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ViVi・dD・OG DAYS

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第1話 再会

 フロニャルドの大地を。そこに住まうすべての生命(いのち)を――。
 愛おしく見守る天空の女神が祝福を与えているかのように、心地よい晴れ間が大陸全土に広がっている。
 再び此の地へ舞い降りる者達を――そして新たに大地を踏みしめる者達を歓迎するかのように、希望の風がなにかを囁きながら舞い踊る。
 そんな暖かくて優しい想いが澄み渡る青空に、突如現れて空間を神秘的な雰囲気へと(いざな)う2本の柱。
 フロニャルド大陸の上空。距離のだいぶ離れた2つの地点。
 それぞれの地点に光の柱が1本ずつ――(いかずち)を纏う光の亀裂が時空を切り裂き、最初は人間の身の丈ほどの小さな棒状だったそれも、次第に大きくなり、神々しい光を帯びた巨大な柱となりて上空にそびえ立つのであった。
 
 そして、柱は再び中央へと凝縮を始め、大人がすっぽりと包み込まれるほどの大きな花の蕾の形をした、光の玉へと姿を変える。
 大陸の上空で浮上している、2つの光の玉。
 やがて1つはビスコッティ共和国内の天空を望む浮島の高台へ――。
 もう1つは、ビスコッティ共和国と同じくフロニャルドの南方に位置する海の恵み豊かな国――ガレット獅子団領国のヴァンネット城。その眼前に広がる海面に突出した崖を目指して、流れ星の様に降り注ぎ始めるのであった。

 ここ最近、たまに此の地に住まう人達が目にする光景――勇者召喚の儀。
 それはまさに希望の光。大陸にもたらす幸せな時間の始まりを知らせる光。
 人々は皆、これから起こる楽しい時の幕開けに期待と高揚感を抱き、放たれた光を反射したかのようなキラキラと輝いた瞳と、胸躍る微笑みの表情で光を見つめていたのである。そして、此処にも――。

 天空を望む高台を目指し、大陸特有のダチョウに似た大型鳥――フロニャルドに生息する『セルクル』と呼ばれる騎乗鳥に跨り、颯爽と目的地へと駆けつけようとする数名の少女達。
 彼女達の前方――高台を目指して降り注ぐ光の玉を見つけた少女達――。
 純粋に会える喜びの表情。遊んでもらえる期待の表情。そして――
「私は別に会いたくはないのだが、姫様が会いたいのであれば私に拒む権利などなかろう」と言う、顔を赤らめてソッポを向いている表情。
 表情こそ三者三様ではあるものの――彼女達全員の尻尾は、セルクルがもたらす振動に揺れるソレとは関係なく、ブンブンと勢い良く外套を揺らしていたのであった。
 少女達の先頭を走る――この地に生息するセルクルの中でも稀有な存在である『飛翔種』の、誇り高き白の愛騎・ハーランに跨る少女。
 ミルヒは今日から始まる――再び起こるであろう楽しい時間を想像して、光の柱を顔中で反射したかのような眩しいほどの笑顔。
 そこに一抹の不安の表情を添えて、目的地へと近づいていく。

 目的地を目指して一直線に降り注いでいた2つの光の玉。
 その片方――ビスコッティを目指していた玉が途中で更に2つに分離を始める。
 分離した光は方向を変え、ビスコッティ共和国の隣国――パスティヤージュ公国の方向へと突き進むのであった。
 それを眺めていたミルヒは、遠い2国へと想いを馳せ――後ほど合流する予定の各国の勇者達の姿を思い浮かべて微笑みを溢す。
 しかしその反面、杞憂であるとは思うものの、どうしても拭い切れない不安が募る。
 ――自分の国の勇者に早く会いたい。早く姿を見て安心したい。大丈夫だと思いたい。
 きっと彼女の後ろに付き従う少女達も同じ想いでいたのだろう。
 そんな逸る気持ちに蓋をして、先を急ぐ彼女達なのだった。 

☆★☆

 高台へと通じる階段の登り口へと到着した彼女達は、セルクルを止めると急いで飛び降り、様々な思いに比例している心臓の鼓動のように、早鐘の勢いで階段をかけ上る。
 階段を上りきった彼女の目の前に、高台へと辿り着いた光の玉が眩い光を放ち光臨する。
 やがて光が和らぎ、花が咲くかの様に蕾を開き始めるのだった。

「…………」

 光の玉と対峙するミルヒは、固唾を飲んで蕾が開くのを見守っている。
 やがて、完全に開かれた蕾の中から現れたビスコッティの勇者――。
 シンク・イズミ――シンクと呼ばれる少年の姿に安堵すると共に、喜びの表情を浮かべて外套越しでもわかるほどに尻尾をパタパタ揺らしながら近付いていくのだった。

「――おかえりなさい、シンク」
「ただいま、姫様」

 笑顔で言葉を送る彼女に、同じ表情で返す彼。
 そして、どちらからともなくハグをすると彼は彼女の頭を懐かしそうに撫でるのであった。

「……なんとか今回は、無事に帰ってこれました」
「はいぃ。ホッとしました……あっ、タツマキも大儀でしたよ?」

 彼女は前回のアクシデントを思い出して苦笑いを浮かべる彼に安堵の旨を伝え、彼の足下に座る――勇者召還の(ろう)(ねぎら)うように、ビスコッティ騎士団の使役犬。隠密隊のベテランオンミツのタツマキに感謝を述べるのだった。

 彼が彼女へ向けた「今回は、無事に帰ってこれました」と言う言葉。
 前回の召喚の際に、彼と――彼の従姉であり、ガレット獅子団の勇者――。
 高槻 七海(たかつき ななみ)――ナナミと呼ばれる少女の身に起きた出来事を指しているのだった。

 前回、彼と彼女は学校の休みを利用して、とある世界大会に出場していた。
 そして大会終了後。家に戻らずそのまま召還に応じた為、同じ場所から召喚されることになったのである。
 ところがその際――召還の魔方陣へと吸い込まれた落雷の影響により、本来の召喚先である高台と崖へは辿り着けず、別の場所へと飛ばされてしまったのだった。
 とは言え、なんとか無事にミルヒ達との再会を果たしたシンクとナナミ。
 それと同時に、普段通りの召還では出会うことがないであろう――竜の巫女達との出会いや魔物との遭遇。
 はたまた、竜の巫女と知り合ったからこその――空の巫女や里の歌姫達との出会いさえも果たしていた。
 勇者とは決して魔を滅ぼす者を称える言葉ではない。
 勇者とは勇気ある者。
 困難に立ち向かう者。
 与えられた試練を乗り越え――前人未到の新しい道を切り開く者。
 つまり神に選ばれし者を称える言葉なのだと思う。
 そう、まさにフロニャルドの勇者達は常に前人未到の新しい道を切り開いてきた。
 前回の件も然り――そんなところが勇者たる素質なのだろうとも思える出来事であったのだ。
 何はともあれ、前回のような出来事もなく、普段通りの再会であることを互いの体温で確かめ合う2人なのであった。

☆★☆

 彼の手は未だに彼女の頭を撫でている。彼女も嬉しそうに、尻尾を振って受け入れている。
 すっかり2人だけの世界に入っているのだが――

「――んんっ!」

 ミルヒの背後。少し離れた場所に立っていたビスコッティ騎士団親衛隊隊長。
 エクレール・マルティノッジ――エクレの愛称で呼ばれる少女の苦虫を潰したような表情を浮かべた咳払いに、2人はハッと我に返ると、慌てて顔を赤らめて離れるのだった
 ミルヒと距離を取った彼は、視線を移してエクレと――。
 彼女の横に立つ、ビスコッティ王立学術研究院主席のリコッタ・エルマール――周りからはリコと親しみを込めて呼ばれている少女へと、再会の喜びを表す満面の笑みで近づくのだった。

「――エクレとリコも、久しぶり!」

 2人の前に立った彼は満面の笑みのまま、再会の挨拶と握手を交わす。

「勇者様、お久しぶりなのであります……えっと……大変申し訳ないのでありますが……」
「――ふんっ! ……貴様は、姫様を何だと思っているんだか。そもそも今日は迎えに行かねばならないところがあると言うのに」
「「……そうでした」」

 彼の言葉に対してリコは笑顔を浮かべて挨拶を交わしたのだが、長話をしていられる時間はないのだろう。苦笑いの表情に変えて早々に話を切り上げようとしていた。
 その横で顔を赤らめながらも、彼を邪険に扱うエクレ。
 だが、この後の予定についてはシンクとミルヒも承知している話。2人は同時に苦笑いを浮かべて答えるのだった。
 
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