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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~

作者:DEM
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第六話 疾走 ―スピードレーシング―

 
前書き
 前回の続き、スピードレーシング回です! 

 
 花梨の合図で、スタート地点から同時に飛び出した二人。が、開始とほぼ同時に源蔵は紗那に斬りかかり、紗那はそれを迎撃した。刃の通り過ぎる衝撃と飛行によって通り抜ける風で、二人のすぐ足元にある海面は激しく波打ち、飛沫を上げる。

『おぉっと、さすが近接型同士! 開幕と同時にものすごいラッシュです! ですがリーチが長い分攻めに回っているのは源蔵さん! 紗那さんは防戦一方だー!』

「悪いがここでさっさと決着つけてからチェックポイント回らせてもらう!」

「……早々にやられるわけには……いきませ、ん」

 源蔵の薙刀に対応しつつ、片手では厳しいと判断した紗那はリンクをツインダガーモードに変形させる。そのまま刃を挟み込んだり弾いたりしていなしながら、二人は戦いながら一つ目のチェックポイントを通過した。

『さぁ、今のところ両者とも動きは激しいながらも膠着状態と言ったところ! 先にそれを崩すのはどちらなのでしょうか!?』

 花梨の実況の通り、ここまでお互いに決定打を与えることができていなかった。刃の重さ、つまり一撃の威力では源蔵の方が勝ってはいるのだが、紗那の方がスピードでは上。命中すれば決定打になる源蔵と、回避が得意だからこそ避け続ける紗那。お互いの得意分野が妙にかみ合ってしまい、お互いに攻めに出られずにいた。

 が、このデュエルルール“スピードレーシング”の目的は相手の撃墜ではなく、その名の通りチェックポイントを回りつつ先にゴールすることだ。無理に相手をする必要はないと判断した紗那は源蔵が振り下ろした薙刀の刃を、リンクで挟み込むようにわざと正面から受けた。当然刃の勢いに押されて紗那の体は後方に押されるのだが、それを利用して後ろに倒れ込んだ紗那はそのまま源蔵の股の間をスライディングの要領ですり抜け、その勢いのまま二つ目のチェックポイントへと先に到着した。

『おーっ、さすが紗那さん! 格闘戦では敵わないとなってすぐにやり過ごす方向に切り替えましたね! 相変わらずアクロバティックな動きが魅力的です!』

「クッソ、逃がすか!」

 源蔵も慌てて紗那を追うのだが、純粋に飛ぶことが苦手なのかもしくはバリアジャケットの鎧が重いのか、純粋な飛行速度では紗那よりも劣る。少しずつではあるが、距離を離されてしまっていた。

「チクショウ、残りのチェックポイントは一個だってのに……これじゃ追いつけねぇな……」

 なんとか加速して追いつく方法はないものか、と頭を捻り……ふと、何かを思いついたように源蔵は自分の手を見た。

「……いや、待てよ?」

 そして、そのままの目線で自分の下の海面を見る。何やら思案した後……

「……試してみっか」

 そう呟いて源蔵は腕に炎の魔力を纏わせ、追っている紗那の方とは反対の方向の海面に叩きつけた。業火によって海面は沸騰、蒸発し、その蒸発した水面の勢いを体に受け、源蔵はすさまじい勢いで加速する。そして、それを利用してなんと紗那に追いついた。背後から凄まじい勢いで迫ってきた源蔵の気配を感じて、紗那は振り返って驚く。

「あの距離か、ら!?」

「うまくいったな!」

『なるほど、これは素晴らしい機転! 海面に叩きつけた炎で蒸気を発生させ、それを利用して加速するとは……ステージの特性を見事に生かした戦術と言えるでしょう!』

 そんな花梨のアナウンスが響く中、源蔵は紗那が驚いて対応が遅れた一瞬の隙を見逃さず、薙刀スキル“紅蓮撃”で上から刃を水面に叩きつける。衝撃で海面を転がっていきながらも苦し紛れに彼女が放った苦無を弾きつつ、源蔵は最後のチェックポイントを通過した。

「よーし、今のうちだな! 焔蛇(えんじゃ)!」

【よっしゃあ! 盛大に行くぜ!】

 この機を逃すまいと、源蔵はニヤリと笑ってデバイスに激しい炎を纏わせ、思い切り足元の海面に向かって振り下ろした。炎によって海面が蒸発し、それによって噴出した大量の水蒸気を受けて源蔵は加速し、バトンタッチ地点へと凄まじい速さですっ飛んで行く。……本人も制御できないほど。







「……ぉおわあああああ!? 避けてくれ疾坊ぅうううう!?」

「ちょ!? ゲンさん勢い付け過ぎぃいいい!?」

 とてつもない速度で飛んできた源蔵は減速が間に合わず、バトンタッチ地点まで飛来し……

ゴッツン!!!

「「痛ってぇええええ!!!」」

 さすがの疾風もそんな直前での回避は間に合わず、どこぞの童謡のアリように頭と頭がこっつんこ(そんな生易しいレベルではないが)した。

【見事な頭突きだな……】

「痛そう……」

【マ、マスター……大丈夫ですか……?】

『あー……せっかく先にチェックポイントに到達したのに、男性陣チームが激突の痛みで呻いております……おーい、はやく行かないとアドバンテージなくなりますよー?』

「わ、わーってます……ゲンさん、行ってくるぜ……」

「おう……頼んだ……」

 対戦相手とデバイスには心配され、実況には呆れられるという散々な状況の中、痛みに呻きつつも疾風はチェックポイント向けて飛行し始めた。……ちなみに源蔵はそれを見送った直後、頭を抱えて蹲った。





「ごめんね、麻耶ちゃん。あとお願い」

「任しといてさー姉」

 源蔵に少し遅れ、タッチで交代した二人。そのまま飛び去る……かと思いきや、麻耶はその場でメカニカルな見た目の弓型デバイスを構え、先行する疾風を見据えた。右手を弓に据えると黄色い魔力の矢が出現し、麻耶はそれを引き絞る。

「さて……速度で勝てるかわかんないし、まずはここから狙撃しよっか、ライ」

【OK!】







「うー、痛ってぇ……衝撃強すぎて目の前に星飛んだぜ……」

 頭をさすりながら飛ぶ疾風。とはいえ一応どうにか回復したのか、フラフラとした飛び方ではなくなっている。

【……マスター、後方から急速に接近する魔力反応あり! 麻耶さんの魔力矢と思われます!】

「来たな!」

 そんな時に聞こえてきたリラの報告に振り返った疾風は、迫ってくる魔力矢を見てその射線上から離れる。……が、なんとそれに合わせて魔力矢は軌道を変更して向かってきた。

「げっ、誘導タイプかよ!? ……この距離で!? 目ぇ良過ぎんだろ!!」

 疾風が驚いたがそれもそのはず、麻耶の姿など豆粒ほどしか見えないような遥か彼方から黄色い魔力の矢が飛んできていたのである。リラが対応を訪ねてきたので、疾風はマウントしていたリラを引き抜いて構えた。

【どうされます、隠れますか?】

「いや、このだだっ広い海のどこに!?」

【海中とか】

「あ、なるほど。……まぁいいや、纏わりつかれるのも面倒だし、確実性を優先して撃ち落とさせてもらう!」

 そんなやり取りの後、疾風はリラを連結させてブラスターモードにしてスキルカードをロードし、魔力をチャージしながら狙いを定め始める。魔力矢の強度がわからないので、とりあえず全力で迎撃しておこうという思考からだ。

【チャージ完了!】

「ぶっ飛べ!」

 リラの声と同時に疾風はトリガーを引き、魔力砲撃“フォトン・バニッシャー”を発射した。太い砲撃は麻耶の放った魔力矢を撃ち抜き、そのまま彼方へと消えて行く。一応、矢と麻耶が一直線上になるように狙ってみたのだが、さすがに回避されたようだ。その隙に疾風は一つ目のチェックポイントに到達する。麻耶の方も移動を始めたようだったが、彼女から目を離さずにいた疾風は再び放たれた矢を確認して、同じように迎撃しようとリラを構えた。……が、その矢がパッと複数に分かれて疾風を襲ってきて疾風は目を剥いた。

「げぇえ、今度は拡散弾かよ!? バリエーション多いな!」

 慌てて疾風はリラをガンブレードモードに戻し、両手で連射して魔力矢を撃ち落とす。ブラスターモードでの砲撃には連射できるものが少なく、かつ単一方向への射撃しかできないので周りを囲むように放たれた魔力矢を撃ち落とすには不向きだからだ。そうして迎撃することには成功したものの、その後からさらに拡散タイプが攻めてきて迎撃に気を取られて……という波状攻撃のループになり、それを何度も迎撃していた疾風はだんだんとイラつき始めた。

「チッ、後ろから遠隔攻撃でチマチマやられんのが面倒だな……!」

 そう呟いた疾風は先行することを諦めて急ブレーキをかけ、先に彼女を倒そうと麻耶の方に向かう。その間も魔力矢は飛んでくるが、それは回避したりガンブレードモードの刃で弾いたりしていく。

「その弓じゃ、懐に潜られたら近接戦闘はできねぇだろ!」

 そう叫びながら疾風はガンブレードモードのリラを構えて突進した。が、麻耶はあまり慌てた様子を見せず……

「……誰が……」

「……へ?」

 麻耶がボソリと呟いたと同時に、弓を両手で握る。疾風はそれを見てポカンとしていたが次の瞬間、なんと弓が真ん中で分割され、薄い黄緑色の光が……“刃”が出現した。そう、麻耶のデバイスであるライが、疾風の目の前で一瞬にして弓から二振りの短剣へと変形したのだ。それを逆手で持つ形になっている。

「……近接戦闘できないって?」

「嘘だろぉおお!?」

『なんと、これは熱い戦い! 逆手の二刀対順手の二刀の勝負だーっ!』

 回避するどころか果敢に攻めてきた麻耶の攻撃を、疾風はどうにか両手の刃で迎撃する。そのまま近接格闘戦に移行するが、さすがに高校生と小学生。相手が小柄なのでスピード以上に機動性で翻弄され、なかなかダメージを与えられずにいた。そのままもつれ合うように二つ目のチェックポイントを通過する。残るはゴールのみだ。

「えぇい! こうなりゃ!」

 近接戦闘が面倒になった疾風は源蔵のアイデアを流用することにし、海面をリラで撃って煙幕のようにした。そのまま一目散にチェックポイントへと向かい、振り切ろうとしたのだが……摩耶は蒸気の中に入ってこようとはせず、そのまま刃を構える。……すると、その刃からバチバチという音が聞こえた。

「……げっ、まさか……」

 その音を聞いて嫌な想像をしてしまった疾風は、すぐさま蒸気から逃れようと上に飛んだ。が、自分で撃った蒸気ながらそれはかなりの密度になってしまっており、その間に刃に白みがかった黄色の光が放出されて、それを見た摩耶は小さく呟き……

「いっせーの……」

 刃を蒸気に触れさせた。その瞬間、接触部分から黄色く細い光が……“電撃”が走った。そう、彼女の魔力色は黄色。すなわち……“雷属性”。

「あばばばばばば!」

 痺れ効果のある電撃をミストの中でモロに食らってしまい、スタンして動けなくなった疾風。しかも水蒸気のせいで電撃が増幅されているので、さらに威力が上がっている。

『これはすごいです! なんと電撃使いだった麻耶さん! 疾風さんの生み出した目くらましの蒸気を逆手に取り、逆に疾風さんの動きを封じました! これは疾風さんに大ダメージでしょう! ゴール目前でこれは痛い!』

「じゃ、お先に……」

 そう言った麻耶は、痺れ状態で動けない疾風に背を向け、その先のゴールへと飛んで行った。







「いっ、つつ……やれやれ、結構離されちまったな……」

 数十秒間のスタンからようやく抜けた疾風は、一旦滞空して体の調子を確かめながらゴールのある方向を見た。まだゴール直前、というわけでもないが、それでもかなりの距離を離されてしまった。さすがにこの距離で狙撃して砲撃を当てる自身は疾風にもなく、よっぽどのスピード型でもない限り通常の飛行のみでは追いつけないだろう。

【……使われますか?】

「……んー……」

 何を、という言葉はなかったが疾風はその意味を正確に認識していた。リラの言うとおりこの状況から逆転できる案も、確かにないことはない。疾風は少し考え……

「……だな! せっかくのイベントだし、出し惜しみはやめて派手にフィナーレと行こうか!」

【はい!】

 切り札を一つ使うことになるがまぁ盛り上がるだろうしいいだろう、と疾風はリラの言葉にニヤリと笑って頷き、一枚のカードをロードする。……次の瞬間疾風のバリアジャケット、“セレスタル”の赤いラインが真紅に光り始めたかと思うと、その魔力光は鮮やかかつ激しいものになった。激しさのあまりもはや球体のような形状になった魔力を纏いながら、疾風は誰もが目で追えないほどのスピードで海を蹴立てて一気に加速した。







『おぉーっなんだなんだぁ!? っていうかはやっ!? 赤っ!? なんでしょうかあれは!?』

「……なんっじゃありゃ……」

 ゴール地点に先に向かいながらモニターで様子を見ていた対戦相手の源蔵どころか、実況の花梨すら混乱しているような状況の中、唯一疾風のそのスキルの正体を知っている紗那は少し諦めたように小さく呟いた。

「……疾風、アレを使うなんて……これはもう負けちゃったかな」

「ん? 嬢ちゃんは知ってんのかい、疾坊のあのスキル?」

「……えぇ。現時点で、疾風が持っている最強のスキルだと思いま、す。初見でアレを破るのは……まず無理で、す」

 他のデュエリストのスキルのことを明かすわけにはいかないのでそれ以上のことは言わなかったが、紗那は実際にそのスキルを使われたことがあった。実を言うと借りて使ったこともあったのだが、あまりにもアレは強い。それを知っている紗那だったが、麻耶はどう対処するかとモニターに集中した。

 疾風が追いついて来ていることに気付いた麻耶は疾風を迎撃しようと誘導弾を放つが、疾風はその全てを目まぐるしい軌道で振り切った。

「……狙いきれない……!」

 矢を精密に撃ってもばら撒いても全てを回避され、麻耶は撃ち落とすことを諦めた。スキルを使った直後の疾風は、彼の放出する魔力の残像を曳きながら右に左にとジグザグに飛んでいた。そのため彼の残像が少し残ってしまい、狙いをつけることが非常に難しかったのだ。再びライを分割させた麻耶は、その刃によってロングソードモードで斬りつけてきた疾風を受け止めた。

「せぁらああああ!!!」

 が、そのまま押し切られて体制を崩され、さらに追い抜きざまに疾風は麻耶を両断した。さすがにそのクリーンヒットを受けた後から回復することはできず、疾風はそのままゴールまで突進していった。







 試合後。勝利した疾風・源蔵ペアは戦勝インタビューなどもろもろ大変だったのだが……どうにか終わり、試合した四人でコミュエリアに集まっていた。

「なぁ疾坊、最後のあのスキルなんなんだ? インタビューでは秘密にしてたけど、俺らにくらいは教えてくれよ」

「あれな。えーっと……これだよ」

 疾風はホルダーから一枚のカードを取り出し、テーブルの真ん中に置いた。その名も、“タキオンマニューバ”。疾風が初めて手に入れたR+クラスのカードだった。それを見つつ、麻耶は首を傾げる。

「これはどういうカード……なんですか?」

「基本的には、ただの高速移動だよ。ただこれ面白くて、魔力の使い方によってその時のエフェクトに色々と特徴が出てさ。まぁ、その分魔力消費も相応なんだけど……」

「残像強くしたり速度上げたり、魔力で攪乱したりしてるよね。今回はバランス?」

「だな。まぁ俺、一応魔力は結構ある方だからさ。スピードレーシングだったから決着も早かったし、なんとか使えた感じだったよ」

「なるほど。……ところで、カード名のタキオンってどういう意味なんでしょうね?」

「あぁ、タキオンってのはたぶん“タキオン粒子”から来てるんだと思うぜ。確か“光より速い粒子”、だったかな……まぁブレイブデュエル内とはいえ光速を超えるのは無理だろうけど、普段から光子(フォトン)にまつわるカード使ってるからなんか親近感が湧いてさ。いつか俺も、光を超えられるかも……ってね。まぁ、俺の可能性っていうか希望のカードさ。だから、切り札として普段は温存してるってわけ」

 今回はイベントだし真剣勝負だったから使ったけどな、という疾風の解説に「ほー」と納得したような様子の二人だったが、それより、と疾風は麻耶の方に興味があるように身を乗り出した。

「弓が分割して短剣になるなんて予想外にも程があったぜ。しかも属性持ちだったとは……あれはマジで不意を突かれたよ」

「ホントにね。動きもすごく速かったし、カッコよかった。……ちなみに麻耶ちゃんのデバイス、名前なんて言うの?」

「ライティリウス、だよ。私は略してライって呼んでる。雷属性に関しては確かにサプライズとして隠してますね、でも水のステージだと場合によっては味方も巻き込みかねないので……」

「あー、確かに気ぃ使うのわかるな。俺も炎使うけど、森林だと破壊がルールで禁止されてたりするから」

「ふーん。便利なのかと思ったけど、意外と属性持ちってのもいろいろ大変なんだな」

 自分も紗那も、属性のあるデバイスを使うわけではない。属性持ちは相手にするだけだったので大層やりやすいのかと思っていたのだが、どうやら利点と欠点の両方があるらしい。ステージに合わせて特性を考えなければならないとは、と疾風は少々意外に思った。それに対して源蔵は肩をすくめる。

「ま、便利なところがあれば不便なところもあるってのは常だわな」

「そうですね。でもその辺りも含めて気に入ってますから」

「……それもそうか。ともあれ今日は楽しかったぜ、麻耶ちゃん。また遊ぼうな」

 そう疾風が麻耶に笑うと、彼女も頷き、続いて紗那に視線を移した。

「……はい。私も楽しかったです、日向さん。さー姉も。また一緒に来ようね?」

「うん、いいよ」

 と、話している時。疾風はそうそう、と麻耶に向かって言った。

「今後は俺のこと、下の名前で呼んでいいし敬語も抜いていいぜ? その方が楽だろうし紗那もそう呼んでることだし、さ」

「え……いいんですか?」

「あぁ。今後も一緒に遊ぶんだし、俺だけ麻耶ちゃんって名前呼びはなんか変だろ」

「じゃあ……」

 疾風の言葉に少し驚いた後、考え込んだ麻耶。そして、何かを思いついたらしく悪戯っぽく疾風に向き直った。

「……疾兄(はやにい)、って呼ばせてもらうね」

「こ、こりゃまた予想外な……」

「ま、麻耶ちゃん? いくらなんでもそれは……」

「あぁ、別にいいぜ。俺も妹ができたみたいで嬉しいしさ」

 さすがに面食らった疾風だったが別に気を悪くしたわけではなかったので、麻耶の言葉を聞いて彼女を窘めようとした紗那を止めた。彼が麻耶の頭を撫でると彼女は嬉しそうにしており、それを見て、まぁ本人がいいならいいか、と紗那も嘆息した。が、疾風の一言がまた一悶着起こす。

「どうせだしどうだ、この際ゲンさんもなんか呼び方考えてみたら」

「そうだね……疾兄が疾兄なら、源蔵さんは……ゲン……(じい)?」

「ぶっ!?」

 彼女たちのやり取りをただ微笑ましげに聞いていた源蔵だったが、麻耶の一言で口にしていた缶入り緑茶を思い切り吹いてむせた。疾風は疾風で思い切り噴き出し、紗那はこらこら、と慌てた。

「ゴッホ! じ……!? おいおい、“おじさん”呼ばわりされるのはまだしも“爺さん”扱いはさすがに勘弁だぜ!?」

「でもまあ、確かに年代的に“兄”って感じじゃないわなぁゲンさんは……小学生から見れば爺さんだろうし、それでもいいんじゃね?」

「ちょ、ちょっと疾風まで……!?」

 撤回してもらおうと必死な源蔵、それを見て悪ノリする疾風と麻耶、そして慌てる紗那……当事者は割とドタバタだが、はたから見ればなんとも仲が良さそうだった。個々の性格がうまく噛みあったのもあるのかもしれないが、これがこの日初めて会った同士とは大半の人が想像できないだろう。だが年代も大人、高校生、小学生とバラバラでありながらこれほど盛り上がれるのだ。ゲームの魅力というのは無限の可能性を秘めているのかもしれない。







 ……なお激しい説得の末、どうにか“ゲン兄”と呼んでもらえることになったそうな。


 
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