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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【その先へ】

 
前書き
 一部のネジと、未来のボルトの入れ替わりのお話。 

 
「お兄ちゃ~ん!……お兄ちゃん、まだ起きてないのっ? ねぇってばぁ!」


(───ん……お兄、ちゃん...? 誰の、事だ。ヒナタ様は俺の事を“兄さん”と呼ぶし、ハナビ様は“ネジ兄”と呼んでいる……。二人の声とも、違うな。いったい誰が────)

「んもぅ、おフトン引っぺがしちゃうんだからね!?」

「のわっ……?!」

 いきなり掛け布団を引きはがされたネジは思わず声を上げたが、その声は普段の自分の声とは異なって聞こえた。


「な、何をす...っ、ヒナタ……様??」

「え? 何言ってるのお兄ちゃん、ヒナタってお母さんの名前でしょっ? わたしは“ヒマワリ”! 寝ぼけてるでしょ~」

 顔を遠慮なく近づけてくる相手は、従妹のヒナタに似てはいたがよく見ると、白眼ではない薄蒼い目で両頬には何故か二本線がある。

(ヒマ、ワリ……? ヒナタ様が、お母さん...!? 何の夢を見ているんだ、俺はッ。しかも声が、自分のものではないようにトーンが高く……。ん、髪が───短くなっている?!)

 朝起きた時には顔横を流れているはずの自分の長い髪が無い事に気付き、思わず頭に手をやり前髪に触れて目線を上にして見ると、自分の黒めの髪色とは異なる黄色になっている事に驚く。そして周りに目を向けると、明らかに自分の部屋ではない雑多な空間だった。


「...ちょっとお兄ちゃん、ビックリした顔してどうしちゃったのっ? 今日お父さん久しぶりのお休みで、家族でピクニックに行く約束でしょ! お父さんはまだ起きて来てないけど、お兄ちゃんは早く支度してよっ」

(お父さん……? 俺の父様は、この世でただ1人だ。おかしな夢を見ているんだとしたら、頬でも強くつねれば目覚めるのでは───)

 ネジは見知らぬ女の子の前で、強めに頬をつねってみた。
……しかし、ただ痛みを感じただけで夢から覚める気配は無い。

「───何やってるの、お兄ちゃん。だいじょうぶっ?」


「大丈夫……では、ないかもしれない。ここはどこで、おれは誰になってるんだ……??」

 ネジは正直に答え、そう喋っている最中にも自分の声ではない高めのトーンに戸惑いを覚える。

「えっ、ど、どうしよう、お兄ちゃん何か変...? とりあえず、お母さんとこ行こうっ!」

「あ、ちょ...っ?!」

 ネジは寝巻き姿のままヒマワリという女の子に強引に手を引かれ、二階の階段を下りて居間らしき場所に連れて行かれた。


「あらボルト、おはよう。...って、まだ着替えてないのね。ヒマワリ、寝巻きから着替えてないお兄ちゃんの手を引いて来たりして、どうしたの?」

「なんかね、お兄ちゃん変なの。起きた時にわたしのこと、お母さんの名前で呼んだし、ここがどこだか、自分が誰だか分からなくなっちゃってるみたい...!」

「え...!? ちょっとボルト、顔色よく見せて」

 ヒマワリの母親はネジと目線を合わせるように身を低め、心配そうに間近で顔色を見つめてくる。


(ヒマワリという子と違って白眼ではあるし、ヒナタ様の面影は確かにあるが……。あの内気なヒナタ様とは思えないほど、俺より大分成長していて大人に……いや、既に子持ち...!? あ、相手はいったい───)

 ネジは内心ひどく焦り、それが顔に出てしまったのかヒナタらしき母親は怪訝そうな表情になりつつも、ボルトという少年になっている顔に両手を添えて額に額を当ててきたので、ネジは思わず顔が熱くなるのを感じた。

「熱は……、少しあるように感じるわね。ボルト、ちょっと身体を見せてもらうわ」

 そう言って母親は、白眼特有の動脈を露わにして息子の身体を注意深くチェックした。

「……特に、おかしなチャクラの流れにはなってないみたいだけれど……ボルト、具合が悪かったら今日のピクニックは───」

「おはよーってばよぉ……」

 居間に眠たげに頭を掻きながらもう一人現れたのは、見覚えのある顔の両頬に三本線のある、短めの金髪で見上げるほど背が高く体格の良い男で、ネジにしてみればある人物の大分成長した姿を彷彿とさせた。


(ナル、ト……? うずまきナルト、なのか...!? いつの間にヒナタ様と結ばれて子供をもうけて───いや、ヒナタ様が望んでいた事が叶ったなら俺がどうこう言う事ではないが……。しかし何故俺がその子供の一人、ボルトという少年になっているんだ)


「あなた、ボルトが……」

「ん...? ボルトがどうしたってばよ、ヒナタ。...何だお前、妙な顔してオレの事見つめて。今日は久々に父ちゃんとの修行も兼ねての家族でピクニックだろ? 急に行かねぇとか言い出すなよ、オレってば楽しみにしてたんだからなッ」

 ナルトらしき男はそう言って、中身はネジだとは知らない息子の頭を包帯の巻かれた大きな手でワシャワシャ掻き乱してくる。

「あなた、ボルトは何だか調子が悪いみたいで……」

「お、おれなら、大丈夫だよ。母...さん、父...さん。行くよ、修行も兼ねての、ピクニック」

 ネジは、出来るだけ子供らしい口調にして慣れない笑顔を作って言ってみたが、それがかえって無理しているように見えたらしく、家族の三人を心配させた。


「お兄ちゃん、やっぱり具合悪いんでしょ? いつもの口調と違うよっ。なんだか笑った顔も引きつってるし」

「そうね...、残念だけど今日のピクニックはやめておきましょうか」

「マジか……、まぁ調子悪いんじゃしょうがねぇってばよ。つか念のため、病院行っとくか?」

「だ、大丈夫だってば。楽しみにしてたん、だろ? おれ部屋に戻って、着替えて来るから」

 ボルトという少年姿のネジはいたたまれなくなり、自分の部屋らしき場所に戻って考えを巡らす。


(ついピクニックに行くと言ってしまったが、いいのか...? どう控えめに見ても、不審がられているような……。しかしヒナタ様の白眼でも、術で変化しているわけではないと見られたなら、俺の本当の身体自体どうなってしまったんだ。───そうだ白眼...! 俺の今の姿の眼は、白眼ではないのかッ?)

 ネジは思い立って白眼を試みたが、どうやら使えないようだった。

(ボルトという息子は、受け継がなかったのか...。ヒマワリという子も白眼ではなかったな。ここは俺の知らない、未来だとでもいうのだろうか……?)

 うまく頭を整理できずに混乱しつつも、とりあえず部屋の手近にあったジャケットの上下を着て行く事にする。


……二階から下りて鏡のある洗面台を見つけ、今の姿の自分をまじまじと見てみると、ナルトの息子らしく金髪の蒼眼で顔の両頬には二本線がある。

(こいつが、ナルトの息子なのか……。今の俺より、少し年下くらいか...?)

「───お兄ちゃん、いつまで鏡の前にいるつもり? 朝ごはんみんなで食べようよっ」

 ボルトの妹らしいヒマワリが呼びに来た為、ネジは自分より年上のナルト、ヒナタ、年下のヒマワリと共にどこかぎこちない朝食をとり、母のヒナタがこしらえた弁当を持って見晴らしの良い自然豊かな場所まで、ナルトとボルト姿のネジの修行も兼ねたピクニックに家族四人で出掛けた。





「───・・・ネジ兄、ネジ兄ってば! もう、まだ寝てるのー? 今日修行に姉さまと一緒に付き合ってくれる約束でしょ~、いい加減起きなさいよっ」

「は...ハナビ、ネジ兄さんもしかしたらまだ疲れてるのかもしれないし、このまま寝かせておいてあげた方が……」


「うーん、何だよぉ…。休みの日だし、もうちょい寝かしといてくれってばさぁ」


「はぁ? ネジ兄、しゃべり方ヘンだよ。寝ぼけてんでしょ! らしくないじゃん、今まで寝坊したことないくせに。あんまり遅いから、直接家まで来てあげたのよ? ...こうなったら、布団引きはがしてやるんだからっ」

「おわッ、ちょ、寒いだろー? てか俺“ネジ兄”じゃないし、ヒマワリの方こそ寝ぼけてんじゃ・・・───あ??」

 ボルトが寝ぼけまなこで目覚めると、そこは自分の部屋ではない畳み上で整然としており、見覚えのあるような白眼持ちの少女二人が怪訝そうにこちらを見つめていた。

「ね、ネジ兄さん、どうしたの? ほんとに寝ぼけちゃってる、の?」

「ヒマワリ……白眼になってる!? 俺、何かしちまったっけ...ッ」

「なんで姉さま見てネジ兄が怯えるわけっ? てゆうか、ヒマワリって何のこと?」

「な、何って、ヒマワリは俺のかわいい妹……ん? そっちのもう一人、誰だっけ?? つーか俺の声、低くなってるってばさ……。もしかしてコレが声変わり!? それに俺...、こんなに髪長かったっけ? しかも黒いし、サラッサラだってばさ」


 ようやく意識がハッキリしてきたボルトは、自分が自分ではないような存在になっている事に気づく。

「俺ってば、寝ぼけて誰かに変化しちまったのか?? だったら術解けば───・・・あれ、戻んないってばさ」

「...姉さま、やっぱりネジ兄おかしいよ。あたしのこと誰だかわかんなくて、姉さまのことはヒマワリって知らない子の名前で呼んでかわいい妹とか言って……! ダレこいつ?! ネジ兄の姿してるけどネジ兄じゃないっ!」

「そ、そうなのかも…。口調も態度も何かおかしいけど、ナルトくんの口調にちょっと似てるような……?」

「このぉ...、正体見破ってやるんだからっ。白眼!! ───あれ、特に術で変化してるとかじゃないみたいだけど……??」


 小さい方の子が、白眼で注意深くこちらを見つめ、ヒマワリに似たショートヘアの少女は控え目に質問してくる。

「あ、あの、ネジ兄さん……何か、あったんですか?」

「いや、あのさぁ、さっきから俺をネジ兄さんとかって……その人って、俺の母ちゃんのイトコの兄ちゃんの事じゃん。───てか妹に似てるけど、よく見たら顔に俺と同じ二本線無いからヒマワリじゃないってばさ...?」

「ねねっ、ネジ兄さん、近いです...っ」

 よく見ようと顔を近づけると、藍色の髪の少女は恥ずかしげに目をぱちくりさせて頬を赤らめ、もう一方の少し髪は長めの気の強そうな少女は警戒感を露わにしている。


「さっきから何言ってるわけっ? あんたがネジ兄じゃないならいったいダレなのよ!」

「俺? 俺は……ボルトってんだけど」

「は? ボルト?? やっぱり中身違うじゃない! 白眼でも見破れないヤツが、ネジ兄に取り憑いてんじゃないのっ?」

「ハナビ、落ち着いて...!」

「ハナビ……? 奇遇だってばさ、俺んとこの“おばさん”もハナビって言うんだぜッ」

 悪気ない笑顔で言ったはずなのに、ハナビという少女はみるみるうちに顔を赤くした。

「はぁ?! あたしまだ八歳よっ、“おばさん”なんてあんたに言われる筋合いないんだから!! ヒナタ姉さまぁ、なんとか言ってやってよこいつに...っ」

「ヒナタ姉様? おばさんの姉貴って俺の母ちゃんだから、ヒナタって名前も奇遇だなぁ……(っていうより、写真で見せてもらった覚えのある、小さい頃のおばさんと下忍の頃の母ちゃんにそっくりだってばさ??)」

 どうも不思議で首を傾げたボルトは、整えられていない長い髪がいちいち顔や首に触れるので少し煩わしく感じた。


「ね、ネジ兄さんの姿と声で、“あなた”はいったいどういうつもり、なんですか...?」

「そう言われても俺にもよく・・・───そうだ、鏡! 鏡、どっかにない?」

「それなら、洗面台のとこにでも行けばっ?」

 ハナビという少女がぶっきらぼうに言った。

「洗面台……あぁそっか、ここよく見たらおじさん家じゃん。何度か来た事あるし、場所知ってるってばさ。ちょっと、行ってくる」


「ね、姉さま…、あいつ絶対ネジ兄じゃないよ...! どうする? 何かしでかすつもりだったら───」

 浴衣の寝巻き姿のまま鏡のある洗面台へ向かった相手を訝しんだまま、ヒナタに耳打ちするハナビ。

「うーん、“中の人”は悪い人じゃないとは思うけど、もう少し様子を───」


「うおぉッ?! 俺ってば白眼になってる!?」


 洗面台らしき場所から従兄らしからぬ大きな声が上がり、思わずビクッとしてしまう姉妹。

「って事は、使えちまうんだよな...! よっしゃあッ、びゃ く が ん!!」





 ─────「ボルト、お前さっきから柔拳の型ばっかり使ってくるんだな。ヒナタとハナビ、ヒアシのじぃさんに教わってんのは分かっけど...、ずいぶん様になってんなッ!」

 ボルトの中のネジは、好天のピクニック先の見晴らしのいい場所でナルトに修行相手になってもらっており、ヒナタとヒマワリは自然の中の草花で花飾りを作ったりしている。


「やっぱヒナタと...、ネジの血もしっかり受け継いでるからなんだな」

 一旦修行の手を止め、ナルトは誇らしげにそう言った。

(俺の血も受け継いでいる...? 確かにヒナタ様の従兄ではあるが、大した事など───。そういえば、“俺”は……? ここが本当に、俺の知らない未来だとしたら、俺自身は……どうしているんだ)


「...ボルト、お前朝から何か妙だぞ。さっきの動きは良かったけどよ、あんま喋ってくんねぇし...。かと言って反抗してくるわけでもねーし……。やっぱどっか調子悪いのか?」

 考えにふけって眉間にシワを寄せているのを、ナルトが怪訝そうに顔間近で見つめてくるので、このままではいずれ“中身”が違うと知られてしまうのは時間の問題だと腹を括り、ネジは核心に迫ろうとする。

「父...さん、あのさ、ネジって人は……最近、どうしてる?」

「───どうしてるも何も、何度もお前とヒマワリには話してるだろ。お前達の“おじさん”は……、大戦中ヒナタとオレを守って、死んじまったんだってよ」


(……なるほど、そういう事...か)


 ボルト姿のネジは、憂えた表情のナルトからふと視線を逸らした。

「ヒナタ! 白眼で視て、ボルトは───」

「少なくとも私の眼で視る限り、本物のボルトよ。でも...、あなたが感じている“違和感”は、私にも分かる」

 白眼で息子を注視しながら、少し離れていた距離からヒマワリを伴いこちらへやって来るヒナタ。

「お兄ちゃん、なのに……お兄ちゃんじゃ、ないの?」

 妹のヒマワリは心配そうにこちらを見ている。


「お前……、正直に話してくんねぇか。それともやっぱ、言えねーか? うちの息子に、得体の知れない術でも使って取り憑いてるってんなら────」

「正直に言って、信じてくれるとでも? おれの今の中身が……、おまえの息子ではなく、ここでは死んでいるとされる“日向ネジ”だと言ったら・・・───」

 声は確かに息子のものだが、表情は冷たいながらも憂えているのを目にしたナルトは、懐かしい面影を見いだした。

「ネジ……? ネジが、ボルトに取り憑いてるってのかッ?」

「取り憑いている……つもりはないんだが、何故かこうなってしまっている」


「───ネジぃ! よく帰って来てくれたなッ!! けどどうせならお前の姿で出て来いってばよ、わざわざボルトに取り憑かなくても……あぁそうか、お前ユーレイなわけだし、しょうがねぇのか!?」

 突如ナルトは息子姿のネジをぎゅうっと抱き締めた。

「はっ、離せナルト、くるし...っ!」

「あなた、落ち着いて。ボルトが……ネジ兄さんが、苦しがっているでしょう?」

 ナルトをそっと窘めるヒナタ。

「あ、悪ぃネジ、力加減間違えたってばよッ」


「……本当に、“俺”が取り憑いているとでも? 何故、そう信じられる」

 ボルトの中のネジが訝しげに問う。

「だってよ、ボルトの口癖が全然出てこねーし、ボルトは最近オレの事もっぱらオヤジって……まぁ、クソ親父とも呼ばれっけど。前は父ちゃんって呼んでくれてたからなぁ、お前に今朝から“父さん”って呼ばれんの、おかしいとは思ってたんだってばよ」

「...口癖というのは、やはりおまえと同じか?」

「いや、似てっけどちょい違う。───てばさ、っつうんだよ」

「あぁ...、なるほどな」

 顎に片手を当て、無表情で思案する仕草をとるネジ。


「しっかしアレだな、ボルトの姿と声なのに、喋り方と雰囲気が本当にネジだってばよ...! なぁ、ヒナタ?」

「えぇ...、私にも分かる。ボルトの中に、確かにネジ兄さんが“居る”って事。───夢の中では時々会えていたけど、どんな形でも会いに来てくれて嬉しいよ、ネジ兄さん…っ!」

 ヒナタも嬉しさの余り胸の中にぎゅむっと抱き締め、顔面がそこに埋まってしまったボルト姿のネジは大きく柔らかいものに覆われたまま、うまく息ができずにもがく。


「ひ、ヒナタも落ち着けってばよッ。ボルトが...、ネジが窒息しちまうぜ?」

「あっ、ご...ごめんなさいネジ兄さん、大丈夫...?!」

「へ...、平気、です……」

 とは言うものの、息が上がってしまっているボルト姿のネジ。

「……ねぇお父さん、お母さん。わたしにも分かるように教えてくれない?」

 ヒマワリは一人、置いてけぼりにされたような気になっている。

「おう、ごめんなヒマワリ。なんつーか、つまり……ボルトにネジおじさんが取り憑いて、会いに来てくれたんだってばよッ! ───けど会いに来るならもーちょい別の方法ねぇのか? これじゃボルトの方がネジに会えねーだろ」

「別に会いに来たつもりはない。おれ自身はまだ、死んではいないんだが……。“こちら”では既に、死んでいるらしいな」

 特に表情を変えずにそう述べたボルト姿のネジに、ナルトとヒナタは驚きを隠せなかった。


「え...? もしかして、私とナルト君を守って亡くなったネジ兄さんじゃ、ない……?」

「じゃあお前…、いつの時代のネジなんだッ?」


「“今”のおれは、下忍だ。...中忍試験の試合では、おまえに負けている」

「マジ、か...? ならお前は、オレ達の知っている“死んじまった”ネジじゃなくて、上忍になる前の……中忍試験ではオレがギリギリ勝った、下忍当時のネジなのか!? 何で、“まだ生きてる”ネジが、ボルトの中に取り憑いてんだってばよ……??」

「───もしかしたら、サスケ君を奪還しに向かったネジ兄さんで、重傷を負って何日か意識不明だった時の兄さんなんじゃ……」

 ヒナタがそう思い当たってみるも、ネジはボルトの姿で首を小さく横に振る。

「いや、その時からは既に完治しています。……通常の任務を終えた後で、おれは普通に昨晩自宅で寝ていたはずなんですが。今朝起きたら、何故か見知らぬ者に姿が変わっていた。───それがまさか、あなたとナルトの息子だったとはさすがに驚きましたが。ただの、夢ではないようですし……元に戻ろうにも、どうすればいいか見当がつきません」

「ネジ兄さん……」


「ねぇ、お兄ちゃんの中のおじさん。どうして、お母さんに敬語使ってるの? イトコのお兄さんって、聞いてるけど...」

 ヒマワリが質問したが、ネジは直接答えずヒナタに問いかける。

「そこの所は、子供達に話していないんですか?」

「大まかには話しているけど、それほど詳細には話してないの。私達の時代では、もう呪印制度は廃止されて、分家や宗家の隔たりは無くなっているから───」

「そう、でしたか。……ナルト、おまえは本当に火影になって、日向を変えてくれたんだな」

「おう...。けど、お前は……」

「いいんだ。───ナルト、おまえはおれを闇の中から救い出してくれた。ヒナタ様とおまえを、未来のおれが守って死んだなら本望だ。それにおれは……ヒナタ様を傷つけたことがある。贖罪の意味にもなるだろう」

「??」

 ヒマワリにとっては、知らない事のようだった。


「そんな事、言わないでネジ兄さん。私は、そんなの望んでなんていないよ...!」

「───おれが死ぬことで、二人が結ばれ子が生まれるならそれでいい。おれは...、未来にいるべきではないんでしょう」

「お前が生きてても、ボルトとヒマワリは生まれて来てくれたってばよきっとッ」

「その時の状況は知らないが……、おれが死ななければむしろ、ヒナタ様の方が死んでしまっていたかもしれない。...そうじゃないのか?」

「それは...、けどよ……!」


 あの時、確かにピンポイントの挿し木の術から真っ先にナルトの盾になろうとしたのはヒナタだった。

───直後、二人の前に飛び出したネジがその身を盾に、枝分かれした挿し木に上体を無残に貫かれ致命傷を負い、手の施しようもなくナルトとヒナタのすぐ傍で息絶え、冷たくなって横たわり、もう何も映す事はない虚ろに開いたままの瞳をナルトは今でも鮮明に覚えていて、時折夢に見てはひどく心を痛めていた。


「この話は、もう終いにしよう。この身体を元の所有者に返してやりたいが、どうしたものか」

「……お兄ちゃんの中のおじさん、そんなのおかしいよ。どうしておじさんが犠牲にならないと、お兄ちゃんとわたしが生まれないみたいなことになるの?」

 ヒマワリは真っ直ぐボルト姿のネジを見つめている。

「それはさっきも言ったように、“おれ”でなければヒナタ様が……君の母親が死んでしまったかもしれないからだ。ヒナタ様は、ナルトの為なら死すらいとわないだろうというのは、容易に想像できる」

「それならおじさんだって、お母さんとお父さんのためなら……死んじゃえるってことだよね。今お兄ちゃんの中にいるネジおじさんは、未来に自分がいなくなっちゃってることが、怖くないの? 寂しく、ないの?」


「寂しくも...、怖くもないさ。受け継がれるべきものが未来にちゃんと継がれているなら、そこにおれが居なくとも何も問題は───」

「あるだろ、オレ達が寂しいに決まってんじゃねーかッ! お前が生きてる上でオレの義兄貴で居てほしかったし、ボルトとヒマワリのおじさんとしてすぐ傍で成長見守ってほしかったし……。ネジが居なくていい未来なんて、オレ達は望んじゃいねぇのにッ...!!」

 ギュッと両拳を握り、歯を食いしばるナルト。

「ならおれが“その時”を迎えたら、ヒナタ様とおまえを庇いに出なければいいのか? 死ぬかもしれないのを、黙って見過ごせと? ───今ここにあるおまえ達の未来を失くしてしまうくらいなら、おれはむしろ喜んでこの命を捧げてやるさ」

「ネジ兄、さん……っ」

 ボルトの顔で、強気な笑みすら浮かべるネジにそれ以上なんと言ってあげればいいか分からなくなり、ヒナタは俯いて頬に涙を伝わせる。

「ヒナタ様...、おれの為に泣く必要はない。この先、おれは自分の思う通りにするだけですから」

 ボルト姿のネジは、ふと微笑して見せた。


「ねぇおじさん……一つだけ、わたしのお願い聞いて。ちょっと先の未来の自分より、強くなってみせてよ。誰にも負けないくらい。そうすればきっと...、お母さんとお父さんと一緒に生き抜けるよ。お兄ちゃんとわたしとだって、会えるよきっと」

 ヒマワリはそう言って、ボルトの中のネジに屈託のない笑顔を向けた。

「ふ、そうかも...しれないな。もっと、強くなってみせるさ。少し先の未来の自分を、超えられる……よう、に・・・────」

 ふっと意識が失せ、前に倒れかかるボルトの身体をとっさにナルトとヒナタが両脇から支える。

「おいネジ、どうしたッ?」

「兄さん? ネジ兄さん...!」

 ボルトの中に居たはずの存在に二人が呼びかけるも、瞳を閉ざし意識の無いボルトはぴくりともしない。

「ネジ…、ボルト……」


「大丈夫だよお父さん、お母さん。お兄ちゃんは帰ってくるし、おじさんだってきっと……会いに来てくれるから」





「びゃ く が ん!!────・・・」


 洗面台の場所から上がった大きな声は何度か繰り返されたが急に静まり返り、少し間を置いてネジ姿で中身は別人らしき者は長い黒髪の頭を片手て掻き乱しながら、どうも納得いかない様子でヒナタとハナビの居る場所に戻って来た。

「おっかしいなぁ、せっかく白眼なってんのに使えねぇなんてさぁ...。ほんとに自分の身体じゃねーみたいだから、チャクラもうまく扱えないってばさッ。色々透視してみたかったのになぁ……?」

「あ、あんた、やっぱりソレが目的なわけ!? 姉さま、こいつヘンタイ...っ」

「ねぇ、ボルト…さん。本当のネジ兄さんの方は、あなたに封じられちゃってるの? それとも...、どこかへ追いやってしまったの?」

「へ? そんな事言われてもわけ判んないってばさ。俺次の日普通に休みで、親父も久々に休み取れたからって、家族で出掛けて親父とは修行する約束してたんだけど……昨日の夜、あんま寝付けなかった気がすっけど自分のベッドで寝たはずなのにさっき起こされたら、別人なってたっつーか……。でも俺、“この人”知ってるってばさ。あんた達が“ネジ兄さん”とか言ってるって事は、この人俺のおじさんにあたるんだよ。下忍当時とか、上忍の時とかの写真、母ちゃんに見せてもらって外見は知ってるからさ。……会った事は、無いけど」

 自分の事を指差してそう述べるネジ姿のボルトという相手に対し、ヒナタとハナビはうまく話を呑み込めずに困惑している。

「あ、あのネジ兄が“おじさん”って……なんか想像できないっ。姉さま、どう思う?」

「あなたは...、ネジ兄さんを自分のおじさんだと言うのに、会った事はないのは……どうして?」

「へ...? あ、それは───(言っていいのか、これって)」

 ボルトはためらい、つい目線を下に逸らす。


「まさか、居ない...の? あなたの、所には」

「あたしにはよくわかんないよ姉さま、説明してっ?」

「────・・・・・」

 話を促す妹のハナビだが、ヒナタは何か悟ったように、悲しげに俯いている。


「あぁもう、とにかくネジ兄の中に取り憑いてるボルトってやつ! ネジ兄の中身を返しなさいよっ、どこへやったの? 人質にでもしてるつもりっ?」

「いや、だから俺は───」


『ボルト……、もう時間だ。これ以上、二人を混乱させるのはよくない』

 不意に頭の中に声が響く。ハナビとヒナタには、聞こえてないらしい。


(あんたは……?)

『今のお前の...、身体の持ち主だ』


(じゃあ、あんたが、おれの───)

『良くも悪くも夢からは、覚めないといけない。お前も...、元の身体に戻るといい。家族が……心配している』


(ネジのおじさん、おれはっ……!)


『───言わなくていい。分かっているから。未来で、待っていろ。きっとお前達に……直に、逢いに行ってみせるから』


「へへ、じゃあ約束……だってば、さ・・・───」

「え? ボルト...くん、どうしたのっ?」

 急に前へ倒れかかるのを、とっさに抱き支えるヒナタ。

「ちょっ、どさくさ紛れに姉さまに抱きつかれたかったとかじゃ...!」

「────・・・」

「ボルト……くん?」


「いや...、俺はネジです、ヒナタ様」


 おもむろにヒナタから身体を離すネジ。

「えっ、ネジ兄さん...!」

「───ちょっとネジ兄、今までの全部演技だったとかなら許さないよっ?」

「あぁ...、別にいいですよ。さっきまでのは演技でも寝言でも、どうとってもらっても構いません」

 ネジは普段の無表情でハナビに述べる。

「何それ! 少しはマシになったと思ってたけど、やっぱりイヤミなネジ兄っ」


「ネジ兄さん、さっきのはほんとに……」

「気にしないで下さい。...夢でも、見ていたのかもしれない」

「でも“あの子”は、確かにネジ兄さんのことを───」

「おじさん、ですか? 失礼な奴ですよね、そう呼ばれるにはまだ早すぎる。だが...、そうなる予定ならあります」

 心配そうに見つめてくるヒナタを安心させるように、少しぎこちないながらも微笑むネジ。


(今よりもっと...、少し先の未来の自分より、強くならなければいけない。その時が来るまでに……その時が来ても、ヒナタ様とナルトを守り抜き、そこから生まれい出る未来の存在と共に……もっとその先を、生きて行く為に)




《終》

 
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