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アルケミスト

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第二章

「今以上にな」
「だからこそですね」
「わしはご領主のお願いを受けたのだ」
「ご領主はご自身の為にはですね」
「お金は求めておられぬ」
 このことは確かだというのです。
「それ故にじゃ」
「今もですね」
「研究をしておるのじゃ」
「私利私欲で動かれる方ではないですか」
「わしも自分の為にはせぬ」 
 錬金術の研究をというのです。
「不老不死になってもな」
「いいことはないと」
「考えてもみよ、生きていればそれだけ別れもあるのじゃ」
「別れ、ですか」
「親にも兄弟にも親戚にも友達にも妻や子や孫に先立たれ」
 つまり周りの人達全てにです。
「一人だけ生き残ってもどうじゃ」
「そう言われますと」
「面白くないであろう、金も無限にあってもな」
「使えるだけのものしか使えない」
「それではじゃ」
「自分の為にしてもですね」
「虚しいだけじゃ、しかしこの領地を豊かにする為に使えば」
 その黄金をです。
「こんなにいいことはないであろう」
「確かにそうですね」
「だからじゃ、わしはじゃ」
「ご自身の為ではなくて」
「ご領主のお願いに従ってやっておる」
「そうですか、では」
「必ずじゃ」 
 強い決意を皺だらけになっている細いお顔に見せました、お髭はなく白い髪の毛はぼさぼさの状態です。
「わしは金を生み出すぞ」
「この領地の為にも」
「必ずな」
 こう言ってグライゼナウは金を生み出す研究を毎日続けていました、医師としてのお仕事も忘れずに。そして。
 ある日です、グライゼナウはワインを使って研究と実験をしていました。シュタインホルクはそれはどうしてかとお師匠さんに尋ねました。
「ワインもですか」
「うむ、金に変わると聞いたのでな」
「だから今回はですか」
「これを使ってじゃ」
 そのうえでというのです。
「やってみる」
「金を生み出せるかどうか」
「一度な」
「そうですか、それでは」
「色々とやってみるぞ」
 熱したり冷ましたり様々なものを混ぜたりしてです、そうした実験をしてワインから金を生み出そうとしました。
 ですがワインからも金は生み出せません、それでグライゼナウはやれやれと言いました。
「今回もな」
「駄目でしたか」
「失敗した」
 少し困ったお顔で言うのでした。
「今度こそはと思ったが」
「そうですね、じゃあ」
「今度は別のものでしてみよう」
「そうしますか、ただ」 
 ここで、です。シュタインホルクは。
 実験に使ったワインの中からです、一つを見て言いました。
「このワイン飲めますよね」
「毒性のあるものを入れていないものはな」
「水銀は止めておけ」 
 それが入っているワインはというのです。
「昔は東方でも不老不死の霊薬に使われたらしいが」
「中国で」
「丹薬といってな、しかしな」
「かえってですね」
「その水銀を飲んで死んだ」
 そうなったというのです。 
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