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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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人形-マリオネット-part3/残酷な真実

「平賀君、平賀君ってば」
体を揺すられる感触が伝わり、サイトは顔を上げた。自分を君づけする人は一人しかいない。ハルナが起こしてくれたのだろう。
「ん、ああ…やっと魔法学院に帰ってきたのか」
「なに寝ぼけてるの?もう下校時間だよ」
「え?」
体を起こしたサイトは意識をはっきりさせ、周囲を見る。
そこは、魔法学院でもなければハルケギニアの景色でもなかった。かつて自分が地球で授業を受けていた、高校の教室だった。自分もハルナも、学校指定の制服だ。赤い夕日が教室の中に差し込んでいる。
「夢…?」
サイトは、だんだんとハルケギニアのことが思い出せなくなった。夢とは起きると同時に記憶からも忘れ去られていくもの。サイトは夢の中で、なにか大きな出来事に何度も直面してきたような気がしたが、それがなんだったのかよく思い出せなかった。
「ほら、起きて。今日は私と平賀君が日直なんだよ」
「日直?」
だが、本当にそうだったのか?という疑問がサイトの頭の中を過った。こんなところで、悠長に日直だなんてやっている場合なのだろうか?
「日誌書こう。見ておいてあげるから」
日誌を書くように促すハルナだが、彼女の声は耳から耳へと、そのまま突き抜けていく。
違う、俺はこんなところで立ち止まっている場合じゃないはずだ。もっと大事なことがあった。はずだ。思い出すんだサイト!自分に言い聞かせながら、サイトは本来自分が何をすべきか記憶をたどると、すぐに思い出した。
「そうだ、俺は確か…ルイズの魔法で召喚されたんだ。その時、ゼロと一心同体になって一緒に怪獣や侵略者と戦っていた!」
「ひ、平賀君!?」
思わず机から立ち上がって大声を出す彼に、ハルナは思わず驚いてしまう。
「俺がこうしている間にも、侵略者は怪獣や兵器を利用して、奴らの侵略でたくさんの罪のない人達を苦しめている。こんなところで、悠長に日直だなんてやっている場合じゃない!」
でなければ、かつての自分のような孤独にさ迷う悲しい人達が増えてしまう。サイトには耐えがたいことだ。自分以外にも頼れる戦士たちはいるのだが、自分と同じウルトラマンであるシュウは連絡がとれず、グレンはウェールズを二度と利用されないためにラグドリアン湖で彼の眠りを守り続けている。レオも既に星を去っており、今はサイトが…ウルトラマンゼロだけがこの星の守護者なのだ。
「平賀君…何を言ってるの?」
「ごめん、ハルナ。俺はすぐに行かなきゃ…」
思い出せば、この世界こそ夢だ。あくまで目の前の彼女は自分の見ている夢の世界の人。せめて一言詫びをいれて、サイトは立ち去ろうとした。
…が、ハルナの口から予想外の言葉が飛んできた。
「そっか、やっぱり平賀君は地球よりも異世界の方を優先するんだ」
「え…?」
サイトは教室の扉のドアノブに触れようとしたところで、ハルナの方を振り替える。
「一緒に帰ろうって約束したのに、私を守ってくれるっって言ってたのに…約束を守ろうともしないで行くんだ」
なんだ…?ハルナの声が冷たくなっている。彼女はサイトを見ずに、彼とは反対の方角の窓の外を眺めている。しかも、美しかった夕日の光が消え失せ、真夜中のような漆黒の闇が教室を包み込み始めた。
嫌な冷たい空気が二人の間を行き交う。この周囲の変化に、ハルナは全く動じていない。
「平賀君は、地球のことなんかどうでもよくてハルケギニアの方が大事なんだ」
「な、何を言い出すんだよ!俺はそんなこと思ってなんか…」
「じゃあ、どうしてルイズさんのことばかり気にするの?地球に帰ることに、あの人は関係ないじゃない。なのにどうして、私の約束よりも、ルイズさんの方を…」
「落ち着けハルナ!話を聞いてくれ!」
弁明しようと試みるサイトだが、さっきからハルナはこちらを振り向かず、サイトを非難し続ける。
「そんなに異世界やルイズさんたちが大事なら、もういいのよ…

どうせ私は一人ぼっち…

異世界に無理やり呼び出され、唯一の知り合いがその世界のことばかりを気にして…

ただ、闇に消えるだけの道化なんだ…」
その時だった。暗黒の闇が、ハルナの姿を、サイトの視界からも消し去ろうと、彼女の姿を覆い始めた。
「待ってくれ、ハルナ!そっちに行ったらダメだ!」
「なら、平賀君も一緒に行きましょう?誰の目にも届かない、永遠の闇の中へ…」
すると、ハルナはサイトの方を振り替える。その直後だった。闇はサイトさえも飲み込もうと、嵐のようにうねり、覆い始めた。
「は、ハルナ!」
その時の彼女の顔を…姿を見たサイトは…恐怖した!
彼女の顔は…

「さようなら、平賀君」


闇の世界で、また会いましょう…




「うわあああああああああ!!」
ガバッとサイトは起き上がった。
「うわ!?ど、どうしたんだサイト君?」
そのやたら激しい起き上がり方に、傍らにいたムサシが驚いた。
「あ、俺…」
意識がはっきりするサイト。そこはトリスタニア城の、サイトたちに用意された客間だった。そうだ、ルイズの実家から戻ってきて、少し姫様から話をしてもらってすぐにここで休ませてもらってたんだっけ。
「大分うなされてたね。何か夢を見てたのかい?」
「俺、寝てるときに何か言ったんですか?」
寝言を聞かれるとは少し気恥ずかしいものだが、ムサシの顔つきが険しめだ。
「いや、よく聞こえなかったけど、あまりいい夢じゃなかったように感じた」
「…」
言われてみれば…とサイトは思った。さっきまで、何か不吉な夢を見ていた気がする。でも、結局それが何なのかよく思い出せなかった。
まあ、所詮夢だ。大したことじゃないのだろう。
サイトはベッドから立ち上がる。
「もう平気かい?」
「もう大丈夫です。これくらいでへこたれません。ルイズからもたまにどうでもいいことでぶったたかれたり怒鳴られたりもしますし」
「あ、そ…そうなんだ」
サイトが、ルイズからたまにえらい目に遭わされると聞いて、ムサシは渇いた笑みを浮かべる。何か嫌な想像をして引いたようだ。
すると、サイトの腕のビデオシーバーから、リリリリ…と着信音が鳴り出した。
「ビデオシーバーが…?」
「サイト君、その通信機は?確かこの世界じゃ、電波を使った連絡はできないはずじゃ…?」
ムサシからの問いにサイトは、そういえば彼にこれのことはまだ話していなかったことを思い出した。
「これはシュウって奴が…あ、俺たち以外のもう一人のウルトラマンに変身する奴なんですけど、あいつが繋いでくれたんです」
「君以外にも、まだもう一人ウルトラマンがいるのか…」
「けど、あいつここしばらく連絡が取れてなかったんです。本当なら、今もここにいるはずなんですけど…」
深刻な様子のサイトに、よほどのことがあったことを、ムサシは察した。
「取り敢えず開いたらどうかな」
「はい」
サイトはビデオシーバーを開き、今度こそあいつであってほしいと願う。
前回これを開いたとき、あまりにも衝撃的で不気味な文面が表示された。


ア レ ハ 警 告 ダ


リッシュモンの事件で、突然頭上から落下したガラスでハルナが足を切ったときだ。
シュウからのメッセージにしては冗談にも程があるし、あいつがこんなことするキャラには思えない。
だとしたら一体…?
「サイト君?」
名前を呼ばれ、サイトははっと顔を上げる。あの不気味な警告文を思い出して少しボーッとしていたようだ。
「あ…なんでもないっす」
誤魔化すように言いながら、サイトはビデオシーバーを開いた。
そこには…来てほしくなかった文面が表示されていた。







         オ 前 ハ 大 切 ナ モ ノ ヲ 失 ウ






「!?」
サイトは顔を真っ青にした。
以前より、あまりにも衝撃的で不気味な文面が表示されていた。シュウからのメッセージにしては冗談にも程があるし、彼がこんなことするキャラには思えない。
だとしたら一体…!?
サイトの青ざめている様子に、只事ではないことを悟り、ムサシもビデオシーバーの画面を見る。
「大切なものを失う…?」
ムサシでさえ、その不気味な警告文に強い警戒心を抱く。
サイトを狙う誰かが、彼を挑発しているのか?
その時だった。
「大変よ!」
ルイズとモンモランシーがサイトたちの部屋に向かう大慌てでやって来た。そして、次の彼女の言葉は今のサイトを強く刺激した。
「あなたたち、ハルナを見なかった?」
「ハルナ?…ッ、ハルナがどうかしたのか!?」
「ひゃ…!」
さっきのビデオシーバーの不気味なメッセージによるせいもあり、サイトはすぐに二人に詰め寄る。しかし、いつもの彼と比べてあまりにも落ち着きが皆無で、彼は詰め寄って二人の肩を思わず力強く握ってしまう。
「サイト君、落ち着いて!そんなに詰め寄ったら二人がかわいそうだ」
ムサシが背後からサイトの肩を掴んで、彼を落ち着かせようとすると、サイトははっとなって二人を放した。
「ご、ごめん……」
「…もう、心配なのはわかるけど、…まったく…」
ルイズはここまでハルナのことを心配するサイトの性格については彼の美点だとは思う一方、ちょっと嫉妬の感情を抱かずにいられなかった。
「で、ハルナに何があったんだ?」
「それが…部屋からいなくなったの!」
「何!?」
ハルナが、いなくなった!?
不吉な着信直後に聞いたその情報に、サイトは驚愕する。絶壁に追い詰められたような感じだ。
「一緒の部屋じゃなかったのかい?」
「それが、昨日は具合が悪くなったのか部屋で倒れてたのよ。一応私が診て特に体に異常はなかったわ。だからとりあえずベッドに寝かせておいたんだけど…
でも朝起きたらいなくなってたわ。今、他の皆が探してくれてる」
「マジかよ…!」
(くそ、のんきに寝てる場合じゃなかったってのに…!)
ウルトラマンゼロとしての連日の戦闘による疲労(公爵からの強制特訓の疲労が回復していないこともあるかもしれない)が祟ったのか。昨日までのサイトはとにかく疲労がたまっていてすっかり眠りこけていた。
あの怪しげなメッセージと、ハルナの失踪。両方がとても無関係と思えず、サイトは取り戻したはずの落ち着きを再び失い始める。
「サイト、あくまでちょっと出歩いてるだけかもしれないじゃない。そんなに慌てなくても…まぁ、この城は神聖な場所だから平民がウロウロするようなところじゃないけど」
ルイズはサイトの元に届いたあのメッセージのことを知らず、ハルナがいなくなったのも部屋にいないだけで、特にこれといって事件というわけでもないと考えた。だが…。
「…ッ!悪い…ちょっと行ってくる!」
「ちょ、ちょっとサイト!」
サイトはさっきのメッセージのせいもあって、ハルナの失踪を聞いてたまらなくなって飛び出してしまった。
「もう…」
ルイズはそれほどまでにハルナの方がいいのかと機嫌を損ねる。ハルナとの間にした「いつかサイトを地球に返す」という約束を忘れたわけではない。が…どうしてもサイトが他の女のことを見ていると、無性に嫌な気分になる。
「サイトったらどうしてあんなに慌ててたの?妙に慌しい感じがしたんだけど」
ルイズがそのようなことを考えている一方、モンモランシーはサイトがなぜあんなにあせっているのか疑問を口にする。
「それなんだけど…」
その理由について、ムサシはルイズとモンモランシーにその理由を明かした。


サイトは走り出した。
今朝目覚める前に見た悪夢。奇怪なメッセージ。ハルナの失踪。その三つがトリプルで自分に降りかかってきたことで、彼はハルナの身に危険が及ぼうとしていることを確信した。
『サイト、あまり焦んな。あの子を見つける前にお前がバテるぞ』
ゼロがサイトの中から警告を入れてくる。
「これが落ち着いてられるかよ!前におおとりさんが言ってただろ?ハルナには気を付けろって!
もしかしたら、今のことかもしれないだろ!」
いきり立っているサイトに、ゼロは声を強めてサイトに言った。
『だから落ち着けって言ってんだろ!お前だけじゃないんだ、あの子が心配なのは』
「けど…」
『お前一人が熱くなったところでどうこうできる問題じゃないことはわかってるだろ。俺もいる。だからまずは落ち着けよ』
「相棒、俺もいるぜ!忘れてもらっちゃ困るな」
ゼロに続き、デルフもまた顔を出して、サイトの傍に自分達がいることを思い出させる。
「…ごめん。二人とも」
『いいさ、早く彼女を見つけてやろうぜ』
二人の相棒たちの説得もあり、サイトはひとまず落ち着きを取り戻した。
改めて彼は、ハルナの捜索に入る。
と、その道中でサイトはジュリオと遭遇する。
「サイト君、どうしたんだい?そんなに慌てて。今さっきアニエスから陛下の下へ呼出し命令があったんだけど」
「そんなの後にしてくれ!今はハルナが…ハルナが危ないんだ!見てないか?」
「ハルナ君?いつも君と一緒のあの黒髪のレディかい?そう言えば、ルイズたちがいなくなったとか言って騒いでたな」
「…その様子だと見てないみたいだな」
「ごめんよ。見かけたらすぐ君に報告しておくよ」
「…頼む」
と言ったものの、ジュリオの場合なんか妙にはぐらかしてきそうな気がする。疑いの目になっていたことを察したのか、ジュリオは笑みを浮かべながらサイトに言った。
「そんなに疑うことないさ。君と僕は親友だろ?」
「いつ誰とお前が親友になったんだよ」
「やれやれ、まだまだ信用されきってないな」
会ってからいつものように肩をすくめるジュリオだが、やはりこれといって苦痛を覚えたような様子はなし。
って、今はそれどころじゃなかった。ハルナを探さないと。サイトはすぐにハルナ捜索のために去っていった。
「やれやれ、慌ただしいな。けどいいのかい、サイト君」
去っていくサイトを見送りながらジュリオは意味深な言葉を呟いた。
「君が守らないといけないのは、果たして彼女だけかな?」
サイトが見えなくなったところで、彼はサイトとは反対の方角へ歩き出した。


サイトが独断でハルナの捜索に向かう中、ルイズたちはアニエスから、アンリエッタからの召集を受けた。結局召集をかけられたため、ハルナがどこへ行ってしまったかについては流れるままに、サイトに任せることにした。
アンリエッタもこの場にサイトがまだ来ていないことに目を丸くしていたが、ある重大な事情ゆえにハルナの捜索に向かったことをムサシが告げたことで納得した。
しかし今回はルイズたちUFZだけでなく、トリステインの正規の軍人や貴族も同席しての会議。いくら怪獣や異星人に対抗するために編成された部隊隊員に任命されたとはいえ、本職の軍人たちと違ってまだ子供に見られがちの集団だ。当然彼らのルイズたちへの視線は重く、あからさまに「なぜこんなところに子供が…」などと見るものも少なくなかった。それにムサシの姿を見て一部の貴族たちが、彼の代わった格好を見て疑わしげな目を泳がせていた。
だがその中の一部に、ギーシュの父であるグラモン元帥が混ざっていたようで、息子の思わぬ登場に元帥は目を丸くしていたらしい。同時にギーシュや元帥の顔を知る者は、彼ら子供とはいえ陛下から何かしらの使命を負かされているのだろうと見て、何も言わなかった。
「では陛下、会議を始めてくだされ」
「はい。全員、どうかご静聴を」
アンリエッタが全員に注目を寄せる言葉を言い、会議が始まった。
現在トリステインが抱えている問題。それはやはり連日の怪獣災害やレコンキスタの工作による被害状況が真っ先に上げられた。さらにその災害を引き起こした犯人の一部がレコンキスタとして集まっているアルビオン大陸への侵攻の準備も必要を迫られていた。
だが、まだトリスタニアの市街地が復興作業中で、敵国へ責めようにもこれまでの怪獣災害でのダメージが深く残っていることもあり、滞っておるのが明白だった。軍を退役したヴァリエール公爵にも参加を呼びかける声が届くのも無理もなかった。理想としては、レコンキスタから結果的に奪取した軍艦と飛行機械…改造レキシントン号改めロイヤル・ゾウリン号とジャンバードを動かすことができればよかったのだが、魔王立アカデミーの技術をもってしても、この二つのオーパーツがあまりにオーバーテクノロジーすぎて殆ど解析ができていない。これにはアンリエッタは、サイトも気にしているシュウの存在が必要と見ているが、連絡がまだ来ない以上宛にすることができなかった。
「やはり傍観者のままであるゲルマニアに、敵の脅威の高さを訴え、連合軍の編成を求めなければなりませんね。例の二つの船の解析と稼動方法を突き止めなければ」
「現在も使者を向かわせていますが、説得に難航していると連絡がありました」
「なら、私が今度は直接向かってその危険性を説くことを年頭に置かねばなりませんね」
以前、アンリエッタはゲルマニア現皇帝アブレビト三世と結婚することでトリステインとの同盟の架け橋にされかけたことがある。それもゲルマニアが積極的に既存の貴族以外にも有能な平民を貴族に取り立てる制度で国力を蓄えている一方、トリステインが古き伝統にこだわりすぎて国力をすり減らし、あまつさえ貴族と平民の溝を深めたことで弱小国となってしまったことが大きかった。
今のトリステインは、怪獣災害に耐えてきたという強いイメージを他国に知らしめているため、アンリエッタは婚約を破棄した状態で同盟を締結することができた。しかし、ゲルマニアは自国がまだ怪獣や異星人、黒いウルトラマンたちからの被害を受けていないことをいいことに、それを恐れてトリステインに軍事に関して助力することを渋っていた。理由としては他にも、ウルトラマンの存在である。彼らがいるなら大丈夫だろうという温い考えが、実はゲルマニア政府内で流行っていた。ウルトラマンの戦いを直に見たトリステイン貴族たちは、彼らも敗北の危機に何度も陥ったことを目の当たりにしたこともあって、アンリエッタをはじめとした一部の者を中心に警戒を高めている。当然、傍観者となっているゲルマニアに対して、ただでさえ伝統を重んじるあまり彼らを嫌うトリステイン貴族たちは、一層彼らに対する評価を下げていた。
なんとしてもゲルマニアに軍事方面で力を借りなければならなかった。これについて、アンリエッタは女王として自分が自らゲルマニア皇帝に話をつけることを検討した。
「……」
怪獣を操り、異星人という強力なバックをつけているレコンキスタを相手に、まだまだ問題が山済みのトリステイン。ここまで事態が緊迫していることに、ルイズたちは改めて息を呑んだ。
「して、陛下。例の件については…」
「例の件?」
会議に参加していた将校の一人の発言に耳を傾けたルイズは思わず声をこぼす。
「失礼、今は会議中ですので、群議に加わっておられない方の私語は慎まれよ」
「す、すみません…」
公爵家三女で陛下の女官といえど、今のルイズは本職の軍人である彼らよりも立場は低い。思わず声を漏れ出したことに謝罪し、押し黙る。
「ええ。市街地の地図と、これまでこのトリスタニアで起きた被害状況の資料まとめを」
「はっ!」
アンリエッタの命令で、会議室のデスクの上にトリスタニア市街地の地図が広げられる。
ルイズたちもこれに注目した。
市街地の地図には、応急を中心に市街地が広がっている。だが、ところどころ被害の強弱によって赤いラインや点が打ち込まれている。それもおびただしい数だ。地図でもわかるほどにトリスタニアは痛めつけられていたことが伺える。
「この地図上の赤い点は、強い被害を受けた箇所の中でも現在復興作業中の地点を表しています。逆に青い点はまだ作業が未完了および手付かずの状態のものです」
(これは…!)
アンリエッタの言葉とその地図に打たれた赤い点の位置を一通り見て、一同は目を見開いた。
「城を中心に、赤い点に囲まれている…」
「敵は…レコンキスタは我が国の内部に入り込み謀略を巡らせていました。ならば今回、このように城の周囲の復興予定地にも何かある可能性を確かめるべく、これまで銃士隊や残存の魔法衛士隊隊員を中心に、私はこの赤い地点に調査に向かわせました。その結果…新たに奇妙なものが設置されていることがわかりました」
「奇妙なものを?」
「ええ、黒い立方体の物体です。これらがなんなのかは今も調査中です。ただ一つこの物体について判明しているのは、これらの物体は現場から動かすことができないということです。なので調査を任せている者には現場で調べてもらっています」
「現場から動かせない、ですと?怪しいですな」
アンリエッタからの報告にあった、これまでのトリスタニアの復興予定地に置かれ、動かすことができない謎の黒い物体。きな臭さを覚えずにいられなかった。
「申し上げます!」
その時だった。会議室にトリステイン兵が一人飛び込んできた。
「何事だ。今は会議中だぞ」
「突然お許しください!二本角の黒い巨人が市街地に出現!」
「ッ!」
会議室にいる者たちに衝撃が走った。
あの黒い巨人が…ダークファウストが街に再び出現した。
だが、ただ現れただけではない。

同時期に、サイトの身に悪夢が降りかかろうとしていたことを、ルイズたちはまだ知らない…



サイトは城の中にいる人たちに、黒髪の少女が来ていないか、とにかく聞き込みを行った。貴族は宛にならなかった。サイトが貴族じゃないと見ると、「平民ごときが貴族に気安く話しかけるな」と、傲慢な態度で返してくることが多かったからだ。正直こんな偉ぶったり威張るだけの貴族が気に入らないサイトは殴りたい衝動を抱えながらも、城内の使用人を中心に、ハルナのことを聞き込み続けた。
そんな中、彼女らしき少女が城を出たと言う話を耳にした。
サイトはすぐに城の外に出て、ハルナの行方を追っていく。しかし…
「くそ、どこに行っちまったんだよ…」
街はまだ、これまでの戦いの爪痕が色濃く残っていた。最近は、ミシェルに死の悲劇をもたらしたリッシュモンが呼び出したムルチの攻撃のせいで、被害が拡大した。
建物の倒壊地点には、トリステインの兵たちが集まり、被害状況を確認している。
「しかし、なんだこの物体は。ディテクトマジックにも反応がない」
「マジックアイテムの類でも、魔法で精製されたものでもないということか」
彼らは今、現場にポツンと置かれた黒い立方体の物体を調べていた。今王宮で進行中の会議の通りだ。サイトもその現場の状況を遠目から見ていた。気にしていたが、今はハルナのことが気掛かりだったこともあり、放っておいてハルナ捜索を続ける。
しばらく走るとサイトは路上に、あるものを見つける。不思議にも見覚えがあったので、近づいて拾い上げた。
「これは、ハルナの手帳?」
それはハルナが持っていた、サイトたちの母校の生徒手帳だった。しっかりハルナの顔写真やクラス、誕生日などが記載されている。
近くにいるのか?
サイトは周囲を見渡す。その周辺には見覚えがあった。タニアリージュ・ロワイヤル座…ウェザリーたちからの頼みで舞台に立った場所だ。もしかしたら…そう思ってサイトは劇場内に入った。
その日は休館日だった。客は当然おらず、中は暗い。だが、舞台上だけはライトが少し照らされている。そもそも扉は鍵がかかっていなかった。まるで、サイトが来るのを待っていたかのように。
『誰かいるぜ』
ゼロがサイトに言う。見ると、確かに舞台の上に人がいる。一人ぽつんと、ライトに照らされた状態で誰かが立っていた。
目を凝らすと、それが誰なのかすぐにわかった。制服姿に長い黒髪の女の子。
「ハルナ!」
なぜ彼女がこんなところに?その疑問はあったが、そんなことはどうでもよかった。ようやく彼女を見つけ出すことができたサイトは、すぐに駆け出して舞台に駆け上がる。
ハルナは自分に背を向けていて、自分の呼びかけにもすぐにこたえる様子はなかった。だが構わず、サイトは彼女が無事だったことに安堵する。
「よかった。てっきり君が殺されたんじゃないかって…」
一歩ずつ近づくサイト。
しかし…

「……ある意味……そうかもね」

「………え?」
ハルナにしては、ずいぶんと声がおかしい気がする。どこか重苦しくて、ものすごくどす黒さを感じる。思わずサイトは足を止めた。
「あなたが地球から姿を消してから……ずっと会いたかった。会う方法がないか、ずっと探してきた。
そして、やっと会えた時は嬉しかった。また一緒にいられる…そう思ってた。
でも……遅かった」
「は、ハルナ…?」
「あなたは、この世界から出ることよりも、この世界を守ることを選んだ。それはつまり…あなたは地球も、私やあなたの家族を捨てたことになる」
「な、なにをいいだすんだ…!?」
いきなりわけのわからないことを言い出してきたハルナに、サイトはぎょっとする。
「俺がいつそんなこと言ったんだよ!俺、君と約束したじゃないか!」
「じゃあ、どうしてこの世界から私を連れ出さないの?この世界でなにが起ころうが、あたしたちには関係ないじゃない」
「それは…」
サイトは、一瞬そうかもしれないとも思った。そもそもこの世界は本来、無縁のままの世界であるはず。
「この世界のこと……見ただろ?世界的な危機に陥っても、自分のことばかりを考えて権力を振りかざして私服を肥やし、他者を蹴落として切り捨てる…醜い世界じゃないか。
どうして地球よりも、こんな世界のことを気にし続けるのさ?」
(…なんでそのことを…!?)
この子には、あまり心配をかけたくなかったこともあり、この国の事情は伝えられていなかったはずだ。いつ、そんな話を彼女が知った?
「今のあなたなら、あたしと一緒にこの星を出て、地球に帰ることだってできるはずでしょ?こんな無関係の世界から…」
「…違う。無関係なんかじゃない。だって今の俺は…」
ウルトラマンでもあり、ルイズの使い魔でもあるんだ。言葉にしなかったが、この世界で戦う確かな理由がある。だから、無関係のようで、決して無関係なんかじゃない。
しかしハルナは、サイトの答えを許容するそぶりさえ見せようとしなかった。
「じゃあ、あたしとの約束はどうなるのさ。サイト…あんたがそんな風だから……あたしは…」
『彼女、なにか様子がおかしいぞ』
そんなハルナに、ゼロはサイトに言った。ウルトラ戦士としての勘から、今の彼女が異常であることを警告する。
「…いや、いいさ…この星に残るか出て行くか…それを決めるのはサイト自身だけ。あたしの意思は関係ない…………いいのよ、もしルイズの方を意識してるのなら…そうしても……」
そう言えば、ぶつぶつと呟く彼女の口調に妙な違和感がある。
少し口調が…乱暴になり始めていないだろうか?
あたし?それに…『サイト』?いつの間にか呼び捨てにしてきている。ハルナは、サイトのことを呼び捨てにしてこないはずだ。
ハルナにしては、声質が違う。声自体はハルナそのものだが、まるでこちらを挑発してくるような声だ。そして…
『一緒にこの星を出て地球に帰ることができる』?
まるで、サイトが星の大気圏外に出ても平気な奴だと言うような言い方だ。さっきから異様な様子の彼女といい……。
「君は…本当にハルナなのか?」
サイトが恐る恐る尋ねる。
「そう…あたしは…ハルナ。でも…………」
そこでハルナは言葉を切った。昼時だというのに、休館日ということもあって中が殆ど真っ暗な劇場内に、気味の悪い空気が周囲を包み込み始める。
「あたしは…高凪春奈の心の闇そのものでもある。その心の闇が…
…高凪春奈としての心を…殺したんだ。
全部…あんたのせいだよ。サイト」
「俺の……せい?」
「教えてやるよ、サイト」
どういうことだと言う前に、ハルナはサイトに向けて呪詛のような言葉を続けた。
「お前がいなくなってすぐに…私は『高凪春奈』としての自分を奪われた」
「!!」
ハルナはついにサイトの方を振り返る。そのとき、サイトはぞっとした。
まるで死人のような光のない目つきをサイトに向けていたのだ。
「操り人形として…利用されるために」
その瞬間のことだった。
振り返った瞬間の彼女の体が、紫と黒の混じったオーラに包まれ始める。そのオーラは彼女を包み込み、彼女自身をまったく別の姿へと変貌させる。

夢であってほしかった。夢は眠っている間しか覚えられず、悪夢であっても目覚めれば忘れられる。
これが悪夢ならば…早く覚めてほしかった。
しかし……今サイトが直面しているのは、紛れもない現実だった。
信じたくなかった……その現実を、見てしまった。
姿を変えたハルナは、サイトに向けて名乗った。



『あたしは…







…ファウスト








光を飲み込む、無限の闇だ』



「……嘘だ…」
恐怖と絶望、サイトの心は一瞬で塗りつぶされた。



―――――――嘘だああああああああああああああああああああ!!!


 
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