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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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人形-マリオネット-part6/二つの心

ウルトラマンゼロとファウストがトリスタニアの町で交戦してから…。
ゼロたちの応戦によって避難も町への被害も以前よりも抑えられ、街の人たちは復興作業を、軍人たちは次の軍備に入り、政治家たちはアンリエッタを筆頭に次の対策練りに講じていた。
あの事件後、ルイズやムサシから、ハルナを操っている犯人がウェザリーだと聞いたときは衝撃だった。同時に、なぜハルナにこんな酷いことをウェザリーはさせてきたのか。ウェザリーが自身の苦難に満ちた過去を明かし、それにはサイトも同情した。けど、だからってハルナのようなただの女の子を、闇の巨人に変えて復讐のための駒にするなんて惨過ぎる。ウェザリーに対しても、サイトは強い怒りを覚えた。
アンリエッタもファウストによる事件の黒幕がウェザリーだという話を聞き、ウェザリー捜索部隊を編成し、トリスタニアとその周辺域を探させたのだが、収穫なしだった。
さらに言うと、あの後ジャンバードの生体反応サーチ機能を使って彼女たちの居場所の特定を探ってみたが、反応なし。この機体の機能で居場所を探知されるのを読んでいたかのように、反応が消えていた。ついでに、ラ・ロシェールに落下したという謎の落下物についてもサーチしてみたが、特定の場所を探知できなかった。何かしらの電波障害が働いて、それがジャンバードの探知に引っかからなかったのかもしれない。
今、サイトはある場所に来ていた。ルイズたちと共にハルナの鞄を返却してもらうために来た、タニアリージュ・ロワイヤル座だ。
この日も利用する劇団も客もおらず、建物の外からわかる通り静かだ。
「……」
ここで、ハルナの正体が明かされた時は本当にショックだった。まさか、自分が倒さなければならないと思っていた敵である黒いウルトラマンの正体が…彼女だったなんて。
取り戻さなければならないと思い、いざ変身したのはよかったものの、結局ハルナを傷つけるのを恐れて、必ずしも実力で劣っていたわけではないのに手も足も出せなかった。ファウストの闇の力が、この街に溜まっていたマイナスエネルギーで強化されていたとしても、それでも渡り合うことくらいはできたのは間違いなかったのだが…。
「サイト君」
すると、サイトのもとにムサシが王宮の方から走ってきた。
「春野さん、俺…」
「サイト君、落ち込むことはないよ。君の言葉は、確かに彼女に届いていた」
沈んだ表情のサイトの気持ちをすぐにムサシはくみ取った。ファウストとなって自分たちに敵対してしまったハルナのこと、それ以外に思いつくものなどない。
「最後にファウストは、ハルナ君に出てこないように訴えていた。きっと、君の声によって彼女の意識が表に出そうになっていたんだ。僕はそう思っている」
「でも俺、次も同じようにできるかわからないんです」
励ましてくるムサシだが、サイトはそれでも自身の心によぎりつつある恐れを口にした。
「確かに、俺の言葉はファウストに響いたかもしれない。でも、一度も二度も同じ手が通じるとは…とても思えないんです」
「だろうな。あの娘っ子は魔法でファウストの力を制御していた。けど先日の戦いで、相棒の言葉で娘っ子の動きが鈍った。ウェザリーって女は娘っ子の洗脳を完璧なものにするために、今度はより強化された術をかけるだろうな」
魔法に通じているデルフもそれには同意した。
「確かに、次の戦いではファウストはきっと君の言葉よりも先に刃を向けてくる。今度は、言葉だけじゃどうにもならないかもしれない。でも、それでも君のやることは何も変わっていないはずだ」
サイトはまだハルナを助けたいという思いを諦め切れていない。だからムサシの言うことが最もだ。
「…春野さんは、簡単に言いますね」
だが…サイトはどうしてもその言葉を飲み込め切れなかった。
「前にも言ったはずだ…俺には…俺たちにはコスモスほどの浄化の力なんて持ってないんですよ!そしてあなたは変身することもできない!そんな安っぽい言葉だけでどうにかなるって思うだけのあなたに、俺たちの何がわかるんだ!!」
自分でも、これが八つ当たりでしかないことはわかっていた。だがムサシの言い切りに対し、サイトは前回の戦いでハルナを救えずに逃がしてしまったことへの後ろめたさと自分への無力さに対するイラつきから、ついにムサシへ当り散らすような言い方をしてしまった。
だが、ムサシはサイトの怒鳴り声に対して決して逆切れすることはなく、正面から彼の負の感情を受け止めた。
「わかるさ。僕も同じ経験をしたことがある」
「…!」
同じ経験を下という話を聞いて、サイトは思わずムサシの顔を見る。サイトに視線を向けられ、ムサシは穏やかな口調と表情を浮かべたまま話を続けた。
「まだカオスヘッダーと敵対していた頃、僕はカオスヘッダーによって凶暴化された怪獣たちを救うために、彼らと戦うことになった。
その中にはリドリアスやゴン…僕が中でも友達として認識している存在とも戦う羽目になったことがある。でも、例えコスモスの力があったとしても、彼らを守りながらカオスヘッダーと戦うことは簡単なことじゃない。下手をしたら、逆にその力で彼らの命を奪うことだってあった」
「あ…!」
そうだ、その通りだ。ムサシは今回のような、本来は悪意の無い存在との戦いを強いられていた…そのことを忘れていた。なのに…辛いのは自分だけだと思い込んで、ムサシに当り散らしてしまった。
「確かに君の言うとおり、今の僕は変身することはできない。でも、たとえコスモスの力が使えなくたって、僕は怪獣たちを救うことも、当然ハルナちゃんを救うのを諦めるつもりは無い。最期まで…絶対に。だって、一度でも諦めてしまったら、後悔しか残らないと思うから。
君だって、後で後悔するくらいなら…ハルナちゃんを何が何でも助けたいって思うだろ?」
「はい…」
否定できない。なにせ、リッシュモンにいいように利用された挙句ころされてしまったミシェルを救えなかったとき、そのことを強く感じていた。
「自信を持つんだ。最後まで諦めないで、彼女を助け出そう。たとえ何度失敗することになろうとも、次に必ず成功させてみせる!って気合で。そうしないと、できることもできなくなってしまう。
いいかい、サイト君。大切なのは…『信頼と勇気』だ」
「信頼と…勇気…?」
「自分とゼロの力を、そして彼女の心を信じるんだ。それが、ハルナちゃんを救う力になるはずだ」
「……」
そうだ。俺は彼女を守ると誓ったのだ。確かに前回の戦いでは、結局取り逃がすという結果になってしまったが、何度失敗しても、何年かかっても…絶対にそうしなければ自分の気が収まらない。
『サイト、俺も今度は絶対にミスったりしないように全力でやる。お前の友達を、あのままにしておくなんて目覚めが悪いからな。ちゃんと、お帰りって言ってやろうぜ』
「俺っちは、あくまで相棒の剣だ。どんな選択を選ぼうと、俺は相棒の意思を尊重する。あの娘っ子を助けたい気持ちが本物なら、迷んでねぇでそうしてやれ」
「ゼロ…デルフ」
サイトは胸をぎゅっと握り、自分の相棒たちの言葉を受け止めた。
「すみません、春野さん…俺、思わず当たってしまって…」
「いいさ。そうしたくなることだってある。それよりも、女王様が来てくれって言っていたよ。行こう」
「はい」
サイトはムサシに連れられ、王宮へ戻って行った。



その頃、ダークファウストとして自らの正体を明かし、ウルトラマンゼロと交戦したハルナはというと…。
「ちくしょうが…なぜ邪魔をした、ハルナ!?」
どこかの町の暗い裏路地にいた。
この時の彼女は、ファウストに変身した直前と同じ、後ろ髪をポニーテールに結っている状態だった。どうやら今はウェザリーの魔法で作られたファウストの人格が表に出ているらしい。
『こんなことをして、なんになるの?馬鹿なことはやめて!』
そんな彼女の脳裏には、ハルナの本来の人格が、今の彼女に訴えていた。
「うるさいうるさい!あたしはあの女からサイトを奪い返してやるんだ!そして、あいつをウルトラマンとしての役目からも、ルイズの使い魔としての使命からも解放して、あたしだけのものにしてやる…」
だが、ハルナの闇の人格はハルナの訴えを聞こうとしなかった。
『そんなことをしたって…平賀君は必ず同じ道を選ぶはずよ。わかるでしょう?平賀君は…そういう人だもの』
「じゃあ、ウェザリー様に奴の頭の中をいじってもらえばいい。あたしたちだけを見る、サイトが出来上がる。そうだな…これからはこの体はあたしのものになるが、たまにならあんたが顔を出すのを許してもいいぞ」
『そんなことをしてなんになるの…』
サイトが、自分だけのサイトになる。それは…サイトに思いを寄せるハルナとしては悪い話ではない。けど…手段が問題だった。無理やり振り向かせるために、自分以外の誰かのことを顧みようとしていない闇人格に、意味はないと伝えるが…やはり闇の人格はそれを聞き入れなかった。
「じゃあ、サイトの隣に別の女がいる姿をずっと見続ける方がいいのか!?
あたしじゃない誰かがいるんだぞ?それも…サイトをこんな醜い世界に無理やり連れてきたルイズだ!あんな女に…サイトを奪われる…んな勝手を、あんただって許しておけないだろ!!
それに、このままあいつがウルトラマンとして戦い続ければ…間違いなくあいつは誰かに殺されることになるぞ?ルイズのため、こんな醜い世界のためなんかに…あいつがなんで戦わなくちゃいけないんだ!!」
『仕方ないじゃない…それが平賀君の選んだことなら…』
自分が彼の…思い人として選ばれないとしたら、それを受け入れなければならない。その方がサイトも幸せなはずだ。それでも闇の人格は受け入れない。
「偽善者!嘘つきが!黙れ黙れ!あたしは…他の女なんて認めない。ましてルイズなんて論外だ!あたしだったら…サイトを手に入れられるんだぞ!サイトの腕の中で、あたしだけが抱きしめてもらえるんだ…!
今度は力を貸せハルナ。ルイズをウェザリー様たちに献上して、あたしたちだけを見るサイトを手に入れるためにね!」
『やめて…やめて!!私はそんなこと望んでない!』
かたくな自分の闇の部分の言葉を否定するハルナに対し、闇の人格は鼻で笑ってきた。
「よく言うぜ…あたしはあんたの心の闇を、ウェザリー様が新たな人格として確立した存在…もう一人のお前自身だ。あたしの考えていることはつまり、今まであんたが抱いてきた負の感情そのものなんだよ…嘘なんかつけるものか」
『違う…そんなことない!!』
しかし……否定を入れている彼女自身が…闇の人格の言うとおりわかっていた。
自分の中には、やはりどうしてもルイズに対する憎しみと怒りがある。ルイズとて望んでサイトをこの世界に呼んだわけではないし、彼女も本当はツッケンドンとした態度をとるが自分以外で最もサイトを強く思う優しい少女でもある。
だが…どうしても、気に食わないと思う自分がいた。
異世界に無理やり召喚したということを除いても…サイトの隣に彼女が立っているという事実が。



「……そろそろ限界かもしれないわね」
その一方で、明かりがろうそく一本という真っ暗な部屋で、ハルナが自分の二つの人格同士で話をしているのをウェザリーは観察していた。
『あら、人形の調子はあまりよろしくないのかしら』
すると、そんな彼女の横に、一体のガーゴイルが飛来する。現在事実上レコンキスタの最高権力者伴っている、シェフィールドのものだ。彼女がガーゴイルを通してウェザリーに話しかけていた。
「別にあの子自身がどうなろうと私は構わないわ。私の目的を達成させるために、『あの方』が私によこしてくださった人形、ただそれだけなのだから」
『あなたも大概悪い女ね』
「あなたほどじゃないわ」
『褒め言葉として受け取りましょう』
ガーゴイルの口から、シェフィールドの少し開き直ったような声が出る。
『万が一あなたが失敗するようなことがあっても、安心しなさい。後は私が新たな手を売っておいてあげる』
「その必要はないわ。私の手で、このトリステインを終わらせ、闇に満たす」
その瞳に、灼熱の業火のような激情を宿しながら、ウェザリーは言った。
「それより、あなたの方こそ今はどんな状況なのかしら?もう一人の、虚無の娘と…その使い魔のウルトラマンを探しているんじゃなかったのかしら?」
『…恥ずかしいことに、私もなかなかはかどらないわ。けど、時間はまだあるし、居所をつかんでいるわ。
思わぬ収穫も、拾うことができたからね』
「へぇ…それはよかったわ」
同じ組織に属する者同士。しかしその実態は、互いの利害の一致だけで結ばれていることが、気を許していそうで許していないことが、二人の声質から伺えた。
『ともあれ、次はそこの街でウルトラマンゼロを迎え撃ち、可能ならば奴を確保して頂戴。トリステインの虚無は、必ず活かした状態でね』
「…ウルトラマンゼロ自身は、殺しちゃってもいいわけ?」
『ええ。奴は構わないわ。奴の場合、殺した後でも…「使い道」はあるから』
「…やっぱりあなたは…私より悪い女ね」
ウェザリーはシェフィールドに対して、不敵に笑いながらそう呟いた。
ウェザリーから現在の彼女の状況を聞き、シェフィールドはウェザリーのもとにいたガーゴイルを彼女の前から立ち去らせた。
ガーゴイルが去ったのを確認すると、ウェザリーはその部屋の中央の床の上に置かれた黒い立方体の物体に目をやる。ゼロとファウストの戦い直前に設置した、マイナスエネルギー吸収装置だ。
(トリスタニアの町につけていた…『レプリカレーテ』はこの町に運び込んでおいた。後はこの街のさらなる闇を吸い上げ、ファウストの力を強化する。
たとえウルトラマンが強力になって現れても…

私の復讐計画に狂いはない)




「回収は澄ませた。後は…」
ガーゴイルを下がらせた後、アルビオンのロンディニウム宮殿の一室にいたシェフィールドは机の上に置かれた機械、バトルナイザーを見やる。一度預けていたが、メンヌヴィルから「やはり俺は自分の力で相手を焼きたい」という意見で突っ返されたものだ。そのバトルナイザーの中には、怪獣が数体ほど保存されていた。
「場所も特定できた。今度こそアルビオンの虚無を手に入れなくては…」
「それなら、一つ提案があります」
すると、傍らに立っていたクロムウェルがシェフィールドに話を持ちかけてきた。
「以前、奴らの一派がわが軍の若い兵士を一人連れて行ったことは覚えておられますか?その男を利用してみてはどうでしょう?」
そういえば、そんな話があったな…。確かにアルビオンの虚無たちが、どういうわけか彼女らが連れて行ったという情報があった。たかが一兵士、どうでもいいと捨て置いたつもりでいたけど、悪くないかもしれない。
「…次に講じるべき手は決まったわ。耳を貸して。すぐに手配をなさい」
シェフィールドはクロムウェルを近づけ、彼の耳元でその『講じるべき手』についての事項を伝えた。今度こそアルビオンの虚無…ティファニアを捕まえるために。



王宮内のアンリエッタ用執務室…。
その部屋にはサイトとムサシよりもまえに、ルイズ・ギーシュ・モンモランシー・マリコルヌ・レイナール、そしてアニエスやジュリオも集まっていた。
「お待たせしました、女王様」
「お待ちしていました、サイトさん、ミスタ・ハルノ」
アンリエッタは二人を温かく迎えてくれたが、少しルイズは刺々しさを混じらせた。
「遅いじゃないサイト、どこに行ってたのよ」
「…ああ、ちょっと外の空気を吸いたくて。ごめんな」
「ルイズちゃん、彼の気持ちは、君もわかるはずだ。あまり責めないで上げて」
「…わかってるわよ。」
ハルナはサイトが地球にいた頃からの親しい仲だった少女。それが突然敵となってしまうなんて、ショックを受けない方がおかしい。
「ん?どうかしたのかいサイト?」
ギーシュが気になったのか声をかけるが、モンモランシーが軽くギーシュの後頭部をチョップした。
「な、なにをするんだいモンモランシー…!?」
「少しは察してあげなさいよ。大方、ウルトラマンと黒い巨人の戦いの途中で行方不明になったあの子のことだから」
「む…そうだった」
小声で軽く殴ってきた理由を明かしてきたモンモランシーの説明で、ギーシュはようやく気が付いた。
黒い巨人の正体がファウストであることは、まだギーシュたち魔法学院生徒4人組には知らせていない。ムサシが、後に自分たちの元に戻ってきたハルナが周囲から疎ましく思われないように…という配慮で歎願したのだ。
「以上が被害状況となります。ウルトラマンゼロが何とか黒い巨人を食い止めてくれたおかげで、これまでほどの大きな被害はありません。予定通りアルビオン侵攻軍編成を進めることは可能です。
城の周囲に置かれていた黒い物体については、先日の直後、消滅した模様です」
街の被害に関しては、運よくこれまでほど大きな被害はなかったらしい。ただ、ファウストが自らの力とするために仕掛けた、マイナスエネルギー吸収装置については、証拠隠滅のごとく、先日の戦いの後で消滅してしまったらしい。
「そうですか。引き続き軍備を整えるように伝えなさい」
「はっ!」
ルイズたちより先に、報告のために来た将校に命令を与え、将校は一度アンリエッタの執務室から去っていく。
「…なぁ、僕たち役に立ってるのかな?」
ふと、マリコルヌが思ったことを口にする。
「救護の手伝いとかならやったから、完全な役立たずというわけじゃないさ。たぶん…」
そんな彼にレイナールはそう答えたものの、自分たちの部隊に存在意義があるのか少し疑わしく思えてきた。結局軍関係の仕事は軍人の仕事だし、自分たちの力では怪獣も倒せない。今のところできることと言えば雑用ぐらいだ。
「ええ、レイナールさんの言うとおりですよ、マリコリヌさん。あなたたちはまだ発足したばかりの団体。他の者たちとの優劣を気にして己の自信を縮めるものではありません。それに、あなたたちをここへ呼び出したことには、頼みたい仕事があるからです」
「頼みたいこと、ですか?」
「なんなりとお申し付けください陛下!陛下のためならば、火に飛び込めと言われれば飛び込んで見せましょう!さあ!」
キラリン!と擬音と共に、自身を光らせながらギーシュはダンスの申し込みをするようにアンリエッタに手を伸ばし、彼女の前で跪いて命令を受ける姿勢を取った。…もういい加減こいつのアホくさいナルシストさ加減に、誰もが…特にモンモランシーが突っ込む気も起こさなかった。
「で、では…」
戸惑いを覚えつつもギーシュの無駄な仕草を流し、少し咳払いをしてから、アンリエッタはサイトたちに、今回の呼び出しの件について話した。
「以前、あなた方に頼もうと思っていたことを、今回実行させてもらいたいと思っていたのです」
「アルビオンとラ・ロシェールの間の上空の爆発と、そこから落下した謎の影の調査、ですね」
ジュリオがまとめると、アンリエッタは静かに頷いた。
「敵が怪獣を仕掛けてきたことも懸念されます。
ただ、これを無理に処理しろとは言いません。あくまで調査し、危険な存在だった場合は近隣の者に避難を呼びかけ、王室に報告してください。軍の者を派遣し対応しましょう。
サイトさん、申し訳ありません。サイトさんの場合、ミス・ウェザリーとハルナさんの方を優先して探したいとお考えだとは思いますが…」
「……」
申し訳なく謝罪を入れてくるアンリエッタに、サイトは言葉を発さなかったが、ギリッと唇を噛みしめた。すぐにハルナを助けに行きたかった。だが、彼女や首謀者であるウェザリーがどこにいるのか見当もつかない。彼女の身がすでに魔の手に落ちつつあることを考えると、気が逸ってしまう。
『わかってるとは思うが…落ち着けよ、サイト。次はもう失敗しねぇ。次に会うときは今度こそハルナを取り戻してやろうぜ』
『…うん、大丈夫。わかっている』
彼女の行方がつかめないのなら、今できることをするしかない。サイトはゼロの言葉で少し落ち着いた。
「…いえ、大丈夫ですよ。俺個人の勝手な動きでみんなに迷惑がかかったりするのは」
サイトは、アンリエッタには気に病まないように言った。
『でも、ゼロ。お前だって似たようなもんだろ?』
『え?』
『忘れたわけじゃないだろ。あの岩の街のこと』
『…あぁ』
ゼロからはあまり乗り気じゃないというか、後ろめたい声が聞こえてきた。
ワルドとの共同任務で、ネクサス=シュウの忠告を無視し、可燃性の花粉を体の中に詰まらせたビースト『ラフレイア』を必殺の蹴りで爆散させたことで、爆風があの街に壊滅的被害を与えてしまった。ラ・ロシェールの街は、ゼロの汚点の象徴なのだ。
『行こう、あの町へ』

今一度…向き合わなければならない。かつての自分が犯した…『罪』と。




その頃、魔法学院。
「では、教科書の103ページを開いてください」
教室では、この日も授業が行われていた。
新学期が始まってから、あまり多くの生徒たちが戻ってきておらず、例年と比べると少々ガランとしているのを、授業を行っていたコルベールは感じた。
女王からの命令とはいえ、ルイズたちがいないだけじゃない。
授業に参加している生徒たちの顔にもあまり元気が見られない。ここしばらく、このトリステインには怪獣や黒い巨人に異星人、さらには同じ人間であるレコンキスタが彼らと繋がりを持ち、人間では手に負えないほどの脅威が迫っている。それを恐れてまだ実家に留まったまま登校してきていない生徒たちが多いのだ。
(寂しくなったものだ…ここも)
授業はいつも通り行い、終了時間と共に生徒たちは教室を後にした。しかし、去り際の生徒たちの顔は…何より自分の顔があまり晴れやかと言えなかった。
(サイト君や、ミス・ヴァリエールたちは大丈夫だろうか…女王陛下からの任を賜ることは確かに貴族として栄誉あるものだとは思うのだが…)
アンリエッタからの任務を引き受けていることもあり、いつもならいるはずのルイズたちがいない。最近は亡きモット伯爵の屋敷に続き、また王都に怪獣が出現したとか。そんな危険な場所に、愛する生徒たちが身を投じている。まだ若い彼らが、危険な戦いに赴くなどあってはならないのに…。コルベールはそんなあるべき常識を許さない現実に、強く葛藤を覚えた。

授業が終わり、彼は自分が寝泊まりと趣味の実験に使っている小屋へ教材を置いた後、気晴らしに前々から思っていたことをやろうと思い、学院の地下の物置に足を運んだ。
「うぅむ…なんという埃被った場所なのか」
ここは結構広いスペースだが、長い間使われなかった結果、埃が雪のように降り積もっていて辛い。だからいずれ掃除をしておこうと考えていた。生徒や教師たちも綺麗にしておいた方がきっと気持ちがいいはずだし、自分も趣味で行っている実験に使えそうな器具も隠れているかもしれない。
明かりをつける魔法で暗闇の地下室を照らしながら、コルベールは地下室の奥を進んでいった。物置ということもあって、あまり整理されていなかった。あちこちに使われなくなった机や椅子、棚などが放置されている。中には棺桶のようにも見える不気味な石の箱も放置されていた。
これはなかなか骨が折れる作業になりそうだ、とコルベールは思った。
だが、そんなコルベールのもとに、奇妙な現象が発生した。
「む?」
彼は眼鏡をかけ直しながら、地下室の奥の方に視線を向ける。
なんだろう、何かがうごめいているようにも見える。いや、この学院にいる動物がいるといっても、生徒が契約した使い魔くらいだ。ましてこの地下室は許可がないと開けられないはずだ。
なら、あの暗闇の中で動いているものは、いったい…?
「そこにいるのは誰なのかね!?」
コルベールが叫ぶ。しかし、返事はない。暗闇の奥に見える奇妙な何かの動きはそのまま続いていた。コルベールは魔法で付けた明かりを頼りに、用心しながらそれに近づいていく。
「これは…!?」
彼は目元を険しくさせた。明かりで照らされた、暗闇の奥に見えていた奇妙な何かの正体…それは、空気中にできた『歪み』だった。
これは何かの魔法だろうか?いや、長年の勘もあって、これは自分たちにとってなじみ深い四大系統魔法とは根本的に異なるものだとわかる。しかし、いったいなんなのだこれは?興味をそそられるが、迂闊に触れるのはまずいだろう。ここは一度学院長に…と思って、引き返してオスマンに報告しようと思った時だった。
ドシュン!!という聞きなれない音と共に、何かが飛び出してきた。
「うぬお!?」
思わず驚くあまり、素っ頓狂な悲鳴を漏らしたコルベール。飛び出した『それ』は、歪みから射出された衝撃で、放置されていた棚に突っ込んでしまう。
今度はなんだ?舞い散る埃を払いのけ、衝撃で粉々になった棚の破片を取り除きながら、コルベールは杖を構えて歪みの中から飛び出してきた何かに近づく。
最後の木片を除けた時、コルベールは衝撃を受けた。
それは、若い人間の男だった。黒い髪と、黒い上着と赤いシャツを着こんだ、そして腕には奇妙な装飾品を付けた若者だった。
意識は、見たところないようだ。
サイトやハルナと同じ黒い髪の男。思えば、服装もハルケギニアでは見かけられるものではなく、あの二人のものに似ている。
「もしかして、彼は…」
サイトは、他にも地球という世界の知り合いがいるといっていた。それにアンリエッタがサイトたちに、対怪獣対策部隊への編入を申し出て、自分やオスマンを交えた会談を行った時に、その名前を聞いたことがある。
歪みから現れたその男は…


コルベールはその時、気が付いていなかった。

地下室を通っている最中に見た、石造りの棺桶のような箱のふたが、わずかに隙間を開けた状態で開き、その奥に隠れた何かがギラリと怪しく光っていたのを。

 
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