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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第60話 仇

 
前書き
これにて第2章は終わります

次回から日常編がスタート 

 
この世界を否定する存在がマダラだ
その思想を胸に行動し、計画を狙う者は全てマダラでしかない

一方通行をコピーしたサソリは拳を握り締めながら、一筋の涙を流していた。
触れる事に経験のないアクセラレータを追い込む度に彼の過去が止めどなく溢れてくる。

一方通行(アクセラレータ)は、幼少時は普通の子供であったが、生まれつき強すぎる能力故に周囲の子供達に疎まれ、迫害されてきた。
自己防衛の為に能力を使っていたが、多くが悲惨な結果を残すだけだった。
そして、彼の能力に目を付けた研究者は彼を呼び出して表沙汰に出来ない実験をさせられた。
そんな経験をしてきた彼は、周囲と心を閉ざして凶暴さを増してきたのは無理のない話だった。

コイツも同じだ......

忍の世界で奪われた当たり前の日常。
圧倒的な才能を見せた時の周囲の反応は冷たいものだった。
悪しき風習が生み出した化け物だ。

「ああっ!」
アクセラレータの右手がサソリの左頬に当たるとベクトル変換でサソリはコンテナに勢いよく叩きつけられた。
「はあはあ......どうだァ......!?はあ?」

コンテナをひしゃげて座り仏頂面のサソリが涙を流しているのが視界に入った。

な、何でコイツ泣いてンだァ?
俺に挑ンだ事の後悔か?
いや、違う......何かが違う

「どうした......これが最強の力か?」
サソリがゆっくりと身体を起こした。
涙は途切れる事なく続いている。
写輪眼が見せる感受性がサソリの意思とは関係なく流れていく。
決して多くない量であるが絶えない痛みに反応している。

「これが......アイツが受けた痛みなのか」
サソリは頬の傷を拭き取ると忍の構えを取った。

師匠ー!
お茶が入りましたよ......とミサカは学習した知識をフルに使って最高の一品を作りました

瞼を閉じて、在りし日のミサカの面影を亡き父と母を重ねる。
望郷の果てに置いてきた、自分の甘ったれな性格が酷く嫌になった。

「強い奴は......オレから大切なモノを奪っていく」
高まるサソリの殺気にアクセラレータが一歩下がるがサソリは一気に間合いを詰めて、アクセラレータの胸ぐらを掴むと頭に頭突きをした。

「ぐっ!?」
胸ぐらを掴まれたままアクセラレータは、身体を後方に仰け反らせたまま腕をダラリと垂らした。
アクセラレータの華奢な手足が妙に長く感じた。
「......最強って何だ......?」
サソリの問いかけにアクセラレータは、瞳に力が入ったかのように燃え上がり、ギシギシと長い手足を前方に傾けながら起き上がる。

「......知るかよォ......俺が知りたいくらいだァ!!」
アクセラレータも負けじとサソリに頭突きをして反撃した。
「......!」
衝撃で離されたサソリの身体に地面を蹴って噴石を打つけた。
「俺が......俺がァ!!好き好ンでこのチカラを手に入れた訳じゃねーえェぞ」

今まで一方的に嬲るだけのアクセラレータは、初めて作用•反作用の法則を理解しながら、打つけた額を拭った。

「いつもそうだァ.......疎まれて、化け物を見るような目でどいつもコイツも見てきやがるゥ!」
アクセラレータは手近に積まれたコンテナを持ち上げると土砂の中から這い出てきたサソリに放り投げた。

「......そうだ......来い」
サソリは印を結ぶと砂の壁が出現し、コンテナを半分埋もれさせて止めるとコンテナを足場にして飛び上がるとアクセラレータの前に踊り出た。

「はあはあ......上等だゴラァ!」
アクセラレータは、ゆっくりとした足取りから徐々に走り出して、サソリの右頰を殴りつける。
サソリは身体を半回転させると拳を垂直に打ち上げてアクセラレータの顎をアッパーした。
「!?」
強制的に閉じられた口から血がホースの口を絞めたように勢い良く溢れた。
「痛みを知れ」
空いた胴体に拳を殴りつけようとするが、アクセラレータの能力が強くなりキリリッと音を立てて止まった。

「!?」
障壁に阻まれているサソリの拳を上を向いたまま掴むと、空いている手でサソリの顔面を殴りつけた。
ガラスが割れる音がするとサソリは土に埋もれたコンテナに身体を回転させて着地をする。

実験なンかもう知らねェ
最強とか絶対的なチカラに興味がねェ
平穏な生活なンか、とうの昔に諦めている
手加減なンて知らねェ
目の前に居るコイツは、俺に応えている

「はあはあ......」
アクセラレータは、拳に空気を閉じ込めて圧縮し、拳を中心に白く発光を始めた。

俺の全力をぶつけてやンよ

駆け足から全力疾走でアクセラレータは、発光する拳を振り上げると凶悪な一撃をサソリに向かって突き出す。

サソリも拳にチャクラを溜めると走り出して振り絞って拳を突き出した。

「だァアアアアアアー!」

「はああああー!!」
互いの最強の拳はクロスカウンターをするうに交わると互いの顔面に打ち込まれて、キンキンと高い音が響く中で爆発するようにそれぞれ後方へ乱回転しながら吹き飛ばされた。

それは、紛れもない喧嘩だった。
対等な者同士が行う喧嘩だ。
初めての対等な喧嘩にアクセラレータは、戸惑いながらも興奮していた。
初めて楽しいと感じた。


ククッ
国際法で禁止されている人間のクローンの大量生産たァ
ハナからまともな実験じゃねェンだろいとは思ってたが
オマエラ、イイ感じに頭のネジ飛んでンじゃねェか


地面に叩きつけられたアクセラレータは握り締めた血だらけの拳を満足そうに眺めた。

俺と対等に喧嘩しているコイツの方がネジが飛ンでンだァ
この世界に俺とやり合える奴がいやがるなンてな......

「ククク......ハハハハハハー!」
アクセラレータが狂ったように笑っている中、サソリがヨロヨロとアクセラレータに近づいて行った。

一頻り、笑い終えるとアクセラレータは覗き込んでいるサソリに質問した。
「何者だァ、お前?」
「......忍だ」
サソリははっきりとした口調で答える。

******

うそっ!?
押している......
あの一方通行(アクセラレータ)を?
学園都市最強が相手なのに

御坂達はサソリとアクセラレータとの闘いに固唾を飲んで見守っていた。
殺される前の暁の外套を着たミサカがぎこちない笑顔で誇らしく言っている光景が想像された。

お姉さま!
ミサカは大丈夫です
師匠は厳しい方ですが、優しい方です
そして、とても強い方です

駆け付けてくれるヒーローなんていない
助けてくれるアテも図々しさもなくて、全部自分で片付けないといけないと思っていたのに......
それを許してくれる仲間なんていなかった

「サソリ......アンタって人は」
ぎゅっと胸元に手を当てると御坂は、サソリの後ろ姿を暫し呆然と眺めた。
学園都市最強と御坂達のリーダー格のサソリの闘いを見ていた麦野や白井も士気が上がり、表情には自信と誇りのようなものが滲み出す。

同じくアクセラレータとサソリが闘っているのを黙って見ていたゼツ。
「......」
「押されているね」
ニヤリと笑うと、黒ゼツが静かに呟くように言った。
「......丁度良イナ......」
ゼツは、鼻血を出してひっくり返り息を荒げているアクセラレータを眺めると少しだけ笑みを浮かべると両手の真っ赤な輪廻眼を向けて構えた。
ギョロギョロと動く目玉に御坂達はゾッと戦慄した。

神羅天征

土砂や線路、コンテナが歪み軋み出して視界から消え去った。
「!?」
ゼツから強大な斥力が出現し、周りの物体を次々と吹き飛ばし始めた。
「......行クゾ」
半球のように広がる衝撃にミチミチと線路の枕木が持ち上げられて、地図を書き換えるような衝撃が襲い掛かる。

貨物列車が持ち上げられて、地面の土砂の天地が逆になったような気がした。
「くっ!?」
迫る貨物列車を御坂と麦野が能力を使って咄嗟に消し飛ばした。

次の瞬間、青くキラキラ光る氷の矢が御坂達の背後から飛んで来て、ゼツの肩を射抜いた。
しかし、衝撃の波が御坂達に襲い掛かり、巻き上がる土砂に巻き込まれていく。

「痛た......!?」
ゼツからの衝撃をまともに受けた佐天はしこたまぶつけた頭をさすりながら、土埃が舞い上がる薄ボヤけた世界を目を擦りながら見ている。
「うう......」
「何があったんですの?」
「白井さん!湾内さん!」
佐天が駆け寄る。見た感じでは皆に危害は無さそうだ。
「みんな大丈夫?」
「げほげほ......」
御坂が泡浮を引き上げる。

「アイツ......こんな事も出来るのね」
「超危なかったです」
「......」
ミャー
レベル5は自分でバリアを展開して、その身を守っていたようだ。
滝壺が抱き上げている子猫がパニックを起こしたようにジタバタしていると......
「ダメ!飛び出したらもっと危ない」
と子猫の鼻先に手をちょこんと乗せた。

「何処に行ったのかしら......それにさっきの矢は?」
麦野が思案顔で佐天を見つめた。
「ど、どうかしました?」
佐天が心配そうに麦野を見返すと、麦野は「?」と疑問符を浮かべてそっぽを向いた。

威力から言えば、私達に匹敵しそうね
本人には自覚がないみたい
「??」

衝撃波を引き起こした張本人のゼツが姿を消していて、滝壺がAIM拡散力場を追跡していた。
地中を通って気配はサソリに伸びている。

******

「しのび?」
時代錯誤のような言葉にアクセラレータは目を丸くした。
「......まあいいや、っで俺も殺しに来たンかァ?」
「......怨みを買われる事には慣れてンよ。お前にならよいかもしれねェ」

大の字に横になったまま、アクセラレータはデフォルト設定にしている『反射』を切った。

「さっさと殺りやがれェ」
「......オレは弟子の仇を取りに来ただけだ」
「だったら......仇でもなンでも」
「仇は取った......無論死んでいたら容赦しないがな」
「は?どういう意味だァ」

サソリは少し優しげな顔をすると
「そのままの意味だ」
と答えた。
「!?......今度は手加減なンざしねーからな」
「......臨む所だ最強」
むくりと身体を起こしたアクセラレータは、最大の好敵手出現に顔を綻ばせて鼻血を片方抑えて血を出した。

しかし、茨を生やしたゼツが土中から姿を現して、アクセラレータの顔に植物を這わせた。
「!?貴様!?」
「礼を言うよサソリ......これで最強戦力がボクらの手に入った」
アクセラレータの顔に張り付いた茨は、徐々にグルグルとした面へと変貌して辺りの大気が震え始めた。

「がアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!あ......ああ......」

アクセラレータは、グルグルの面を外そうともがくが、すぐに膝を折れて呆然と立ち膝のまま空を見上げた。
仮面に空いた穴から赤い瞳が光り始める。

ゼツのもう一つの顔、トビの出現である。
一方通行の身体を立ち上がらせるとコキコキと身体の体操を始める。
「あー、良く寝たっすね......ん?先輩?」
「貴様らぁぁー!」
サソリの拳を紙一重で躱したトビ一方通行は、サソリの懐に入り込むと掌を顔に向けた。
バン!!と音がしてサソリはひっくり返った。
「がはっ!?」
「良く分からないっすけど......先輩、チャクラが切れ掛かっているっすね。どうするんすか?」

トビ一方通行が頭の後ろに手を回しながら、飄々とした感じで後ろにいる肩を凍らせたゼツに質問した。
「......帰るね。まあ、今回はトビに最強の肉体が手に入ったし......結果オーライ」

ゼツの掌にある赤い輪廻眼を何もない空間に向けると真っ黒な正方形が積み重なったような形で空間が断裂した。

「サソリ......今回ノ件デ貴様ラヲ計画ノ脅威ト考エル......次ハ容赦シナイ」
「ま、待ちやがれ!」
「よっと」
トビ一方通行が地面を叩くと、地面が爆発しサソリに噴石が激突した。
「!?」
「良い感じの術っすね〜。チートみたいっす」
ゼツが断裂した空間に入ると、トビ一方通行も手を振りながら消えていき、空間の断裂は修繕されて映像が途切れたように景色は平穏を取り戻していた。

「クソ......」
サソリは地面を大きく叩いた。
ゼツの企みが見えない現状。弟子を無事に護れなかった憤りとアクセラレータの事......全てがサソリの中で静かに木霊した。

遠くから
「サソリーー!」
と呼ぶ声が響いてきた。サソリはそっと気だるそうに倒れ込んだ。
見れば御坂達が心配そうに駆け寄って来ている。


サソリと激闘した現場から僅かに100メートル離れたコンテナの陰に倒れ込んだゼツと爆笑しているトビ一方通行がいた。
「次は容赦しない......プハハハ、そこまではカッコ良かったっすよ!あ〜、先輩に見せたいっすね」

「だから言ったのに......あの輪廻眼は試作品でかなりチャクラ使うから危ないのに......もうほとんどないよ」
「黙レ......」

どうやら、ゼツもチャクラが空っぽに近いらしく。地面に這いつくばるように微かに動く程度だ。
「っでどうするんすか?ぬのた......なんちゃらの処まで運ぶんすか?」
トビ一方通行が倒れているゼツを覗き込みながら質問した。

「イヤ......彼処ニ行ク......チャクラヲ回復サセル」
「アイアイサー」
トビ一方通行がゼツを背中に背負いながら走りだした。
コンテナを足場にしてヒョイヒョイと軽々移動していく。

「そういえば......次はトビの番だね」
「番すか?」
「心ノ闇ノ回収ダ」
「あー、そんな事があったっすね」
「どうするの?何か計画とかある?」
「そっすね......オイラ、派手なのが好きだから......!!あ、そろそろアレの季節っすね」

移動しながらトビ一方通行は嬉しそうに声を出した。
「ドカンと一発大きな祭りを使うっす!」

******

事件から数日が経過したある日の昼下がり。
自然と実験は無くなったのか姿を見ることは無くなった
うだるような暑さの中で御坂と白井、佐天と初春が公園のベンチでかき氷を食べていた。
蝉の声が妙にやかましい。

「なるほどね〜、このシャリシャリ感を出すのがコツなのね」
ふむふむと頷きながら、佐天はかき氷を口に滑り込ませた。
「参考になるんですか?」
「なるなるー!いつかかき氷をメインにした喫茶店を開くんだから、佐天喫茶店みたいな!」
「ダジャレですか」
初春が困ったように笑った。

「お姉様......少しは元気を出していただきませんと」
「......うん」
御坂は妹達の計画で仲良くなったミサカを思い出していた。

何の事でしょう?
とミサカはストロベリーの甘みを楽しみつつ盗み食いをします

たったあれだけの触れ合いだった。
だけど御坂の心には大きな傷を残している。

何だろう......ぽっかりと穴が空いたような感じ

「お姉様......」
心配そうに白井は御坂を見上げた。
この数日でかなりやつれたようで全体から元気が無くなっている。
「ごめんね......大丈夫だから」

あの時、間に合っていれば
あの子は死ぬ事もなかったのかな

「御坂さん!食べないならあたしが頂いちゃいます!」
佐天が御坂のかき氷を盗み食いをしながら、アイスクリーム頭痛に「うがぁ!」と歪ませた。
「ふふふ......ありがとう佐天さん」
「佐天さん!はしたないですわ!」
「良いじゃないですか!色んな味を知るのが佐天喫茶店の夢の第一歩です!」

佐天とミサカが重なった。
涙が少し流れて、誤魔化すように御坂はかき氷をかき込んだ。
「甘いわね......甘過ぎるわ」

御坂からポロポロと涙が止まらない。

喪ったモノはかけ替えないのないもの......死んだら元に戻らない
分かっているつもりだった
でも、覚悟が足りなかった

「御坂さん......」
涙による頭痛かかき氷による頭痛が良く分からない締め付けるような痛みがやってきて、かき氷の容器に涙が落ちていく。

「ここに居たか」
サソリが公園の入り口から歩いてきた。
「あ、サソリさん!大丈夫ですか?病院を抜け出して?」
「まあな......しっかり怒られたがな。そんな事より」
サソリは御坂の手を掴んだ。
「えっ?」
「ちょっと付き合え」
「な、なな!どういう事ですの!?サソリ」
「お前らには後で説明する......まずは、お前だ」
白井と佐天の追求を振り切るようにサソリは万華鏡写輪眼で神威を使って御坂を異空間に引っ張り込んだ。

高い塔に幾本のパイプが走る中でサソリと御坂は雨が降りしきる真っ暗な空の世界にやってきた。
「......何ここ?」
「オレの術で来れる場所だ......ついて来い」

目の前の扉に入り、木造の廊下を通っていくと、ある部屋の前でサソリが引き戸に手を掛けた。
「御坂......悪いな」
「!?えっ?......どうしたの?」
「オレの弟子についてだ......お前まで巻き込んじまった」
「ち、違うよ!あたしが昔......」

サソリがスッと御坂の頭を撫でた。
まるで御坂が言うのを妨害するように......
「それを踏まえて......この先に行って欲しい。多分、最悪の事をやった」
サソリの表情がいつも以上に真剣で憂いを帯びていた。
「見た上で納得出来なかった、殴っていい......すまん」
「な、何よ......一体どうしたの?」

サソリが引き戸に力を入れて開けると、台の上にへなっと座っている黒髪をした小さな子供が戸を背にしたまま座っていた。
ブカブカの黒い服を着ている。
「?」
御坂がその正体を探ろうとした時に黒髪の子供がゆっくり顔を向けた。
眠そうな目がニコッと笑顔になった。
「お姉さま......ですか?」
絹のように透き通るような綺麗な声が部屋に響いた。

「え......えっ!?」
人形のような手には黒焦げになったあの時あげたカエルのバッジを大事そうに持っている。
「えっ!?え.......え?そ、そんな事って」
「......あの時、助けるのが遅くなってなかなり厳しい状態だったが......ゼツに見付かると厄介だったから」

喪ったモノは二度と戻らない
死んでしまったとばかり思っていた
あのバカに叩き潰されたと思っていた

「破損箇所が多くてな......オレの傀儡を使っても子供に近い姿になったが......」

サソリのお気に入りの傀儡だった『三代目 風影』を材料にしてミサカを人傀儡に造り替えた。

御坂は唇を噛み締めて走り出した。涙が出てくるがサソリの目も憚らずに子供のように黒髪のミサカを抱き締めた。
「ごべんね......痛かったね苦しかったね。あたしのせいで......」

謝罪なんて出来ないと思っていた

かつてのミサカは眠そうに瞼を持ち上げながら御坂を小さな身体でそっとぎこちなく抱き締めた。
「お姉さま。すみません、ミサカの為に」
「うぐえっぐ.......わああああーん」
「ミサカは此処にいますよ......身体は変わりましたが......師匠ありがとうございます......」

「ありがとう......生きていてくれてありがとう......サソリも......うっぐ」

言うな
オレに礼を言うな
最悪な事をした
禁じられた『人傀儡』を造ってしまった
言うな
オレは弟子を闇の道に引きずり込んでしまった
人形になりきれなかった人間に......
かつての過ちを繰り返してしまった

「お姉さま......あ、ああ.....,ああああー!」
「!?」
突如として、痙攣が走り黒髪のミサカは震え出した。眼は光を無くして何かに脅えるように叫びだした。
「ど、どうしたの!?」
「......やはりな......あの記憶が影響しているみたいだ」
「あの記憶?」
「痛みは......もっとも強く記憶に残るんだ.......このままだと神経に影響が出る」

アクセラレータに虐殺されたあの日
恐怖と痛みに支配された日
生まれて間も無いミサカには精神的に耐えられるキャパシティを超えている。

パニックを起こしてガタガタ震えている黒髪のミサカの頭を撫でる。
「大丈夫だ......なんとかしてやる」
「し、師匠......お姉さま」
「大丈夫だからね......なんとか出来ないの?」
「......暫くの間、コイツの記憶を封じ込める」
サソリは戸棚から極小の針を取り出すと落ち着きを取り戻したミサカを座らせた。
「これを打ち込んで、今までの記憶を封じることができる」
「記憶を!?じゃあ、もう二度と」
「一時的だ......オレが術を解けば記憶は蘇る」

サソリはミサカの頭に極小の針を埋め込み始め、最後の一手の所で止めると御坂の手を掴んでミサカの頭に近づけた。
「次に逢えるのは、数年後だな。身体と精神が成長してあの日を受け止めることが出来るまで」

「必ず......迎えに来るからね。絶対だよ!」
最後の一手を打ち込む前にミサカは、人形の腕を伸ばしてサソリと御坂の腕を掴んだ。
「お姉さま......師匠......ミサカは幸せです。またお逢い出来るのを楽しみにしています」

ポロポロと泣いている御坂の脇でサソリが涙を一筋流した。
御坂が力を込めると針は入っていき、記憶の中枢に入り込んだ。

潜脳操砂の術!

ミサカの全ての記憶が全て走馬灯のように浮かぶと次々と吸い込まれるように消えていった。

「またな......バカ弟子」

******

万華鏡写輪眼で繋がった異空間で朝を迎えたサソリは座敷で布団に入って寝ていると、トテトテと小さな身体をした黒髪の人傀儡が飛び乗ってきた。
「とぉ!!」
「ぐあっ!?」
サソリの腹部にクリティカルヒットしたらしく、顔を歪ませたながら身体に乗っている黒髪の子供がニコニコと座っていた。
「何してんだお前......」
「起きてー!今日はフウエイと遊ぶって言ったよパパ!」
「まだ、朝の五時じゃねーか。まだ寝る」
手元にある時計で時刻を確認すると身体の上にいるフウエイと呼ばれる少女を寝返りで落とした。
「ええー!つまんない......よいしょ、よいしょ」
フウエイがサソリの布団の中に入ってきて、サソリに身体全体を使って抱きついた。
「あ?」
「えへへ、フウエイもパパと一緒にゴロゴロするー」

机に飾られた焦げたカエルのバッジの裏側には達筆な字で『風影』と書かれていた。

第2章 妹達編 了 
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