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仮面ライダーAP

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第三章 エリュシオンの織姫
  第1話 聖女の偽善

 改造人間。

 7年前、日本政府により創設された特殊部隊「シェード」の手で生み出された、「人」にして「人ならざる」科学の申し子。

 その存在は人々に救いと、破滅を齎した。非人道極まるその所業の功罪は人々を混沌に陥れ、創始者である徳川清山(とくがわせいざん)は、その責任を問われ牢の中へと幽閉されてしまう。

 ――2009年1月31日。

 開局50周年を迎えたテレビ朝日本社ビルにて、突如謎のテロ組織が踏み込み、ビルが瞬く間に占拠される事件が発生。
 その正体は、「織田大道(おだだいどう)」をリーダーとするシェード残党であった。人質と引き換えに徳川清山の釈放を要求する彼らは、「No.5」と呼ばれる兵士に犯行声明を読み上げさせる。

 しかし――彼が改造される以前から恋人関係にあったワインソムリエ「日向恵理(ひなたえり)」の説得をきっかけに、No.5は洗脳から解放され、組織から離反。
 改造人間「仮面ライダーG」に変身し、織田率いるシェード残党の怪人部隊と交戦。これを撃破した。

 それから間も無く、No.5のコードネームを捨てた「吾郎(ごろう)」は恋人を残し出奔。人間社会からもシェードからも孤立したまま、人類を脅かす怪人達と激闘を繰り広げることとなる。

 ――2016年5月15日。

 長きに渡る仮面ライダーGとシェードの戦いも徐々に沈静化を見せ、シェード残党の勢いはかなり弱まっていた。

 そんな折、世界中に「シェードに改造された元被験者が生身を取り戻した」という不可思議なニュースが舞い飛ぶようになる。
 それは、改造人間にされた罪なき人々を救う為に外宇宙から来訪してきた、エリュシオン星の姫君「アウラ」の所業だった。

 「改造人間を生身の人間に治す」秘術を持つ彼女の存在に目を付けたシェードは、東京まで単身で来日してきた彼女を攫おうと画策する。
 しかしその目論見は、現場に居合わせた城南大学2年生「南雲(なぐも)サダト」によって妨害されてしまった。

 生身でありながら、改造人間である戦闘員から少女一人を助け出した彼の手腕にも狙いを定めたシェードは、アウラを匿う彼を急襲。
 敢え無く囚われてしまった彼は、仮面ライダーGをモデルに開発された新型改造人間「APソルジャー」の一員として改造されてしまった。

 やがて仮面ライダーGと交戦することになる彼だったが、戦闘中にアウラの呼びかけにより洗脳から覚醒。No.5と同様に、組織への反旗を翻す。
 斯くして「仮面ライダーAP」と名を改めた南雲サダトは、アウラの力で人間に戻ることをよしとせず、仮面ライダーとして彼女を守るために戦うことを選ぶのだった。

 ――2016年8月24日。

 この「Gの世界」における、第二の「仮面ライダー」が出現して3ヶ月。
 東京都奥多磨町の外れにある、シェードのアジトを発見した南雲サダトは、その地下深くの研究室で飛蝗型の怪人と遭遇する。

 その怪人は、人肉を喰らい段階的に成長していく獰猛な肉食怪人だった。撃破に失敗したサダトを残し、アジトを脱出した怪人は東京に住む人々を襲い、破壊と殺戮、そして進化を繰り返す。

 やがて体内に蓄えたエネルギーを熱線として吐き出し、次元に風穴を開けた怪人は異世界に逃亡。その後を追い、南雲サダトも異世界へと渡った。

 そこで彼は、「深海棲艦(しんかいせいかん)」と呼ばれる侵略者と戦っていた戦乙女達「艦娘(かんむす)」と出会う。
 試練を経て彼女達からの信頼を勝ち取った南雲サダトは、新たな相棒「アメノカガミノフネ」を獲得し、怪人こと「仮面ライダーアグレッサー」との決戦に臨んだ。

 死闘の末にアグレッサーを撃破した彼は、艦娘達に別れを告げ元の世界へと旅立つ。彼の戦いは、まだ終わってはいない。

 ――そして、それからさらに月日が流れ。
 壊滅状態のシェードは、ついにその最期を遂げようとしていた。

 ◆

 ――2016年12月2日。
 フランス・ローヌ=アルプ。
 国際刑事警察機構(インターポール)本部。

 世界的な犯罪行為に抗するべく1923年に設立された治安の砦。その構成員達は、日本政府の手を離れて暴走するシェードのテロ行為にも目を向けている。
 その非道を追う過程で彼らは、ある重要人物を保護していた。その存在が公になれば、全世界に激震が走るほどの、最重要機密(トップシークレット)を。

「……ではどうしても、その人物だけは人間に戻したいと」
「はい。……彼だけは、どうしても」
「そうですか……」

 一見すると、窓からフランスの華やかな街並みを一望できるテラスだが。その周囲には無数の隠しカメラによる厳重な監視体制が敷かれている。

 彼女――アウラ・アムール・エリュシオンもそれを知ってか、美しい景色を瞳に映しながらも表情は優れない。黒のボブカットを風に揺らす、碧い瞳を持つ絶世の美少女。

 異星人、と言われれば信じてしまう。それほどの、地球人からは隔絶された絶対的な美貌を、後ろに立つインターポールの捜査官は神妙に見つめていた。

 金色の髪と蒼い瞳。白い肌に、鍛え抜かれた長身の肉体。彫刻作品のように整えられた、天然の美形。
 それら全てを兼ね備えた、アメリカ合衆国出身のインターポール捜査官――ロビン・アーヴィングは、本部から彼女の保護を任されている。齢28歳にして最重要機密を託されるほどの精鋭である彼は、アウラの言葉に深くため息をついていた。

 青のライダースジャケットを羽織る彼は、彼女の隣に足を運ぶと諭すように語り掛ける。

「――アウラ様。あなたのお力により、大勢の人々が救われたことは事実。私の妹も、あなたのおかげで人間の体を取り戻すことができた。そのことは、深く感謝しています」
「……」
「ですが。先ほどもお話した通り、あなたのお力は危険なのです。これ以上その力を行使されては、我々でもあなたを匿い切れない。……あなたの影響により生まれる粗悪な被験者を、増やすわけにはいかないのです」

 ロビンの言葉に、アウラは桜色の唇を噛み締め拳を握り締める。血が滲みそうなほどに力が込められている様から、彼女の憤りの強さが伺えた。

 ◆

 ――外宇宙の惑星「エリュシオン星」。その姫君であるアウラは、改造人間を生身の人間に戻す秘術を持っている。
 彼女は約1年前からこの星に来訪し、独自にシェードによる改造被験者を治療する旅を続けていた。

 それから、半年。元凶の地である日本の東京に足を運んだ彼女は、そこで運命的な出会いを果たしていた。
 己の限界を嘆くあまり、自暴自棄になりかけていた自分を支えてくれる男性――南雲サダトとの邂逅である。

 彼との交流を経て、前向きな姿勢を取り戻しつつあった彼女は、再び被験者救済の旅に向かおうと考える。
 ――だがその矢先、シェードにより南雲サダトが誘拐される事態が発生した。アウラの恐れは的中し、彼は改造人間にされてしまう。

 だがそれでも、アウラを信じる姿勢を崩さずあくまで味方でいると宣言する彼に、アウラは再び救われた。
 斯くして南雲サダトは「仮面ライダーAP」となり、シェードとの戦いに参加。シェード残党の一人・ドゥルジを打倒した後、彼女の前から姿を消した。

 それはまるで、人間に戻そうとする彼女を、拒むかのように。
 それが、人間に戻るよりアウラを守るために戦うことを選んだサダトの決断であることは、想像に難くなかった。

 以来、アウラはサダトの行方を捜しながら、行く先々で被験者を治療する日々を送っていた。アグレッサーにより東京が半壊した際も、被災者の炊き出しに参加していた。
 ――そうして、愛する男を探す旅を続けていた彼女の前に。一ヶ月前、インターポールの使者としてロビンが現れたのだ。

 彼が語る、異星人の姫君が地球に齎した功罪。――それは、アウラの存在意義を根底から覆すものだった。

 ◆

 決して完全な生身には戻れない。今の科学力では、そこまでの実現はできない。
 その常識を破るように、次々と生身を取り戻していく被験者達の情報から、各国は水面下でアウラの存在に辿り着いていた。

 改造人間を生身に戻せる秘術の持ち主。それが本当なら、その力を手にすることでどれほどの利益が手に入るか。彼女に気づいた誰もが、その利益を追い求めるようになった。

 改造人間を元の人間に戻せる。それは即ち、多数の被験者を使わずとも強力な改造人間の研究開発を行えることを意味する。
 すでにシェードのテロにより改造人間の兵器としての商品価値は証明されている。通常兵器をものともしない機械歩兵をリスクなしに大量生産できる力を、強欲な地球人が放っておくはずはないのだ。

 だがアウラも、秘術を除けばただの少女というわけではない。彼女は外見こそ華奢だが、「銀河連邦警察」に所属する「宇宙刑事」の一人でもある。
 偉大な先輩「ギャバン」「シャリバン」「シャイダー」のようなコンバットスーツこそ持ち合わせてはいないが、それでも並大抵の人間に容易くどうこうされる女ではない。
 自身を捕らえようと近づく世界各国の工作員をかわしながら、彼女はあくまで被験者救済の旅を続行していた。

 しかし。それを受け、世界各国はさらに狡猾な手段に出る。

 彼らは自分達の科学力がシェードに及ばないものと知りながら、「シェードに対抗すべく設立した特殊部隊」を標榜し、秘密裏に改造人間部隊の編成を始めたのである。
 当然ながら、その結果生まれるのはシェード以下の科学力で作り出された劣悪な改造人間。兵器としても不良品な上に人間でもない、というシェードの被害者よりも悲惨な状況が続出する事態となっていた。

 だが。そうなることは、誰もがやる前からわかっていた。
 改造人間部隊の編成など、そんな悲惨な状況に巻き込まれた被験者への同情を誘い、アウラの身柄を自国の領地におびき寄せるための布石でしかない。

 彼らはアウラを手に入れるために、国の為だと信じる自国の民すら玩具にし始めたのだ。

 あまりに残酷にして、歪な地球人の所業。その企みに気づいたアウラは、シェード以上に腐り果てた地球人達に絶望し、己の力を呪うようになってしまった。
 改造人間を救う為だけに来たはずの自分が、さらなる悲劇の種を振りまいていた。彼らによって生み出された被験者の嘆きが、彼女の心を暗黒に突き落としたのだ。

 ――インターポール捜査官のロビン・アーヴィングが現れたのは、その頃のことだった。
 彼はアウラを匿うとフランスの本部まで護送し、彼女の身柄をICPOの保護下に置くことに成功する。

 国際的な警察機構の中枢に匿ってしまえば、各国政府も容易く干渉はできない。アウラの存在は公には認められていないのだから、引渡しの要求など出来るはずもないのだ。

 ロビンの任務はこうしたアウラの保護だけでなく、各国政府の策略により生まれた劣悪な改造人間プラントの摘発も含まれていた。
 イリーガルな手段で造られた改造人間の生産工場。その全てを滅ぼすため、彼は世界中を飛び回り工作員を相手に戦い続けてきたのである。

 ――そうして、彼を含むICPOがアウラを保護する方針を取ったのは、彼女が未知数の宇宙人であることに由来していた。

 「銀河連邦警察」の「宇宙刑事」。それがどれほどの規模であるかは、外宇宙と交信する術を持たない地球人には推し量りようがない。
 だが少なくとも、彼女に危害を加えても外宇宙の勢力がそれに気づかない、という可能性は薄いのだ。アウラを傷付けるようなことがあれば最悪、地球人類ではどうにもならないほどの圧倒的戦力が攻めてくる危険性も考えられたのである。

 彼女を捕まえようとしている各国政府は、そこまでは考慮できていない。あるいはできていても、対応次第でどうにでもなると楽観している。
 そんな手合いにアウラの身柄が渡れば、まず丁重な扱いは期待できない。彼らは非道な人体実験に掛けてでも、彼女の力を手に入れるつもりなのだ。

 この地球そのものを危機に陥れないためにも、己の利益しか考えない各国政府からアウラを守らねばならない。それがICPOの出した結論なのである。

 ――そして彼らは、アウラに故郷の星に帰るように促し始めた。

 欲深い人間に正道を説いたところで、何も生み出せはしない。彼女の力が地球上に存在している限り、世界はその力を諦めない。
 これ以上罪のない地球人を苦しめないためには、力そのものを地球上から消し去るしかない。そもそもの原因である彼女自身が地球を去る以外に、事態収束の方法はない。
 それが、彼女の今後に対するICPOの判断だった。

 自分が全ての被験者を救おうとしたばかりに、救った人数以上の新たな被験者を増やしてしまった。自分がこの星に来たばかりに、いたずらに悲劇を振りまいてしまった。
 ロビンに潰されたプラント数は数百に及び、各国政府に生み出された被験者は総合すると20000人を超える。対して、アウラが治療した人数は5000に満たない。
 目に見える数字として。アウラは自分の無力さを突きつけられてしまったのだった。

 ――そんな折。

 テレビで世界各地に報道されていた「仮面ライダー」の活躍が、彼女の耳に入った。

 シェードの怪人から人間の自由と平和を守るため、日夜悪と戦い続ける仮面の戦士。シェードと同じ改造人間でありながら、彼らの存在は大多数の民衆から英雄と讃えられている。
 改造人間の人権を脅かす連続殺人犯という見方もあるが、そう解釈しているのは日本の一部くらいのもので、世界各地で被験者問題に苦しむ人々は仮面ライダーを正義の味方として応援していた。

 その仮面ライダーの一人には、あの仮面ライダーAP――南雲サダトも含まれている。
 彼は自分が奪った命より、数多くの人々を救い続けていた。怪人を殺め、自分の手を汚してでも、より多くの人々の命を守り抜いていた。

 その姿に、アウラはただただ涙する。

 生身に戻る機会を捨ててでも、彼は自分を守るために仮面ライダーとなり戦う道を選んだ。自分が、全ての被験者達を救ってくれると信じて。

 それに対して、当の自分はその想いに応えられなかったばかりか、余計に被害を拡大させる結果を招いていた。

 彼が奪った命以上の人々を救っているのに、自分は救った命以上の犠牲者を出している。

 彼は自分を犠牲にしてでも、より多くの被験者が助かることを望んでいたのに。自分は、その大恩を強烈な仇で返してしまった。

 最愛の人を、計らずも最悪な形で裏切ってしまったことに、アウラはより深く絶望し自殺まで試みるほどに病んでしまう。
 それに気づいたロビンにより自殺は阻止されたものの、彼女の胸中に渦巻く絶大な罪悪感が拭われることはなかった。

 その自殺未遂から一週間が過ぎた今日。
 彼女は、ある決意を固めていた。

 例え、愛する彼に裏切り者と呼ばれようと。志半ばで使命を放棄したと糾弾されようと。

 この星を去る前に、彼だけは生身に戻す。それが、自分に出来る最後の仕事だと。

 ◆

「……私が力を行使するリスク。それくらい、分かり切っていることです。それでも、改造されたあの人を置き去りにしたまま帰ることなんて出来ない!」
「アウラ様……」
「私は行きます。例え、私を匿って下さったあなたを殺めてでも」
「……」
「もはや私は、この地球を蝕む災厄そのもの。ならばせめて、悪人として汚名を背負いながら……あの人を救います」

 決意の宿った碧い瞳は、ロビンの眼を真っ向から射抜いている。
 それはつい先日まで、絶望と後悔に打ちひしがれていた彼女からは想像もつかない強さを帯びていた。
 それだけで、南雲サダトへの深い愛情と執着が窺い知れる。

「……わかりました。私の、負けです。あなたにこれ以上泣かれて、外宇宙に睨まれるのは私も御免ですからね」
「……」
「ただ、約束してください。彼に再会するまで、決して私のそばを離れないと」
「ええ、わかっています。……ありがとう、アーヴィング捜査官。無理言って、ごめんなさい」
「構いませんよ。これで最後だと思えば、ね」

 ここまで件の仮面ライダーへの偏愛を拗らせている状態では、もはや説得は不可能。ロビンは長年の経験則からその結論に至り、深く肩を落とす。
 女性経験が豊富な彼は、こうなった女の行動力は口で止まるものではないと熟知しているのだ。

(仮面ライダーAP、南雲サダト……か)

 アウラから視線を外し、ロビンは青空を仰ぐ。彼はこれから会うことになるであろう仮面ライダーに、思いを馳せていた。

(彼がいなければ、私の妹も助からなかったのだろうな。……私にとっても、その恩に報いるまたとないチャンスなのも知れん)

 愛する妹を救ってくれた大恩人。そんな彼女をここまで突き動かした南雲サダトの存在は、ロビンにとっても大きなものであった。

 ――そして、翌日。
 二人はフランスを発ち、日本へ出発した。

 仮面ライダーとシェードの、最終決戦が始まろうとしている戦地へと。
 
 

 
後書き
 ロビンは当初、昭和特撮っぽく日本人設定で行く予定だったのですが、本作における彼の役どころは「日本を外から見る外国人代表」みたいなところがありますので、思い切ってバリバリの外国人になりました。いや、本来これが正しいんだとは思うんですけどね。 
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