| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

HUNTER×HUNTER 六つの食作法

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

クラピカヤンデレ編

―――私にとってあの言葉ほど、甘美で心を溶かしたものはなかった。

「ここだシャネル」
「へぇ~此処か」

―――復讐という感情に囚われていた私が、その他の事に心を奪われた瞬間だった。

「何も変わっていないな、いや埃が積もってしまっているな」
「掃除すればいいじゃねえか」

―――……嫌、私の心が奪われるのは必然だったのかもしれない。

「そうだな、手伝って貰うが良いか?」
「当たり前だ。お前だけにやらせるなんて野暮な事させねえよ」

―――ああっ……私は本当に……。貴方が大好きだ。

「ふぅやっと終わったぁ……地味に疲れたぜ」
「お疲れ様、コーヒー要るか?」
「ああ貰うぜ」

積もりに積った埃を掃い、床を磨き窓を開けて掃除する事2時間。漸く綺麗になった家の中を見て満足気な言葉を漏らしつつシャネルはリビングの椅子に座った、そんな師匠の手伝いの甲斐もあって完全に綺麗にする事が出来て嬉しく思うクラピカ。今二人がいるのはクラピカの親族が友人から譲り受けたと言う別荘の一軒家だった。既に使われていないと聞かされていない過去に聞いていた為、ハンター試験を受けるまでは此処に住みつつ身体を鍛えてらしい。

離れて大分経っていたがそれでも何処に何があるのかは完全に把握しているのかキッチンの戸棚からまだ賞味期限が切れていないコーヒーを発見しポットを火に掛ける。

「にしても……本当に良い家だな、俺も住むならこういうのが良いかな」
「そう言って貰えると私も自分の事のように嬉しいよ。ありがとう」

沸騰して来たポットの音を耳で聞きつつコップを取り出す。中には自分が子供の頃に使っていたのと同じような物まであり懐かしい思い出が思い起こされる。気づかぬうちに微笑みつつ、子供用のコップを撫でつつ二つのカップを出して粉を入れていく。

コーヒーが淹れられるのを待ちつつ家の中を物珍しげに見回す。良く考えてみればシャネルは此方の側の世界にやってきてから一般的な家庭が持つ家に入ったのは初めてかもしれない。ホテルや食事処などには入った事はあれど良く考えてみればなかった事だ、だが特に目立った所はない。流石に普通の住居はどの世界も共通で同じと言う事か。どんな事を考えていると小さな皿に乗せられたカップが自分の前に置かれた。

「そんなに見回しても変わった物はないと思うが?」
「いやさ、俺って考えてみたら一般家庭の家に来た事無いなぁって思ってつい色々見ちまったよ」
「それでご感想は?」

特に目を引く物は無かったので肩を竦めて見せるとクスクスと笑う彼に惹かれて自分も笑いつつコーヒーを口に付けた。

「ハンター試験前は此処で暮らしてたんだって?」
「ああ。何をするにも拠点と言う物があった方が良いと思って色々考えていたんだが、前に母に聞いた此処の事を思い出したんだ。本当に、懐かしいさ……」

ハッとした、悲しげな瞳を浮かべつつ彼は窓の向こう側の景色を見つめ続けているのを。それで気づいた、自分が如何に愚かな質問をしてしまったのか。母に聞いた、親族の家だったなどという事はクルタ族惨殺の事を思い出させ辛い事や感情を呼び起こさせる事だと。仲間なのに、師匠なのにどうして苦しめるような事を言ってしまったのかと自分を殴りたくなった。クラピカは身体を反転させるとシャネルが顔を伏せているのを見て察した。

「大丈夫だよシャネル。私にはお前がいる、気になどしていなかったよ」
「でも、俺が辛い事を思い出させたのは事実だし……」
「だから気にしなくとも」

と言いかけた所である事を思いつき少々悪い顔になった、何処か子悪魔のような感じだ。ゆっくりと足音を鳴らしながら近づきシャネルに顔を近づけた。

「本当に、悪いと思っているのか?」
「ああ思ってるよ」
「だったら」

そう顔を上げた時シャネルは思わず息をのんだ。クラピカが自分の膝の上に座りつつ背中に手を回して抱きついたのだから。腕を回し強く抱き締められると感じるクラピカの体温と男と思えない絶妙な柔らかさに不覚にもドキッとしてしまった。

「このまま、抱き締めてくれないか。父さんにこうしてもらったのを思い出してな」
「………(ハッ!?)解った」

我に返りつつも抱き付いてくるクラピカを優しく抱き締める、身体を包まれていくのを感じつつ暖かな感触が広がって良くのが酷く快感だった。思わず蕩けそうになり眠りに落ちそうになるのを耐えつつ更に強くクラピカは抱き締める力を強めていった。

「こんな感じで、良いのか」
「ああ……暖かい……この感覚だ、もっと……もっと……」
「そっか」

喜んでくれているクラピカに自分も嬉しさを感じ始めているのを感じた、だがこれが普段の嬉しさとは違う何かと感じた。親しい誰かの為に注いだ自分の何か、それを誰か(クラピカ)が受け取りそれを喜んでいる事に対しての歓喜。そう、転生前の事など殆ど覚えていない今の彼だが解った。これは……

「(誰かへと向ける、愛情か……)」

クラピカに対する愛情、そう理解した。その認識が正しいなど如何でも良かった、それで彼が喜んでいるのだから……。愛情だと理解し、それが生み出す喜びによっていると何かが咀嚼されるような音が聞こえるような気がした。そして、クラピカはゆっくりと力を緩めて身体を少し離していた。

「シャネル、目を瞑って貰って良いか?」
「んっ目をか?」
「ああ、頼む」
「まあいっか」

何かをするのかと思ったが別に構うまいと思いつつそのまま瞳を閉じた、何も見えない時間が少しだけ経った時小さく「行くぞ……」というクラピカの声が聞こえたと思った次の瞬間、唇に暖かい感触がした。それが何なのかは解らないが不快な感じはしない、包みこむような暖かさ。一体何なのかと気になり、悪いと思いつつ瞼を開けてみた。


自分の目の前には自分の言葉通りに目を閉じている彼の姿、そんな彼の無防備な姿に少々心が乱れてしまう。だが心を落ち着けつつ膨らんでいる胸に手を当てた。本来男にはない胸のふくらみを……。

「(よし、利いている……!)」

僅かにあった不安、もしもこんなときに利かなかったら如何しようと思いは吹き飛んだ。自分は今、女になっている(・・・・・・・)。何故そのような事になっているのか、それはシャネルに対する一途な愛が齎した行動。グリードアイランドというゲーム内で入手した『ホルモンクッキー』というアイテム、それを食べたのだ。これを食べると24時間という制限がある物の性別を変える事が可能になる、シャネルから身体を離したのもこっそりと食べたホルモンクッキーによる性別変化を悟らせない為。

「行くぞ……」

何処か、心の何所かにあった恐怖心を拭い去る為に、呟いた決意の言葉。そして顔を近づけ、そしてシャネルの唇を奪った。


瞳を開けて一体何をしているのかを確認する、閉じてくれと頼まれた手前それに反する事をするのは悪いと思ったがそんな事など吹き飛んだ。目の前にあるのはクラピカの顔、自分と正反対に瞳を閉じていた。妖艶な魅力を発散させながら彼は唇を奪っていた。

「(えっえっ……?!ど、如何いう事だぁこりゃ……!?)」

突然の事で彼の脳内は混乱で満ちていた。唇に触れる感触に僅かに漏れている官能的な声で脳内はパニックに陥っていた。

現状の確認だ!→っつうかクラピカは男だろう→んな事如何でも良いどうしてこんな事になってんだ!?→いやだから今俺どうなってんの?!→クラピカにキスされてって→だからそうじゃなくて!

というループに入ってしまい正常な思考など出来ていなかった。だがそれと反対にクラピカの行動は単純であった、もっと良くキスをしたいと首にてを回し身体を押し付けるように更に強く唇を押し付けた。それと同時にムニュンと身体に触れる柔らかな感覚が更にシャネルをパニックの渦に引き込んだ。

「(えっえっムニュン!?これってあれ、胸のあれ……?いやいやいやいや何、クラピカって女だったの!?え、ええええっ!!?んじゃ俺今まで女だったクラピカをずっと男だと思いこんで……もっとねえよ!!雨でずぶ濡れになった時にクラピカの身体見たけど胸なんか無かったわ!!ちゃんとした男の胸板だったわ!!えっじゃあなってんの!?)」
「んちゅぅ、れろぉ……ちゅぅう……」

パニックになり続けているシャネルにキスし続けるクラピカはホンの僅かに開いた唇を抉じ開けるように下を捻じ込んで自分の舌とシャネルの舌を絡ませ続けていた。ぴちゃぴちゃと水音がリビングに響き渡りつつも快感に身を委ねて、もっと快感を感じる為に更に強く、深く絡ませるのであった。

「(って混乱してる場合じゃねえ!!?と、兎に角離れないと……ッ!?)」

身体をしっかりと抱きこんでいる腕を外そうと漸く思考出来た時クラピカと目が合った。底無しの闇のようだがどこまでも澄んでいるようにも見える緋色の瞳の色、その瞳が語っている。

ハ ナ サ ナ イ、ゼ ッ タ イ ニ。

怒りでもない、憎悪とも違う絶対的に違う感情の渦にシャネルは思わず恐怖を感じてしまった。振り解こうとするが、それは許されなかった。

「ッ!?(く、鎖、だとぉ!?)」
「(ダメ……ゼッタイニ……離さないからな愛しい人♪)」

自分をクラピカを纏めて覆いそのまま巻き付くかのように拘束している鎖、それは紛れも無くクラピカが具現化した鎖。それによる脱出は出来なくなりシャネルはそのまま更に激しくなるキスを受け入れるしかなかった―――。

「―――んぅ、チュ……ぷはぁ!」

一体どれだけの時間、口内を犯され尽くされたのだろうか、感覚が麻痺し始めている。長い長い強制的なキスが終わり唇が解放され、シャネルはクラピカの表情を見た。頬を赤くし緋色の瞳はより美しくも狂気的な光を宿し、口から垂れていた涎を指でなぞりそれを舐める姿は今まで見てきた何よりも妖艶だった。それに見惚れる、否、寒気と恐怖を感じ思わず声を出した。

「い、一体何を……!!?」

自分の気持ちを伝える簡潔で適切な言葉だった。答えるクラピカは何所か悲しげだが嬉しげな笑みを浮かべた。

「もう、解っているんだろうシャネル。私の愛する人……」
「あああああ愛するぅ!?ななな何言ってるんだ!?俺とお前は男同士で……!?」

それを聞いた時、彼いや彼女は歓喜とも言えるような表情を浮かべていた。自分は正しかったとでも言いたげに、それを見つめる者からすれば狂気としか映らないがそんな事如何でも良いのかもしれない。クラピカはシャネルの手を大きくなっている胸へと当てさせた。

「解るだろう、今の私は女なんだと……?」
「はぁぁああ!!?で、でででも、どどどっどうして!?」
「ホルモンクッキーさ、それを食べたんだ……男同士では駄目だときっとシャネルなら言うと思ったから、これなら、大丈夫だろう……?」

その言葉がシャネルにとって酷く恐ろしかった、自分の従順だがそれでいて理性的で相手の事を考えているのだから。自分が同性だからとキスを拒むのは予想の範疇内だったのだろう、それが当たったのが嬉しいのだと。

「さあ……シャネル、私を……女となった私を……抱いてくれ」

鎖を消した、女ならば自分を拒む理由が無いと思ったのだろう。ゆっくりと服を脱いでいくクラピカ、娼婦のようにも見えるその行為。シャツ一枚になった時膨らんでいる胸部を見た時、シャネルは言い表せ無い感情の襲われ思わず彼女となったクラピカを押しのけて壁に逃げるようによりかかった。

「はぁはぁはぁはぁ……如何し、たんだよクラピカァ!?お前、可笑しいぞ!?男同士、否今は女だけどそうじゃねえ!?ああもうなんて言ったらいいんだよ!?」

問題はある意味ではなかった、だがある一点で問題があった。クラピカは絶対に自分を受け入れてくれると信じていたがシャネルにはそれが出来なかった。いきなりすぎる、目まぐるしく起こっていく出来事を受け入れきれなかった。待ってくれと大声で叫び言葉を聞いたクラピカは瞳から光沢が消えて焦点が合わずに虚ろ目になってしまう。

「何で……?どうして嫌がるんだ……?」
「ど、どうしてって……」

簡単には答えられない、正解といえる言葉が見つからない。今は、気持ちを落ち着けて冷静になるようにしなければと必死に気持ちを落ち着けているシャネルだが急に笑い始めたクラピカに顔を上げた。

「そうか……照れているんだな?」
「はぁっ………!?何を、言ってるんだ……よ!?」
「良いんだよ、シャネル全て解っているよ……だから、照れなくても良いんだよ……?」

到った正解(答え)が正しいとは限らない。到ったのは愛しの彼がいきなりすぎる告白で照れているから、自分の事を受け入れてくれる筈の気持ちが混乱して正しく言い表せないからだと。だったらどうしよう、落ち着くまで待つ?いや、



―――『自分が導いてやれば良いんだ』―――。



シャネルへと伸ばされた手、同時に伸びた鎖がシャネルの胸をつき刺した。そして心臓へと巻きついていく、混乱しきったシャネルは避ける事など出来なかった。心臓へと刺さった鎖、それはクラピカの念能力であろう手首から伸びている鎖だった。

「お前……何をっ……!?」

これから来るであろう展開を予想してしまったが、何所か違うと望むように声を出した。彼女は首を少し傾けてから満面の笑みで言った。

「照れているシャネルが正直になれるように制約(ルール)を作るんだ」
「せい、やく……?」
「ああ。1.私の言葉に従う事、2.私の許可無しにこの家から出ない事、3.私が許可しない以外は私の半径2メートルに居る事、4.一日一回、私が指定する場所にキスをする事、5.私と、ここで生活する事……♪」

完全な束縛、5つの制約。そしてこれは小指の鎖、律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)では無い事。新たな能力。

「もしも破ったら……どうなるってんだ、俺が、死ぬのか……?」
「そんな訳無いさ、愛するシャネルを殺すなんてありえない。約束を破ったら―――

私が死ぬんだ―――」
「なっ!!!??」

手首の鎖はクラピカの胸を突き刺されそのまま心臓へと達した後抜かれ消えて行った。

「(なんて、こった……!!!)」

相手の命ではなく自分の命が消えるように設定された鎖、それはシャネルが絶対に約束を守るからと信用し自分を殺す(約束を破る)なんて事を絶対にしないと理性的に判断していると言う事を示唆している。狂気の光を宿しているのにも拘らず、なんて冷静な事をとシャネルを戦慄させた。

ふざけた制約だ、ふざけた束縛だ今すぐにでも抜け出てやりたい……!!だが、自分が破ればクラピカは死に至ってしまう……こんな事をされているのに死なせたくない、絶対に約束を破らないと思う自分が居た……。完全にクラピカの術中に嵌っている……完全な詰み、チェックメイトを示されていた。

「クラピカ……ごめん……」
「良いんだよ、許そう。だからさあ、私の唇にキスをして、二階にあるベットで私を抱いてくれ……」

逆らえない。自分にこんな事を強要しているのに……無理矢理自分を愛せと言っているのに……逆らえない……。彼女の唇にキスをして、彼女を抱きかかえて二階へと向かう、もう、戻れない……。ああ、自分は、クラピカを愛する道しか残されていない……。


そして静かな森の中にある家から響く嬌声、それは幸せに満ちた声。それはこれからずっと聞こえるだろう、彼らの命がある限り、ずっと……。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧