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剣聖がダンジョンに挑むのは間違っているだろうか

作者:沙羅双樹
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第5話・改訂版

 
前書き
今回はテレシアさんマジギレ回です。アンチ駄狼ベート&ロキ・ファミリアっぽいかもしれませんが、作者はロキ・ファミリアが嫌いという訳ではないのでその点はご了承下さい。 

 



【視点:テレシア】



私とベル君が豊穣の女主人に来て早数十分。既にミアお母さん特製ビーフシチューまで食べ終え、コース料理最後のデザートが出て来るのを待っていると、出入り口付近の客が急にざわめき出した。


「おい、マジかよ……」
「あのエンブレムはロキ・ファミリアだよな?」
「ああ。主神と幹部7人が勢揃いだな。けど、別に驚くことでもねぇだろ?大規模遠征から帰って来たって、今朝から冒険者の間で噂になってたし」
「はぁ?大規模遠征から帰って来てることを知ってても、ロキ・ファミリア―――しかも、その主神と幹部に酒場で鉢合わせたら驚くだろ、普通!?」
「お前、この酒場を利用したことが殆どないだろ?ロキ・ファミリアってのは大規模遠征から帰還すると、主神と幹部を含めた十数人がいつもここで打ち上げしてんだよ」
「………マジ?」
「マジ。だから、ロキ・ファミリアの幹部に憧れてる常連客は大規模遠征からの帰還を耳にすると絶対にここに来るんだよ。一目見ることができるからな」
「………幹部7人が勢揃いってことは、あの中にいるのか?噂の【剣姫】が――」
「【剣姫】?ああ、あの金髪の嬢ちゃんがそうだよ。【剣聖】に次ぐオラリオ次強の女剣士――いや、【剣聖】はオラリオ最強の魔導騎士だから、【剣姫】が実質オラリオ最強の女剣士って所だろうな」


聞こえてくる会話に少しだけ耳を傾けながら横目で見てみると、ロキ・ファミリアは私とベル君の位置と丁度対角線上にある席へと案内されていた。

そして人数分の飲み物が届くと、幹部を含むロキ・ファミリアの冒険者全員が席に着いている中、1人――いや、1柱の神物が席から立ち上がった。


「よっし!皆、迷宮(ダンジョン)遠征大変やったやろ!ご苦労さん!!今日は宴やから、遠慮せずに食って、飲むんやで!!」


音頭をとった神物はロキ・ファミリアの主神である神ロキ。酒好き、女好き、セクハラ魔のオヤジ女神で、約4年前から会う度に私をヘスティア・ファミリアから引き抜こうとする鬱陶しい神です。

神ロキの音頭が終わるとロキ・ファミリアの人達はジョッキをぶつけ合い、殆どの人が運ばれて来る料理や追加のお酒を冒険者らしく豪快に口の中へと運んでいた。

まぁ、中には貴族っぽい上品な食べ方をしている人もいますけど。ロキ・ファミリア団長の【勇者(ブレイバー)】フィン=ディムナさんとか、副団長の【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア=リヨス=アールヴさんとか、【剣姫】アイズちゃんとか。


「はい、お待ち遠様!特製セミフレッドだよ!!」


っと、私がロキ・ファミリアを観察している間にデザートができたみたいですね。ベル君にとっては初めて、私にとっては3ヵ月振りのミアお母さん特製デザートです。

他の料理同様存分にその味を堪能させて貰う為、私とベル君が四層構造のケーキにスプーンを入れて掬い取り、口に運ぼうとした瞬間―――


「そう言やぁ、アイズ!お前、あのことはフィン達に言ったのかよ!?」
「あのこと?」
「何々?何の話?」


ロキ・ファミリアの席から下品極まりない酔っ払いの声が聞こえてきた。発生源は私が5階層で伸した狼人(ウェアウルフ)で、酔っ払いの駄狼(ベート)は周りの迷惑も気にせず大声で話を続けた。


「あれだよ、帰る途中で逃がしたミノタウロスを追った時の話だ!最後の1匹を倒したっていう冒険者が、お前に剣を向けてただろうが!?あのクソ女のことはちゃんと報告したのか?」
「ミノタウロスって、17階層で返り討ちにしたら逃げ出した奴らだよね?ってか、LV.5のアイズに剣を向ける冒険者が居たの?」
「しかも、相手は女冒険者?」
「そうだよ。5階層まで逃げたミノタウロスを俺達の代わりに倒したみてぇなんだが、あのクソ女はアイズにまで剣を向けてたんだよ。しかも、俺のことまでボコりやがったんだ!所属してる派閥(ファミリア)に抗議するべきだろう!?」
「ぷっ!ベートってば、女冒険者にボコられたの?油断してたとしても情けなさ過ぎでしょ?」
「っていうか、LV.5のアイズやベートと対峙しようとするなんて、相手は同格以上の冒険者?」
「LV.5以上の冒険者で女となると、相手はかなり限られてくるな。有名所はヘファイストス・ファミリアの【単眼の巨師(キュクロプス)】の椿とヘスティア・ファミリアの【鎮守】のムネチカ、【狂姫】のアトゥイといった所か?」
「あの、ベートさんの言い方は語弊があります」
「あ゛ぁ゛!?俺が何を誤解してるってんだよ!!?」
「ちょっと落ち着きなよ、ベート。……で、ベートが何を誤解してるって言うんだい?アイズ」
「えっと、まず私が剣を向けられたのは、声も掛けずに後ろから近付いたのが原因」
「…………そういうことなら相手の冒険者を責めることはできんな。背後から何者かが声も掛けずに近付いてきたら、警戒するのも仕方あるまい」
「そうじゃな。で、ベートがボコられたのは何でじゃ?」
「それはベートさんが彼女を雑魚呼ばわりしながら肩を掴もうとしたから」
「………ベートの件も完全に自業自得じゃないか」
「…………無様だな。というか、相手の女冒険者殿に感謝することはあれ、非難する権利など我々には無い」
「それ、本気で言ってんのかよ?フィン、ババァ。てめぇらが俺と同じ立場なら納得するのか?俺は納得できねぇ」
「自分に非があればそれを認め、謝意を表す。それが大人の対応というものだ」
「不当な暴力で眷属(かぞく)が傷付けられたっていうなら、それ相応の報復はするけどね」
「大人の対応、ねぇ。………おっ!そういえば、クソ女の話で面白いのもあったな」


駄狼(ベート)は今回の件で派閥(ファミリア)内に味方が居ないと察したのか、今度は別の話を今まで以上に大きな声で始めた。


「最後のミノタウロスを倒したのはクソ女らしいんだが、そのクソ女に倒される直前までミノタウロスの野郎、駆け出し冒険者を襲ってたらしいぜ。しかも、クソ女は助けた冒険者に逃げられてやんの。ちなみに、この情報のソースはアイズな」
「……私、逃げられたなんて言ってません」
「けど、駆け出し冒険者がクソ女に助けられたって言ってただろうが。それに俺が着いた時、あの場には俺とクソ女、アイズの3人しか居なかった。
つまり、クソ女は助けた奴に逃げられたってことだろ?助けた相手に逃げられるとか超笑えるだろ?ぎゃはははは」
「ベート、いい加減その口を閉じろ。耳障りだ。さっきも言ったが、ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際。その女冒険者殿と駆け出し冒険者殿に謝意を表すことはあれ、酒の肴にする権利などない」
「おー、おー。流石誇り高いエルフの王族様だけのことはあるな、ババァ。雑魚を擁護してやるなんて、慈悲深過ぎて俺には真似できねぇよ。
けどな、どれだけ擁護しようが雑魚は雑魚だろうが!それに自分を助けた相手からも逃げちまう様な臆病者に冒険者の資格なんてねぇっての」


駄狼(ベート)が小馬鹿にした様にそう告げた瞬間、私の中で何かがキレる音がして、それと同時に隣に座っていたベル君が立ち上がり、悔し涙を浮かべながら店から飛び出して行った。


「ベ、ベルさん!?」
「なんや?食い逃げか?」
「豊穣の女主人でやらかすとか、根性あり過ぎでしょ」


ベル君が飛び出して行ったことで店内が一時騒然となる。けど、私にとってそんなことは気にもならなかった。今の私が気にすることは、ベル君(かぞく)を馬鹿にした駄狼(ベート)にどう制裁を下すか、ということだけだったからだ。

こんなにキレたの1年振りだろうか?アポロン・ファミリアの冒険者にヘスティア様が馬鹿にされて以来な気がする。


「………ミアお母さん。これ、お勘定です。あと、セミフレッドは持ち帰り用に包んで下さい」
「………程々にしときなよ」


私は目の前にいるミアお母さんに100,000ヴァリス入った巾着袋を渡し、セミフレッドを包んで貰ってる間に用を済ませることにした。

私は腰から吊るしている封印状態の『流刃若火』の鞘を左手で掴み、ロキ・ファミリアの席へとゆっくりと近付いて行く。

その途中、顔見知りであるフィンさんとリヴェリアさん、ガレス=ランドロックさんの大幹部が私の存在に気付き、驚いた顔をしていたけど、私は会釈することもなく駄狼(ベート)へと歩を進めた。そして―――


「ねぇ」
「ん?」
「あれ?テレシアたんも来てた―――」


駄狼(ベート)の肩に手を置き、駄狼(ベート)が振り向いた瞬間、神ロキが声を掛けて来るのも気にせず、駄狼(ベート)の下顎に柄頭が当たる様『流刃若火』を振り上げ、駄狼(ベート)の首から上が天井を突き破る様、その体を打ち上げた。


「酒は飲んでも飲まれるな、という諺を知りませんか?酔いに任せて他派閥の冒険者を馬鹿にするなんて、常識を疑います。あと、あなたの下品な笑い声と話が不愉快極まりなかったので、暫くそこで反省して下さい」


一応、注意っぽいことを言ったけど、今の駄狼(ベート)には聞こえていないだろう。何故なら下顎への一撃と天井を突き破った際の頭への一撃で、脳がシェイクされて気絶している可能性が高いからです。

あと、駄狼(ベート)の下顎は砕けている可能性が高い。まぁ、治療に関してはリヴェリアさんが回復魔法を使えるから問題ないだろう。


「い、いきなり何なのよ、あん―――」
「ティオネ、少し黙っててくれないか?他の皆も手を出すな。…………やぁ、テレシア。久し振りだね」
「お久し振りです、フィンさん」
「……ところで、いきなりウチの団員を殴り飛ばした理由を聞いてもいいかな?不当な理由なら僕達も君に報復せざるを得ない」
「報復、ですか。随分と強い言葉を遣うんですね、LV.6程度のあなたが………。ああ、僕達(・・)って言っていましたし、個人ではなく集団で挑んで来るんですね。
LV.6の幹部全員で向かって来るんですか?それともロキ・ファミリア全員?まぁ、どちらにしても返り討ちです。『流刃若火』の錆にしてあげます」
「……『流刃若火』を使うなら錆ではなく灰の間違いじゃないかい?」
「……ああ。そういえばフィンさんとリヴェリアさん、ガレスさんの3人は4年前に私が『流刃若火』の卍解(奥の手)を使っている所を37階層で見たことがありましたね。
安心して下さい。灰にするとしても手足の2本程度で許して上げます。文字通り半殺しですね。高性能な魔道義肢を手に入れない限り、冒険者生命は絶たれますけど」
「……うん。何1つ安心できないね」
「命を取られないだけでも安心でしょう?あと、理由なら先程言いました。非常識な行動と不愉快極まりない下品な笑い声、話が癇に障ったと。というか、止めようとしていたのはリヴェリアさんだけですよね?団長なのに団員の管理がなってないんじゃないですか?」
「………それだけが理由かい?」
「私と全面戦争したいなら教えてあげてもいいですよ」
「………君がそんなに怒るということは、それ相応の理由があるんだろう?それを教えて貰わないと、こちらは謝罪することもできない」
「……………先程店から飛び出したのは私の後輩なんですが、そこにぶら下がってる駄狼に馬鹿にされた駆け出し冒険者当人でもあるんです」
「ッ!まさか当人がいたとは思いもしなかったよ。しかも、君と同じ派閥(ファミリア)とは」
「折角の歓迎会が台無しです。あと、あなた方の尻拭いをしたクソ女も私です」
「「「「!!?」」」」
「私のことだけなら我慢できたんですが、ベル君(かぞく)のことまで馬鹿にされたとあっては我慢できません。ロキ・ファミリアは私――【剣聖】テレシア=ヴァン=アストレアに喧嘩を売ってるんですか?
今なら私1人で戦争遊戯(ウォーゲーム)でも何でもしてあげますよ?アトゥイ達は実家に帰省していて、本拠地(ホーム)に居ませんし」
「「「「「け、【剣聖】!!?」」」」」
「あ、あのオラリオ最強のLV.10の!?」
「ベートさん、なんて人に喧嘩売ってんの!!?」
「ヤバいッスよ。このままじゃ、俺達全員血染めに―――」


私の正体を知らなかったロキ・ファミリアの冒険者も正体を知って慌て始める。そんな中、派閥(ファミリア)の主神である神ロキと団長のフィンさんは―――


「あ~、そのテレシアたん。ベートなら冒険者生命を絶たん程度で半殺しにして貰ってもええから、戦争遊戯(ウォーゲーム)だけは勘弁してくれんかな~?テレシアたんが1人で相手する言うても勝てる気がせんからな~、なんて」
「ロキ・ファミリアの団長として、後日正式に君と君の同眷属(かぞく)に謝罪をしたい。僕達のできる範囲でなら君達の要望にも応えたい。だから、戦争遊戯(ウォーゲーム)だけは勘弁してくれないかい?」
「…………私達の本拠地(ホーム)は土地も含めて神ヘファイストスから貸し与えられているものなんですよね。で、土地や建物を買い取ったり、本拠地(ホーム)を改築する為の費用を私は5年掛けて貯めて来たんです。
本拠地(ホーム)が廃屋同然の教会なので増改築にかなりお金が掛かります。ちなみに推定費用総額は600,000,000ヴァリス」
「………その費用を僕達に出せ、と?」
「私の望みとしては最低でも半分―――300,000,000ヴァリスは出して欲しいですね。先に言っておきますが、1ヴァリスもまけません。
あと、私の望みとは別にベル君の望みも叶えて貰います。私達(・・)の要望に応えると言ったのはそっちなんですから、2人分の要望に応えるのは当然ですよね?
もしベル君が何も要望を言わなかった場合は、600,000,000ヴァリス全額を払って貰います。たった600,000,000ヴァリスで私を敵に回さずに済むんですから、安いものでしょう?」
「……分割払―――」
「ニコニコ現金一括払いしか認めません。それと300,000,000ヴァリスに関しては今日からトイチです」
「トイチ?」
「ゲッ!それはエグ過ぎやろ、テレシアたん!!」
「ロキ、トイチが何か知ってるのか?」
「トイチってのは10日で1割の金利の略や。つまり、うちらはテレシアたんの要求しとる300,000,000ヴァリスを9日以内に払わな、10日後には要求金額330,000,000ヴァリスになるっちゅーこっちゃ。
それだけやない。20日後には363,000,000ヴァリス、30日後には399,300,000と利子が10日置きに増え続けるエグい金利制度なんや」
「ッ!何だ、その悪質な取り立ては!!?」
「リヴェリアさん、恨むならそこでぶら下がってる駄狼を恨んで下さい。私の前でベル君(かぞく)を笑い者にしようとした駄狼を。それともうちの団員全員の要望を聞きますか?こっちは別にそれでも構いませんよ?」


私はそう言い終えるとロキ・ファミリアの席から離れ、カウンター席へと向かった。そして、ミア母さんからお持ち帰り用に包んで貰ったセミフレッドを受け取り、店から出る直前でもう一度ロキ・ファミリアへと顔を向け、口を開いた。


「300,000,000ヴァリス程度、ロキ・ファミリアなら如何にでもできるでしょう?9日後、黄昏の館まで徴収しに行きます。耳を揃えて待っていて下さい」


私は笑顔でそう言い終えると、豊穣の女主人を後にした。


 
 

 
後書き
他派閥における『流刃若火』&『残火ノ太刀』の目撃者と階層、状況。

『流刃若火』
◎フレイヤ・ファミリア
目撃者:『猛者』オッタル
階層:49階層
時期:3年前
状況:テレシア単独(ソロ)による怪物の宴(モンスター・パーティー)殲滅戦で目撃

◎ロキ・ファミリア
目撃者:【勇者】フィン=ディムナ、【九魔姫】リヴェリア=リヨス=アールヴ、【重傑】ガレス=ランドロック
階層:17階層
時期:4年半前
状況:テレシア単独(ソロ)によるゴライアス討伐時に目撃


『残火ノ太刀』
◎ロキ・ファミリア
目撃者:【勇者】フィン=ディムナ、【九魔姫】リヴェリア=リヨス=アールヴ、【重傑】ガレス=ランドロック
階層:37階層
時期:4年前
状況:テレシア単独(ソロ)によるウダイオス討伐時に目撃
 
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