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僕は生き残りのドラゴンに嘘をついた

作者:どっぐす
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第2話 ドラゴン、方針を決める

 ソラトは家に帰り、一人で悩んだ。

 相談しようにも、両親は三年前に既に他界しており、いない。
 この三年間、手伝いの仕事をくれて、経済面で面倒を見てくれた町長に相談……すれば、町中を巻き込んだ騒ぎになってしまうだろう。
 そうなったら、冒険者たちによる討伐隊が組まれてしまうかもしれない。

 それはまずい。
 あの自信はおそらく本物だ。討伐隊は全滅し、町は滅ぼされてしまう。
 そして何よりも、ドラゴンは裏切者のソラトを許さないだろう。惨殺されるに違いない。

 勇者とその仲間たちは、大魔王やドラゴンなどの有力な魔物を討伐したのち、その行方をくらましたとされている。
 そもそもまだ現役なのかどうかすらわからない。
 今から呼びかけ、明日来てもらって町を守ってもらうことなどは不可能だ。

 いったい、どうすれば……。

 ソラトは、朝まで眠れなかった。



***



 ソラトは翌日、言われたとおりに、また山に登った
 山頂近くの斜面の下、ドラゴンが出てきた横穴。この日は、大きめの岩で塞がれていた。
 穴の入口のそばまで行き、声をかける。

「あ、あの……来たよ」

 すると、岩がゆっくりと動き、また横穴からドラゴンが出てきた。
 今度は尻餅こそつかなかったが、ソラトの足はやはりガクガクと震えてきた。

「どうだ? どうすればよいかわかったか?」
「う、うん。わかったよ」

 結局、誰にも相談できなかった。
 ソラトは一人で朝まで考えたが、嘘をそのまま通していく以外に方法が見つからなかった。

「ふ、船で行かないと……無理なのかも」
「船?」

 ドラゴンは、船を知らなかった。
 いや、正確には船を見たことはあったようだが、海を渡るものだとは知らなかったようだ。
 ソラトは詳しく説明した。

「なるほど。同胞たちや大魔王様も、船で行ったのだろうか?」
「う、うん……そうだと聞いてるよ」

 ドラゴンは満足そうに「そうか」と納得し、次の指示を出してきた。

「ではソラト。私もそれを使って東の大地へ行く」

 ……。

 船で行ける。そう言えば、勝手に港に降りていき、適当な船を奪ってこの地を去ってくれて、一件落着となるのではないか。
 その希望も、叶わなかった。

 ソラトは困った。
 船を使って行くと言われても、すぐに調達する手段などない。

「あ、あの……」
「何だ?」
「僕、船持ってないんだ」
「そうか。船を持つ人間はどうやって入手しているのだ」

 他の人間から奪え、とは指示しないのか……。
 ソラトは少し違和感を覚えながらも、船はお金で買うものであり、現在の自分がお金を稼ぐ手段は冒険者稼業であることなどを説明した。

「なるほど。お前は冒険者。依頼をこなす仕事でお金が貯まっていく――それで間違いないのだな?」
「うん。そうだよ」

「では一番難しい依頼を受ければすぐ貯まるのか」
「そ、それは……無理なんだ。僕はまだ初級冒険者だから、受けられる依頼は簡単なものばかり。級が上がるのは少し時間がかかる」
「かまわない。私は待とう」

 ドラゴンは、依頼をできるだけたくさん受けて、級を上げるよう指示した。
 そして、こまめに報告に来ることも要求し、この日は下山するように言った。

「あ」
「なんだ」
「横穴の入口、もうちょっとしっかり隠したほうが」
「……そうか。わかった。ありがとう」

 万一他の人間に見つかり騒ぎになった場合、自分が裏切ったと勘違いされ、殺される。
 その心配から忠告をしただけだった。

 しかし、このときの「ありがとう」という言葉は、妙にソラトの頭の中に残った。  
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