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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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第五一話 乱入

 A―103演習場 近郊

 其処に重厚なフォルムを持つ戦術機たちの姿があった。F-4の改造機、F-4J改・瑞鶴だった。

『体の調子はどうだい?』
『リミッターは掛けている。このシステムの強みは活かせんが普通の操縦とそん色ない程度には動ける。』

 白い瑞鶴の一機が先頭に立つ蒼の瑞鶴へと通信を送る。それに続いてもう一機の白い瑞鶴を駆る女性衛士、今井智絵からも言葉が届く。

『また神経の炎症や毛細血管の破裂とか御勘弁願います。』
『あの時は迷惑をかけたな。』

『全くです、これ以上命を試す事はお控えください―――中尉も悲しみます。』


 今井の諫めるような言葉が届く、女故の言葉にややバツが悪くなる。
 だけど、自分の行動はこれからも変わらないだろう。

『だが強くなければ死ぬしかない―――多少の無理は承知の上だ。だが、お前らもいるんだ多少の無茶は通せるさ。』
『そういわれるとくすぐったいね。だが、頼られれてるというのは嫌いじゃない。』

 多少の笑いを含めた声で白い瑞鶴を駆る男が言う。それにややげんなりした声で横に居た赤の瑞鶴を駆る少年が口にした。


『甲斐中尉、程ほどにして下さい。昔からそういう事言うと調子に乗って無理難題押し付けてくるんですから。』

 過去、強がってみせた自分に課した拷問ともいえる訓練の数々を思い出す……真冬に池に腰までつかって延々と素振りをさせられたり、腕が上がらなくなるまで木棒打ちをやらされたり、丸一日型稽古をやらされたり――――

 スパルタなんて言葉が生易しく感じられる程苛烈な稽古の数々―――思い出しただけで震えてくる。

『無理難題じゃないさ。泣きべそ搔きながらもちゃんとやれただろ?喜べ、戻ったら全身全霊でしごいてやる、泣いて喜ぶ程にな。』
『………鬼ね。』

 愉悦を滲ませた蒼の瑞鶴を駆る男――――忠亮の言葉に呆れを主成分とした今井の声が届く。
 顔を青くしている赤い強化装備を纏う少年が哀れに見えてしょうがない。


『―――始まるみたいだよ。』


 白き瑞鶴を駆る片割れ、甲斐の言葉に一同が演習場へと視線を移す。先頭に吹雪が二機、続いてF-15イーグルの改修機に米軍のF-15Eストライクイーグルが一機づつ……別方向からソ連軍のSu-37が4機。
 そして、それらをデータリンクを通じて見た蒼の瑞鶴の操縦席で忠亮が呟いた。

『エリア51の最精鋭(トップガン)の実力、見極めさせてもらおう―――来るべき有事の際の良い比較対象(ベンチマーク)となる。』

 その言葉、声色に冷徹さで覆われた憎悪があることにその場の3人のうち、誰が気づけたのだろうか――――それは誰も知らない。





『くそっなんだこの過敏な反応は!欠陥機じゃないのか!?』

 始まった模擬戦、その戦闘にある吹雪を駆るユウヤはその挙動を制御しきれていなかった。
 そもそもに於いて近接戦闘を常に前提に於く日本帝国の機体は反応速度を重視し機体の遊びを極限まで削り取っている。

 機動砲撃戦を主軸に於いた米軍機とは反応速度係数が段違いだ―――だが、それは所詮は慣れの問題。真の問題は別にある。

『くっ照準がぶれる…!!』

 激しく揺れる機体、まるでアル中の照準だ。そんなものでは到底まともに銃撃など出来るハズもなく目標の要撃級に軽傷しか与えられない。

『ちぃいい!!』

 吹雪の機体が着地する、途端にたたらを踏む。跳躍ユニットを即座に再点火、噴射滑走を行う―――しかし、ど素人のスケートの様にフラフラと頼りない挙動で如何にか要撃級の攻撃を回避するモノのそちらに手いっぱい、かろうじて反撃するも集弾性の低下した状態では到底致命へと至らない。

『どうしたんだユウヤ!酔っぱらってんのか!?』

 反してタリサの駆るもう一機の吹雪は不慣れゆえの多少の大げさな挙動とその修正に追われてはいるモノの軽快な運動性を発揮して次々とBETAを撃破して行っていた。

『おいおい、どうしちゃったんだ先生?』

 お道化た声、イタリア軍衛士のヴィンセントの駆るF-15ACTVが複数のスラスターを連動させた機動にて機動砲撃戦を仕掛ける。
 彼の母国であるイタリアではEF-2000の実戦配備が進んでいる。格闘性能と機動性能何方を重視するかの違いはあれど大まかな仕様が似通っている為か高い親和性を見せる彼の操縦―――ロケットモーターを多用した多段階的な加速を多用するタリサの操縦とはかなり違う。

『機体トラブルかしら?』

 アメリカ軍から供与されたF-15Eストライクイーグルを扱うステラ。此方はヴィンセントのF-15ACTVがかき乱した敵の陣形に的確な狙撃を行い確実かつ堅実に敵を撃破して行っている。

『チョビ!なんでお前こんなの扱えるんだ!?』
『ん?結構微妙な誤差あって全然扱えてないよ!でもま、F―15ACTVにちょっと近い感じはあるかな。』

 乗り手の不慣れ、そして機体側の自己学習機能が学習途中であるため効力を発揮していないことによる未慣熟。
 それは確かに存在するのは分かるが、自分もその点においては全く同じはずなのに実戦機動すら覚束ない自分とは雲泥の差。

 其処にタリサ、アルゴス02のF-5ACTVに似ているという言に解決の糸口を求めようと脳内でシルエットを重ねてみるが―――共通項は見いだせなかった。


『アラートはなし、機体が正常だってのか!?』

 ならば自機の不具合かと思ったが自己診断プログラムは問題なしを告げているし、ヴィンセントという凄腕の整備士があからさまな問題を見逃すとも思えない。

『くそ!くそっ!くそぉっ!!』

 酔っぱらったような挙動で突撃砲で弾丸をばら撒く。主機出力の低い機体を実戦で使おうとすれば大胆さと繊細さを併せ持つ操縦を必要とされる。
 それは機動と共に失われていく機体の運動エネルギーを回復することが難しいからだ。

 低出力であるが故に危険度は少ないが、練習機には戦術機を乗りこなすための全てがありそれ故に極めるのは至難。

 普通の実戦機は衛士の腕前のバラツキを機体性能である程度補うようにできている。

 つまり、並みの機体以上に衛士の腕前が問われる機体なのだ――ユウヤは吹雪に『貴様は未熟だ』と拒絶されているような錯覚さえ覚えた。

『―――弾切れ!?』

 新兵のような失態。訓練生かよと内心毒づく。

『ユウヤ!カタナを使え!!』
『カタナ……!?』

 吹雪の背中に装備されたそれを思い出す、しかしユウヤには短刀の使用経験はあれど長刀の使用経験はない。
 こんな制御が覚束ない機体でそれを使いこなせるとは到底思えなかった。

 ――――しかし、迫りくる要撃級の軍勢。悩んでいる暇はない。

『ちっ!!』

 長刀を兵装担架から抜刀。要撃級に向け吹雪の機体が奔り出す。
 だがしかし――――――――


『堪えろよっ!!』

 踏み込みに伴いよろける吹雪の機体、長刀に機体が振り回され機体が転倒を始める―――



『――――――無様。』


 行き成りのオープン回線から飛び込んでくる声。そして、スッ転んだ吹雪の機体に振り下ろされる要撃級の頭部が弾け飛んで赤黒い噴水が上がる。

 そして飛び込んでくる蒼の機影―――――

『ッェイ!!!』

 電光石火、剣閃が奔り一瞬遅れて血飛沫が吹きあがり要撃級の肉体が分断された。
 更に、皮切りに白と赤の機体が飛来する。

 白い機体が長刀を両腕に携え交差の一瞬に要撃級の片腕を斬り飛ばす。其処へ後方から飛来する銃撃が剛腕という盾を失った要撃級の足を打ち抜き機動力を奪う。其処へ赤の機体が突撃砲を打ち込み絶命へと誘う。


 三段構えの連携により確実に敵を殲滅していく機体群―――それを見てユウヤは愕然とした。


『❘F-4《ファントム》だと!?……一体どこの機体だ!?』

 このユーコンでは戦術機の近代改修を旨とする国連主導のプロミネンス計画が動いている。だが、そのメインターゲットは第二世代機であり、すでに各国で退役が始まっているF-4ではない。

 しかし、F-4に見えるのはぱっと見のフォルムだけであらゆる箇所に変更が加えられている改造機だ。
 乗り手の技量か、改修された為か第2.5世代機の部隊に匹敵もしくは上回る動きを見せる第一世代機、正直信じられないレベルだった。

『アルゴス小隊下がれ、これ以上我が国の機体で醜態を晒すな。』

 ユウヤの吹雪の前に立つ蒼のF-4からの通信、それと同時に機体ライブラリーを照合し終えた吹雪が機体情報を表示した。

『……F-4Jカイ・ズイカク――――インペリアル・ロイヤルガード!?』

 日本帝国斯衛軍、将軍家と日本帝国本土の防衛を主任務とする独立軍。なぜ、そんな存在が此処に、という疑問と横やりを入れ尚且つ自身にとって侮辱ともとれる言葉を投げつけてきたその機体を睨む。

『聞こえんのか?通信機の故障でもあるまい……ああ貴様の耳のほうが壊れてるのか?』
『随分と好き勝手、ここは俺達の受け持ちだ部外者はすっこんでろ。』

『先ほど言った、醜態を晒すだけの貴様に我が国の機体に乗る資格などない。
 機体か衛士かどちらの不調かはしらんが、詰まらん我を通して犬死するのが米軍流なのか?……素直に退け、此処は我々が引き継ぐ。』


 一々厭味ったらしい、そんな感想を持ちながらも告げられた言葉に奥歯を噛み締めるしかできない。

『アルゴス小隊各機、司令部より入電です。日本帝国斯衛軍(ジャパニーズ・インペリアルガード)に担当を引き継ぎ後退せよとのことです。』
『一体何だってんだよ!!』

『おいおい、一体どうなってんだ?』
『……でも、正直助かったわ。今の状態では確かにまともな戦績なんて残せないわ。』

 CPからの通信、アルゴス02は憤慨と03は疑問を投げかけるが04のステラだけは冷静に戦況を分析していた。
 4名中3名は今回が初の搭乗となる機体で操作に大きなネガを有しており、連携も全然できていない。しかもユウヤに至っては実戦機動すらおぼつかず小隊指揮どころではない。

 戦場で不確定要素が入れば素直に退く、それは戦場の基本中の基本だ。
 だが、ユウヤ・ブリッジスは引けない。日本機を操れず退くなど自分のプライドが許せない。日本機に首を折るなど出来るハズもない。


『巫山戯んな!はいそうですかって納得できる訳ねぇだろ!』
『――――そうか。詰まらん男だな貴様。』

 その時、敵味方識別装置(IFF)が解除されロックオン警報が鳴り響いた。

『何を!?』
『そこで寝ていろッ!!』

 衝撃、次の瞬間機体のシステムが停止した。そして網膜投影に表記された撃破判定の赤文字。

 シミュレーターと実機稼働を組み合わせた演習システムJIVESが機体に大破級のダメージがあったと判定し吹雪の機能を停止させたのだ。
 機体ステータスは頭部及びコックピットへの致命的損傷――――長刀の一撃により吹雪が兜割にされたのだった。
 
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