌飼うの」
「あと色々水槽とかも観たい」
 ザリガニ用のそれをというのだ。
「お父さんとお母さんにはそう言っておいてくれ」
「うん、じゃあ」
「家族でペットを飼うにしても」
 幸平はこうも言った。
「俺はザリガニがいるからな」
「別のいいの」
「ザリガニはいいだろ」
 妹に顔を向けて同意を求めてきた。
「梨帆はそう思わないかな」
「まあ、嫌いじゃないけれど」
 外見は格好いいと思う、だがシーフードが好きな梨帆はザリガニについてはそれ以上にこうした感情を持っていた。
「伊勢海老みたいで美味しそう」
「食べられるが食べるなよ」
 妹のその言葉にだ、幸平は真顔で返した。
「お兄ちゃんのザリガニだからな」
「うん、それはね」
「伊勢海老は伊勢海老で食べるんだ」
 そうしろというのだ。
「いいな」
「うん、それはね」
 梨帆もわかっていた、そうして一人ザリガニコーナーに向かった兄を見送って両親のところに戻った。すると両親は犬のコーナーにいてだった。
 ガラスのケースの中の犬達を見ていた、そのうえで梨帆に言ってきた。
「さあ、どれがいいと思う?」
「梨帆はどの子がいいの?」
「ううん、急にそう言われても」
 梨帆は両親の質問に微妙な顔になって返した。 
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