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提督はBarにいる。

作者:ごません
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定食屋とかで隣の席の人とかが食ってるの見てると、無性に食いたくなる。あんな感じ


 提督としての今日の執務は終わり。今日も特に問題はなく、つつがなく鎮守府を運営できた。白い軍服を脱ぎ、クリーニング専門の妖精さんに手渡す。そしてラフな格好に着替えて執務室を模様替え。これもスイッチ1つで妖精さんが変更できるように改造してくれた。こうしてようやく開店だ。

「さて、と。……お楽しみの物を準備しますか。」

 俺は米を研ぎ、土鍋に入れる。俺の親戚から貰った新米だ。粘り気は少な目の品種の方がカレーには合わせやすいだろう。水は米を敷き詰めた表面から、手の甲が被る位の水位。本当は竈で鉄釜使いたいところだが、まぁ贅沢は言うまい。

 ガスコンロに火を入れる。まずは沸騰するまで強火。ボコボコと湧き始めて湯気の吹き出し口から吹き零れ始めたら火を弱める。そしてここからが重要、まだまだ蓋は取らない。吹き出し口から漂う香りに少し香ばしさが混じってきたら、そこで火を消す。そして蓋を閉めたまま10分~15分蒸らす。
ここまで耐えて、ようやく蓋を開ける。瞬間、フワリと立ち上る炊きたてご飯の香り。日本人なら誰しもが、生唾を飲み込みたくなる香り。口に入れなくとも解る、米本来の甘味と旨味の凝縮された香り、あぁ堪らない。



 しかし炊飯ジャーで炊いたご飯と違い、土鍋ご飯には水分量にムラがある。それをかき混ぜ、均一に均す。さぁ、至福の時だ。

 皿にご飯を盛り付け、そのアツアツの上に昨日仕込んで冷蔵していたカレーをかける、と言うより乗せるに近い。一晩以上冷蔵庫で寝かされ、固まっているので掛けると言うよりもご飯に乗せる。と言うイメージが近い。その固まったカレールーが、ご飯の熱で少しずつ、少しずつ雪解けのように蕩けていく。それをご飯に絡ませて、スプーンで掬い、口の中へ。この一口目が堪らなく美味い。

 これが俺の考えるカレーの最強の食べ方、「昨日のカレー」だ。夢中になって二口目を迎えに行こうとしたその時、目の前からゴクリ、と大きな生唾を飲み込む音が。

「うぉっ!?な、なんだ。赤城か。」

 正規空母、赤城。ウチの鎮守府のみならず、大概の鎮守府の初の正規空母であろう彼女は、その「大食いキャラ」で有名だが、ウチの鎮守府の赤城は食べる量は人並み。……だが、美味しい物を察知するのは人一倍早い。

「いえ、今出撃帰りで部屋に戻ろうとしたらお店の前から良い匂いがしたもので……。提督、何を召し上がってるんです?」

「これか?昨日のカレー。暖めないでご飯に乗せて蕩かして喰うの。」

「あの……私にも頂けますか?」

 勿論、断る理由はない。アツアツの飯にカレールーを乗せて、スプーンと共に渡してやる。

「では。頂きます。」

 一口入れた途端、いつも凛々しく引き締まった頬がとろんと緩むのが解った。今左右に引っ張ったら、つきたての餅のようにムニュ~っと伸びそうな位ユルユルだ。

「うわぁ、美味しいですねぇコレ‼」

「そうかぁ?普通だろ。野菜とかカレールーとか、その辺で買える物ばっかだぞ?」

「作る人の腕が良いんですよ、きっと。」

 そう言われたら悪い気はしない。



「でも不思議ですよね、何で一晩経ったカレーの方が美味しいんでしょう。」

 「確か……火が通った事によって、具材表面の細胞壁が破壊されて、そこからルーに具材の旨味が染み出すから……とかなんとか。」

 確かそんな話をしているTV番組を見た記憶がある。と、そこへまた誰かが入って来る。

「チーッス提督。お、赤城さんまでいるじゃ~ん。」

 航空巡洋艦、鈴谷だ。そのフランクな喋りとJKっぽい見た目から、ソッチ方面の人気も高い艦娘だ。確か今日は赤城と同じ艦隊で出撃したメンバーだったハズだ。

「飲みに来たんだけど……二人して何食べてんの?」

「「昨日のカレー。」」

 二人の言葉が絶妙にハモる。

「鈴谷も飲むつもりだったけど……二人の食べっぷり見てたらお腹空いちゃった。鈴谷もカレー!大盛りね‼」

 そこからはもう芋づる式だった。鈴谷に続けと言わんばかりに一緒に出撃したメンバーが次々と来店。結局、出撃メンバー全員が来店し、全員が食べていたカレーを注文。
たちまち作り置きのカレーは無くなった。その翌日には昨日のカレーの噂は広まり、毎週金曜の店の開店時刻には行列まで出来るようになっちまった。ったく、ウチはカレー屋じゃねえっつの。

 まぁ、「毎週金曜は昨日のカレーの日にします」なんて張り紙した俺も悪いんだが。 
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