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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第69話「仮初の緋き雪」

 
前書き
まずは一番早く結界に突入したクロノsideからです。
再現とはいえ、緋雪の強さは半端ないです。
 

 






       =クロノside=





 片方の結界に突入し、すぐさま辺りを警戒する。
 結界内の様子は、海鳴臨海公園にノイズをかけたような光景で、少し不気味だった。

「(....誰かを再現してくるとすれば、一体誰を...。)」

 一つの推測として出たのは、何かがあった当時その場にいた人物が出てくるらしい。
 優輝の話によれば、緋雪が誘拐された場所では優輝。
 椿と初めて会った場所では椿が、それぞれ再現されたとの事。
 もし、その推測が正しければ、ここには一体...。

「....不気味ね...。」

「気を付けてください。何が起こるか分かりません。」

 まるで古い映像を再生しているかのような、結界の内部に対し、優香さんがそういう。
 ...誰かを再現しているという見方においては、このような光景は合っているな。

「....来たぞ。」

「....あれは....。」

 ザフィーラの声に、僕は沖方面に浮かぶ人影を見つける。
 ...それは、最近ではもう見られない人物だった。

「.....緋...雪.....?」

「...優輝に見せてもらった記録の姿と同じ....緋雪...なのか...?」

 そう、緋雪だ。再現され緋雪が、そこにいた。
 その事に、緋雪の両親は戸惑う。

「惑わされないでください!...あれは、ただの偽物です...!」

「あ、ああ。それは分かっている...。」

「少し取り乱したわ...。」

 そういって、すぐに僕らは身構える。
 緋雪を再現しているとなれば....本気でかからなければ死ぬ...!

「直撃は絶対に避けてください...!一撃の威力は、僕が知っている魔導師の中で随一の強さです...!」

「分かった。優香!」

「ええ!」

 僕が注意を呼び掛けると同時に、再現された緋雪...暴走体は矢を打ち込んでくる。
 それを回避しつつ、優香さんと光輝さんはアイコンタクトで合図する。

「(緋雪の攻撃を防げるとすれば、それはザフィーラだけだ。...尤も、まともに受ければザフィーラでさえ防ぎきれないが...。)」

 僕自身、どう動くか考える。
 ジュエルシードが動力源となっているのだ。一筋縄でいく方がおかしい。

「(...それに、“どの”緋雪を再現しているかにもよる...!)」

 椿を再現した暴走体は、“祟り神”と化した場合というIFの姿を取っていたらしい。
 他にも、僕は覚えてないし知らないので意味ないが、“司”を再現した暴走体も、“もし助からなかったら”というIFを表現していたと聞いた。
 だとすれば、この緋雪も何かIFを...。

「っ!」

 考えている所に、紅い閃光が迸る。
 咄嗟に避け、未だ距離のある暴走体を睨む。

「(仮説が正しいとして、この場所で起きた事から考えると、今の緋雪は...!)」

 攻めあぐねている他の三人を通り抜け、率先して挑みかかる。
 優輝曰く喋らないと聞いていたが、再現された緋雪の表情は...。



   ―――“狂っていた”



「やはり...かっ!!」

 近づいたため、振るわれた拳を何とか躱す。
 躱した際にバインドをかけ、すぐさまその場から離れる。

「(あれは緋雪の再現であり...()()()()の再現でもある...!!)」

 かつてベルカ時代にて、“狂王”と恐れられた、哀しき少女...。
 緋雪のかつての姿も再現している事に、少し嫌な気分になった。

「クロノ、不用意に近づくな。お前が接近しては、誰も連携を取れん。」

「すまない。早急に確かめたい事があったからな...。」

 隣にザフィーラが来て、僕にそういう。
 確かにあれは連携を取るにしては愚策すぎた。

「そうか...で、結果は?」

「厄介だ...。...ただでさえ、ジュエルシードで本人より強いかもしれないのに、あれは皆の知っている緋雪より強い。」

「っ....。」

 優輝でさえ、代償を無視した反則技を使ってようやく互角になったほどの相手だ。
 ...と言っても、あれは緋雪の想いを受け止めるためだったため、勝つ事はできたらしい。

「勝算はあるのか?」

「...ない訳ではない。...所詮は、暴走体が再現しただけだからな。」

 本人であれば、僕らでは勝てない。
 文献では聖王と覇王でさえ、二人掛かりでギリギリだったらしいからな...。

「指示は任せる。前衛は俺がやろう。」

「了解。優香さん、光輝さん!二人はザフィーラを援護するように中距離か近距離で戦ってください!僕が指示を出しつつ援護します!」

「「了解!」」

 早速散開しながら僕は魔力弾を暴走体に向けて放つ。
 それを、暴走体は避ける事も防御魔法を使う事もなく、拳で相殺する。

 ...デタラメなのは承知。暴走体の攻撃に当たらなければいいだけの事だ...!

「でりゃあああああっ!!」

 僕の魔力弾が拳で打ち消された所へ、ザフィーラが魔力を纏った拳で殴り掛かる。
 ザフィーラは日本の武術でいう“剛”のスタイルだ。地力で勝る緋雪の暴走体相手では相性が悪いが...そこはベルカの騎士。格上の相手への心得も備えているようだ。

「っ、ぜぁっ!」

 あっさり受け止められ、空いた片手で反撃が迫る所を、身体強化魔法を集中させたもう片方の手で殴りつけるように逸らす。
 一手一手が全力な所を見るに、それだけ威力が高いようだ。

「それ以上はさせない!」

「はぁっ!!」

 それだけではまだ追撃がある。
 だから僕はバインドで動きを妨害し、その間にザフィーラは蹴りを入れて間合いを離す。

「今!!」

「「“トワイライトバスター”!!」」

 間髪入れずにそこへ二人の砲撃魔法が入る。
 炸裂による煙幕に包まれ、暴走体が見えなくなったため、僕らは警戒を最大限高める。

「っ....!避けっ...!!」

 一瞬、煙幕の中に赤い光が見えた瞬間、僕は叫ぶのと避けるのを同時に行っていた。
 刹那、寸前までいた場所が赤い大剣で薙ぎ払われた。

「無傷...!予想はしていたけど...!」

 大方、馬鹿力でバインドを破壊してそのまま砲撃を相殺したのだろう。
 ...強すぎるぞ。

「くっ....!」

 咄嗟にもう一度魔力弾で攻撃する。
 だが、それは全て躱され、そのまま間合いを詰められる。

「っ....!」

 振るわれた大剣を紙一重で躱し、バインドで動きを妨害。
 すぐ破られると見越し、だが敢えて接近する。

「“チェーンバインド”!」

「“リングバインド”!」

 そう、優香さんと光輝さんの援護だ。
 それを知っていたからこそ、僕は接近した。
 そして、同じく接近してきていたザフィーラと挟むように、攻撃を放つ!

「でりゃああああああ!!!」

「“ブレイクインパルス”!!」

 どちらも胴に叩き込むように命中させる。
 命中の瞬間、バインドが破壊されたため、攻撃の反動を利用して僕らは間合いを取る。

「やったか...?」

「...いや、これは....。」

 胴に穴を開けた暴走体。
 しかし、平然としたまま、掌を上に向け....。







   ―――大量の魔力弾を上空に展開すると同時に、それらを落としてきた。







「なっ....!?」

 それはまさに雨のような魔力弾。
 しかも、一発一発が非常に強力だ。

「っ....!」

「これ、はっ...!」

「優香...!」

「くっ...!」

 全員が必死に避ける。
 こんなのをまともに防いでいたらたちまちハチの巣になってしまう。

「(それに...!)」

 視界の端に赤色が移る。
 それを認識した瞬間、僕は身を捻らせ、そこから離れる。
 ...そして、赤い大剣が薙ぎ払われた。

「まずっ...!」

「させないっ!!」

 赤い大剣を避けただけでは足りない。
 そのまままた魔力弾の雨を避けるのだが、体勢が崩れた所へ偽物が迫る。
 ダメージを覚悟で、魔力弾の雨を突っ切って回避しようと思った所で援護が入る。

「光輝!」

「任せろ!」

 優香さんのチェーンバインドで暴走体の動きが止まり、光輝さんがデバイスを繰り出す。
 その間に僕は間合いを離し、そこでようやく魔力弾が治まる。

     ギィイイン!

「ちっ...!」

「でりゃあああっ!!」

 しかし、バインドはすぐに破られ、剣型デバイスによる攻撃を再現されたシャルラッハロートによって防がれる。
 そこへザフィーラも追撃に入るが...。

     キィイイン!

「ぬ、ぐっ...!」

「二人とも離れて!!」

 それは防御魔法に防がれる。
 だが、それを見越した優香さんが、暴走体が何かを仕出かす前に魔法を放つ。

「“アトミックブラスト”!!」

 巨大な魔力弾が暴走体目がけて放たれ、咄嗟に光輝さんとザフィーラは飛び退く。
 しかし、暴走体はその魔力弾に掌を向け...。





   ―――握るとともに魔力弾を爆発させた。





「なっ...!?」

「(“破壊の瞳”...!)」

 優輝や緋雪自身から聞かされた事のある、緋雪のレアスキル。
 それによって、魔力弾は無効化された。

「っ、しまっ...!」

 刹那、暴走体は僕に接近し、再現されたシャルラッハロート...杖を振り下ろしてくる。
 咄嗟に僕は三重の防御魔法を使い、さらにデュランダルに魔力を通して防御する。

「がっ...!?」

 ...無意味だった。
 いや、実際はだいぶ威力を減らしたのだが、暴走体は全ての防御を突き破って僕にダメージを与えてきたのだ。
 おかげで、僕は海へと一直線に叩き落される。

「っ....!」

「このっ...!」

「でりゃああああ!!」

 すぐさま復帰しようと飛び上がる。
 その間に光輝さんとザフィーラが攻撃を仕掛けるが...。

     ギィイイン!バシィイッ!

「「っ....!」」

 光輝さんは杖に、ザフィーラは素手で攻撃を受け止められる。

「ぐぅ...!」

「っ、がはっ...!?」

 そのまま、光輝さんは剣ごと吹き飛ばされ、ザフィーラは腕でガードし、タイミングを合わせて飛び退いたものの、反撃で殴り飛ばされてしまう。

「(っ、まずい...!)」

 吹き飛ばしたザフィーラに向け、暴走体は掌を向ける。
 それを認識した瞬間、僕は魔力弾を展開しつつ暴走体に向けて一直線に加速する。

「させるかぁああああ!!」

     バチィイッ!!

 魔力弾をコントロールし、掌をかちあげる。
 意識をこちらに逸らす事にも成功し、暴走体はこちらへと向く。

「優香さん!」

「分かったわ!」

 光輝さんはともかく、ザフィーラが立て直すまで僕と優香さんで時間を稼ぐ。
 幸い、暴走体は僕に集中したようなので、庇う必要はない!

「(一撃一撃が必殺。おまけに、速い!...だけど、対処できない訳じゃない!)」

 僕はこれでも執務官として強くあろうとしてきた。
 優輝達と出会ってからは、さらに精進しようと強くなった。
 だから、これぐらい...!

「(バインドは気休め程度!タイミングをずらすぐらいにしか使えないが、それで充分。優輝のように巧くはできないが...!)」

 懐に入り込み、同時に優香さんのバインドが仕掛けられる。
 それで一瞬タイミングが遅れるも、無理矢理引きちぎって僕へと拳を振りかぶる。
 それに対し、僕は防御魔法を使って、進路を逸らすように防ぐ。

     パキィイン!

「“ブレイクインパルス”!!」

 その試みは成功し、防御魔法が破られる代わりに攻撃は逸れて僕の横を通り抜ける。
 それを見届ける事もなく、デュランダルを押し当てて魔法を行使する。

「おまけだ。受け取れ!」

 そのまますれ違うように通り抜け、振り返りざまに待機させておいた魔力弾で攻撃する。
 暴走体の再生能力は緋雪を再現している事もあって非常に高い。
 ...いや、ジュエルシードが核だからというのもある...か。

 とにかく、この程度では倒せない。まだ、何か...!

「っ!」

 次の行動を起こそうとした瞬間、上に飛び退く。すぐそこを赤い大剣が通り過ぎる。

「くっ...!」

 そこから生死を賭けた鬼ごっこが始まる。
 凄まじいスピードで暴走体は僕を追いかけてくる。
 それを僕はバインドや魔力弾を駆使して何とか逃げ回る。
 優香さんの援護も入るが、それでも徐々に距離を詰められる。

「っ...!」

「クロノ君!」

 追いつかれ、大剣を振りかぶる暴走体。
 優香さんのバインドも空しく無効化される。立て直した光輝さんが追いつく時間もない。
 絶体絶命....普通はそう思うだろう。

「喰ら、えっ!!」

     バチィイッ!

 暴走体の顎からかちあげるように、魔力弾が当たる。
 ...一つだけ残しておいたのだ。

「(体力が持たないな...。決定打になる攻撃もなかなかできない...。だが、これで...!)」

 かちあげた際の怯みを利用し、僕と優香さんでありったけのバインドを掛ける。
 この隙に、特大の砲撃を...!

「っ、がぁっ!?」

 そう思った瞬間、吹き飛ばされていた。
 体勢を立て直しつつ、何があったか考えて、今のが魔力の衝撃波だと察する。

「あれだけバインド掛けてもこれか...!」

 魔力を開放した事による、衝撃波。
 それは近くにいた僕を吹き飛ばしただけではなく、バインドも解かれていた。

   ―――“レーヴァテイン”

「やばい....!」

 赤い大剣が、さらに炎を纏い、大きくなる。
 全てを焼き尽くさんとする炎の魔剣が、僕へと牙を向く...!

「がっ...!」

 縦に振るわれるのを横に避け、さらに防御魔法を張る。
 しかし、余波だけで僕は吹き飛ばされてしまう。

「くっ...!」

 ふと暴走体を見れば、僕へ向けて掌を向けている。
 まずい、今は体勢が...!

「“ソニックエッジ”!!」

     ―――ザンッ!!

 その瞬間、僕に向けてあった掌の手首ごと、斜めに胴体が斬られる。
 ...立て直した光輝さんの高速移動と共に繰り出された斬撃だ。

「...ったく、娘と同じ姿を斬るってのはなんか嫌だぜ...!」

「光輝!」

「分かってる!」

 すぐさま光輝さんは構え直し、再生して既に動けるようになっている暴走体に向く。
 まったく...!再生能力が高すぎる...!

「....優香、やれるか?」

「...わからないわ。」

「そうか...。」

 光輝さんが優香さんに何かを聞き、傍に寄った優香さんがそう答える。
 一体、何を...?

「...クロノ君、要所要所で援護...できるか?」

「...はい。しかし、一体何を...。」

 ザフィーラはまだ復帰できていない。多分、復帰できたとして腕を怪我しているだろう。
 そんな状況で、二人は一体何をするつもりなんだ...?

「...偽物だが、いっちょ娘に俺たちの連携を見せてやるか...!」

「ええ!」

 瞬間、光輝さんが空を駆け、優香さんが魔力弾で援護をする。
 それを迎え撃つように、暴走体が剣を振るうが...。

「はぁああああっ!!」

     ッギィイイン!!

「喰らいなさい!」

 光輝さんはデバイスを全力で大剣の側面に叩きつけ、逸らす。
 その隙に優香さんが魔力弾で攻撃する。

「ちっ!」

「まだよ!」

 しかし、それは片手間の防御魔法で簡単に防がれる。
 すぐに優香さんが追撃を放ち、光輝さんは回り込むように何度も斬りかかる。

「.....!」

 その連携は、まさに阿吽の呼吸。
 基本は前衛と後衛だが、互いをフォローし合うように偶に入れ替わる。
 夫婦ならではの連携が、そこにあった。

「(....ここだ!)」

 しかし、それだけでは足りない。再現とはいえ、相手は緋雪の再現だ。
 本来なら、小手先程度の応用は通じない。
 だから、僕は攻撃後にバインドを仕掛ける事で、隙を作る。

「はぁああっ!」

 その一瞬の隙を利用し、光輝さんは暴走体を吹き飛ばす。
 その先に優香さんが魔力弾で攻撃し、反対に吹き飛ばし、また光輝さんが攻撃する。

「っ!?」

     バキィイッ!!

 しかし、そんな都合よくいくわけがなかった。
 斬られながらも暴走体が攻撃を繰り出し、光輝さんのデバイスを破壊した。
 咄嗟に、僕がバインドをかけて動きを一瞬止める。

「はぁっ!」

「っ!?」

 本来なら、飛び退いて態勢を立て直すべきだろう。
 しかし、デバイスがしばらく使い物にならなくなっても、光輝さんは攻撃を繰り出した。

「“コンプレッションストラッシュ”!!」

 一応隙はあったため、魔力の籠った蹴りが入って暴走体を吹き飛ばす。
 その背後に回り込んで斬るように、魔力を刃状に圧縮してデバイスに纏わせた優香さんが思いっきり斬りかかる。

     ッギィイイン!!

「っ、ぁ...!?」

「はぁっ!」

 しかし、暴走体はそれに反応し、魔力を込めた杖で受ける。
 攻撃を何度か喰らい、再生も間に合ってない状態であるにも関わらず、その威力は高かったのか優香さんの攻撃は相殺されてしまう。
 それをカバーするように、光輝さんが再度蹴りを喰らわせる。

「これで...どうだ!」

   ―――“ブレイズカノン”

 もちろん、僕も黙って見ていた訳ではない。
 片手間に魔力を溜めつつ、バインドで動きを止め、そこへ砲撃魔法を打ち込む。
 バインドで動きを止めるまでにしっかりと準備はしておいたため、砲撃魔法までのタイムラグはほとんどなかった。
 さすがに、今のは命中しただろう。

「―――っ!?がっ...!?」

 だが、その考えを否定するように、赤い刃が砲撃を突っ切ってきた。
 それは咄嗟に躱そうとした僕の脇腹を掠って行った。

「....魔力を圧縮し、伸ばして相殺...か...!」

 その赤い刃は、先程から使っていた大剣だ。
 それを砲撃魔法に向けて伸ばし、僕へと貫通させたという訳だ。

「だけど、これなら...!」

 デュランダルをその赤い刃に沿わせ、滑らせるようにそのまま暴走体に接近する。
 魔力を身体強化重視に使い、そのまま吹き飛ばされないようにしておく。

「っ....!」

 剣による攻撃を封じる手段としては、最適だっただろう。
 しかし、暴走体は片手で大剣を扱っており、もう片方の手は、こちらへ向けられていた。

「破壊の瞳....!」

 回避は不可能。阻止も今からでは不可能だろう。
 ...だけど、大丈夫だ...!

「させないわ!」

 魔力で作られた矢がその手に突き刺さる。
 優香さんによる援護射撃だ。さらに、光輝さんのバインドもかかる。

「“ブレイクインパルス”!!」

 援護によって作ってもらった隙を利用し、暴走体の胸に思いっきり魔法を叩き込む。
 その反動で僕は飛び退き、二人の魔法が炸裂する。

「「“トワイライトバスター”!!」」

 二筋の極光が暴走体を呑み込む。
 ようやく決定打にもなりうる魔法が当たった。これで...!

「なっ....!?」

 決まった。...そう思っていた。
 しかし、防御魔法を利用したのか、弾かれるように暴走体は射線上からずれる。
 その勢いを利用し、凄まじい勢いで僕へと接近して...。

「でりゃぁあああああ!!」

 横合いからの蹴りに再度吹き飛ばされた。

「ザフィーラ...!助かった。」

「...遠目から見えていたが、あれでも仕留めきれないのか...。」

 蹴りを放ったのはザフィーラだった。ようやく復帰できたのだろう。

「....ザフィーラ、まだ戦えるか?」

「...軽減したとはいえ、攻撃をまともに受けた。...しばらくは腕は使えん。」

 そういうザフィーラの腕は少し震えていた。
 おそらく痺れているのだろう。...骨が折れていないだけマシかもしれん。

「だが、この程度で戦闘不能など、守護獣としてありえん。まだ戦える。」

「そうか...。」

 劣勢なのは変わりない。とにかく、間合いは離せたのだから、今の内に...。
 ...まて、僕らは攻撃に警戒していつでも動けるようにしている。
 しかし、未だに攻撃が来ない。と、いう事は...!

「しまった...!“ブレイズカノン”!!」

 すぐさま暴走体に向けて砲撃魔法を放つ。
 ...攻撃してこないという事は、何か大魔法を仕掛けてくる...!

   ―――“フォーオブアカインド”

「間に合わなかった...!?」

 魔法陣が展開され、影が三つ飛び出す。
 残った一つが防御魔法を展開し、僕の砲撃を防ぐ。

「分身...?」

「気を付けてください!」

 僕がそう叫んだ瞬間、三つの分身が他の三人を搔っ攫うように突進してきた。
 しまった...!分断された...!

「っ、ぁああっ!!」

     バキィイイン!!

 離された三人に気を取られ、咄嗟にデュランダルに魔力を込めて振るう。
 そこへ暴走体の杖が当たり、僕は吹き飛ばされる。

「(一対一に分断だなんて...!これでは...!)」

 厳密には、優香さんと光輝さんは連携を取ったため、二対二になっている。
 それでも、ピンチには変わりない...!

「(いや、むしろこれは...!)」

 しかし、先ほど吹き飛ばされた時、何か違和感があった。
 そう、これは...!

「っ、はっ!!」

 体勢を立て直し、再度斬りかかってくるのを躱してバインドで動きを止める。
 ...やはり、若干だけどさっきまでよりも弱くなっている...!

「(分身した際、能力も分散されるのか...!)」

 しかし、だからと言って僕では勝てない。
 現に今も、魔力の衝撃波で吹き飛ばされた。

「『分身したからか、個々の能力は落ちている!本体は今僕が相手しているから、何とか分身を遠ざけて援護を!』」

 念話で三人に伝える。
 倒すように言わないのは、それだけで一苦労なのと、倒すと力が戻るかもしれないからだ。

『......<ザザ>....ロノ...ん...!....クロノ君!』

「『っ...エイミィ!?』...ぐぁっ!?」

 そこでいきなりノイズ混じりの通信が繋がる。
 しかし、いきなりだったので大きく吹き飛ばされてしまった。

『クロノ君!?』

「なんだ...?こっちは結構ピンチだ...。援護ならば助かるが...。」

 再び振りかぶられる杖を、弾き飛ばされるように受け止め、間合いを離す。
 その際にバインドを仕掛けておくのも忘れない。

『っ、緋雪ちゃんの姿...!?わかった!すぐにプレシアさんの援護を!』

「っ...!よし...!わかった!」

 これは朗報だ。どうにかしてプレシアさんの魔法を当てれば、それだけで形勢が逆転できるかもしれない。

「(そのためにも...!)」

 すぐさまザフィーラの下へと飛んでいき、脚だけで凌ぐザフィーラを助け出す。
 魔力弾を展開し、フェイントを織り交ぜて命中させ、バインドで一時的に止める。

「ぐ、ぅ....!」

「飛ぶぞ!」

 既に満身創痍になってしまったザフィーラを連れ、今度は優香さんと光輝さんの方にいる分身に魔力弾を放つ。
 躱されてしまったが、その隙に二人が攻撃を繰り出し、吹き飛ばしてから僕らの所へ来る。

「....何とかして本体だけでも動きを止めます。そうすれば...。」

「分かった。....行けるか?」

「ええ。」

 察しがいいのか、二人はすぐに了承してくれる。
 そこで仕掛けておいたバインドが解けたのを確認する。
 その瞬間、四体の暴走体&分身がこちらに向かってきた。

「来ます!」

「クロノ君と私で動きの制限!光輝とザフィーラさんは防いで!!」

「無茶を言うな...!」

 僕と優香さんが魔力弾の弾幕を張り、暴走体とその分身の動きを制限する。
 動きを読みやすくする程度だが、これで対処が可能だ...!

「盾の守護獣たるもの...ここで防いで見せる!!はぁああああああああ!!!」

 近づいて来たところを、ザフィーラが雄叫びを上げながら大きな防御魔法を張る。
 余程の魔力を込められたのか、四人がぶつかってきても破壊はされなかった。
 しかし、飽くまで“破壊”はされなかっただけで、繰り出された拳は貫通していた。
 だが、それをザフィーラは気合で動かした手で受け止める。
 光輝さんもそれに続くように、本体の杖を気合で防ぐ。

「させない!」

 さらに追撃が来る所を、僕がバインドで動きを止める。

「“レストリクトウィップ”!!」

 四人が纏まった所を、優香さんが鞭のように巻き付ける拘束魔法を使い、捕縛する。

「全力で止めろ!」

 そこへ、僕と光輝さんが追加でバインドをする。
 ザフィーラはさっきので戦闘不能なため、動けなくなっていた。

「今だ!!」

   ―――“サンダーレイジO.D.J”

 通信を通して僕が叫んだ瞬間、極大の雷が落ちた。
 かつてジュエルシード事件の時にも見た、次元跳躍魔法だ。

「ジュエルシード、封印!!」

 雷に晒され、隙だらけとなった所へ、封印魔法を放つ。
 ...ようやく、封印できた...!

「う、ぐ....!」

「っ、ザフィーラ!」

「...心配無用だ...!」

 今にも落ちそうになっているザフィーラを支える。
 当たり前だ。魔力を振り絞り、ほぼ使えなくなっていた手を無理矢理使って暴走体達の攻撃を受け止めたのだ。無事で済ませれるのは緋雪本人か優輝ぐらいだ。

『クロノ君!結界が崩れて元の世界に戻るよ!』

「分かった...!」

 エイミィの通信に答えつつ、崩壊していく結界を僕らは眺めた。

「...所詮は、偽物だったという訳か...。」

 理性もなく、ただ再現しただけの暴走体。
 本物であれば、僕らの動きに合わせて戦法も変えてきただろう。
 ...何より、再現しきれていなかった。

「(....まだ、事件は終わっていない。ここで倒れる訳にはいかないな。)」

 結界が崩壊し、僕らは元の世界へと帰っていった。











 
 

 
後書き
アトミックブラスト…巨大な魔力弾をぶつける。見た目は元気玉っぽい。

ソニックエッジ…刃を飛ばすのと、直接斬る二種類に使い分けれる。どちらも超高速の魔法で、“ソニック”の名に恥じない。もちろん直接の方が威力は上である。

コンプレッションストラッシュ…魔力を武器に圧縮し、繰り出す斬撃。単純且つ強力な魔法だが、少しの溜めが必要なため、使いどころを見極めなければならない。

レストリクトウィップ…鞭のように振るい、巻き付けて拘束する捕縛魔法。

偽物だけどクロノ達を圧倒する緋雪。スペックが高かったから仕方ないね。
結局プレシアさんの援護射撃により、あっさり終わってしまいましたが、これがなければクロノ達は相討ちレベルで苦戦していました。
ザフィーラを盾の守護獣っぽく活躍させたかった。その結果がこれです。
...少しは防御に役立ったからいいよね?(劇場版以下の活躍)

さて、次は....なのは達か。 
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