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けらけら女

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第三章

「あるからな」
「では」
「はい、それではうちの花魁を紹介します」
「いいおなごはおるな」
「好きなのをお選び下さい」
「酒も出してくれ」
 こちらもというのだ。
「そちらも金は出すからな」
「仕事をして頂くのですから」
「これ位はわしも出す」
 これが林の返事だった。
「仕事とは別の楽しみだからな」
「左様でありんすか」
「うむ、ではな」
「一遊びされてから」
「その女のことをする」
 頼まれた仕事をするというのだ、そうしたことを話してだ。
 林はまずは平太夫が紹介した花魁と二人で部屋に入った、酒も用意されてそちらも楽しんでだ。一刻半程してだった。
 林は平太夫のところに戻った、服は着ているが顔は赤らんでいる。その顔で彼のところに戻って来てそして言った。
「ではな」
「はい、これより」
「仕事をする」
「ではお願いします」
「塩はあるか」 
 林はあらためて自分に頼んだ平太夫に尋ねた。
「出来れば桶一杯にな」
「塩ですか」
「うむ、桶一杯の塩がな」
「それなら厨房にありますが」
 店のそこにというのだ。
「ではその塩を」
「使わせてもらう」
「塩とは」
「刀を使う必要はない」
 林は仙台藩藩士だ、だから腰には立派な二本差しがある。だがそれを使うことはないというのだ。
「そもそも江戸だからのう」
「はい、刀を少しでも抜けば」
 このことは平太夫も知っている、それで林に言った。
「どうしましても」
「厄介な話になるからのう」
「切腹でありんすな」
「下手をすればな、父上もそうであった」 
 林の父もというのだ。
「今は仙台藩におるがな」
「何かあったのですか」
「一度家が改易になっておる」
「では」
「うむ、刃傷沙汰を起こしてな」
 林の父がというのだ。
「そのこともあるしな」
「だからでありんすか」
「うむ、わしも出来る限りはじゃ」
 林自身の考えでもというのだ。
「刀は使いたくない」
「だからですか」
「その女のことはな」
「何とかするにしましても」
「刀は使わぬ」 
 決してという返事だった。
「塩で十二分じゃ」
「では」
「塩を持って来てくれるか」
「それでは」
 平太夫も早速だった、林に桶一杯の塩を持って来た。そして林はその塩を受け取ると平太夫にまた尋ねた。
「それで女は廊下に出て来るな」
「はい、暗い廊下に」
「話に聞いた通りじゃな」
「それでお客を見てけらけら笑うのです」
「廊下の角から顔を出してだな」
「左様です、花魁の服を着ていますが何者なのか」
「ではよく出るという廊下に連れて行ってくれ」
「はい、こちらでありんす」
 平太夫はすぐに二人を案内した、すると。
 その廊下にだ、今丁度だった。その得体の知れぬ女がいて二人を見てけらけらと笑っていた。平太夫はその女を指差して林に言った。 
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