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豹頭王異伝

作者:fw187
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新風
  僭王の弁明

「ナリス様も、人が悪いぜ。
 お前が本当に蒼褪めるもんで、俺まで、冷や汗を掻いちまった。
 まぁ奴等が疑わずに納得してくれて、助かったけどな。

 何、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔してんだよ。
 黙ってて悪かったけどさ、ナリス様に釘を刺されてたんだ。
 マルコは正直で顔に出てしまうから、事前には何も言わない方が良い。
 思慮深い年長者が驚く様を見れば、他の連中も疑わないってさ!
 次に芝居を打つ時は、お前を仲間外れにしねぇって!
 謝るから機嫌を直せよ、海の兄弟!!」

「他の者達には、何とでも思わせておけば良い。
 イシュトヴァーンと私は誰が何と言おうと、固い絆で結ばれた運命共同体だからね。
 ヴァレリウスは執念深いから、また愚痴の垂れ流しを聞かされるだろうけれど。
 私は決して鏡に映った様に魂の良く似た同志、イシュトヴァーンを見棄てる事は無い」
 目を白黒させる沿海州ヴァラキア出身の騎士、元オルニウス号水夫長マルコ。
 か弱い王子様を完璧に演じる役者、アルド・ナリスの面には意味深長な微苦笑。

 不可触性の力場《フィールド》、混沌の暗幕《カーテン》ならぬ白魔道の結界。
 心理誘導の磁場を張り巡らせ、不可視《ステルス》の盾に潜む術者が唇を噛む。
 天性の演戯者《プレイヤー》は華麗に舞い踊り、天幕を舞台に幕間劇を披露。
 屈託の無い純真無垢な表情を湛え、しゃあしゃあと黒子に徹する愛国者を一瞥。
 時も次元も解明された天上の都、ランドック製の第13号受送機《レセプター》。
 古代機械が認めた唯一の主、補欠管理者《セカンド・マスター》が微笑った。


「俺が本物の馬鹿なんかじぇねぇって事ぁ、お前等には解ってるだろうがよ。
 ユラニアの老いぼれ、クムの石頭みてぇな阿呆共とは出来が違うんだ。
 今回の出兵だって伊達や酔狂じゃねぇ、用意周到に計算してあったんだ。
 でなきゃ、建設中のイシュタールを放り出してまで遠征なんかしねぇ。

 ナリス王とは最初(はな)っから、ちゃんと話を付けて共闘する筈だったんだがな。
 意識不明の重態とか抜かしやがって、マルガに詰めてた他の阿呆共が邪魔しやがった。
 連中は何も知らねぇ、真のパロ王は治療中だから話が出来ねぇの一点張りでよ。
 真の悪い事に頭の弱い草原の蛮族共が何をトチ狂ったか、味方の俺達に夜襲を掛けて来やがる。

 ケイロニアの兵隊を引き連れてきた豹の野郎も、ナリス王から何も事情を聞いてねぇしな。
 ゴーラ軍は血に飢えた(けだもの)だ、なんて根も葉も無ぇ噂を真に受けやがった。
 スカールの畜生から自慢の顔に傷を付けられて、ちっとばかり(たま)に来ちまってよ。
 つい俺も頭に血が昇ってな、見境無く暴れ出さずにゃあ居られなかったのさ。

 治療とやらが終わってからも面会謝絶とか嘘付いて、ナリス王への伝令を邪魔し腐りやがって。
 マルガの馬鹿共が叱られて豹頭に詫びを入れ、ゴーラ軍と休戦するよう頼み込んだって訳だ。
 せっかく援軍に来てやった味方の筈が、ケイロニア軍や草原の蛮族共と戦わされちまった。
 マルガの弱虫共が余計な浅知恵で誤解を広めた御陰様でよ、とんでもねぇ大迷惑だぜ。

 腹の虫はおさまらねぇがカメロンから伝令が来てな、アムネリスが赤ん坊を産んだらしい。
 俺にとっちゃ初めてのガキだからな、さっさと帰国して顔を見てやりてぇんだ。
 パロなんざ放っといて一刻も早く国へ戻りてぇが、中途半端な儘で帰国する訳にも行かねぇ。
 ダーナムって辛苦臭ぇ街に入る時、レムスの手下を派手に叩いちまってるかんな。

 ハイそうですか、どうぞお帰り下さいよってな訳には行かねぇ事は解るよな?
 都合も変わっちまったしもうしょうがねぇ、腹癒せついでに竜の化物共をやっつけてやる。
 クリスタルで精々派手に暴れて鬱憤を晴らしてから、大手を振って凱旋帰国と行こうぜ。
 ケイロニア軍の同盟軍として共闘するんだ、折角の機会だから強さの秘密を盗んでやれ。

 お前等も口実を作って奴等に付き纏って、てめぇに何が足りないのか勉強しろ。
 部下共にも良く言っとけよ、ケイロニアの奴等が馬鹿みてぇに強ぇ秘訣を盗めとな。
 どうすればゴーラ軍も奴等に負けねぇ位に強くなれるのか、良く考えるんだ。
 眼の前に折角ケイロニア最強の黒竜騎士団なぁんて、世界最高の御手本があるんだからよ。

 『明日の為に、今日の屈辱に耐えろ』てな堅苦しい台詞(セリフ)を吐く気は毛頭無ぇけどな。
 俺達の方が若いし無限の可能性って奴を持ってんだ、次に会う時にゃ完璧に叩き潰してやる。
 そんな先の話じゃねぇ、そう遠くない未来にゃ俺達ゴーラ軍が世界最強になってやるんだ。
 お前達なら出来る筈だ、俺を失望させんじゃねぇぞ!」

 都合の悪い事は全て運命共同体ナリス、北の王グインに責任を押し付け平然と自己正当化。
 ゴーラ軍の若き将星を前に吼え猛り、我田引水の演説を打ち捲る野心家の運命共同体。
「応っ!」
 イシュトヴァーンの獅子吼に応え、勇者達は天地を揺るがす絶叫を轟かせた。

「1ザン後に動くぞ、間に合わねぇ奴なんざ用は無ぇ!
 真っ先に準備が出来た奴にゃ褒美をやるが、のろまは置いてくかんな!!
 一番槍は早い者勝ちだ、俺に着いて来れんなぁ誰か楽しみにしてるぜ。
 御喋りはこれまでだ、野郎共、さっさと行きやがれ!」

 互いに競争心を煽られ、鎧を激しく衝突させながら走り出す若き猛将達。
 ウー・リー達と共に喧騒が去り、静寂を回復した天幕の裡に抑制された笑い声が響く。


「そなたには、驚かされる事ばかりだよ。
 一体何処で、そんな立派な演説を勉強したのだね?」

 反体制派の遊撃兵(ゲリラ)ではなく、紅の傭兵を自称する陽気な無頼漢(バスタード)
 予知能力にも喩えられる野生の勘、動物的な危機察知能力を誇る魔戦士の運命共同体。
 大衆の心を掴む術を心得た天性の煽動者に劣らず、巧みな人心収攬術を誇る天性の策謀家。
 パロ聖王家の青い血が誕み出した芸術品、アルド・ナリスの唇が賛嘆の詞を紡いだ。

「馬鹿言ってんじゃねぇ、詐術(イカサマ)虚勢(ハッタリ)なんざ御手の物よ。
 俺だって経験の浅い若造じゃねぇ、あっちこっちで色んな経験を積んで来てんのさ!
 レントの海で海賊船に乗って暴れ回ってた時、赤い街道で盗賊やってた時だってそうさ。
 腕と度胸に加えて知恵と勇気たぁ言わねぇが、頭を使って力自慢の馬鹿共を従えたんだ。
 ましてや俺に心服してる可愛い部下共なんざチョロイもんさ、これくらい屁でも無ぇよ。
 ナリス様と初めて会った時から出来てたさ、ゴーラを切り従えたなぁ伊達じゃねぇんだぜ!」

 御世辞とは百も承知であるのだろうが、ナリスに褒められ満更でもなさそうに輝く浅黒い顔。
 イシュトヴァーンの屈託の無い表情、こんな幼児の様な笑顔を見たのは初めてかも知れない。
 この笑顔を無鉄砲な暴れ馬、野心家に無償の愛情を捧げる擁護者カメロンに見せてやりたい。
 マルコの想念は結界の中から見守る黒子、ヴァレリウスにも充分に共感の出来る物だった。

 竜王の操る異次元の怪物が襲来する悪夢、密かに危惧されていた黒魔道の攻撃は無かった。
 イシュトヴァーンに魔王子アモンを護らせる為、キタイの軍勢10万を派遣する。
 ヤンダル・ゾック自身は大規模な反乱を鎮める為、一時的に撤退を余儀なくされた。
 ゴーラ王の催眠暗示命令を素直に解釈すれば、アモンは未だ弱体と判断される。

 ナリスは魔道師を通じ遠隔心話で盟友グインと情勢を検討の後、配置転換を指示。
 カラヴィア軍と聖騎士侯2名を合流させ、パロ解放軍の警戒は魔道師軍団2班に削減。
 竜の歯部隊、黒竜騎士団、金犬騎士団、別動隊、新生ゴーラ軍に同行の《人質》にも各2班。
 6群の軍勢を魔道師12名が警戒する態勢を整え、クリスタル進軍を支援する。

 ワルスタット選帝侯ディモス率いる白象騎士団2千、金猿騎士団2千も行動を開始。
 マルガへ向かわず直接ダーナムへ進軍、グイン率いる本隊の同地制圧後に合流の指示を受諾。
 ケイロニア軍に続く世界最強の座を虎視眈々と狙う若者達、挑戦者(チャレンジャー)の軍団。
 第1次黒竜戦役の際には敵の同盟軍であった神聖ゴーラ帝国、ユラニア出身者が基幹の援軍。
 血気盛んな勇将の率いる軍団も風雲児の檄に応え、記録的な速さで出陣準備を完了。

 ゴーラ王の本陣となる天幕の裡に留まり、再び救国の英雄を演じる美しき虜囚。
 アルド・ナリスは敵を騙すには先ず味方から、の諺を実践し天賦の才を遺憾無く発揮。
 イシュトヴァーンの旧知ヨナ・ハンゼ、少年の侍従カイ等の側近も同行する事となったが。
 パロ解放軍を導き権謀術策を駆使する夢想家の脳裏に、ヴァレリウスの心話が響いた。 
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