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『チロの物語』

作者:零那
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『砂浜』



僕は、知らなくて
いいことを
知ってしまった。

解りたくないことを
解ってしまった。

お母さんは流那チャンを
おそれてたんだ
我が子としてではなく
同じ女という
生き物として...

それが何を
意味するのかは
解らないけど
良くない関係
ってことは解った。

お母さんが、前の
違う男の人と
付き合ってた頃も
似たようなことを
言っていた。

『今の彼氏なぁ
流那のこと
可愛い可愛い
言うて連れてこい
言うんやでぇ。
ほんま怖いわ
流那だけは...』

そのときはマダ
僕は今より小さくて
今より何も
解ってなかった。

お母さんは
流那チャンを
我が子として
見ていない...?

同じ女として
見てるのかも...?
まだまだ子供の
流那チャンを...

そんな事を
思い出しては
考えていた。

流那チャンはずっと
真っ黒で静かな海と
睨めっこしてた。
でも、僕のことを
守るように
包むように...
チャント温かい手で
かこまれていた。

僕は、こんなに
幸せなのに
流那チャンは...
きっと幸せ
じゃないんだよね。

たぶん此処に
来れるのも、あと
何回かだけだよね?

『無駄な抵抗でも
限界迄抵抗する。
其れが無力な
子供の意地やな』

流那チャンは
そう言った。

そしてもうひとつ。

『此処を出ても
絶対あの気色悪い
オッチャンと上手く
やれんのは解る。
どぉなんねやろ...
あんな奴には
死んでも
殺されたくない。
あ~!!
嫌や嫌やっ!!
死んだ方がマシかも』

そんなの僕が
絶対に嫌っ!!

『痛っ!』

えっ...
あ...
ごめん!!
流那チャン!!

僕は流那チャンに
爪を立てていた。

嫌だって気持ち
強過ぎた...

ごめんね...
でも...

『チロ...ほんま
すごいわチロ...
ホンマ大好きやで...
離れたくないけど
あの子達から
お母さん代わりを
奪えんから...
それに、此処より
不幸な処になるって
解るから...
チロを不幸に道連れ
したぁないから...
大好きやから
尚更なんや...
解って欲しい...』

僕が流那チャンと
一緒に見る砂浜は
此の日が
最期になった。


 
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