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デカとチビ

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第一章

                 デカとチビ
 大池まことと小坂みのるは漫才コンビである、デビューして二十年になり今も二人で漫才に勤しんでいる。
 まことは一九〇ある大男で痩せた面長の男で声は低い、目は丸く鼻は高い。
 みのるは一六〇もない小男で太っていて顔は四角く異様なまでに高い声だ、目は細く鼻は低い。
 何もかもが正反対の二人だ、だが。
 息は合っていてだ、絶妙の漫才を見せていた。
「あの組み合わせがな」
「ああ、いいよな」
「正反対過ぎて」
「そのギャップがな」
 観ている客達も言う。
「いいんだよ」
「片方は大きくて片方は小さい」
「しかも片方は声が低くて片方は声が高い」
「何もかも正反対だからな」
「芸も映えるな」
「むしろ二人が同じタイプだと」
「ああはならないな」
「絶対に」
 二人の舞台やテレビでの芸を見て話す、とかく二人の芸は独特でドラマのちょい役で出てそれを披露したりもしていた。
 それでだ、二人自身もよくそのことを話した。
 まことはみのると共に所属事務所だけでなくそれぞれの家もある大阪のあるうどん屋でだ、きつねうどんを食べつつだった。
 若布うどんを食べているみのるにだ、その低い声で言った。
「わし等若しも同じタイプやったらな」
「ここまで売れてへんな」
 みのるは高い声で返した。
「とてもな」
「そや、絶対無理やったで」
「ピンで売ってもな」
「御前もわしもあれや」
 まこともうどんを食べている、その味を楽しみつつの言葉だ。
「ピンでやったらな」
「色物で終わりやな」
「わし自信あるで」
 まことははっきりと言った。
「自分の芸に、芝居の方もや」
「それはわしもや」
「ああ、けれどやな」
「わしピンやと只のチビデブやで」
「わしはでかい痩せっぽちや」
「そんで声が高いだけの色ものじゃ」
 そうしたポジションだったというのだ。
「とても今みたいになってへんわ」
「ほんまそやな」
「ガキの頃チビチビ言われてた」
 みのるはここで子供の頃のことを話した、まこととは事務所で会ってからの関係でお互い学生時代は知らないままだった。
「それがかえって売れることになるさかいな」
「わしなんか牛蒡って言われたわ」
「ああ、でかいし顔も長いしな」
「顔も長くて牛蒡って何や」
「イメージやろ、それに御前色も黒いし」
 見れば真は地肌が黒い、そして逆にみのるは白い。そこの個性も正反対だ。
「そう言われるわ」
「そうなるか」
「ほんまな、けれどほんまわし等ピンやったらな」
「色もので終わりか」
「そうちゃうか?映画に出てもな」
 それでもというのだ、実際二人は映画にも出ている。
「脇役やろ」
「今も脇役やけどな」
「脇役でも芸を見せるのとおるのとはちゃうわ」
 脇役と一口に言っても様々だ、所謂モブに近い台詞だけはある様な役と見せ場がある役ではそれこそ天と地程の差がある。
「それでやわし等は芸を出せるからな」
「漫才のな」
「それが出せるさかいや」
「脇役言うても天と地位やな」
「差があるで」
 ピンと二人一緒ではだ。
「ほんまにな」
「そやな、いやほんま社長もよお考えたわ」
 二人が所属している事務所の社長もというのだ。
「わし等を組み合わせるってな」
「一緒にして漫才やらせるってな」
「ピン芸人になるつもりが」
「お互いな」
 二人共そのつもりだった、そうして芸能界でのし上がっていこうと思っていたのだ。だがそれが事務所で二人が出会ってだったのだ。 
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