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雲は遠くて

作者:いっぺい
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119章 信也たち、マンガ『クラッシュビート』を語り合う

119章 信也たち、マンガ『クラッシュビート』を語り合う

 11月25日、金曜日。最高気温は11度ほどで、空はよく晴れた。午後6時30分。

 信也と、青木心菜(ここな)と水沢由紀と青木葵(あおい)の4人が、
下北沢駅南口から歩いて1分の、もつ焼きともつ料理の居酒屋の『もりかわ』の
テーブル席に集まっていた。店内は完全禁煙で、席数は39席。

 川口信也は、外食産業大手のモリカワで課長をしていて、
ロックバンド・クラッシュビートもやっている、26歳の独身だ。

 青木心菜は、そのモリカワと、同業の外食産業最大手のエターナル(eternal)が共同の、
芸術活動を広く援助する活動の慈善事業、ユニオン・ロックから育った、24歳の人気マンガ家だ。

 水沢由紀は、心菜の幼馴染(おさななじみ)で、親友で24歳だ。
2015年の12月、由紀は、腱鞘炎(けんしょうえん)(こま)った心菜の、
マンガの制作を手伝って、その後も、心菜の腱鞘炎が(なお)った現在もアシスタントをしている。

 青木葵(あおい)は、大手マンガ雑誌三つ葉社の、心菜の担当編集者で、25歳だ。
心菜と由紀とは、価値観も合うらしく、親友の付き合いだ。

 信也は生ビール、女性たちは梅サワーやぶどうサワーとかを注文する。
料理は、とりあえず、塩とタレのもつ焼きや、もつの煮込みにした。

「ここの店は、東京を中心に、40店舗以上を(かま)える居酒屋『もりかわ』の1号店なんですよ」

「わたしのうちの駅のそばにも、『もりかわ』がありますよ。
おいしいから、家族でよく利用しています」
 
 心菜がそう言って、信也に微笑(ほほえ)む。
心菜は、京王沿線の下高井道駅の近くに住んでいる。

「信也さん、おかげさまで、『クラッシュ・ビート』は、10月6日の連載開始から、大人気の、
大反響なんですよ。いまでは、毎週木曜日発売の『ミツバ・コミック』の、
看板(かんばん)なんですよ!」

「カンバンですか!あっははは。それは良かった」

 そう言って、信也は、興奮気味な(あおい)の言葉に、少し()れながら、笑った。

「しかし、虚構が現実を超えるってことは、よくありますよね。あっははは。
人って、きっと、物語が好きなんですよ。混沌とした解答の見つからないような現実よりも、
うその世界でもいいから、何か、夢見ていたいんでしょうかね。
うその世界でも、それで、幸せを感じたり、元気が出るとしたら、
そんな虚構やうそのような世界でも、それを選んじゃうような気がしますよ。
今回の、アメリカの大統領選挙なんかでも、トランプさんは、
ヒラリーさんよりも、そんな点で、人々を引き付けていたような気がしているんですよ。
トランプさんは、ヒラリーさんよりも、魅力のありそうな、物語を描いたって感じで。あっははは」

「現実の世界って、ある意味、(こわ)いし、殺伐としていますもんね。うそのような、
虚構の世界にだって、ついつい、(あこが)れたり、魅力を感じたりすることがあるわ」
 
 そう言いながら、由紀が、きれいな瞳で、信也に微笑んだ。

「現実の世界って、過酷だったり、厳しいことが多いからね。
まあ、マンガの『クラッシュ・ビート』も、
おれや、現実の、実際の、おれたちクラッシュビートを超えてゆくような、
そんなパワーのある、元気の出るような、そんな人気マンガになって欲しいですね。
おれたちも、マンガに負けないように、がんばるけどね!
音楽やマンガも芸術も、そんな現実を乗り越えるためにあるんだろうからね。あっははは」

「信也さん、ありがとうございます。これからも、わたしたち、ベストで、楽しいマンガにしてゆきます。
このマンガは、信也さんや、森川純さんとか高田翔太さんや岡林明さん、
そんなクラッシュビートのみなさんが、素晴らしい個性の方々だからこそ、誕生したんです。
みなさんの活躍があるからこそ、生まれた、信也さんたちが、モデルのマンガなんです!
おかげさまで、連載開始から、感動したとか、共感したとかの、膨大(ぼうだい)な数の声が、
もう、毎週、編集部には寄せられています。
ファンの方々は、信也さんがモデルの主人公のキャラクターとかに、
自分を重ねあわせて、それで感動したり、涙したりや共感しているんです!」

 編集者の青木葵(あおい)は、笑顔でそう言いながら、澄んだ瞳を輝かせる。

「あっははは。それは良かったですよ。おれも、このマンガは大好きなんです。
あっははは。おれがモデルなんでしょうけど、あの主人公は、おれよりも、
行動力や才能もある感だよ。あっはは。
キャラクターも、みんな、かっこいいですよね。マンガなんだから、当然ですけど。
ストーリーも、ハラハラドキドキの展開で。
毎週、楽しみですよ。あっははは。
心菜(ここな)ちゃんも、由紀ちゃんも、よくあそこまで、マンガを作りこみましたね。
ついつい、おれなんかでも、感情移入してしまうような、
強烈な個性のキャラクターに、マンガの主人公たち、登場人物が仕上がってますよ。あっははは」

「しんちゃん、褒めていただいて、とても嬉しいです!」

 心菜は満面の笑みで、信也を見つめながら、そう言った。

「しんちゃん、ありがとうございます」

 由紀も笑顔でそう言った。

「おれも、マンガの『クラッシュ・ビート』からは、勇気をもらっている感じですよ。
この音楽業界って、天才的な人が多いんですよ。だから、ついつい、
おれの才能なんか、たかが知れたものって考えてしまうんだけど。
いや待て、おれたちも、がんばろうって、気になってくるマンガですよ!あっははは」
 
 信也たちは、楽しいひと時を過ごして、このマンガの今後を語り合ったりした。

≪つづく≫ --- 119章 おわり ---
 
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