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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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真・魔人-ファウスト・ツヴァイ-part1/ウェザリーの野望

「…来たわね」
暗い闇に満ちた一室。
闇の人格が表に出たままのハルナは、ウェザリーの呼び出しを受けた。
「ウェザリー様。ご命令はなんですか?」
「この町にウルトラマンゼロの一向が来るそうよ」
「…!」
その一行…サイトたちが来るのだと彼女は確信した。
「この街がウルトラマンに対してどんな感情を抱いているか、覚えているわよね?」
「はい」
ハルナは頷く。ウェザリーの言葉の意味はわかっている。
かつて、この街にビースト『ラフレイア』を放ってウルトラマンたちに勝負を仕掛けたのは、他ならぬ自分なのだ。
その事件で、当時テクターギアを身にまとっていた頃のゼロは、ラフレイアがまさに生きた爆弾だというのに、必殺の蹴りをかまして爆発させてしまい、街を半壊させてしまった。そのせいで、この街の人々はウルトラマンに対して根強い恨みの感情を抱いる。
実を言うと、あの事件でハルナがファウストとして二人を襲ったのは、前回のトリスタニアでの戦いのときと同様、街に充満しているマイナスエネルギーを、それを吸収し蓄積する装置『レプリカレーテ』に蓄積し、ファウストの闇の力と一体化させ強化するためだった。
「この街にはすでに、各地に『レプリカレーテ』を設置しておいたわ。この街に蔓延るウルトラマンへの膨大な恨みのマイナスエネルギーを吸収すれば、お前はさらに完成された戦士となる。そして私の復讐は盤石なものとなる。もはやウルトラマンが邪魔立てしても、問題はないわ」
自分を闇の世界に追い落としたトリステインに対して、復讐の炎に身を焼くウェザリー。異なる世界に生きていた罪もない少女ばかりか、街全体の犠牲さえもいとわぬほど手段を選ばなくなっていた。
「前回は失敗したけど、今度のヘマは許さないわ。今度こそ、ウルトラマンゼロを倒しなさい。生死は問わないわ。遺体だけでも残っていれば、シェフィールドは喜ぶようだから」
「……」
しかし、主であるはずのウェザリーの命令に、ハルナはすぐに承諾の返事を返さなかった。
「ハルナ?」
「あ、はい!わかり、ました…ウェザリー様の意のままに」
名前を呼ばれてようやくハルナは気が付く、彼女の命令通り、さっそく行動に出た。



アンリエッタの命令を受け、サイトたちはトリステイン軍よりも先にラ・ロシェールの町に向かうことになった。
久しぶりに訪れたラ・ロシェールは、あれから長い期間をおいていたこともあって復興が進んでいた。岩肌に立つ建物という特徴的な外観はあの時のままだった。
「ではみんな!この隊長たる僕の声を聴きたまえ!」
「うお!?」「きゃ…!?」
到着早々、ギーシュが突然皆の注目を集めるために、薔薇の造花の杖を掲げて高らかに叫んだ。いきなり声を上げてきたものだから、メンバーの一部が共に身をビクッと震わせながら驚いた。
「これより我々は、麗しき女王陛下の名のもとに、栄誉ある任務を実行する!皆、しっかり戦果を挙げ陛下の力となるのだ!!」
なぜか背景には薔薇がいくつも咲き誇って散っているように見える。これもギーシュのキャラがなせる技なのか。
そんなことはともかく、派遣メンバーは当然UFZに所属するサイトとルイズ、ギーシュ、マリコルヌ、レイナール、モンモランシー…そして協力者としてジュリオやムサシも同伴した。
「魔法衛士隊の協力もなしで大丈夫なのか?」
「うん…平民とはいえ、僕らより経験の深い銃士隊の人たちもいないし」
自分たちは表向き、女王であるアンリエッタの近衛隊だが、対怪獣対策という役目も背負うことになっている。だがそのメンバーはまだ在学中の魔法学院の生徒。はたから見たら役不足さが否めない。それを気にしてかレイナールとマリコリヌは不安を抱く。
実は今回、アニエス率いる銃士隊の協力は借りなかった。
アニエスが今後のために、どうしても調べたいものがあるらしく、それは魔法学院でなければできないことだというのだ。なので、銃士隊は魔法学院の防備という名目で魔法学院へ派遣されている。もちろんアニエスも無理のある注文だとは思っていたが、急ぎで調べ、ラ・ロシェールへ来るなら…と約束を交わすことでアニエスの要望を許したのだ。
ジャンバードの機能でも探れなかったから、彼らの力を借りたかったのだが、別件がある以上やむを得なかった。
「はぁ、まさかこんな重いことを背負わされるなんて思わなかったわ」
それについてモンモランシーもあまり乗り気じゃなかった。ギーシュの監視役のつもりもあってこの部隊に自ら入ることにしたが、大事に干渉するほど本気のつもりじゃなかったので、ちょこっと後悔もしている。
「それなら大丈夫だと思うよ。このミスタ・ハルノという人、どうやらサイト君よりも深く怪獣や異星人たちの扱いに慣れているし、今回のような任務にも経験があるそうだ。彼の動きを真似てみればいいんじゃないかい?」
そんな彼らに、ジュリオがフォローを入れてくる。
ムサシが今回サイトたちに同伴したのは、まだ未熟な彼らに、ウルトラマンと肩を並べた防衛チームの元一員として教えられることがあるという、本人の希望もあった。サイトからの信頼も厚かったムサシを信頼し、アンリエッタはその要望に応えてくれたのである。
「それに万が一怪獣や黒い巨人が現れても、僕がいるから心配ないさ」
「あなたがそういうなら…」
爽やかイケメンスマイルも兼ね備えながら言ってきたジュリオに、モンモランシーはあっさりと信じ込んでしまう。自分が啖呵を切ったのに、その光景があまりに面白くなく感じたギーシュはちっ、と舌打ちする。
確かに、ウルトラマン以外ではこの男の怪獣を使役する力のみが、黒い巨人や怪獣たちに対抗する力だ。仕方ないが、やはり同じ男子としては気に入らない点が多い。
「なんか、どこか冷え込んでいるな…」
ムサシは奇妙な部分で張りつめてきたこの空気に、思わず苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。
「まぁ、それよりも…みんな、ギーシュ君の言うとおり、これから調査を開始することになった。今回の聞き込みの要点は…」
先輩として、ムサシは彼らに聞き込み調査の流れを、今回の任務に沿って説明していった。
今回の聞き込み内容は、アルビオンとこの街の間の上空で起きた謎の爆発と、そこから落下したとされる落下物についてだ。
現地に駐屯しているトリステイン兵たちも調査を進めており、ムサシの提案でまずは彼らの話を聞くことにした。
ちなみに前述でも語ったが、サイトたちはまだ未成年の集まり。当然子供の集まりだと嘗められていたが、ルイズがアンリエッタ直筆の証明書を見せつけることで、彼らの見る目が一変した。
現時点でも、ラ・ロシェールの駐屯兵が例の爆発についてはまだ分からないところが多いらしい。
なのでさっそくサイトたちも調査を開始したのだが…

「爆発?ああ、確かに見たけど、そこまでは見てないなあ」
「本当に何かが落ちたの?それもこの辺りで?」
「き、貴族様!も、もしや私共が何か気に障るようなことを…」

…目撃した人はいたものの、その落下物がどこに落ちたかまでは不明で、有力な情報は掴めなかった。
聞き込みからしばらく経過し、一行は街の噴水広場で休憩をとった。
「はあああ…僕もう足が疲れたよ」
真っ先にマリコルヌがバテて根を上げてきた。
ムサシがところどころ助けたりしてくれたのでなんとか行けたのだが、慣れないことで疲労が溜まりやすい。
「だらしないわね。男なら少しは根性見せなさいよ」
「うるさいな、ゼロのルイズ。魔法もロクに使えないくせに」
「…」
ルイズの言葉にマリコルヌが意地を張ってかつての悪口をいい放つと、ルイズの眉間にシワが寄る。…が、彼女は堪えた。自分は今は、虚無の担い手であり、家族や使い魔の支えもある。だから、何もないという意味の『ゼロ』などでは決してない。
「ルイズだけじゃない。大体、こんな素性の知れない平民をどうして陛下が登用したんだよ。おかしくないか?」
マリコルヌは、今度はムサシにまで矛先を向けてきた。ムサシについては、確かにハルケギニアにおいては素性があまりはっきりしているとは言い難かった。サイトは当然だが、ルイズも家族が認めた人物なので信頼はある。アンリエッタもまた、幼馴染とその使い魔が信頼している彼を信じて今回の任務に参加させた。ギーシュは女王の判断を妄信的に信じているため文句なし。
だが、関わりの薄いマリコルヌやレイナール、モンモランシーはまだ会って間もない、それも色々と不明な点が見られるムサシに、まだ気を許しきれていない。
「…」
猫の手も借りたい状況だからやむなし、しかし人の意識はそう改められるものではない。ムサシもそれはわかっているので、マリコルヌたちの疑惑にも耐えた。
「マリコルヌ、あまり仲間を侮辱するものじゃないぞ」
横からマリコルヌを、ギーシュが注意する。
「なんだよギーシュ、今度はルイズに色目かよ」
「な、何を言うんだね!僕は陛下の近衛部隊『UFZ』の隊長として…モンモランシー、君からもなんとか言ってくれ!」
「ふーん…今度はルイズなんだ」
「も、モンモランシー…」
行きなり根も歯もないことを言われ、ギーシュは愛しい恋人に助けを求めるが、肝心のモンモランシーから疑惑に満ちた視線を向けられた。自業自得、恋人のキツい視線に、ギーシュは肩を落とした。
「みんな、喧嘩しないで。それより、今僕らがつかんだ情報をまとめよう」
レイナールが悪くなる空気を変えようと、強引に話を今回の任務に切り替えさせた。
「サイト、何か情報はつかめたかい?」
「…いや、ない訳じゃないんだけど…」
サイトもあまり有力な情報を得られなかった。しかし、つかんでいるものもある。
しかしそれは……。

「聞いたか?王都でウルトラマンの戦いがまたあったそうだ」
「また?けど、ウルトラマンって本当にいい人なのかしら?」
「少なくとも、他の巨人や王軍と一緒にタルブを救ってからは、評判いいみたいだしな」
「いいわけあるかよ!俺たちの町を、一度めちゃめちゃにしたのを忘れたのか!?」
「しかも、ウルトラマンって中には悪い奴もいるんだろ?特に黒い姿をした奴」
「あぁ、レコンキスタといい、奴らといい…まったく迷惑なもんだぜ。そんなに争いたかったらよそでやれよって話だ」
「俺達の街をあんなにしておいて、今更正義の味方のつもりかよ。俺の息子はあの日…」

聞き込み調査の際にサイトたちの耳に入ったのは、怪獣や侵略者以上に、ウルトラマンに対する非難の声が高かった。しかも、先日のトリスタニアにおけるファウストとの戦闘についてもこの街の人たちは情報を掴んでいた。
「……」
サイトは、これを聞いて辛い顔を浮かべざるを得なかった。ゼロも彼の中で同じ反応だ。自分たちのせいで引き起こされたとはいえ、これらの声はかなりきつかった。
「サイト、うかない顔を浮かべている場合じゃないわよ。あんた自身が言われた訳じゃないんだから」
「…うん」
ルイズからそのように言われるサイトは、うかないまま張りのない声で返事をした。残念なことに、知らないとはいえ、サイトが聞いたウルトラマンへの恨みの声は彼に対するものも同然なのだ。
(ウルトラマンのこと?それとも、ハルナのことがそんなに気になるのかしら…)
そんなサイトを見て、ルイズだけでなく、ムサシも同じように憂い顔になる。
『サイト君、ゼロ…』
この街で起きた事件、ムサシも詳細を町に来る前に、テレパシーで二人から聞いていた。この二人は自分とコスモスと違い、当初は考えの違いが災いし、非常に仲が悪かったらしく、それがこの街の人たちがウルトラマンを憎む原因となったのだ。特に、ラフレイアの爆発の余波を受けたことで壊滅したエリアは、今こそ復興したものの、ゼロへの憎悪を高めていた。
ハルナの行方不明に続き、過去の自分達の過ちと向き合うことになると、精神面においてもきつく感じてしまう。でも、逃げることは許されないのだ。
「やあ、みんな」
すると、彼らのもとにジュリオも戻ってきた。
「ジュリオ、何か掴んできたのか?」
「あぁ、それなら…タルブ村からやってきた人が、村付近の山岳地帯のふもとの森に、例の爆発と同時に、何か大きなものが落ちたのを見たそうだ。
村の人たちも何が起こったのか調べようと思ったけど、森の中に賊が住み着いていて近づけないと困っていたようだ」
サイトからの問いにジュリオはそう答えた。以前も訪れたシエスタの故郷付近。そこに何かがあるということか。しかし、落下地点の傍に住み着いたという賊とは…危険な場所だからこそ誰も近づかないだろうと考えて陣とっているのだろうか。
「わかったのならはやく行きましょう。レコンキスタや怪獣に関係あるなら無視できないわ」
ルイズは早速ジュリオの明かした情報な示す場所へ向かうように勧めた時だった。
「失礼、陛下の近衛隊の方でしょうか」
さらにそこへ、ラ・ロシェールに駐屯しているトリステイン兵がやって来た。顔の見えない、フルフェイスの兜を被った小柄な兵士だった。
「兵士さん、何かあったんですか?」
「気になるものが見つかりましたので、皆さまへ報告に」
「気になるもの?例の爆発に関係したなにかが見つかったの?」
ルイズが尋ねる。
「いえ、恐らく直接の関係はないと見られます。ですが、どうしても気になるものでして…」
「躊躇ってないで説明して頂戴。判断できないわ」
「は、はい。気になるものというのは…
『黒い立方体の物体』です。それも一か所だけじゃなく、主に復興作業が行われた地点を中心にいくつもあったのが、どうしても気になりまして…」
「黒い…物体…」
サイトはそれを聞いて目を細める。トリスタニアでのファウストとの戦い、そこでは各地に、街に充満していたマイナスエネルギー集め、ファウストに供給しパワーアップさせる装置が、これまでの怪獣災害の被害にあった地点の中で、王宮を囲む形で設置されていた。
(やばいかもな。この街の人たちは、俺たちのことを恨んでいる。となると…)
かつての自分たちが犯してしまった間違いで、この街は大きな被害を受け、その元凶となったゼロへの憎悪を抱いた。同じものがこの街に設置されているのならば、間違いなく…。
「今の私たちは、この街とアルビオンの間の空で起きた爆発と、そこから落下した何かを突き止めることでしょ?今の私たちの仕事と関係ないじゃない」
「それはわからないよ、モンモランシーちゃん」
「ち、ちゃん付け…」
兵士に指摘をいれたモンモランシーに、ムサシは首を横に降りながら言った。貴族ではない男性から行きなりちゃん付けされたことにモンモランシーは呆気に取られるが、ムサシは構わずに続ける。
「女王様が言っていた、この空で発生した爆発が、どんな影響を地上にもたらしたかを確かめるためにも、今回の任務には意味があるんだ。調べる必要はあると思うよ」
「ミスタ・ハルノの意見に僕も賛成だ。サイト君とルイズもそう思うだろう?」
「まあ、な」
「そうね」
ジュリオからも賛成の意見が飛び、彼から話をふられたサイトとルイズも合意した。できればあまり深いところまで首を突っ込みたくなかったモンモランシーだが、確かに彼らの言っていること自体は間違いではない、とは思った。ただ、まだ学生でしかない自分たちの力では役不足さが目立つ気がしてならなかった。
「だが、どちらか片方だけというわけにもいかないだろう。この兵士さんに付き合う組と、当初の任務通り落下地点に向かう組の二手に分かれるべきと僕は思うね」
「う、うむ…皆はどうするんだい?隊長として意見を聞こうじゃないか」
ギーシュは自ら隊長として全員の意見に耳を傾ける。…あまり隊長らしくないが。
「俺は…町に残ってみるよ。この兵士さんの話が気になる」
「サイトが残るなら、私も残るわ」
サイトとルイズの二人は、兵士が見たという『気になるもの』の調査のために町に残ることを決める。
「それなら、僕もサイト君たちと…」
ムサシもサイトの身を案じて彼と同行しようと考えたが、サイトは首を横に振ってそれを断った。
「いえ、春野さんはジュリオやギーシュたちと一緒にお願いします。今回のお姫様からの任務は、この街とアルビオンの間の空に起きた爆発とそこから落下した何かについてですし、怪獣を操れるジュリオや経験豊富な春野さんがいる方が、そっちの方が万が一の非常事態に対応できると思うんです」
「本当に大丈夫かい?」
これまでサイトを追い詰めるようなことが多々起きていることを知ったこともあり、ムサシはサイトの身を強く案じていた。そんなムサシに、サイトは笑みを返した。
「心配しすぎですよ。俺たちこれでも修羅場くぐってきた方ですから。だろ、ルイズ?」
「え、ええ…まぁ…そうね」
サイトに言われるまでもないが、彼から話をふられたルイズは少し戸惑いを見せる。
「しかし、君たちも物好きだな。任務の途中で出てきた別件の方に首を突っ込みたくなるとは」
別行動する流れになり、レイナールはサイトとルイズに対してそう言う。
「何言ってるのよ、もしその黒い物体っていうのが、トリステインに危害を及ぼすものだったら無視しようにもしきれないじゃない。困るのはあんたも同じなのよ」
「そりゃ、わかるけどさ」
あまりむやみやたらに首を突っ込み過ぎるのも考え物ではないか?というのがレイナールの考えであった。でも念には念を、万が一の時に備え、ルイズの言う通り調べる必要もあるだろう。
ギーシュはムサシ・ジュリオ・マリコルヌ・レイナール・モンモランシー(ギーシュ曰く、彼女だけは外せないとのこと)を連れて、ジュリオが入手した情報にあった地点へ向かうことになった。




そんな彼らを、ハルナは遠くから見ていた。
「ルイズ…!」
ギリッと歯ぎしりしながら、サイトの隣に当たり前のように立つルイズを、彼女は憎たらしげに睨み付けた。
『…やめ…て』
「ちっ、まだ言うか」
自分の主人格が、今の彼女…ファウストの人格に頭痛に似た痛みを与える。いい加減ウンザリに思うが、自分と彼女は同じ存在。切り離したくてもできないのだ。
「あんたは、サイトが欲しくないのか!ルイズにサイトが奪われたままでもいいのか!」
『……』
「やっぱり、嫌なんだろ。分かるんだよ。あんたはあたしなんだからな」
たとえルイズを手にかけてでも、サイトへの強い想いを貫こうとする自身の闇は断言する。
しかし、ハルナの本来の人格も黙らなかった。
『確かに…それは嫌よ。平賀君には、私だけを見てほしいって思ってる。だけどそのために、ルイズさんを倒して、平賀君にウェザリーさんの魔法をかけるなんて、間違ってるよ…』
「いつまでんなこと言ってるんだ!あたしたちだけが、サイトに見てもらえるんだぞ!こんな世界からも、サイトが解放されるんだぞ…こんな醜い世界からも、ウルトラマンとしての使命からも…」
サイトはきっとルイズを見捨てない。けどそれは自分をみていてくれていないと言うことだ。ルイズを捕まえ、サイトにはウェザリーの魔法をかけてもらえば…
ハルナの闇は、サイトが自分をみていてくれさえすれば、どんな形でも構わなかった。
しかし、ハルナは言い返した。
『だけど…いくら私たちだけ見てくれるのだとしても、それは…』
「うるさい…」
それ以上言うな。言わなくても、わかっている。今は耳を背けていたい言葉が、ハルナの頭の中に轟く。
『それは、私が好きになった平賀君じゃない!』

「黙れエエエエェーー!!」

そして、その声を必死に振り払うような、ハルナの心の闇の叫びが響いた。


「…もう限界と見るべきか」
ウェザリーはハルナを見て呟く。本来の彼女の人格が障害だから、二度と目覚めることがないように術をかけたはずだ。だが、ウルトラマンゼロの放つ金色の光と言葉に踊らされ、奴の光のパワーを奪いきれなかった。
今のハルナの人格は、ファウストを自分の意のままに操るために、ウェザリーが魔法で彼女の心の闇を引き出したもの。だが所詮、高凪春奈という木から延びた枝のようなものでもある。根元からウルトラマンゼロを…あの使い魔の少年を思っている以上、いずれ支障が出ることになるのは免れないということか。
「奴らと会いまみえたら…『戻す』とするか」



ギーシュたちを見送った後でサイトは、自分が今歩いている場所を見渡す。見覚えがあった。この街でネクサスと共にファウストとラフレイアの二体と戦った場所だ。
胸が苦しくなった。サイトとしても、ウルトラマンゼロとしても。
「皆さん、これが例のものです」
案内役の兵士が、三人に言う。
到着した場所は、恐らくラフレイアの爆発で倒壊し新たに建て直されたと思われる新築の建物の、屋上だった。街を見渡すにはちょうどいい、見晴らしのいい場所だった。
そこには、話の通り黒い物体が設置されていた。
「トリスタニアにもあったものと同じね。サイト、あんた何か分かる?」
ルイズがこの黒い物体について何か気づいたことがないかを尋ねた。
「…」
サイトはすぐに答えず、透視能力を使ってこの黒い物体を見る。この黒い物体の中身を見ることはできなかった。だが、前回のファウストとの戦い同様、どす黒いマイナスエネルギーが、町中からこの物体に集まっていた。それも一ヶ所だけじゃない。街の方にも目を通すと、ここと同じように、マイナスエネルギーが街の各所に集められていた。
「兵士さん、この物体はここ以外にも設置されているんですか?」
サイトは兵士に尋ねる。これはファウストの闇の力を増幅させる危険なものだ。破壊した方がいいだろう。しかも一個だけじゃないならなおさらだ。
「ええ、いくつもありますよ」
「なら、そっちも案内してくれますか?ルイズに破壊させます。これは黒いウルトラマンを強化してしまう危険なものです」
「そうなのかい?」
「前回のおr…いや、ウルトラマンゼロとファウストの戦いの時、ファウストはこの装置から放出されたマイナスエネルギーでパワーアップしていた」
「それならサイトの言う通り破壊するに越したことないわね」
「いえ、破壊まではまだ行わない方がよろしいかと」
破壊を提案したサイトだが、兵士は反対した。
「どうしてよ」
「これを調査研究すれば、敵の手口を知るチャンスができるかもしれないかと」
ルイズからの問いにそう答えた兵士の意見に、ルイズはその兵士に対して、何かがおかしいと感じ始めた。現在のトリステインはまだレコンキスタがレキシントン号を改造した際に用いていた技術を解明できていないのだ。調べようにもわかることなど何もないと考えるべきだろう。なのに、こうまでこの得体の知れない物体にこだわる理由は何なのだろうか。
「それに…今から始める舞台に必要な小道具ですからね」
すると、兵士の放つ雰囲気が変わった。それに真っ先に、サイトの中にいたゼロが気づいた。
『サイト!』
「っ!ルイズ、下がれ!」
「サイト!?」
サイトは背中からデルフを引き抜くと、ルイズを自分の背後に下がらせ、兵士に対して鋭い視線を向けた。
「おや、もう気づいたの?もう少し付き合ってくれた方が演技のし甲斐があったのに」
兵士の声が、男性らしいそれから、女性の声に変わっていた。さっきまで男だとばかり思っていただけに、かなり奇妙な光景だった。
「あなたは、一体…」
「…待って。芝居って…それに今の声って!」
ルイズもサイトも、兵士の口から放たれた今の女の声には聞き覚えがあった。
「ふふ、気づいたようね…」
トリステイン兵に化けたその女は、どこからか杖を取り出し、一振りすると、ビュウ!と風が舞い、兵士の姿を一瞬にして変えた。
その兵士の正体は…

「ウェザリー!!」

獣の耳を生やした美しい女、ハルナをファウストとして操っていた張本人であるウェザリーだった。
当然三人は警戒を高め、それぞれの得物を握る手に力を入れた。
「今の…『フェイスチェンジ』!」
「フェイスチェンジ?今のって魔法なのか!?」」
「ええ、スクウェアクラスの風系統の魔法よ、サイト。体の一部から姿全体まで、自分の姿を思いのままに変えられるわ」
ルイズの口から飛んできた名前を聞いて、サイトが声を出すと、ルイズがフェイスチェンジについて簡潔に説明した。
「よく学習してるわね」
「それくらい学んでるわ。馬鹿にしないで」
座学じゃ学年一のルイズにとって簡単な知識のようだ。逆にこの事で誉められると、少しバカにされたような気がして、ルイズはウェザリーを睨む。
「ウェザリーさん、ハルナはどこなんだ?」
サイトは、ハルナ降りかかる災いの元凶であるウェザリーに剣先を向けた。
「サイト、それが人にものを尋ねる態度?それに、ミス・ヴァリエールとハルナの間をふらふらして…それでも男?」
「ッ!ふざけてないで答えやがれ!!」
わざとらしく話を反らそうとしたウェザリーに、サイトはイラつきを覚え怒鳴り散らした。舞台の指導を彼女から受けていた時は、自分の辛い過去を物語り、それでも強く生きて見せていた女性だと思っていたのだが、実のところはハルナを道具のように扱う非道な女だった。そう考えると、たとえ彼女の過去が本当の事だろうと、彼女への怒りを強く感じずにはいられなかった。
「そんなに慌てなくても…会わせてあげるわ。
さぁ、来なさい『人形』」
ウェザリーは呼び出しの指をパチンと鳴らすと、彼女の背後から、サイトが強く助けたいと願う少女が現れた。
「…ハルナ」
「…」
サイトはハルナの顔を見て、憂うような眼差しを向けた。ファウストが自分であることを明かしたあの時と同じ、ポニーテールに結われた後ろ髪とハルナの性格からは考え着かない鋭い目をしていた。
「デルフ、今のハルナはウェザリーの魔法で操られているのよね?」
「あぁ、娘っ子もわかるだろう、あの嬢ちゃんは娘っ子が知っている時とは性格が違うだろ?いつの時代でも、間違いなく禁忌の魔法だ」
「人の心を操る魔法…なんてことを…!」
ルイズは、人の心を思いのままに操る魔法を平気で使うウェザリーに憤る。
「なんてことを…ねぇ。確かに私はそういわれても仕方のないことをしていることは承知しているわ。でも、私がトリステインから受けてきた屈辱と痛みはこんなもので済むものじゃないわ」
母と同じ獣人の血を引くがゆえに、トリステイン政府…主にリッシュモンの企みによる迫害ですべてを奪われたウェザリーは憎悪の念を口にする。しかしルイズはすかさず、そのためにハルナを利用しているウェザリーを非難する。
「ハルナは元々この国の人間でもないじゃない!それを利用しての復讐なんて、もはや正当性は皆無よ!これ以上罪を重ねるくらいなら大人しく投降して!」
「…ふん、伝説の系統に目覚めたとはいえ、所詮小娘と小僧などに何ができるというの?」
「ハルナ、君とは戦いたくない。そこをどいてくれ」
サイトはハルナを見て、大人しく退くように伝える。しかしハルナはそこをどこうとしなかった。
「そうは…いかないね。あんたたちの知るハルナと違って、今のあたしはウェザリー様の駒だ。この方がいなければ、今のあたしは存在していない。生みの親を守るのが子の務め…わかるだろ?
言っとくけどサイト、今度は…あんたが無抵抗でも再起不能になるまで攻撃させてもらう。そうなったら、あんたがやたら大事にしているルイズも、この世界でできた仲間も全部失うことになる。
最も、あたしを倒せても、あたしという人間が無事で済むかの保証もできないよ」
「ッ…」
やはり、退く気はないということか。これもウェザリーの禁じられた魔法による力なのか。無条件で彼女を守るように設定されている。
やっぱり、やるしかないのか。サイトは、今度こそ彼女と戦う覚悟を決めようとした。
だが、結局それでハルナを救えるのか?万が一本気で戦い、勝ったとして、彼女は無事ですむのか?もしそうなったらと考えると、前回と同じように強い躊躇いが生まれる。
「…」
ハルナは、そんなサイトを見て、鋭くなっていたはずの目が、今のサイトがそうであるように、憂いているようにも見える眼差しになっていた。
「ふふふふ…」
すると、ウェザリーは突然奇怪に笑い出した。
「何がおかしいの?自慢の切り札の力なら、私たちに勝てるっていうの?」
目を細めるルイズ。確かに、ハルナの正体がファウストであることを考えると、彼女が余裕の態度をとることもおかしくない。
だが、サイトは知っている。ハルナは前回の戦い、自分の必死の呼びかけで腕を鈍らせた。ファウストとしての人格ではなく、彼女の本来の人格がまだ彼女の中で生きていて、それが前回の戦いで決着がつかなかった大きな要因となった。そしてそれは、『ハルナを取り戻せるかもしれない』という希望の現れとも言えた。
しかし、ウェザリーの次に放った言葉は、あまりに意外な言葉だった。

「そんなに返してほしければ、返してあげてもいいわ」

「「「!!?」」
これには、サイトもルイズも、そしてハルナ自身も絶句した。
正気で言っているのか?この女は。いや、そもそもやっていることが正気の沙汰とは思えないが。彼女にとって絶対の盾となるハルナを、ファウストを捨てると言うのか。
「ウェザリー様、何を…!?」
ハルナは一体どういうつもりでウェザリーがそんなことを言ったのかを尋ねる。すると、次の瞬間、ハルナはウェザリーに首を捕まれた。
「ぐっ…」
「ウェザリー!?」
一体何をしているのだとサイトが叫ぶと、ウェザリーはハルナを冷めた目で見つめながら口を開いた。
「ご苦労様、人形」
「ウェザリー様…なぜ…」
ウェザリーから首を掴まれ、持ち上げられるハルナは息苦しさと裏切られたような感覚を覚えながらウェザリーを見たが、ウェザリーの顔は氷のような冷たい笑みを浮かべていた。
「何をしてやがる!ハルナから手を離せ!」
「私の目的がトリステインへの復讐であることは知ってるわよね?」
ハルナの首を掴んだまま、ウェザリーはサイトたちの方に視線を傾けた。
「トリステインを滅せるのなら、私はどんな犠牲を払っても構わない。たとえ、この人形に貸している闇の力を抜き取ったことで、人形がどうなろうと知ったことではないわ」
「何、どういうことだ!」
サイトかウェザリーに向けて、怒鳴った。
「この人形は、私がトリステインをこの手で滅ぼせるだけの力を、確実かつ安全に手に入れるまでの、『囮』なのよ」
「!?」
精神的に強い衝撃をサイトたちは受けた。ハルナが、ウェザリーの切り札であるはずの彼女が囮!?
「私が自らの願いを叶える前に、ウルトラマンのような邪魔者に倒されたら元も子もないでしょう?だから私は、『ある方』からこの人形を頂いたの。私が無敵の闇の力を手に入れるまでの、私の代役としてね」
「ある…方?」
意味深な単語を言ったウェザリーだが、そこにはそれ以上触れず、話を続けた。
「それも、立ちはだかる可能性が高い者とは特に近しい関係の者を選んでくださった。サイト、あなたのようにね。
しかもさらに幸いなことに、この人形はサイト…あなたを強く思うがゆえに、ミス・ヴァリエールへの強い憎しみを抱えている。
闇の力を一時的に預けるには、人質としても有効な器としてもうってつけだったわ。
けど、結局は不良品ね。サイト、あなたに対して下手な情を抱えたままだったせいで、ウルトラマンゼロから奪うはずの光を完全に奪いきれなかった」
『ま、まさか…!?』
ゼロはこのとき、ひとつの確信にたどり着いた。
ウェザリーの話から考察すると、そうとしか考え付かなかった。

「さあ、人形。あなたに貸し与えた闇の力を『返して』もらうわ」

「ぐ、ぐう…」
ハルナは自分の首を掴んでいるウェザリーの腕を握り返し、振り払おうとした。
だがそのとき、ハルナの体から黒いオーラが溢れだし、ハルナの首を掴むウェザリーの腕を介して彼女に流れ込んでいく。
やがて、黒いオーラを吸い尽くされたハルナはぐったりし、意識を手放してしまう。
すべての『闇』をハルナから奪い去ったウェザリーは、ハルナをサイトの方へ投げ返した。
辛うじて受け止めたサイト。
「不良品だけど、それなりに役にたってくれたわ。
この闇の力は、今だけでも充分強化された。最低限の役目そのものは達成できたということ。たとえどんな強力な力を持つ者が相手でも遅れをとることはない」
「てめえ…!」
これまでこの女がハルナに行ってきたことといい、今のぞんざいな扱いといい、彼はウェザリーに対して怒りに満ちた視線を向けた。
ルイズも、サイトがハルナに気を使いまくっていることに少し不満を抱いてはいたが、サイトと同じ気持ちだった。
「さあ、そろそろ幕を降ろしましょう。トリステインという、この醜い欲望と野心に満ちた舞台をね!」
瞬間、ウェザリーの目が赤く染まった怪しい光を解き放つ。さらに、彼女の体も紫色の闇を放ちながら彼女自身を包み込み、その姿を一変させた。
「なっ…!?」「嘘…」
サイト、ルイズは驚愕する。
ウェザリーが立っていた場所には、何度も相対した強敵の等身大の姿があった。しかし今回は、ハルナが姿を変えたものではない。
『やっぱりそうだったのか…!』
さっきまでのウェザリーの説明を思い返しながら、ゼロは自分がたどり着いた確信がその通りだったことを痛感した。

姿を変えたウェザリーは、舞台女優のような口上で自らをこう名乗った。


『私こそが…真のファウスト。


トリステインに闇をもたらす、赤き死の魔神だ…!』


ラ・ロシェールの町を舞台に、ウルトラマンゼロと、本物のファウストにしてウェザリーのもうひとつの姿

『ダークファウスト・ツヴァイ』の戦いが幕を開いた。
 
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